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★ 風が強く吹いている 三浦しをん
風が強く吹いている風が強く吹いている
三浦 しをん

新潮社 2006-09-21

面白かった!面白かった!面白かった!感動した!以上!と、やたら“!”マークが出てしまう1冊。三浦しをんファンではない人にも、性別や年齢を問わず、オススメできる小説。

駅伝というチョイスは珍しいけれど、基本的には、爽やか青春スポ根マンガ(小説)の王道ストーリーです。王道中の王道。精神的には未熟な天才が1人いて、努力家で頭脳派の2番手がいて、その他大勢は彼らのカリスマ性に魅了され、必死でついていくのよね。その中にはなぜか必ず、双子か三つ子がいるの。応援してくれるマネージャー的存在の美少女も欠かせないわね。それから、ライバルチームには親父くさい貫禄ある王者と、挑戦的でむかつく新人がいて、事あるごとにぶつかるの。そして最後は、現実にはありえないほどの高みに短期間でのぼりつめて、感動!ああ、王道って素晴らしい。「キャプテン翼」も「オフサイド」も「山下たろーくん」も「タッチ」も「スラムダンク」も大好きだ!(あ・・・年がばれる(笑)

とはいっても、この本の舞台、寛政大学陸上部と、実はその寮である竹青荘には、いわゆる“スポ根”はありません。

走(かける)は、高校時代にすばらしい成績を残しながらも、従来の“スポ根”チックな、管理主義的で上下関係にうるさい陸上部で、性格と精神的な未熟さからトラブルをおこし、陸上をやめました。それでも走ることをやめることはできず、1人でトレーニングを続けています。そんな彼が、まともな陸上部もない寛政大学に入学することになって出会ったのが、膝の故障で1度は陸上をやめた、四年生のハイジです。ハイジもまた、“スポ根”の被害者ですが、走ることへの情熱を失うことなく、用意周到にチャンスが来るのを待ち続けていました。2人の運命的な出会いから、オンボロアパート竹青荘に住む10人の大学生が、箱根駅伝を目指して、熱い1年をおくる事になります。

素質はあるものの素人の8人を、各人のペースと性格に合わせて我慢強く指導(操縦?)し、1人前のランナーに育てあげる、ハイジの手腕が見事で、見事すぎて笑えます。箱根駅伝を目指す練習と酒盛りの日々を描いた前半は、およそ現実的ではないのですが、本当に面白かったです。個性豊かな面々の、気の抜けた会話は随所で笑えるし、時に不平不満をぶつけ合いながらも、目標に向けて1つになっていく様子は、まさに青春!

最初は嫌々練習を始めた面々も、一緒に走るうちに協力的になり、ハイジ1人にまかせきりにしていた炊事を当番制にしたり、広報担当を買って出たり、資金繰りに協力したりと、本気で箱根を目指すようになります。応援してくれるようになった地元商店街の皆さんや、八百屋の葉菜ちゃんとの交流も、素朴で素敵です。

選手1人1人の思いを、きちんと描いた後半も最高!駅伝という競技だからこそ、本番のレースを描きながら、全員の心情をきっちり描写する事が自然にできていて、しかもその部分が10人分感動的で、10人とも最高でした。

しをんさん、「きた・・・きた・・・きたぞ〜!とうとう来た!」という感じがします。今まで読んだしをんさんの小説の中には面白いものもあったし、腕があるのは知ってたし、エッセイは大好きだし、押しも押されもせぬ直木賞作家だし・・・いまさらではあるんですけど。最初に読んだしをんさんの小説が体質に合わなかったせいもあって、わたしの中ではいまだにしをんさんは、「いつかわたし好みの大傑作を書いてくれるだろうと信じて待ってる作家さん」っていう位置付けだったんです。その「大傑作」が、とうとう、きた!って感じ。わたしの中でビシッと決まった!って感じ。とるならこの小説で、直木賞をとってほしかった。

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| ま行(三浦しをん) | 23:52 | - | - |
■ 夢の宮〜月下友人〜 今野緒雪
夢の宮―月下友人〈上〉夢の宮―月下友人〈上〉
今野 緒雪

