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● 笑う招き猫 山本幸久
408774681X笑う招き猫
山本 幸久
集英社 2003-12

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面白かった〜!27歳の女漫才師コンビ・アカコとヒトミの、お笑いに賭ける1年間を描いています。設定はちょっと変わっているけど、別に奇をてらったわけではない、王道の青春小説です。

青春・・・と言っても20代後半の2人。その年になれば、誰にだって過去とか事情とかあるし、女性は特に、仕事か夢か結婚か、なんて揺れていたりする時期です。そういう部分を避けて通ったわけではないのに、とことん爽やかで、楽しい本に仕上がっています。上手い!

ぼけは150cmのずんぐり体型、天衣無縫なアカコ。祖母の頼子さんと2人、大きなお屋敷に暮らして、何不自由ない下積み生活。でもなにやら家庭の事情がありそうな気配です。

つっこみは、180cmの大女、苦労性のヒトミ。元OL。アルバイトをしながら、ボロ自転車のレッドバロンで東京中を走りまわる日々。典型的な貧乏下積み生活を送っています。

こんな2人の1年間の、漫才師としての成長と、長年にわたる友情が描かれ、笑えて笑えて、時々ほろっとさせてくれて、いい本です。作中で、アカコが即興で作る歌が楽しいです。それを受けてヒトミも歌うことがあるのですが、その受け渡しの瞬間が素敵。なによりラストで歌われる2人の歌が最高!

その他の登場人物や、彼らにまつわるエピソードも、意外に無駄がなくて面白いです。事務所の社長やマネージャー、先輩芸人とその家族、それぞれの物語があって、次から次に事件が起きます。スピード感のある本で最後まで飽きません。

芸能界の裏側を描いたものとして読むと、ちょっと物足りないかもしれません。そういう読み方をしてはいけないのです。これは、青春小説なのですから、アカコとヒトミの成長物語あるいは、友情物語として読みましょう。

第16回小説すばる新人賞受賞
| や行(山本幸久) | 14:21 | - | - |
▲ 生と死のミニャ・コンガ 阿部 幹雄
4635171531生と死のミニャ・コンガ
阿部 幹雄
山と溪谷社 2000-08

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1981年5月。北海道山岳連盟のミニャ・コンガ登山では、滑落によって8人もの人が犠牲になりました。最初の1人が落ちて行く音を聞き、目の前で、1本のザイルにつながったまま、7人の仲間が落ちて行く姿を見た著者が、この事故と、この事故を背負って生きた自分の半生を描いた本です。

日本での準備段階から、事故の前後の行動について、また、同じ山で数年後に起きた別の遭難事故について、「ミスだ」と思われる点に関して詳しく述べられています。特定の個人を名指しで非難する文章が、かなりあります。これを公表するというのは、非常に勇気ある行動だと思います。

でも、逆に、自分の命の恩人である人については、それ以外の面でも、とにかくベタ誉めで、その落差があまりに激しく、これは本当に「事実」を「冷静に」書いた本なんだろうか、と、疑問に思いました。

もちろん著者が嘘を言っているとは思いません。著者の、自己弁護はあまりないし、嘘を言って得する事があるとも思えないので。でも、主観的で、感情的であり、冷静な文章ではないなあと思います。「事実」を世間に公表する文章としては、あまりに客観性に欠けている。そして感傷的すぎる、と、思ってしまいました。

著者の本業は登山家+写真家の方で、プロのライターさんではないところも、そういう印象を受けた原因かもしれません。

本文中で、落ちて行く時の仲間たちの顔が一生忘れられないと、何度も書かれています。著者の目撃した事故は、あまりに壮絶で衝撃的。冷静に振り返ることなど、一生出来なくて当然でしょう。最大限の冷静さで書くように努力した結果が、この本なんだと思います。

というわけで、ノンフィクション作品としての評価は高くないのですが、「真実」の重みはしっかり感じました。遺族の皆さんには心からのお悔やみを、そして著者を含め、この事故と真正面から向き合って生きている、登山隊の生還者の方には、心からの尊敬の念をお伝えしたいと思います。
| ノンフィクション | 09:55 | - | - |
▲ 海と川の恋文 松本侑子
4048736574海と川の恋文
松本 侑子
角川書店 2005-12-01

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1980年代から、バブル期をへて、低迷期の2005年までの、芸能界を舞台にした大河恋愛小説。

