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■ 八日目の蝉 角田光代
八日目の蝉八日目の蝉
角田 光代

中央公論新社 2007-03
角田作品で久しぶりに、面白かった、読んで本当に良かった、いい読書だったと思える作品に出会えました。好きになれそうな作家さんが増えるのっていい気分ですよね。

2部構成になっていて、1章では、不倫相手の子供を誘拐してしまった希和子の物語、2章では、誘拐事件の18年後の、誘拐された子供の物語が描かれています。

1章で描かれる希和子の逃避行は、時代設定が古い事や、宗教団体が関わってくる事もあって、ちょっと感情移入がしにくかったです。誘拐という犯罪を犯してしまった希和子に、同情の余地があることはわかるんだけど、同情しきれない、共感するというところまではいかない、という感じでした。でも、テンポのいい展開で、希和子と薫はどうなっちゃうの?という事が気になって、先へ先へと引っ張られました。

それにしても、逃避行の始めには、希和子には4千万円という貯金があり、身分を隠したままでも、住む場所をみつけるなりホテルを転々とするなりして、赤ん坊と過ごし続ける事は、できなくはなかったと思うんですよねー。戸籍のない子供を、身分を隠したまま育てるだなんて事が、どのくらい可能かはわかりませんが、普通ならやってみると思うし、赤ん坊が赤ん坊でいる内は、ある程度可能だと思う。希和子が次々と、自分と赤ん坊の暮らしを、見ず知らずの人に丸ごと委ねるのが、毎回とても不思議でした。やっぱり「がらんどう」だったんですかね。いい母親として薫に対しては愛情を注ぎ、立派に育てているように見えましたが、彼女の「がらんどう」はずっと続いていたんでしょうね。

2章に入って、大人になった恵理菜に視点が移ってから、一気に面白くなりました。親元に戻ってからも、家族の中に居場所を見つけられず、孤独をかかえて育った恵理菜は、自分を誘拐した「あの女」を憎んで生きてきました。しかし自分も「あの女」と同じように、妻子のある人との不倫の関係をやめられずにいます。そんな彼女のもとに、フリーライターの千草があらわれます。千草は、誘拐中の恵理菜と、エンジェルホームで一緒だった幼馴染でした。

2章では、恵理菜の物語と同時進行で、誘拐事件に関する客観的な事実が描かれます。事件に至るまでの希和子の人生や、希和子と恵理菜の父親の不倫のいきさつ、恵理菜の母親の事情、エンジェルホームの実態。本当に、どうしょうもないダメ人間ばかりだったという事が、次々に明らかになるのですが、ここにきてやっと、希和子にも恵理菜にも、感情移入できるようになってきました。恵理菜の両親にも、少しは。

恵理菜がとても前向きに未来を語れるようになって、その結果、恵理菜の両親にも、これから救いがあるのかもしれない結末になっていて、とても良かったと思います。子供は育つ環境も選ぶことはできないけれど、自分を育てた馬鹿な大人たちを許して、自分と自分の過去を受け入れて、恵理菜が少し成長し、楽になったようで、ホッとしました。まあ、この後が大変なんだろうな、色々あるだろうな、とは思いますが、恵理菜にも、恵理菜の家族全員にも、幸せになってほしいと思えました。

それから、2章で客観的な事実が明らかになるにつれて、私は希和子にも同情してしまったので、ラストで彼女にも、ちょっと、具体的な救いがあって欲しかった気もします。でも、結末に余韻を残すという意味でも、心情描写の迫力という意味でも、小説的には希和子の結末はあれで正解なんだ、という気もします。

うーん、でもやっぱり、希和子にも、誰かいてあげて欲しかったなあ。別に、子供じゃなくていいし、夫や恋人じゃなくてもいい。友達、とかでもいいから、誰か。ラストシーンの希和子が、1人ぼっちすぎて、切なくて、悲しかったです。
| か行(角田光代) | 12:10 | - | - |
▲ 長く冷たい眠り 北川歩実
長く冷たい眠り長く冷たい眠り
北川 歩実

徳間書店 2007-06

もう治らない病気にかかった人の脳を冷凍睡眠で保存し、治療法が見つかった将来解凍して、クローン技術で作った人体の脳に戻す。その技術がもうすぐ完成する、あるいは実はとうに完成していて、すでに眠りについている人がいる。そんな噂がまことしやかに流れています。この本は、その噂に関わった人たちを描いた短編集です。