集英社 2000-07

夢の宮―月下友人〈下〉夢の宮―月下友人〈下〉
今野 緒雪

集英社 2000-11

久々に読んだ「夢の宮」シリーズは、あいかわらず乙女チックなファンタジーで、微笑ましかったです。しかもこの本は、著者があとがきでおっしゃっているように「明るいグループ交際」。王子とその親友である貴族の息子、そして下級貴族の娘2人、という組み合わせの、王道ラブコメでした。最初から結末は分かっているようなものでしたが、素直に楽しみました。

それにしても「樹々」(じゅじゅ)って、可愛い名前だなあ。すごく気に入った。娘が生まれたら、つけようかな。(出産の予定はまったくありませんが。
| か行(その他の作家) | 23:47 | - | - |
■ 銀朱の花(アルディ編) 金蓮花
銀朱の花 秘密の約束銀朱の花 秘密の約束
金 蓮花

集英社 2004-08-31

暁の約束 ―銀朱の花暁の約束 ―銀朱の花
金 蓮花 藤井 迦耶

集英社 2004-12-25

「銀朱の花」シリーズの中で、サブタイトルの最後に「約束」という言葉ついているのが、アルディ編です。アルディは、貴族の娘に生まれましたが、左右の瞳の色が違い、額に花の形の痣があるという「聖痕の乙女」のしるしをもっていたために、男の子として育てられます。彼女が王家の跡継ぎ争いにまきこまれることを、両親が恐れたためです。アルディ自身自分を男の子だと信じており、都から遠く離れた田舎町で野山に遊ぶ日々を送っていた子供時代に、休暇をとりに訪れた第二王子、イリスと親友になってしまいます。

子供時代の2人の話も、少女趣味全開でなかなか良いのですが、後半はストーリーがもっと面白くなります。「聖痕の乙女」が選ぶのは真の王であるはずですが、アルディが選んだのはイリスなのです。そして、アルディはもちろん、イリスも、皇太子である兄と仲がよく、深く尊敬しており、自分が王になりたいなどとはまったく思っていないのです。さて、どうするか?運命を切り開くのは、もちろん、アルディです。

今のところ、典型的シンデレラストーリーだった「エンジュ編」の、逆を行っている感じです。このシリーズの主人公のアルディは、最初の主人子であった、ひたすら耐えるエンジュとは違い、積極的で、攻撃的で、行動力のかたまりのような女の子。アルディは、エンジュとは別の方向で、とても魅力的なヒロインです。

ただ、まだ謎がたくさん残っていますし、アルディ&イリスのカップルは見足りない気がするので、このシリーズはまだ、ひょっこり続編が出そうな気もしますね。
| か行(金蓮花) | 00:03 | - | - |
▲ 昏睡 霧村悠康
昏睡 かくされた癌昏睡 かくされた癌
霧村 悠康

新風舎 2006-09-25

多少のネタバレあり

デビュー作「摘出−つくられた癌」の続編です。前作で、過ちを犯した人々のその後が描かれています。あんなに反省したはずなのに、あっという間に現場の緊張感は失われて、教授選がみんなの一番の関心事になっています。あいかわらずの、ベタな「白い巨塔」小説でした。小説としては、読むたびにどうしても好きになれない部分があるのに、著者が現役の医師であるということと、著者の医師としての良心と熱意が感じられるところが、霧村さんの本を手にとってしまう理由でしょうねー。

サイドストーリーという感じで、前作でミスをして病院をやめた、新人外科医、本木が、医師として再び仕事を始める様子が描かれます。本木は新しい病院に勤めるにあたって、その病院のHPで、3回ミスをしたら外科医をやめる、と宣言しました。彼はその病院で、生まれて始めての恋をします。相手は末期の癌患者です。HPで本木を知り、彼を頼ってきたのです。このシリーズで1番若手の医師である本木が、本当にいいお医者さんになってくれそうなラストは、全体的に暗いテーマの本を、後味良く終らせてくれました。でも、死期の迫った薄幸の美少女を最後まで見守る若き医師、なんて、ちょっと前の「泣かせる本」ブームっぽくて、ベタだったなあ。まあ、いいお話、ではありました。