すごく長い小説で(しかも苦手な恋愛小説で・・・)、特に最初の大学編が退屈だったので、最後まで読めるか心配でしたが、主役の遥香が芸能界入りする辺りからはテンポが良くなって、なんとか最後までたどり着きました。でも、ここまで長い小説なのに、いちいち次の展開が読めてしまうというのは、どうなんでしょう?だって、どこをとっても「どこかで見たような話」なんですよ。

昼ドラの原作にぴったり・・・っていうかむしろ、昼ドラが原作なんじゃ・・・。オリジナリティはいったいどこへ?松本侑子さんってこんな小説を書く方でしたっけ?読み心地は、シドニー・シェルダンみたいでした。

キャラクターもねー。主役の遥香は、いい家の出のお嬢さんで、圧倒的な美貌をスカウトされて、順調に育っていく女優。彼女はずっと、家族やマネージャーに守られ、それぞれに魅力的な二人の男性に愛され続けます。一般ぴーぽーの私には、遥香への共感のしどころがありません。

彼女が、野心・・・とまでは言わなくても、「芸能界の頂点を極めたい」とか「お金が欲しい」とか、自分で目的を持って動いてくれるキャラなら、応援したいと思えたかもしれない。でも、遥香は何事にも受け身の、いい子ちゃんなキャラクター。重要な決断を迫られても、人に流されてあとで泣くだけ。全然共感できない。それなのに遥香の芸能人生は、なんだかんだ言って順風満帆なのですから、読んでいて、疲労感と虚脱感に襲われました。

ラストでやっと、大人になった遥香が、自分の足で立っているように感じられてきます。遥香の成長ストーリーにはなっていたと思います。だから一応、最後まで読んでよかったです。

「真実の純愛小説」と、帯に書いてあるのですが、日本の小説・映画・テレビドラマで近年ブームになっている「純愛」ものとは、違うジャンルだと思います。私は詳しくないけれど韓流の「純愛」なら近いのかもしれません。これはやっぱり昼ドラでしょう。
| ま行(その他の作家) | 12:51 | - | - |
■ 陰の季節 横山秀夫
4167659018陰の季節
横山 秀夫
文藝春秋 2001-10

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刑事ドラマや犯罪小説にはめったに出てこない、警察組織の管理部門や、内勤の警察官が主役となった短編集。警察内部の「事件」を扱った、出版当時は珍しかったであろう本です。いえ、今でも珍しいと思うんですけど、横山秀夫さんってそういう作家さんなんだって、私が認識したので、今回はもう、もの珍しくはなかったです。収録作品は、

・影の季節
・地の声
・黒い線
・鞄

の、4つ。

すごく良かったです。男のドラマって感じで、全体として雰囲気がかっこよかった。ストーリーも興味深くて、堪能しました。

ただ、どれも読後感が良くない。暗い。重い。一作一作が重厚で、単独では悪くない作品なんですけど、短編集として見ると、一作くらいは後味のいいものや、爽やかなものが、混ざっていたほうが良かったような気がします。

再読・・・だったんですよねー。おそらくは去年か一昨年読んでます。ごく最近のはずです。その事に、4編収録の3編目を読みながらやっと気がついたという・・・。記憶力の衰退には、我ながら驚きます。

3編目の「黒い線」の印象が強く残っていたのは、この作品に登場する似顔絵捜査官、平野瑞穂が主役の、「顔」という短編集を読んでいたから。「顔」は女性が主人公ということで、横山さんの警察小説の中でも、ちょっと異色。「顔」も、好きな本でした。

「影の季節」で、第五回松本清張賞受賞
| や行(横山秀夫) | 10:53 | - | - |
● 魔球 東野圭吾
406184931X魔球
東野 圭吾
講談社 1991-06

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春の甲子園で開陽高校は、エラーによる9回裏二死満塁から、エース須田の暴投で破れました。その大会後まもなく、キャッチャーの北岡が、愛犬と共に殺害されます。北岡はアルバムに、甲子園で「魔球を見た」というメッセージを残します。

須田は地元では有名な天才投手です。彼の球を受けられる捕手は北岡しかいませんでした。ほとんど須田と北岡の力だけで勝ち進んできた開陽高校の野球部は、部員同士が疑心暗鬼に陥り、愛想のない須田に対するたまりにたまった鬱憤も爆発し、チームワークはあっという間に瓦解します。

