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● JJをさがして アン・キャシディ
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JJをさがして
アン・キャシディ 子安 亜弥
ランダムハウス講談社 2005-10-15

by G-Tools , 2006/04/17





10歳で親友を殺してしまった少女、ジェニファー・ジョーンズ(=JJ)。6年の刑期を終えた彼女は、新しい名前を与えられ、まったくの別人としての人生を始めました。コーヒーショップでの仕事は楽しく、大学入学も決まり、フランキーという恋人もできました。しかし、JJが釈放されたことを知った世間とマスコミは、彼女を放っておいてはくれません。

過去に何があったのか、JJに未来はあるのか。過去と現在が交互に語られる、サスペンスタッチの小説です。過去の罪は彼女を責め続け、たくさんの裏切りがあり、JJはどんどん追い詰められていきます。

自己中心的な母親を、一方的に愛し続けるJJの孤独は痛々しいです。そして、自分には幸せになる資格がないのではないかと悩み、自分の正体が暴かれる事に脅え、嘘を重ねることに苦しむJJを、応援したくなってしまいます。

フランキーから送られる手紙が、すごく切ない本。泣けました。

さて、あとがきでも触れられていますが、この本を読むとすぐに思い浮かぶのが、「メアリー・ベル事件」です。イギリスで実際に起こったこの事件では、11歳の少女が3歳と4歳の男の子を殺し、終身刑の判決を受けました。23歳で釈放された彼女は、JJと同じように別人の名前で社会に出て、女の子を生み、育てます。40歳の時、娘の成人を機に本名に戻り、隠していた過去を告白して、世界的に話題になりました。日本でも、ドキュメンタリー番組が放送されたりしました。アンビリーバボーでも見たなあ。

「JJをさがして」という物語では、一貫して、JJの側から罪と罰について語られるので、被害者の視点がすっぽり抜けています。YA文学なので、単純化されているのでしょう。小説としては、別に問題ありません。JJの苦しむ姿から「人を殺すことは、結局自分自身を殺すこと」という子供たちへの作者のメッセージは読み取れますし、JJを追い詰める母親の醜悪な姿は、親たちへの警告としても十分すぎると思います。

でも、この本で提起されている、たくさんの社会問題(少年法の根本理念や、未成年の犯罪者に関する報道の自由、サイコパスの治療、彼らの更生プログラム、社会の受け入れ体制など)について考えるときには、この本だけでは片手落ちもいいところです。この本を読むのであれば、「メアリー・ベル事件」を扱った他の本も、あわせて読んだほうがいいんだろうなあと思います。下の2冊も、おすすめです。わたしは、大学の少年法の授業で、読まされました。読み応えは「JJをさがして」以上です。

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魂の叫び―11歳の殺人者、メアリー・ベルの告白
ジッタ セレニー Gitta Sereny 古屋 美登里
清流出版 1999-12

by G-Tools , 2006/04/17




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マリー・ベル事件―11歳の殺人犯
ジッタ・セレニイ 林 弘子
評論社 1978-01

by G-Tools , 2006/04/17


| 海外 | 13:47 | - | - |
● ヒットラーのむすめ ジャッキー・フレンチ 
4790231496ヒットラーのむすめ
ジャッキー フレンチ Jackie French さくま ゆみこ
鈴木出版 2004-12

by G-Tools

もしもヒットラーに娘がいたら・・・。現代のオーストラリアの少年・マークは、一緒にバスを待つ間にいつもする、お話ゲームの中で、友達のアンナから、ヒットラーの娘の話を聞きます。ゲームの中でハイジと名づけられたその少女の運命が、マークは気になって仕方ありません。何日もかけて、ハイジの話を聞くうちに、マークはいろいろな事を考えます。

もし自分がヒットラーの子どもだったら? 戦争や虐殺を止められただろうか? もし自分の父親が悪いことをしていたら、自分はどうするべきなのか?自分以外のみんなが間違ったことをしていたら、どうやって正しい事を見分ければいいのだろう?

マークの周囲の大人たちが、ちゃんとした答えを出せないところが、自然ではありましたが・・・。一応大人の1人で、しかも先生と呼ばれることの多い私にとっては、胸の痛む部分でもありました。

最初は、物語の滑り出しが、ちょっと不自然な気がしたんです。アンナの言う事が唐突すぎて。でも、すべてがわかってみると、自然でしたね。ラストがいい!

