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■ 無言の旅人 仙川環
無言の旅人無言の旅人
仙川 環

幻冬舎 2008-01

真面目に考えたら、こんなに辛い決断はないよねえ。植物状態になって、回復の見込みのない愛する人の命を、本人の望み通りに奪うか、自分の感情を優先して延命治療を続けるか。難しい問題ですよね。色々な事を考えさせられる一冊でした。

この本の中では、植物状態に陥った耕一が、前もって準備していた「尊厳死」要望書をめぐり、彼の両親、妹、婚約者、友人たちなどが、それぞれに、悩み、悲しみ、苦しみ、それでも彼の意思を尊重しなければと考え、「尊厳死」を受け入れようとする過程を丁寧に描いていきます。耕一の望みを叶える、と、家族が決断したその時、ある事件が起こります。

医療サスペンスだけど、霧村小説とか海堂小説とは違い、とことん人間ドラマが重視されていて、問題提起もはっきりしていて、小説らしい小説でした。メールのエピソードは出来すぎでしたが、全体的に辛い小説だったので、読者としては救われるラストエピソードでした。

結局、緊急事態が来る前に、病気になったり事故にあったりする前の、健康で正常な精神状態のときに、本人が決断を下し、家族とも話し合って、意思を統一するべきだと言う事ですよね。そうしておいたとしても、いざという時には、本人が望んでいた通りに家族が動いてくれるかはわからないけど、そこは家族間の信頼関係の質にもよりますね。

我が家の場合は、死とか死後というものにあまり興味が無いというか、死んだら人間はただの物体、土に戻るだけ、と全員が思っているので、自分の死に対する執着や希望が誰にもありません。そんなわけで、延命治療拒否の書類はずいぶん昔に全員分作って、定期的に更新してます。誰も何も悩んだりしなかったなあ。あっさりと、家族全員が、同じ結論に達し、サクサクと書類を作りました。でも、たとえば私や弟が結婚したり、子供(両親にとっては孫)ができたりして、新しい家族ができたら、その人たちとはちゃんと話し合わなきゃいけないんだろうなあ、そうしたら、私個人の意思だけを押しとおすわけにはいかなくなるのかもしれないなあ、と、思いました。きっとうちの家族のような人達は少数派なんだろうから。

| さ行(その他の作家) | 17:24 | - | - |
■ ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎
ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
伊坂 幸太郎

新潮社 2007-11-29

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。

精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。

Amazonより
面白かったですねー。それなりに長い小説でしたが、続きが気になって一気に読めました。ただ、伊坂作品の集大成…という煽り文句には疑問を感じます。確かに「魔王」の世界には通じるものがありますし、学生時代の仲間との絆という点では「砂漠」や「チルドレン」を彷彿とさせるものがありますが、集大成、とは言いすぎ。

黒幕が誰なのか、なぜこんな事件が起こったのか、なぜ青柳雅春が選ばれたのか、などなど、最後まで大きな謎が明かされなかったし、何の罪もないたくさんの人が死に、主人公もああいう結末になり、納得できない事が多い小説でした。でも、その割に、すっきりした読後感でした。これってすごい事だと思う。伊坂さんはやっぱり腕があるんですね。すべての謎を明らかにし、勧善懲悪の小説にしてしまったら、この本は現実味が無くなってしまう。それをせずに、それでも爽快な読後感を残すというのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

現実にあり得る、と、思うから、この本は少し恐くて、そこが魅力なんですよね。セキュリティポッドなんて、世論を上手に煽れる人がいれば、いつ実現してもおかしくないと思う。国家権力は、簡単に多くの人の人権を無視する。もしも私が青柳雅春のような状況に陥ったら、家族や、友人たちは、私を信じて助けてくれるかなあ?かなり不安です(笑)

好きなエピソードは、青柳雅春と樋口晴子との、古い車の中のメモを通したやりとり。それから「痴漢は死ね」の書き初め。それから「たいへんよくできました」。

「たいへんよくできました」の印鑑を、樋口晴子は、いつか彼にバッタリ出会う日のために持ち歩いていたのでしょうか。それともたまたまそこに文房具屋さんがあって、飛び込んで買ったのでしょうか。その場合、一緒にいた夫にはどう説明したのでしょうか。あ、そんな事はどうでもいいですよね。

この小説は映像化にかなり期待できると思うのですが、できれば映画ではなく、連ドラにしてほしいですね。2時間に収めるとなるとかなり省略されてしまうと思うので、それよりは、膨らませて全10回くらいのドラマにして欲しいなあ。その場合、青柳雅春は誰がいいかなあ?中村俊介とか、イメージにぴったりかも。山本耕史もいいなあ。ジャニーズだったら稲垣吾郎。
| あ行(伊坂幸太郎) | 12:20 | - | - |
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