田舎の県立高校の、どちらかといえば地味な高校生たちの、切ない切ない恋物語たち。とてもいい本でしたねー。
私の高校時代は、学校以外の所で無駄に波乱万丈だったので、こんな青春っぽい思い出が作れるほど、のどかなものではありませんでした。だからどの物語にも、いいなーいいなーうらやましーなー、と、思いました。自分の高校時代とはまったく重なりませんでした。
でも、ものすごく共感できました。彼らの悲しみや、痛みや、さみしさや、必死さは、私も知ってる。感じた年齢は違っても、忘れていても、誰もが感じたことがある。きっと忘れられないまま年をとって、時々思い出して胸が痛んで、でも年をとるにしたがって、いつか美しい思い出になるんだろうなあ、っていう感情ですね。それを、痛いままの状態で、凍結保存したような小説でした。
あまりに皆さんからのオススメが多くて、期待が高まりすぎていて、がっかりするのが心配だったのですが、問題無し、でした。評価が高いのも納得の、大人も心を揺さぶられる青春小説でした。
○ タンポポのわたげみたいだね
全体的に恋愛色の強い短編集でしたが、女の子同士の真摯な友情がテーマになったこの作品が冒頭にあるのは、爽やかさUP!にずいぶん貢献していると思います。
教室に来ない友人を心配し、心配を通り越して友情が重荷になってきてしまった、橘の気持ちもわかる。でも、保健室登校をくりかえすサトの気持ちのほうが、もっとわかるんだよな〜と、思いながらよみました。実際には私には保健室登校の経験はなく、逆に、橘の立場になったことなら、数え切れないくらいあるんですけど。本当は私も、不登校とか、保健室登校とかしたかったのかもしれません。
だから、ラストのサトのセリフは、きました。切なかったです。
☆ ルパンとレモン
これは良かった!中学生のときの彼女をいつまでも忘れられない西。自分の友人が彼女を好きになり、彼女に近づくのにつき合わされ、彼女が自分の友人に魅かれていくのを、ずっと見つめていなければならない。この状況は厳しい〜。可哀相すぎる!見ていることすら拒絶されるなんて・・・。切ない。秋元、大人気ないぞ!・・・って大人じゃないんだもんなあ。みんな、青春なんだよなあ。若いんだもんなあ。
でも、西は、かっこよかったぞ!本当にかっこいいぞ!がんばれ、西!君が好きだ!
○ ラブソング
将来の夢は音楽ライターという、音楽好きの白田恵が、軽音部の辻本くんと趣味の話で意気投合し、友だちになったと同時に、恋をしてしまう物語。音楽馬鹿の白田には初恋のようなもので、精神的によれよれに迷走します。白田はこの本で1番共感できる主人公で、笑えました。
辻本くんには彼女がいて、白田はあっさり失恋してしまうのですが、その失恋シーンがとてもリアルで良かった。二人とも不器用でかっこ悪いけど、真面目で一生懸命で、ああ、青春!って感じでした。それから失恋した後にも、白田が、辻本くんと話せるとちょっと嬉しくなってしまうというシーンがあって、ああ、もう、切ないったら!
○ 雪の降る町、春に散る花
見事、東京の大学に合格した吹奏楽部の加代ちゃんと、3年間を野球に捧げて、地元の大学にしか合格できなかった佐々木くんの、高校生活の最後の日々を描いています。これが社会人の転勤だったりすれば話は違うんだけど・・・。やっぱり高校から大学に行くときには、遠距離恋愛ができるなんて、思えないよね。先のことが何もわからないから、今、相手を好きだってことしか考えられない。その刹那的(なのにプラトニックなんだよなあ。)で不安な感じがよく出ていて、これも切ない短編でした。
2人とも、この短編集のところどころで登場してきた人物。白田恵からは大人っぽく、才色兼備の憧れの人と描写されていた加代子さん。そして「ルパンとレモン」の富蔵と秋元の物語です。
本当はこの作品はかなりの傑作で、☆マークをあげたいんだけど・・・。このカップルは、西くんにつら〜い思いをさせた二人ですよねー。私は西くんびいきなので、ここは○マークにしときます(笑)
他に
△ 金子商店の夏
△ ジュリエット・スター
□ 担任稼業
この高校の学生だけではなくて、の教師や、卒業生、下宿屋さんなど、いろんな場面、いろんな人々が描かれているのも、よかったです。