一方、地元の大企業、東西電気では「いたずらにしては手の込んだ」爆弾騒ぎと、社長の誘拐事件がおこります。

一見まったく関係ない2つの事件が、最後にみごとに繋がります。これは快感です。

この本は、東野圭吾さんが「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞する前の年に、最終選考まで残って落ちた作品。やはり初期のものだけあって、謎の引っ張り方がわざとらしかったり、不必要なエピソードが多いような気はします。

でも、この本は秀作だと思います。最後まで読むと、犯人の孤独や純粋さが、痛々しくて、悲しい小説です。いまだに、「魔球」が一番好き、という東野ファンがいるのも、わかる気がします。まあ、でも、この本が一番好きだという人は、東野ファンをやるよりは、松本清張ファンをやったほうが正解なんじゃないかな・・・という気はしないでもないんですけど。(余計なお世話ですよね。(笑))

物語の時代背景を昭和30年代に設定しています。当時の出来事や風俗を、上手に織り交ぜて、雰囲気を出しています。キャラクター造形といい、ストーリーといい、昭和30年代という時代の中でしか、成立しない本だと思います。文庫化にあたって時代をずらした、ということなのですが、ずらす前はどんな物語だったんでしょう?かなり気になります・・・。
| は行(東野圭吾) | 23:13 | - | - |
オール讀物3月号 直木賞選評の感想 「容疑者Xの献身」 東野圭吾 編
私はこれから、直木賞選考委員の方々の選評の、自分の感想を書きます。それにあたっては、選評の内容をばらしたり、最低限の引用をしたりしますが、それは「最低限」にとどめるつもりです。つまり、前後の文脈がないわけですから、内容が正確ではない可能性がありますし、書いた人の意図に沿わない引用をしているかもしれません。選評に興味がある方は、ちゃんと自分で読んでくださいね。

オール読物3月号は、選評以外にも、東野さんの素敵なエッセイや、京極夏彦さんとの爆笑対談など、東野ファンにはたまらない内容が盛りだくさんでオススメです。ついでに・・・と言ってはなんですが、石田衣良さんの「IWGP」の新作ものってました。ラッキー。

さて、「容疑者Xの献身」の直木賞選評ですが、まずは、北方健三さんの、この言葉から。

「今回は、受賞作一作に丸をつけて臨んだ。大方の選考委員の支持があり、準備した事の半分も喋る必要がなかったのが、燃え足りない気分であった。」北方さん

というわけで、選評全体を通して、受賞作「容疑者Xの献身」に対しては絶賛の嵐で、東野ファンにとっては読んでいて実に気分がいいです。どうやら敵は1人だったようですね。言わずと知れた、渡辺淳一さんです。まあ、今までと同じような事を言っておられますが、ポイントを引用すると、こんな感じ。

「問題は人物造形で、最後の謎解きにいたるにつれて、主人公の石神がいかにもつくりものじみて、リアリティーに欠ける。・・・人間を描くという姿勢はいささか安易で物足りない。」渡辺さん

うーん。そういう意見もあるんですね。でも、そもそも小説というのはつくりものです。リアリティーがない事が、欠点でしかないのなら、小説を読むのも書くのも、みんなでやめてしまいましょう。この点に関しては、林真理子さんと、北方健三さんの選評が、実に効果的な反論だと思いました。

「わが身を捨ててまで、愛するものを救おうとする、などという筋書きは所詮小説の世界だけのことかもしれない。けれどもその「所詮」の世界だからこそ、結末に驚愕させられ、読者は激しく心を揺さぶられるのである。小説だけの醍醐味を味わわせてもらった。」林さん

「純愛であれ、ストーカー的な偏執愛であれ、情念を結晶させ、小説でしか表現し得ない強さで、人間の根源を垣間見させた力量は、十二分に受賞に価すると私は確信した。」北方さん

渡辺淳一さん以外にも、五木寛之さんがこのように書いておられます。

「犯行を偽装するために殺されたホームレスの描きかたと、男たちを惹きつける何かを持った靖子という女のオーラが伝わってこないのと、その二点が私にとっては不満だった。」五木さん

この点では、私も賛成ですし、まあ普通に考えて、読者の大半が賛成なんじゃないかなあ。それでも五木さんは、この点を「いわば推理小説的手法で人間を描く場合の宿命なのかもしれない。」と書き、「推理小説として、ほとんど非の打ち所のない秀作である。」「他の作品を引き離しての、堂々の受賞であったことはまちがいない。」と、絶賛しておられます。