王道の児童文学なので、ちょっと説教くさい感じはしますが、それを上回るストーリーの面白さと、奥深さ。戦争を過去のものであると、子供たちに感じさせない様々な演出。よく練られた、すごい本だと思います。
 
第52回産経児童出版文化賞のJR賞を受賞。

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| 海外 | 23:41 | - | - |
■ タッチ ダニエル・キイス 
4152086882タッチ
ダニエル キイス Daniel Keyes 秋津 知子
早川書房 2005-12

by G-Tools

不妊に悩む若い夫婦、バーニーとカレン。子供を欲しいという気持ちは同じものの、夫婦関係は悪化していくばかりです。そんな2人を突然襲ったのが、職場の放射能実験室からの放射能漏れという事故でした。2人には、やけどのような皮膚の異変や、吐き気や眩暈などの被爆症状が現れます。医者も、家族も、街の人々も、放射能に汚染された2人を避けるようになります。

そんな最悪の状況の中で、カレンが妊娠していた事が発覚します。被爆した胎児を生むべきか否か、胎児にはどんな影響があるのか、事故の賠償はどうなるのか、夫婦の関係はどうなっていくのか・・・。

原書初版は1968年。ずいぶん昔の本です。今回私が読んだのは改定新版です。ストーリーを楽しむ上で、古さがまったく妨げにはなりませんでした。これってけっこうすごい事ですよね。

そして、さすがダニエル・キイスで、バーニーとカレンの心理描写が、すごいです。迫力がありました。ストーリーのアップダウンが激しいので、2人の心もいろんな意味で揺れに揺れるのですが、それがいちいち真に迫っています。

夫婦の愛と再生の物語としても、放射能の恐さを訴えた物語としても、命について真面目に考える本としても読めます。どう読むかでラストの受け取り方も違うと思います。

私は、バーニーに完全に感情移入していたので、容赦ないなあ、と、思いました。しばし放心。
| 海外 | 02:14 | - | - |
● タイムトラベラーズ・ワイフ オードリー ニッフェネガー 
4270000511タイムトラベラーズ・ワイフ 上
オードリー ニッフェネガー Audrey Niffenegger 羽田 詩津子
ランダムハウス講談社 2004-12

by G-Tools

427000052Xタイムトラベラーズ・ワイフ 下
オードリー ニッフェネガー Audrey Niffenegger 羽田 詩津子
ランダムハウス講談社 2004-12

by G-Tools

出会う前も、死んだあとも、変わらず思い続ける愛がここにある
帯より。

ヘンリーは、ストレスがきっかけになって、過去や未来に移動してしまうタイムトラベラー。自分では行き先の時間も場所もコントロールできません。しかも、身体だけが移動するので、常に裸で登場する事になります。そこで、数分から数日の短い時をすごして、また、元の自分の時の流れに戻るのです。

クレアは6歳のとき、未来からとんできた36歳のヘンリーに会います。これがクレアにとってのヘンリーとの出会いです。クレアが18歳になるまでに、ヘンリーは152回クレアの元へ飛んできます。そして、クレアは20歳になったとき、ようやく、現実の時の流れの中にいる28歳のヘンリーに出会うのです。このとき、ヘンリーからすれば、初めてクレアに出会ったという事になります。

普通の恋人同士のように付き合い始めた2人は、タイトルからもわかるように、結婚します。しかし、タイムトラベラーとその妻の結婚生活は、試練と困難の連続です。ヘンリーは「タイムトラベルの能力がある」というよりは、「タイムトラベラーという体質」あるいは「障害を持っている」といった感じです。

タイムトラベルもののSFでありながら、恋愛・夫婦愛の小説でもあります。全体的にユーモア精神に富んだ小説で、笑える部分もたくさんあるのですが、悲しいことや、不安なこともたくさん。切ない「泣ける純愛小説」としても成立しています。

個人的には、この本の複雑で巧妙なプロットに感動しました。この本のストーリーを読み解くのは、ミステリーの犯人あてより、ずっとずっと面白かったです。

というわけで、これ以上、詳しい事は何も書かないことにします。とにかく長い小説ですが、上巻で投げ出さないでください。この本の良さが出てくるのは下巻に入ってからです。とてもいい本でした。色んな意味で感動的。読むのに何日もかかってしまいましたが、それだけの事はありました。
| 海外 | 13:56 | - | - |
■ フリーキー・グリーンアイ ジョイス・キャロル オーツ 
4789726312フリーキー・グリーンアイ
ジョイス・キャロル オーツ Joyce Carol Oates 大嶌 双恵
ソニーマガジンズ 2005-09

