CATEGORIES
LINKS
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
★ クライマーズ・ハイ 横山秀夫 
4163220909クライマーズ・ハイ
横山 秀夫
文藝春秋 2003-08-21

by G-Tools

特に、あっと驚く仕掛けがあったり、感動のあまり泣かされたりする、派手な小説ではありませんんが、大作で、力作でした。読み応えがありました。読む価値もありました。

85年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元群馬の、ローカル新聞の記者達を描いています。主人公は、悠木和雅40歳。過去に部下を死なせた負い目から、出世せず、部下を持たない遊軍記者的存在である事を、自らに科してきたのに、社内の覇権争いや、人事の思惑によって、この世紀の大事故の全権デスクを命じられてしまいます。

この小説は記者達の群像劇です。悠木の他にも、事故現場に当日たどりつき、その悲惨さに深く傷ついた新人記者、悠木への嫉妬や、社内の派閥抗争によって、渾身の記事を無にされてしまう実力派の記者佐山、地元新聞のプライドを忘れない整理部長の亀島など、たくさんの人物が、この事故にくらいついていきます。逆に、この混乱のさなかにも何の緊張感もなく、自分の出世と派閥争いや、営業所や有力者へのご機嫌取りにしか、関心を持たない社内の人間も登場します。非常にリアルです。

地方紙ですから、全国規模の大手新聞社には色んな意味で負けてしまいます。雑誌やテレビで流される、視覚的に衝撃的なものにも、文章である「記事」は負けてしまいそうです。そんな葛藤をそれぞれが抱えながら、それでも「記事を書く事」にプライドを持っている記者達。かっこよかったです。

この「過去」と並行して語られるのが、クライマーにとっては難関と言われる危険な「衝立岩」に挑もうとしている、という悠木の「現在」です。事故の当日、悠木は同僚で登山家の安西と「衝立岩」に登ろう、と約束していました。しかし、日航機事故が起きて悠木は職場を離れられず、ちょうど同じ頃安西も、過労死のように倒れて植物状態になってしまい、約束は果たされないままでした。このパートでは、悠木のプライベート、特に息子との関係に苦悩してきた様子が描かれます。

本書のテーマからは多少ずれる気はしますが、私の感想は、仕事にプライドを持っているという事は、かっこいいことだな、と、いう事です。(ものすごくミーハーに「仕事のできる男ってかっこいいよねー♪」というのと、何も変わらないのですが。)どんな種類の仕事であっても、給料の安さや、会社の大小や、出世争いや、自分の失敗に一喜一憂していても、自分の仕事にプライドを持っている人は、それだけですでに何者かではあるのだな、と思いました。

この事故が起こったとき、私は小学生で、夏休みの帰省で飛行機に乗った直後で、ニュースはとても衝撃的でした。この事故がきっかけで、それまで大人が読むものだと思っていた新聞を、毎日読むようになりました。スクラップというものを初めてしました。そんな事も思い出したりした本でした。
| や行(横山秀夫) | 16:08 | - | - |
● 顔 横山秀夫 
4198615861顔 FACE
横山 秀夫
徳間書店 2002-10

by G-Tools

「黒い線」で失踪騒ぎを起こした、似顔絵捜査官・平野瑞穂が再び登場する短編集です。瑞穂は、以前の事件で、彼女が描いた似顔絵とは似ていない真犯人が捕まってしまったため、似顔絵を改竄しろ、という、上からの決定に逆らおうとしました。その時言われた言葉が「だから女は使えねぇ!」です。彼女は結局命令に従いましたが、その後失踪。良心の呵責に苦しみ、職場復帰を果たした今でもそれをひきずっています。

男女平等など、ほとんどの企業で建て前に過ぎませんが、警察というのは、それがもっとも色濃く残っている場所のようです。荒っぽい犯罪者を相手にして、24時間気の抜けない生活をする、体力勝負の仕事であるということ。「公務員」という、古い体質が残りがちな環境。民間の企業であれば「セクハラ」で訴えられかねないことも、ごく普通にまかり通っています。差別的な男性がたくさん出てきて、私は瑞穂と一緒になって腹を立てました。

でも、瑞穂というのは、女の私の目から見ても、ちょっと甘いところのある女性なんですよね。甘いというよりは、人間味があって優しいステキな女性なだけなのですが、多分警察という組織では、腹立たしく思われるだけであろうという事は、想像がつきます。だから、瑞穂には、同性にも異性にも敵が多いんです。

そんな中で瑞穂は、警察官として、ひたむきに己の職務に立ち向かいます。どんな不本意な職場に回されようとも、一生懸命仕事をし、被害者の見方であろうとします。いくつかの事件をひそかに解決し、彼女が、鑑識課に戻れることになったところで、この本は終わっています。これは、瑞穂が、再び自分の信じた道を歩き始めるまでの、再生の物語だと思います。

一つ一つの短編も、人間の裏側を暴く読み応えのあるものが多くて、私はとても満足しました。

画像はハードカバー版ですが、私が読んだのは、先月発売された文庫版のほうです。
| や行(横山秀夫) | 21:49 | - | - |
★ 半落ち 横山秀夫 
4062114399半落ち
横山 秀夫

講談社 2002-09

再々読。ですが、やっぱり、じーんっと感動しました。

もう映画を見た方にも、この小説版を読んで欲しい。感動的な部分に関しては、映画でも十分表現されてたし、吉岡秀隆さんが出てたし(ファンなんです。)、そういう意味で映画に不満はない。

でも、小説版はもっといいです。アルツハイマーの妻に頼まれて、妻が可哀想でたまらず、彼女を殺してしまった真面目な警官は、自首するまでの2日間、いったい何をし、何を考えていたのか、それがこの物語の縦糸です。横糸は、警察と検察、マスコミといった、利己的な組織の、人の感情を無視して事を丸く治めようとしたり、逆に荒立てようとしたりする、みっともないじたばた群像劇。

初めて読んだときは、ただ謎を追うだけで、最後に感動して、で、それで終わってしまいました。でも再読で気がつきました。この本の構成って、すごい難しいチャレンジなんだって。主役は「犯人」なんだけど、語り手は、刑事→検事→記者→弁護士→裁判官→刑務官っていう風に視点がリレー形式で転々と移る。そのたびに読者に説明をして、物語に引っ張り込みなおさなくちゃいけない。映画ではそのあたりは違う表現になっていたわけだけど、これは小説でしかできない手法で、ものすごくうまくいった例ですよね。横山さん、すごい!

わたしは、あんまり頭がいい方じゃないから、何度も何度も読んで、初めて気づく作品のよさって言うのもあります。この本は、何度読んでも、いい本です。
| や行(横山秀夫) | 00:58 | - | - |
<< | 2/2PAGES |