仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。
精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。
Amazonより
面白かったですねー。それなりに長い小説でしたが、続きが気になって一気に読めました。ただ、伊坂作品の集大成…という煽り文句には疑問を感じます。確かに「魔王」の世界には通じるものがありますし、学生時代の仲間との絆という点では「砂漠」や「チルドレン」を彷彿とさせるものがありますが、集大成、とは言いすぎ。
黒幕が誰なのか、なぜこんな事件が起こったのか、なぜ青柳雅春が選ばれたのか、などなど、最後まで大きな謎が明かされなかったし、何の罪もないたくさんの人が死に、主人公もああいう結末になり、納得できない事が多い小説でした。でも、その割に、すっきりした読後感でした。これってすごい事だと思う。伊坂さんはやっぱり腕があるんですね。すべての謎を明らかにし、勧善懲悪の小説にしてしまったら、この本は現実味が無くなってしまう。それをせずに、それでも爽快な読後感を残すというのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
現実にあり得る、と、思うから、この本は少し恐くて、そこが魅力なんですよね。セキュリティポッドなんて、世論を上手に煽れる人がいれば、いつ実現してもおかしくないと思う。国家権力は、簡単に多くの人の人権を無視する。もしも私が青柳雅春のような状況に陥ったら、家族や、友人たちは、私を信じて助けてくれるかなあ?かなり不安です(笑)
好きなエピソードは、青柳雅春と樋口晴子との、古い車の中のメモを通したやりとり。それから「痴漢は死ね」の書き初め。それから「たいへんよくできました」。
「たいへんよくできました」の印鑑を、樋口晴子は、いつか彼にバッタリ出会う日のために持ち歩いていたのでしょうか。それともたまたまそこに文房具屋さんがあって、飛び込んで買ったのでしょうか。その場合、一緒にいた夫にはどう説明したのでしょうか。あ、そんな事はどうでもいいですよね。
この小説は映像化にかなり期待できると思うのですが、できれば映画ではなく、連ドラにしてほしいですね。2時間に収めるとなるとかなり省略されてしまうと思うので、それよりは、膨らませて全10回くらいのドラマにして欲しいなあ。その場合、青柳雅春は誰がいいかなあ?中村俊介とか、イメージにぴったりかも。山本耕史もいいなあ。ジャニーズだったら稲垣吾郎。