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主人公は14歳のフランチェスカ。スポーツキャスターの父、優しい母、異母兄のトッド、妹のサマンサという家族と共に、シアトルの高級住宅街に住んでいます。フランチェスカは、やや強引なところもあるけれど、家族を強く愛してくれる、有名人でお金持ちの父親を、誇りに思っています。

しかし、繊細で芸術を愛する母親は、父親とすれ違い続け、2人はついに半別居とでも言うような状況になります。子供たちは揺れます。いつでも父親の味方をするトッドは、フランチェスカを無視するようになり、母親が恋しいサマンサは、フランチェスカに頼ります。中立を保ち、いい子であろうとするフランチェスカですが、不安は深まるばかりです。

そんなフランチェスカの頭の中で「フリーキー」の声が響きます。攻撃的だけれど、強くて、賢いフリーキー。別人格、というより、もう1人のフランチェスカ、と、いった所でしょうか。

ストーリーは、母親が血痕を残して失踪する、という事件によって、急展開します。警察、弁護士、父親、叔母。フランチェスカに様々な人が、何かを告げたり、何かを聞き出したりします。いったい母親に何が起きたのか?誰の言葉を信じればいいのか?

本文は、フランチェスカの一人称でありながら、「フリーキー」の声、事情聴取の描写、母親の日記、など多角的な視点で、真実が次第に浮かび上がってくる構成になっています。大人が読んでも十分満足できる、本格的なサイコミステリーです。YAにしておくのはもったいない!

真実を知ったとき、フランチェスカは何を思い、どんな決断を下すのか。潔い、凛としたラストです。本当にYA?っていうくらい、シビアな本でした。フランチェスカとサマンサの幸せを願わずにはいられません。

でも。父親の頭髪のエピソードには、不謹慎ながら笑ってしまいました。物語上、あそこであのエピソードというのも、ある意味、うまいかも。ちょっと緊張が緩んで、ああ、この物語は終わるんだな、って思えました。それでも、余韻からなかなか抜け出せない一冊。オススメです。
| 海外 | 02:14 | - | - |
▲ 最悪なことリスト トリイ・ヘイデン 
415208569X最悪なことリスト
トリイ・ヘイデン 入江 真佐子
早川書房 2004-05-19

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トリイ・ヘイデンの大人も読める児童文学。

里親から里親へと転々としてきた11歳のデイヴィッド。たった一人のお姉さんとは離れ離れになって、新しい学校に来た彼は、勉強ができないために1つ下の学年に落第し、吃音のせいでクラスメートからいじめられ、最悪なことのリストを、頭の中で作ってはいれかえ、作ってはいれかえする毎日です。

ある日ひょんな事からフクロウの卵を発見したデイヴィッドは、飛び級してきたクラスメート、年も身体も小さいけれど頭のよいマブと一緒に、その卵を孵化させ育てようとします。

新しい里親であるおばあちゃん、マブや、マブの家族との交流、デイヴィッドが生命や友情について学び、成長し、少しだけ自信をつける物語。

トリイのフィクションの中では、良かったほうだと思います。トリイのノンフィクションには負けますが、いいお話でした。「シーラという子」「ヴィーナスという子」など、トリイのノンフィクションはやっぱりすごいんだよね・・・迫力が違う!でも、やっぱり似たようなものを出しすぎて頭打ちだと思うので、しかたないかな、と。
| 海外 | 11:11 | - | - |
■ リリィ、はちみつ色の夏 スー・モンク・キッド 
4418055142リリィ、はちみつ色の夏
スー・モンク・キッド 小川 高義
世界文化社 2005-06-18

by G-Tools

帯が、これ。
「私が愛されたことの、しるしが欲しい」1964年サウスカロライナ。父親のもとを飛び出し、養蜂家の黒人姉妹が住む家にたどり着いた、リリィ、14歳の夏・・・。悲しみに、じんわりと愛がしみこむ。
この時点で、なんて児童文学にありがちなテーマなんだ!と、思ってしまいました。親の愛が足りないとか言って家出をし、旅先で優しい人たちとの出会いがあり、最後には親や周囲の愛に気がつき成長した主人公が、心配している親のもとへ戻る。もう何度も読んだ、そんなストーリーだと、決め付けました(きっぱり)