自分の命を長らえさせたい、愛する人の命を救いたい、愛する人と一緒に生きていきたい、人は必死になると藁にもすがる思いで、噂を信じてしまいます。そして、考えられないほど大胆な行動に出てしまう、その悲しさが、全編に溢れていました。でも、どちらかと言うとあっけらかんとしたSFで、読みやすかったです。

△ 氷の籠
△ 利口な猿
□ 闇の中へ
□ 追う女
△ 素顔に戻る朝
△ 凍りついた記憶
△ 長く冷たい眠り

久々に北川さんの新刊を見かけた気がして読みました。昔、かなり好きだった時期がありました。変わってなくて嬉しいなあ・・・でもちょっとネタが古く感じるなあ・・・なんて思いながら読み終えて、初出一覧を見たら、10年ほど前に書かれたものばかり。どうして、今さら単行本化されたんでしょうね?不思議です。
| か行(その他の作家) | 17:57 | - | - |
▲ 夜明けの街で 東野圭吾
夜明けの街で夜明けの街で
東野 圭吾

角川書店 2007-07

男って莫迦…。
女って恐い…。

という感想。

さすが東野圭吾作品だけあって、読みやすいし、構成もしっかりしていて、十分面白かったんですが…まあ、それだけ、っていう感じでした。

ミステリーというよりは、不倫小説でした。細かい事を考えなくても、犯人は途中でわかっちゃいました。動機まではさすがにわからなかったので、ラストまでしっかり楽しむことができましたけどね。

でも、不倫小説としては、薄いんですよねー。特に、主人公のキャラクターが、不倫小説の主人公としては、どうにも薄っぺらくて…。ごく一般的な妻子のある男性が、ずるずると久しぶりの恋愛にはまっていく過程は、なかなか自然に描かれていたと思うんですけど。それなのに、どうにもこの不倫に説得力がないのは、彼のキャラクターが薄いせいかな、と、思いました。もう少し彼が、中年の男性らしい魅力を持っていたり、くせのある人物だったりしたら、リアリティも、説得力もある小説になっただろうに、と思いました。

不倫の最中の彼の頭の中ったら、まるで中学生みたいに、恋愛のことでいっぱいなんだよね。普通、大人の頭の中っていうものは、もうちょっと、複雑なものでしょうよー。クリスマスイブだの、バレンタインだの、イベントごとに振り回され、シチュエーションに酔い、雰囲気に流され…という完全な「夢見る夢子ちゃん」なキャラクターで、若干ひきました。まあ、そんな彼だからこそ、ああいう展開で不倫をし、ああいう結末を迎えてしまうんでしょうけれど…。

東野圭吾作品は、読む前の期待度が高くていけませんね…。十分面白い本でも、つい辛口の感想になってしまいます。
 
| は行(東野圭吾) | 18:47 | - | - |
■ きみはポラリス 三浦しをん
きみはポラリスきみはポラリス
三浦 しをん

新潮社 2007-05
11編の作品が集められた、恋愛短編集。どれも、一風変わったというか、一筋縄ではいかない恋を描いていて、普段は恋愛小説を好まない私でも、興味深く読むことができた一冊でした。どの作品も濃くて、どれも新鮮な気持ちで読めて、まさに粒ぞろい。恋の形は、カップルの形だけ、っていうか人の数だけあるのでしょうね。

特に印象的だった作品

□ 裏切らないこと
○ 私たちがしたこと
□ 骨片
□ 森を歩く
○ 優雅な生活

ただ、この短編集の最初と最後とに配置されている、幼馴染の同性に叶わない恋をし続ける男性の物語が、私にとっては、ちょっと邪魔でした。この本はあくまでも、一般文芸の範囲に入る本だと思うんです。でも、この2編は、ソフトBLにしか見えないんです。

BLの世界の恋人たちは、読者の妄想の世界にいます。BLというのは、現実にはありえないと読者が思っているからこそ楽しめる、だからこそ支持される、そういう世界なのだと思います。一般文芸の世界にも、ゲイの恋人たちはたくさん登場しますが、彼らはBLの世界の住人ではありません。同じくフィクションではありますが、より現実に近い世界の住人です。

私の中には、その区切りが、はっきりとあるようで、違和感がぬぐい切れず、あくまでも個人的にですが、この本のマイナスポイントとなってしまいました。まあ、それが三浦しをんさんという作家さんの個性で、そこが好きというファンが多いんだろうなってことは理解できるんですけどねー。