五木さんと、同じようなスタンスらしいのが、阿刀田高さんと、井上ひさしさん。

「あえて言えば、私はなぞ解きミステリーとしてのすばらしさだけでも受賞に価する、と考えた。東野さんはすでにいろいろなタイプの作品を書いて多くの読者を楽しませている作家である。受賞作がなぞ解きに強く傾いていても、この先はきっと多彩だ。人間を描き、愛を訴えるタイプの作品にも大いに期待が出来るだろう。」阿刀田さん

「他人の生命を踏みつけにしておいて愛もへったくれもないではないか・・・しかし、作者の力量は疑いもなく十分、そこで最後の一票を東野作品に投じた。」井上さん

平岩弓枝さん、津本陽さんのお二人は、文句なしの絶賛。宮城谷晶光さんは「あの日にドライブ」を推したそうですが、「容疑者Xの献身」に対しても、「他の候補作品は力感において東野氏のそれに及ばなかった」と、やはり絶賛です。

北方さんの言葉ではありませんが、ここまで絶賛されると、逆に盛り上がらないなあ。
| 雑文 | 21:45 | - | - |
東京DOLL 石田衣良
4062130025東京DOLL
石田 衣良
講談社 2005-07-29

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マスター・オブ・ザ・ゲーム=MGと呼ばれる天才ゲームクリエイター。背中に濃紺の翼をもつ少女ヨリが彼の孤独を変えてゆく―。
帯より

石田さんは、好きな作家さんなので、この本の感想も書きます。でも、久々に出ちゃいます。

酷評注意!

ゲーム業界を浅く扱っただけでは、もう新鮮でもなんでもない。どちらかというと、感じるのはネタの古さです。株式操作による会社の買収なども絡んでくるのですが、それも浅くしか描かれないので、時流に乗ろうとしてみただけ、としか思えない。石田さん得意の「街」を描くという点でも、「東京湾岸」を、東京のオシャレスポット&お金持ちの住む街、としてしか描けていなくて、表面的なイメージに終始しています。

それに、主役のMGの「孤独」って、自業自得だと思うし、傍迷惑でさえある。あらゆる意味で優柔不断。仕事に対しても女性に対しても、決断力がなくて不誠実。全然、共感できないキャラクターでした。その上、彼の「孤独」の根本を描こうという努力がされていない上に、ヨリと出会って変わった、という風にも見えない。

ヨリに関しても、神秘的な雰囲気で登場したにもかかわらず、けっきょく単なる都合のいい女をやっていて、意味不明です。未来を予知できるという力がストーリーにあまり生かされていないのも不自然です。

あらゆる意味で、設定が甘すぎます。業界小説としても、恋愛小説としても、ポルノとしても中途半端。石田さんは何がしたかったのでしょう・・・。
| あ行(石田衣良) | 17:20 | - | - |
■ 僕の妻はエイリアン 泉流星
僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活
泉 流星

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外見は普通の人間のようなのに、妻の言動には、まるでよその星から来たのかと思うぐらいに、非常識で風変わりなところが多い。その原因は「高機能自閉症/アスペルガー症候群」と呼ばれる脳にあったのだ─。自閉者の周囲との違和感や独特の異質さを、「普通のサラリーマン」の夫の視点を通して軽妙に描き出した稀有なノンフィクション。
amazon 出版社/著者からの内容紹介 より。

私には、アスペルガー症候群の友達がいまして・・・。まあ、10年近く連絡を取っていないので、向こうが私を友達と思ってくれているかどうかは微妙なところなんですが、時々、気にしてはいます。親同士は今でも連絡を取り合っているので、噂は入ってくるんです。というわけで手にとったこの本。

高機能自閉症について全然知らないんだけど理解したい、という人には、とっかかりとして、読みやすい本だと思います。読み物として、ごく普通に楽しめるので、高機能自閉症の事を全然知らない人に、読んで欲しいなあと思う本ではあります。

それなりに知識がある人には、情報としては、物足りない本です。タイトルどおり、高機能自閉症についてというよりは、夫婦関係に焦点を絞っているからです。だから、障害のない私でも、コミュニケーションの難しさという点で共感できる部分があったり、人間関係上の「努力」という点で、考えさせられる点の多い本でした。夫婦っていいなーとか、結婚生活って大変なのねー、とか、そんな能天気な感想もありつつ。

