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■ 小袖日記 柴田よしき
小袖日記小袖日記
柴田 よしき

文藝春秋 2007-04

上司との不倫に破れて自暴自棄になっていた29歳のあたしは、なぜか平安時代の17歳の女官・小袖の身体にタイムスリップしてしまった。中宮彰子の教育係である香子さまの元で働くことになったが、なんとこの香子さまは現在、あの「源氏物語」を執筆中、ということは「紫式部」であるらしい……。香子さまの片腕となって取材するあたしは、物語化された女たちや事件の意外な真相に触れることになる……。
さらっと読めて、楽しい小説でした。最後の最後に、割と真面目なメッセージが訴えられているのも、爽やかでした。私は、源氏物語に関して、主人公よりさらに少ない知識しか持っていないので(っていうか、高校&大学で勉強したはずだけど…ほとんど忘れた(笑)、源氏物語について、大人の常識程度の知識は持って読めば、もっと楽しめたと思います。

そして、なんだか、子供のころに好きだった、氷室冴子さんの小説を読んでいるような錯覚に陥りました。懐かしの集英社文庫コバルトシリーズ。これ、氷室冴子さんが書いたんだよって言われても、全然違和感が無いと思う。氷室さん、もういないんだよなあ・・・。
| - | 21:57 | - | - |
■ カカオ80%の夏 永井するみ
カカオ80%の夏 (ミステリーYA!)カカオ80%の夏 (ミステリーYA!)
永井 するみ

理論社 2007-04
私は、三浦凪、17歳。好きなものは、カカオ80%のチョコレートとミステリー。苦手なことは、群れることと甘えること。夏休みに、クラスメートの雪絵が、書き置きを残して姿を消した。おとなしくて、ボランティアに打ち込むマジメな雪絵が、いったいどうして…?カレでもできたのか?気乗りはしないけれど、私は調査に乗り出した。ひと夏のきらきらした瞬間を封じ込めた、おしゃれなハードボイルド・ミステリー。
ちゃんとしたYAでした!そして、ちゃんとしたサスペンス&ミステリーでした。(ただ、これがハードボイルドなのかどうかは、疑問)。永井さんって本当に有能!こんなのも書けてしまうんだなあ。どんどん引き出しが増えますね。

雪絵の家出の真相が気になって、どんどんページをめくりました。凪の行動力をうらやまし〜なんて思ったりしました。最初は、群れるのが苦手で、学校でも浮いていて、友達を必要としていないように見えた凪が、雪絵探しの過程で、友人の有難さに気がつく心の成長は、読んでいて清々しいものがありました。凪のマスターに対する淡い気持ちも、微笑ましくて、可愛らしかったです。続きがありそうなので、このちょっと背伸びした恋の行方も楽しみです。

あとは、うーんと、そうだなあ。凪と母親の間の関係って、たぶん凪が一人称で語るほど本当はカラッとしたものではなさそうなので、いつかそのウェットな部分も語られたらおもしろそうかな、と、思います。
| な行(永井するみ) | 21:30 | - | - |
▲ 朝顔はまだ咲かない 柴田よしき
朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
柴田 よしき

東京創元社 2007-08

高校でいじめにあったために、ひきこもりになってしまった小夏が、外の世界へ踏み出すまでの成長ストーリー。連作短編集になっています。一応、一話一話は、ミステリー的な感じで、軽い謎解きもありますが、そこはちょっと弱い感じです。爽やか青春小説でした。

母子家庭の、小夏と母親の関係が素敵です。ひきこもりの娘を1人で守っている、優しくてたくましいお母さん。小夏を追い詰めたり、焦らせたりせず、温かく見守っています。きっとここに至るまでには様々な葛藤があったと思いますが、全然家事をやらなくても、多少だらしないところがあっても、本当にいいお母さんだと思う。

それから、小夏の親友である秋も、素敵な女の子です。ひきこもりの小夏をそのまま受け入れつつ、でも、秋なりに小夏の事を心配しています。小夏が外に出られるように、少しずつ引っ張ってくれます。小夏がかなりネガティブなキャラクターなのに、作品がこんなに爽やかなのは、秋というキャラクターの明るさと素直さのおかげだと思います。

少しずつ成長していく小夏と秋のようすを見ていると、なんか、また明日から頑張っちゃおうっかなあなんて、前向きな気持ちになれる本でした。人生の新しいステージに進むのは誰だって恐いけど、だからって足踏みしててもしかたないしねー、なんてね。