そしてもう1つのサイドストーリーが、今回の、どうしても好きになれないエピソードなんですが・・・。前作のミスの責任をとる形で教授職を退いた、高木医師の不倫の結末が描かれます。もともと、不倫小説は嫌いなんですが、この本の不倫の描かれ方は最悪でした。長年つきあった愛人は肺癌になってしまい、高木医師は懸命に看病します。男の身勝手全開なんですけど、一応その姿は誠実に見えます。愛人の陽子さんという人もいい人で、言葉も、手紙も、感動的で良かったです。でも、それでも、あの最後はいかんですよ。いくらなんでもダメですよ。小説の中では綺麗にまとまっていて、「ここは感動するところですよ」という無言の圧力を行間から感じましたけど(笑)、それが許せない〜。だって、夫にあんな死なれ方をしたら、奥さんと子供の立場は!
| か行(霧村悠康) | 23:20 | - | - |
■ ありふれた風景画 あさのあつこ
ありふれた風景画ありふれた風景画
あさの あつこ

文藝春秋 2006-08

高校2年の高遠琉璃には、ウリをやっているという噂があります。真実とも、本人の意志とも関係ないところで、その噂が、ぷかぷか浮いて、流れていくのです。琉璃には、美人でオシャレな姉がいて、その反動でか、自分はオシャレに気合なんていれない決めています。それでも、爪だけはいつも桜色にしておきたいと考えている、なかなかキュートな女の子です。

そんな琉璃が恋をした相手が、超能力があるとか、呪いの力があるなどと噂され、やはり周囲から浮いている、先輩の綾目周子。彼女の美貌と、動物と話が出来るという力は、過去も現在も、問題を起こしてばかりです。
「十代ほど、たくさんの人に出会い、たくさんの人と別れる次代はないような気がする。出会いと別れを繰り返す時代、「さようなら」そんな別離の挨拶とともに、二度と会えなくなる人たち。その人たちをいつの間にか忘れていくわたし、忘れられていく私。出会いも別れも生々しく儚い。」
本文からのこんな引用が、帯に印刷されていて、「青春小説」と、書いてあります。たしかにそれは正しくて、この本はちゃんと青春小説なんですけど、わたしが「青春小説」に期待する、爽やかさや清々しさは、ない小説でした。(だからと言って、この本が嫌いというわけではないです。)上の文章から感じられる、痛々しさや、脆さは、多少ありましたが、なんかもっと濃厚な雰囲気の小説です。

この本の中では、琉璃と周子が共に過ごした1年間を扱っているのですが、二人それぞれの負荷は、「青春」とは関係なく、それぞれの個性として一生ついて回りそうな気がします。周子は自分の能力をあんな風に無造作に使い続けていたら、まともな社会人としてはやっていけないだろうから、きっとずっと大変だろうと思う。琉璃はどうやら思春期によくある「美貌の先輩にあこがれて」のパターンではなく、本物のレズっぽいので、青春期を卒業しても、やっぱり大変だと思う。この本のラストシーンが永遠に続くのであれば、いいのになあ。二人がどう成長するのか、今後が心配になってしまうような、しんみり本でした。

というわけで、どう読んでも青春小説というより、恋愛小説の要素が強いんですよねー。「バッテリー」などは、なーんかBLっぽい雰囲気だけど、青春小説なんだよね、と分かりましたが、この本はしっかり、レズ小説。2人とも恋愛感情をしっかり自覚した上でのおつきあいです。青春小説としては、あんまり、ありふれてないと思うなあ。

あさのあつこさんって、どっち方向に行きたいのかなあ。いまだ、つかみきれません。
| あ行(あさのあつこ) | 14:51 | - | - |
■ 生きてるだけで、愛 本谷有希子
生きてるだけで、愛生きてるだけで、愛
本谷 有希子