どう転んでもやっぱり重い話ではあるので・・・。かわいいイラストを入れたり、軽いタッチで書こうとした事が、痛いというか、素人っぽさを倍増させている気はしました。まあ、プロの書いた本ではないので、文章の技術面とか、一冊の本としての演出という部分を、うんぬんしてはいけないんですよね。実話であるという事の重みのほうを、受け止めたいと思います。

あとがきには、ある意味、やられました。読んでいる間に、違和感はたくさんあったんです。でも、まさか、こういう事だったとは・・・。どういう事なのかは、ネタバレだと思うので書きません。でも、これから読む方はぜひ、あとがきから読む、などというバカな事はしないように、とだけ忠告させてください。
| ノンフィクション | 01:13 | - | - |
▲ 二人のアキラ、美枝子の山 平塚晶人
4163660305二人のアキラ、美枝子の山
平塚 晶人
文藝春秋 2004-07

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現在ドラマ放映中の「氷壁」の原案である、「氷壁」井上靖 の主人公・魚津恭太のモデルになった、伝説的なアルピニストの松涛明さん。そして、クライミング集団である第二次RCCを創設した、やはり著名なクライマーの、奥山章さん。この、若くして亡くなった二人のアキラについて、著者が調査した内容と、自身も登山家であった山田美枝子さんという女性が語る部分が、往復書簡の形で一冊の本にまとめられています。

山田美枝子さんは、名前が似ているので「氷壁」の美那子さんのモデルかと思って読み始めたら、かおるさんのほうのモデルだそうです。松涛明さんが遭難されたときに、松涛さんに会うために近くの山に行き、帰りを待っていた女性です。美枝子さんは「氷壁」のモデルとなったことで、松涛さんの恋人と紹介される事が増えたそうですが、ご本人によると、かおるさんと同じく片思いだったそうです。

「氷壁」の魚津と同様に松涛明さんが遭難死されて15年後、美枝子さんは奥山章さんと結婚します。しかしその奥山章さんも、7年後、自殺されます。この本では前半で松涛明さんについて、後半で奥山章さんについて描かれています。そしてそれはそのまま、日本の戦後の登山やクライミングの歴史を描いた本にもなっています。

松涛明さんの遭難死に関しては、「氷壁」はもちろんですが、「風雪のビヴァーク」というノンフィクションも有名です。壮絶な遺書が残されており、私もずいぶん昔に、何かの全集の一部として読んだのを覚えています。あれは衝撃でした。この本は、「氷壁」や「風雪のビヴァーク」を知っている人には興味深いと思います。

それにしても、この数十年の間に、日本人の死生観や人生観は、こんなにも変わったのかと、驚きます。昔は、本当に純粋で、真面目な若者がいたんだなあ、と、思います。

私には、命をかけてまで山に登りたいという気持ちは、わかりません。でも、こんなに純粋で真面目だったら、普通の社会で生きていくのは、ずいぶん辛いんじゃないかなとは思いました。
| ノンフィクション | 16:07 | - | - |
■ いつもの道、ちがう角 松尾由美
4334739881いつもの道、ちがう角
松尾 由美
光文社 2005-12-08

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文庫オリジナルの短編集。「世にも奇妙な物語」ちっくな、ダーク・ファンタジー7編。

読後感の悪さが、魅力になっています。真相がわかって、あー良かった、と、思ったら次の瞬間、さらに大きな恐怖の中につきおとされたり。え?それで結局どういうことなの?って、真相がわからないまま終ってしまって、気分が悪かったり。とにかくどれもこれもすっきりしない。

この「嫌あな気分」。据わりの悪い感じ。私はけっこう好きです。こんな本ばかり読みたいとは思わないけど、たまにはいいなあと思います。

西澤保彦さんの解説によると「奇妙な味」小説というジャンルだそうです。そんなジャンル名があるとは、私は初めて知りましたが、江戸川乱歩が提唱したそうですから、昔からあるんですね。

・琥珀のなかの虫
・麻疹
・恐ろしい絵
・厄介なティー・パーティ
・裏庭には
・窪地公園で
・いつもの道、ちがう角
| ま行(松尾由美) | 13:45 | - | - |
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