でも、これ、現実的な物語ではないよね。ひきこもりのためのおとぎ話って感じでしょうか。でも、本物のひきこもりで悩んでいる人がこの小説を読んだら、それこそ小夏のように、自分は彼女とは違う、彼女は恵まれすぎている、って思って苛立つんじゃないかなあ。小夏には、ひきこもりの娘を愛し続けて守って信頼してくれる母親がいる。心配し続けて定期的に訪ねてきてくれる、気の合う親友がいる。ひきこもりなのに、素敵な出会いが向こうからやってきて、恋人まで出来ちゃう。自立しようと思い立ったら、バイトもコネで世話してもらえる。うん、恵まれすぎだねえ〜^^ってことで、評価は低めです。でも、楽しい本でした。
| さ行(柴田よしき) | 21:13 | - | - |
▲ 水底の森 柴田よしき
水底の森水底の森
柴田 よしき

集英社 2004-02

「もう森へなんか行かない」シャンソンがエンドレスで鳴り響くアパートの一室で顔を潰された男の死体が発見された。部屋の借主である高見健児と風子の夫婦は行方不明。翌々日、高見の絞殺死体が見つかるが、風子は依然姿を消したまま。刑事・遠野要は、風子の過去を追ううちに、忘れ得ぬ出来事の相手が風子であると気づき、烈しく風子を求め…。時間と距離を超え、繋がる謎。愛とは何か、人間性とは何かを真摯に問い掛ける、長編ミステリ。
これは力作でした!とても読み応えがありましたし、長いのに、最後まで引きつけられる小説でした。さすが柴田さんです。

事件自体、謎が多く、関わる人も多く、人間関係もややこしく、また小説としても、追う側の刑事である要の視点と、逃げる風子の視点が交互に使われ、時系列が時々前後する、凝った構成でややこしく、時々頭の中を整理しながら読みました。ややこしかったけど、読みづらくはありませんでした。特に前半は、事件の真相が気になってどんどん読み進めずにはいられない、という感じでした。

ただ、物語が後半に入ると、犯人なんてどうでもいい…という気分になってきます。次から次へと自分を襲う不幸をただただ受け入れ、その不幸に自分と関わる男たちを巻き込み、堕ちていく風子。彼女が不幸を呼ぶ原因はいったい何だったのでしょうか?指名手配され、警察に追われながら、記憶の中の「本当の父親」を探す風子に、救いはあるのでしょうか?また、すべてを捨てて風子と共に逃避行をする事になる、要の隠している心の闇とは、いったい何なのでしょうか?風子と要が、たがいに対して持っている思いは、いったいなんなのでしょうか?2人はどんな未来を選ぶのでしょうか?

そんなわけで、事件に関してはすべての謎がスッキリ明らかになったし、真犯人はなかなか意外な人物でしたし、よくできたミステリーだったのですが、それらが明らかになったあたりではもう、この小説を謎解きメインのミステリーとしてではなく、風子と要の心情をメインに読んでいたので、なんだか盛り上がりませんでした。前半と後半が乖離しているというか、なんとなく、まとまっていないものを読んだ気になりました。

個人的には、要にも、風子にも、最後の最後まで感情移入ができず、かわいそうな2人なのに同情しきれなくて、残念でしたねー。風子に関しては、なんか、個人的に嫌いなタイプの女性でね。私って可哀想、なんて不幸な私、ああ、どうして私ばっかりこんなに不幸なの?っていうキャラクターなんだけど、最初は、いくらでも幸福を追いかけられる立場にいたはずなんだよね。ただ本人が人生を諦めちゃってただけで。自分から幸福になるために行動する事はなくて、その場その場で好きでもない男に身を任せて、さらに不幸になる。自業自得なんだよなあ。そんな彼女が唯一、積極的に行動したのは、親友の恋人を奪った時でした。うーん、やっぱり嫌いなタイプだ(笑)。それでも、最後の最後で、彼女はやっと「ふりはらう」事を覚えた。それなら、そこで水底に逃げてしまうんじゃあ、お話がつまらないんですけど〜。

要のほうは、もう何から何まで納得できない〜。そもそも、要は娘が自分の子であるのかどうか、ちゃんと確かめてないじゃない?妻と話し合ってもないし、DNA鑑定をしたわけでもない。それを確かめもしないで娘を殺したいほど憎んで、不倫に走って、そんな自分から逃げ出したいから風子と一緒に逝っちゃおう!…なんて、もう、わけがわからん。そういえば、その直前まで要は、不倫相手だった夏樹に未練たらたらで、ストーカーか!って勢いで、追いかけていたはずなんだよね。本当にこの人、なんなんだろう…というより、著者はこの人をどういう風に描きたかったんだろう。つかめないまま読み終わってしまいました…。最後に風子にふりはらわれたとき、彼は何を思ったんだろう。それをちょっと知りたいような…知りたくないような。
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