新潮社 2006-07-28

過眠、メンヘル、25歳、の寧子の物語。

わたしも過眠はたまにやっちゃう人です。「生きているだけで疲れる」という寧子の言葉も、他人事ではありませんでした。もちろんわたしは、彼女ほどエキセントリックではないし、ドラマチックな人生でもないけど、やっぱり、寧子の言う「人として何かずれた部分がある」人間なんだと思います。「健やかな心を持った人達」と、結局うまくやっていけなかった寧子の気持ちが、とてもよくわかって、切なかったです。とりあえずは、津奈木がいて良かったね、と、思いました。

ただわたしは、同じようにずれた人間でも、寧子より、彼女の同棲相手である津奈木のような方向性でずれているんです。そして、やっぱり津奈木のように、寧子のような「はっきり、きっぱり、わかりやすくメンヘル」な人に魅かれてしまったり、逆になつかれたり、そして離れられなかったり、という経験を何度もしていて(恋愛関係以外が多いんですけど。)、だから、津奈木に1番共感しました。寧子側も辛いけど、津奈木側もかなり辛いんですよ〜。

自分の事ばっかり書いてもあれなんで、身もふたもない感想を書いてしまうと・・・。メンヘルなんて可愛く言っていても、彼女の場合はそれなりに深刻な躁鬱病だと思われるので、ちゃんと病院で治療したほうがいいと思います(笑)。

メンヘルにスポットをあてた小説はとても多いですよね。この本はその中でも、内容の重さの割に、読みやすい本でした。本谷さんに初挑戦!だったのですが、お上手ですね。他の本も読んでみたいと思いました。この種のネタは登場人物に絶望感があるので、そのまま書いたら重くて暗くてどうしようもない本になってしまう。だから、最近は、この本のように読みやすくサラッと描いてしまったり、逆に、簡単に治ってしまう癒し系ストーリーになっていたりしますね。どちらにしろ、自己陶酔や、美化がみえみえだと、読者は冷めてしまうので、バランスが難しいんでしょうね。この本は、そのどちらもなくて、行き詰った感じは良くでているのに、絶望的に暗くもなくて、読みやすかったです。

ただ・・・性格とか、育ちとか、現代社会のゆがみとか、そういうそれなりに文学的なテーマと、脳内物質の分泌異常が関係している、薬で治療できる病気の話を、いっしょくたにしてして描いてしまうのは、好きじゃないなあ、と、思いました。でも、まあ、病気である本人の一人称小説なので、しかたないと言えばしかたないですし、そういう彼女の目で見た「自分」と「自分の世界」というのは、読み物としては迫力も魅力もあって良かったと思うので、あくまでも好みの問題ですけど。
| は行(その他の作家) | 19:05 | - | - |
● 出口のない海 横山秀夫
出口のない海出口のない海
横山 秀夫

講談社 2004-08-06

神風特攻隊員の話はよく知られていますが、この本で描かれているのは、その潜水艦版とでも言いましょうか。爆薬をたくさん積んだ、脱出装置のない潜水艦で、敵の船に突っ込んでいく。人間魚雷「回天」の、乗組員の物語です。

太平洋戦争も始めのうちは、学生は兵役を免除されていて、この本の主人公である並木も、大学の野球部の活動を続けています。並木は、ひじの故障が原因で、満足な球は投げられないのですが、野球に対する情熱を失わず、仲間たちと共に練習に打ち込んでいました。しかし戦況は悪化し、野球部員たちも、出陣することになります。そして並木たち、海軍に配属された者たちに、ある日、特攻の任務が下されるのです。

そこからが、この小説は、けっこう長くて切ないんです。「回天」に乗ると決まっても、すぐには死ねないんです。まずは、「回天」を操縦するための特別な訓練を受けなければなりません。自分が死ぬための訓練です。並木は訓練中も、野球への情熱を捨てることができず、こっそりピッチング練習を続けました。そして、日本の負けを予感し、自分が何のために死ななければならないのかと、考え続けました。