ところがこの本、そういう本ではないのです。まず主役は14歳のリリィだけど、全然児童文学じゃない。まあ、子供が読んでもかまわない本だけど、これは深いし、テーマの難しい本です。かなり大人向け。まったく、一筋縄じゃあいかない本です。

まず、リリィには「愛されていない」と、思うだけの理由があるのです。父親はアル中で、ひどい暴力をふるう人です。その分リリィは、幼い頃に亡くなった母親を理想化し、そのイメージにすがって日々を送っています。しかし、その母親は、幼いリリィの持っていた銃の暴発で死んでおり、それをおぼろげながらもリリィは覚えているんです。周囲は、リリィが覚えていないんだと思って秘密にしていますが・・・これは重いです。

物語は、リリィの母親(母親代わり)探しを縦軸に進みます。前半は、要領がいいというか、子供なりに賢いリリィと、家政婦ロザリン(黒人)の冒険譚という感じで、比較的楽しく読めます。でも、公民権法をめぐるアメリカの人種差別問題がクローズアップされて、勉強にもなるし、考えさせられる部分も多いです。

後半に入り、養蜂家の住むピンクの家に落ち着いてからは、リリィとそこに住む3姉妹の交流が描かれていくのですが、悲しい出来事もあり、初恋もし、現実との折り合い方や、悲しみとの向き合い方など、色々な事を学びます。また、3姉妹の独特の宗教(元はキリスト教)に関する理解が、日本人にとってはなかなか難しくなってきます。

でも、さすが、全米350万部の大ベストセラーだけあります。とても読み応えがありました。表紙が綺麗です。
| 海外 | 23:07 | - | - |
● わたしは生きていける メグ・ローゾフ
4652077599わたしは生きていける
メグ・ローゾフ
理論社 2005-04

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ニューヨーク育ちの15歳の少女デイジーは、父親の再婚、そして継母の妊娠をきっかけに、イギリスに住む叔母の家で暮らすことになりました。拒食症をわずらっているようです。

ロンドン郊外の叔母の家には、オズバート・アイザック・エドモンド・パイパーという4人の従兄妹たちと、飼い犬のジェットと、猫たちが暮らしています。緑ゆたかな農村地帯で、羊やニワトリも飼っています。デイジーは、愛情にあふれる叔母さんに保護され、従兄妹たちと共に自然を楽しみ、癒されていく・・・という物語かと思いました。最初は。

ところが。叔母さんの海外出張中にテロが起こって戦争が始まり、叔母さんは戻ってこられなくなってしまいます。最初5人は子供だけの暮らしの自由を、ただ楽しく満喫しています。デイジーはエドモンドと初恋をして、幸せの真っ只中です。しかし、戦争は5人を容赦なく痛めつけます。食料は配給制になり、家は軍に接収され、5人はバラバラになり・・・

わたしは子供には反戦文学を読んでもらいたいと思うものの、恐怖心だけをあおる凄惨な描写は絶対やめてもらいたい、と、思っています。この本は、戦争の悲劇を、「心の傷」という視点を中心に描いているので、良かったなぁと思いました。児童文学なんですから。

それから、これは、現在、あるいは近未来を舞台にしているんですよね。携帯電話も、インターネットもちゃんと出てくる。過去の戦争を振り返って、そこから教訓を学びましょう、という本ではないんです。そこがとても大事なポイントだと思いました。
| 海外 | 12:08 | - | - |
■ 秘密の道をぬけて  ロニー・ショッター 
4751521950秘密の道をぬけて
ロニー ショッター Roni Schotter 千葉 茂樹
あすなろ書房 2004-11

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児童文学です。

アメリカにまだ奴隷制が残っていた頃。自由の地を目指す逃亡奴隷達を、アメリカ南部から北部へ、そして国境をこえてカナダへ送り届ける「地下鉄道」という組織がありました。

主人公は、北部に住む10歳の白人の少女、アマンダ。アマンダは「その日」まで、奴隷について何も知りませんでした。しかし、アマンダの両親は「地下鉄道」の一員で、「駅長」という役目を果たしていました。「駅長」は、逃亡奴隷達をしばらくの間かくまい、休息を取らせ、最低限の荷物を持たせて、次の旅に送り出すという役目を果たした人たちの事です。

その日、アマンダは自分の家のクローゼットが、逃亡奴隷の「隠れ家」であったことを知ります。今、そこには、自分と同じ年の少女、黒人のハンナが息をひそめています。アマンダが奴隷制に怒りを覚え、ハンナと友情をはぐくみ、ハンナを助ける感動的な本です。