しかし、それ以外の作品は、全部読み応えがあり、インパクトもあり、いい本でした。
| ま行(三浦しをん) | 12:05 | - | - |
直木賞候補発表
今回は、伊坂幸太郎も、荻原浩も、恩田陸もいないので、
個人的には、まったくテンションの上がらない直木賞。



第137回 直木賞候補作

北村薫「玻璃の天」(文藝春秋)
桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」(東京創元社)
畠中恵「まんまこと」(文藝春秋)
万城目学「鹿男あをによし」(幻冬舎)
松井今朝子「吉原手引草」(幻冬舎)
三田完「俳風三麗花」(文藝春秋)
森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」(角川書店)



…もう、北村薫先生にあげてください。

こんな「新世代」感あふれる候補者たちと並べられているのが、
不自然だし、もうニ度と見たくないわ〜。

ほんっと、何度も言うけど、
先回受賞作なし、なんかにしないで、
北村先生にあげておけば良かったのに。
他の出版社の作品で受賞させても、
直木賞の公平感を一応示せて、イメージアップで元はとれたのに。

今回こそはあげてよね。
…もう、小説の内容とは関係なくね。
文春なんだし、文句ないでしょ。

正直、最近の北村先生の本はお上品すぎて、
下々に生きる私には、「面白い」って感じではないけれど。



で、他の作品を見ると…。

なんと、桜庭一樹が入ってきましたねー。
以前から好きな作家さんだし、この本とても面白かったけど、
まだ、若干、ライトノベルのイメージが抜けず。
今回は顔見世ですね。

万城目学&森見登美彦作品は、両方とも面白かった。
この2人、なんか似てる。
新しい青春文学。ストーリーも面白いけど、
個人的には、ちりばめられたシュールな笑いに、はまる。
でも、いくらなんでも直木賞は早いでしょ。
ここも顔見世って感じだなあ。
どちらかと言えば、話題性で森見登美彦なのかな。

畠中恵は、「まんまこと」はまだ読んでいません。
でも、実績厚いし、人気があるみたいだし、安定しているし、
北村先生以外で選ぶとしたら、本命なのではないかと。
文春だし。文春だし。文春だし。

松井今朝子は、まあ、推す選考委員がいるのは想像がつく。
ただ、時代小説は、私自身が今までに読んできた絶対量が少なくて、
良し悪しがわからないのでなんとも言えない…。
幻冬舎から2冊も候補になってる!って、そこがちょっと嬉しい。

あと…三田完って…ごめんなさい。知らない人です。誰?



というわけで、個人的な好き嫌いは別として、
北村先生とW受賞になっても腹が立たないのは、
松井今朝子くらいです。


以上、敬称略にて、失礼。
 
| 雑文 | 01:51 | - | - |
■ 赤朽葉家の伝説 桜庭一樹
赤朽葉家の伝説赤朽葉家の伝説
桜庭 一樹

東京創元社 2006-12-28
戦後間もない頃の鳥取県紅緑村、幼かった万葉は「辺境の人」に村に置き去りにされ、村の若い夫婦に引き取られ育てられる事となった。見た目も普通の少し子供と違い、文盲でもあったが、一方で不思議な予言をしたり通常は見えないものが見えたりしたため「千里眼」と呼ばれるようになる。やがて、村の名家「赤朽葉家」の大奥様、赤朽葉タツと出会い赤朽葉家に輿入れするように言われ、「赤朽葉家」三代の物語が始まる。
読み応えのある長編で、面白かったです。構成がしっかりしていて、エピソードに緩急があり、最後までだれずに読み終える事が出来ました。ライトノベル作家だった桜庭さんが、一般文芸の世界で認められるきっかけとなった一冊、だそうですね。うん、納得です。

たかだか60年か70年の間に、日本の経済や産業や文化の発展に伴い、村社会も、若者たちの考え方も、こんなに変化したんだなあ、というのが興味深かったです。それが良い事なのか、悪い事なのかは置いておいて。その時代、その時代ごとに、逃れようのない試練があり、それをしたたかに生き抜いた女性たちが描かれていて、感慨深かったです。

このミスでランクインした本であることを知らずに読んでいたので、第3部で突然ミステリーになった時、ちょっと面食らいました。でも、それまでの伏線がしっかりと生きて、まあまあ面白かったです。第1部と第2部がすごく迫力があったので、第3部のなぞ解きがあっさりしすぎていて、ちょっと薄く感じられたのが残念ではありましたが、それでも大満足の読書でした。
JUGEMテーマ:読書
| さ行(桜庭一樹) | 11:51 | - | - |
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