やがて訓練は終わり、出航の日がやってきて・・・

野球部の仲間たちの友情と、野球への情熱が、素敵な本でした。並木は、さすが主人公で、全編を通してかっこよく、圧倒的な存在感があるのですが、仲間たちそれぞれの個性も、しっかり描かれていて、彼らの思いも伝わってきて、群像劇として素晴らしかったです。ストーリーは、オーソドックスな戦争文学なのですが、青春小説としても素晴らしかったです。それに若者が死を見つめる姿には、「ノルウェーの森」や、「世界の中心で愛を叫ぶ」のような、いい意味での若さというか、瑞々しささえ感じられて、横山さんの筆力は、やっぱりすごいと思いました。

そして、素晴らしい分だけ切ないんです。悲しいんです。滅入りました・・・。最近私は、なんとなく戦争文学を読むことが多くて、かなり耐性はついていたはずなんです。それに、この本には戦闘シーンはありませんし、戦場の凄惨な描写などもないのです。いわゆる「怖い」シーンは皆無です。

それなのに、古処さんの数々の戦争文学より、真保裕一さんの「栄光なき凱旋」より、大学時代にたくさん読まされたノンフィクションより、子供の頃読んでトラウマになった戦争ものの児童文学より、滅入った。この滅入り度は、半端じゃありません。読者をこれだけ滅入らせるんだから、これは、名作なんだと思うけど。ああ、滅入ったー・・・。

映画のチケットをペアで持ってるんですけど・・・行くの、やめようかなあ。
| や行(横山秀夫) | 00:24 | - | - |
■ 記憶汚染 林譲二
記憶汚染記憶汚染
林 譲治

早川書房 2003-10

破滅的な原発テロの教訓から、携帯情報端末による厳格な個人認証が課された近未来日本社会。土建会社社長の北畑は、奈良の弥生遺跡から謎の文字板を発見するが、なぜかそれは200年前のものと推定された。いっぽう痴呆症研究に従事する認知心理学者・秋山霧子は、人工知能の奇妙な挙動に困惑していた。2つの事象が交わったとき、人類の営為そのものを覆す驚愕の真実が明らかになる―それは新たなる破滅か、それとも。
amazon より

ずっと気になっていたのですが、やっと読めました。近未来SFなのですが、テーマは歴史ということで、個人的にはツボでした。SF好きにはオススメですが、SFに慣れていない人には、設定の説明が延々と続くのが読みにくく感じられるかもしれません。わたしは、面白かったです。恩田陸さんの「光の帝国」シリーズや、「劫尽童女」のような雰囲気。民俗系伝奇SF。さかのぼると、半村良さん系ってことになるのかな。

つっこみどころはたくさんあるんですよ。たとえばこの本の中では、携帯情報端末の普及で人々は経験を共有できるようになり、その結果、新しい世代はどんどん、他人に優しく親切になっている、という設定です。そんなことってあるのかなあ。テロ対策というしかるべき理由があるとはいえ、厳格に管理されれば社会には不満がたまるだろうし、一人一人の個人にだってストレスがかかってくると思う。逆に、他人に親切にする余裕なんてなくなって、殺伐とした社会になってしまうんじゃないのかな。

それに、わたしたちが知っている「歴史」が、真実だろうが、そうではなかろうが、過去であることに変わりはない。「歴史」がどれだけ改ざんされようと、地球の将来なんて、なるようにしかならないよ。と、思ったよ、私は・・・。

たしかに、ほんの少し前まで、戦争も奴隷も正義だったのに、今ではそれを悪と信じて糾弾してるなんて、人間の変わり身の早さには改めて驚いたけど。そしてそれでもなお、「実態は戦争」「実態は奴隷」である数々の悲劇を、くさい物にはふたをしている人類には、いつも呆れるけど。そういうのって、一部の人の情報操作だけでおこる現象じゃないと思う。きっかけではなく根本原因は、社会という大きな生物の意志か、人類という種全体が、見たくないものが見えなくなる、弱い種だということだと思います。

設定がやけに壮大な割に、物語は小さくまとまってしまったのでもったいないような気はしましたが、色々と考えさせられる部分もあって、まあまあ、いい読書ができました。
| は行(その他の作家) | 23:11 | - | - |
▲ 水曜日のうそ クリスチャン・グルニエ
水曜日のうそ水曜日のうそ
C. グルニエ 河野 万里子

