1994年、ルワンダ。100日間で100万人のツチ族が、フツ族によって虐殺されました。この本は、小さなトイレの中にかくまわれて奇跡的に生き延びたツチ族の女性、イマキュレーの手記です。この事件が、「ホテル・ルワンダ」という映画で、日本人の映画ファンに知られるようなになったのは、幸運でしたね。
この本も、映画も、とても感動的な手記でした。そもそも、当時ルワンダにいたツチ族の女性で、生き延びた人が少数である上に、現在、イマキュレーのように恵まれた環境で幸福に暮らして、手記を出版できるような環境にある人は、さらに少ないでしょう。それだけでも、この本の価値は高いと思います。また、ルワンダの虐殺について書かれたものの中では、残虐で生々しい描写がおさえられていましたし、歴史的な背景や、政治的な解釈が、最低限におさえられていたので、比較的読みやすい本だと思います。
前書きによると、「これは、歴史上、もっとも残虐な大虐殺のただ中で、どのようにして私が神を見出したかの物語です。」というわけで、敬虔なカトリック教徒である、彼女の信仰について語られる部分が多いです。同じ信仰をもたない人間には、共感できない部分もありますし、信じられない部分もあります。彼女が、啓示だとか奇跡だとかいう風に表現する物の多くは、私には、偶然か幸運、そして彼女自身の力だという風に思えます。基本的に、私はスピリチュアル系は苦手です。
しかし、それはそれとして。
虐殺の間中、彼女が、自分の中の恐怖と不安、絶望、憎悪や復讐心といった「悪」と戦い続け、それに勝利をおさめて、希望と慈悲の心を持ち続ける姿には、感動しました。狭いトイレの中に8人もの人間が隠れていなければならず、食料はめったに与えられず、音をたてることも喋ることもできず、一日に一度しか身体を伸ばす事ができず、身体の大きい彼女の膝の上には、常に小柄な誰かがのっているという状況で、彼女は将来国連で働くために、英語の勉強を始めるのです。
虐殺が終わった後、すべてを失い、心も体もボロボロに傷ついた状態でも、すぐに他の人に尽し、他の人のために働きたいと願い、実際に行動し、憎しみや復讐心と戦って、最終的には家族を殺した相手に許しを与え、たった2年でまた人を信じ愛せるまでに回復したのです。
もし自分にそんな悲劇が振りかかったら…と考えると、ありえないな、としか思えません。絶望か憎悪のどちらかに、簡単に魂を売り渡してしまうんだろうと思います。そして、私だけでなく多くの人が、イマキュレーのようには強くないだろうと思います。
その強さを、彼女は信仰から得ました。信仰とは、本来、こんな風に働くべきものですよね。戦争を正当化したり、購買力を煽ったりするばかりが、信仰ではない。あたりまえですけれど。