奴隷制と地下鉄道を描いた本といえば「アンクルトムの小屋」ですよねー。あれは名作です。子供の頃にあれを読んで、私はけっこうショックでした。それに、出版されたときには、社会的影響力も強かった本で、これからもずっと読み続けられていく本だと思います。

でも、最近の子供達が読むには、少し刺激が強すぎるような気もする。道徳基準や宗教観の歴史的な変化で、ついていけない部分があるという気もする。こういう風に、現代の子供達にも読み安い形で、忘れてはいけない歴史的事実が語られていくのは、大事だと思いました。
| 海外 | 22:05 | - | - |
■ 春にして君を離れ クリスティ 
4151300813春にして君を離れ
アガサ・クリスティー 中村 妙子
早川書房 2004-04-16

by G-Tools

タイトルが、素敵ですよね。春だから・・・というわけではありませんが、再読。何度読んでも、恐ろしい本です。

自分は理想の妻であり、理想の母親である。道徳的で、常識的で、善良である。夫に愛され、子供に慕われ、幸福である。そう信じて暮らしている一人の主婦、ジョーンが主人公です。ジョーンは、娘の病気見舞いの旅の帰路、ひょんな事から足止めをくらい、話し相手も読む本もなく、ヒマをもてあまして、自分の人生を振り返ることになります。

本の最初では、自分の事も、家族の事も、自分の人生そのものも、理想的で幸福に満ちたものととらえていたジョーンが、旧友との再会と彼女との思い出話をきっかけに、自分の別の側面に気づき、心理的な意味ではありますが、人生の重大な岐路に立つことになります。

自分が信じてきた自分、つまりアイデンティティ崩壊の危機です。それにともなって自分と夫との関係や、三人の子供達との関係も、別の視点から見る事ができるようになっていきます。ジョーンは、周囲の人々が皆、自分を嫌い、憎み、疎ましく思っている、という事に気づきます。また、身近な人たちはその感情を通り越してあきれかえり、自衛策をとっているという事にも気がつきます(3人の子供達のキャラクター作りが本当にうまいです。とても納得できます。アガサ・クリスティって発達心理学者?って感じです。)また、夫が、諦めの境地に達しており、彼女を「可哀想」と考えている事もわかります。

しつこく書きますが、とても恐い本です。心理ホラーと言ってもいいくらいです。もし、この本の恐さがわからない人がいたら、その人は、かなりジョーン度が高いかもしれません。ジョーンは小説の主役ですから多少誇張のあるキャラクターですが、人間であれば誰もが持っている、利己主義とそれを糊塗する偽善性を体現しています。また、現代社会では奨励されている「ポジティブシンキング」にも疑問を投げかけます。ジョーンは、物事の自分に都合の良い面しか見ないで生きてきたために、本当の事は何も知る事ができなかったのです。

それに気がついた彼女が、旅の終わりに、どんな人生を選ぶのか。ぜひ読んでみてください。私は、読み終わったあと、放心してしまいました。





この本は、ミステリーではないので、最初はメアリ・ウェストマコットという別のペンネームで出版されたそうです。今の日本だったら、きっとそんな気を使う必要はなかったでしょうねー。「ミステリー」とか「SF」とか「ホラー」なんていうジャンルは、あってなきがごとし、ですもんね。でも、そういうジャンルの幹というか、根元的な物を愛する人もいて、だから、「本格」だの「新本格」だのといった言葉が尽きることなく生まれてくるんでしょうね。逆に、SFと銘打たれたファンタジーを読んで、「これはSFじゃない」って怒るファンもいるみたいですし。(気持ちはわかります。)

だから私は「テイスト」という言葉を提案します!

そういうコダワリを持っている作家さんや読者に、持ってない作家さんは譲ってあげればいいじゃない?。ジャンルの垣根を越えているところが魅力の作家さんでも、新書を出すときは「本格ミステリー」だの「SF」だの、ジャンルをつけるじゃない?あれを、やめてあげたらいいのに。「ミステリー」とか「ホラー」とかっていう小さな字があるかないかで、そんなに売上が違うなら、「ミステリテイスト」とか「ホラーテイスト」とか、「新本格テイスト」とか「SFテイスト」とか、「テイスト」をつければいいじゃん。それですべて解決!
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