講談社 2006-09

主人公は、15歳のイザベルという少女。近所に住んでいて、毎週水曜日に30分だけ遊びにくる、82歳のコンスタンおじいちゃんの事が大好きです。でも、そのおじいちゃんの息子であるはずのパパは、その30分、いつも苛立っています。おじいちゃんの耳が遠いことに、そして古い思い出話ばかりがくりかえされること、仕事で忙しい自分が、そのために時間をとられること。もちろんパパは、おじいちゃんを嫌いではなく、大事にしなければならない、と考えて努力しています。それでもどうしても、その30分は、ギクシャクしてしまうばかりなのです。

そんなパパに、転勤の話が来ます。場所は、おじいちゃんの家から4時間もかかるリヨン。その転勤でパパは望んでいたポストを手に入れることができるのです。それと同時に、ママに赤ちゃんが生まれることもわかります。今の家では狭すぎるので、一家は引っ越しが必要なのです。イザベルは、ボーイフレンドのジョナタンと離れるのが嫌です。がん患者であるおじいちゃんを置いていくのも嫌です。パパも、ママも、おじいちゃんを置いていかなければならないことには、罪悪感を感じています。かといって、自分の家で死にたいと考えているおじいちゃんが、一緒に来てくれるわけはないし、老人ホームに入ってくれることもなさそうです。

それで一家は、おじいちゃんに嘘をつくことに決めます。おじいちゃんに引っ越しの事を知らせず、水曜日だけ、元の家に帰り、今までどおりの時間を過ごすのです。誰かが誰かを思いやって生まれた、たくさんの優しいうその物語。

とても上品な雰囲気の小説でした。「うそがばれそうで、ドキドキ、ハラハラ」というようなシーンでも、その上品さ、それに、穏やかさや、静かさといった、小説の雰囲気が、なぜか壊れていません。その分、ストーリーの展開のわりに冗長な気もしましたが、やっぱり素敵な本でした。

これ、映画化しないかなあ。そうしたらきっと、メリハリがついて、最後には感動がこみあげる、いい映画になると思う。
| 海外 | 23:29 | - | - |
▲ その猫に何が起こったか 野村桔梗
その猫に何が起こったか?その猫に何が起こったか?
野村 桔梗

国書刊行会 2005-03

殺人容疑で現行犯逮捕された容疑者、は、切り取った男の片耳を、しっかり握り締めていました。容疑者、高林啓子は、なぜ男を殺害し、なぜ耳を切り取らなければならなかったのでしょうか?

ミステリーなので、重要なネタバレは、いっさい無しでいきます。

高林啓子は、36歳、独身。ミーという名の、真っ白な猫が、彼女の生きがいです。ミーのエサは、高級な輸入物のキャットフードや、上等のささみ肉。リードはエルメス。キャリングケースはヴィトン。特注の十八金の首輪には、ミーの瞳の色と同じ、大粒のブルーサファイアがついています。

ミーが唯一の生きがいとなるにいたる、啓子の孤独で報われない人生と、猟奇殺人の過程が、交互に語られます。犯人は最初から分かっているし、比較的早い段階で動機も分かってしまう事件ですが、それでも最後まで読む価値がある本です。私は最後に、ゾッとして鳥肌が立ちました。

とりあえず、30代独身で、啓子と自分を重ねて同情してしまった私としては、1人暮らしをしても猫を飼うのはやめよう、と、決意しました。ルックスとしては猫のほうが好きだけど、いつか飼うなら犬にしよう、と、思います。そして、犬を散歩させて、犬好きのご近所さんと挨拶したり、お散歩仲間になったり、犬を公園デビューさせたりして、健康的に可愛がろうと思います。猫を飼ってもそういうことはできないですもんね。啓子が出会ったのが、猫ではなく犬だったら、何かが違ったような気がするのです。
| な行(その他の作家) | 02:13 | - | - |
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