CATEGORIES
LINKS
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
● 工学部・水柿助教授の日常 森博嗣 
4344405889工学部・水柿助教授の日常
森 博嗣
幻冬舎 2004-12

by G-Tools

わはは。こりゃあ、面白いわ。

エッセイなのか小説なのか、あちこちで色々言われているけど、まあ、そういうことはどうでもよくて。

一見、思考の垂れ流し状態に見える、計算しつくされた地の文章が面白い!それから、奥さんの須磨子さんのセリフが面白い!須磨子さんって、典型的な、女性ミステリーファンなんだよねー。極端ではあるけど、森さんのファン層を考えると、意外と共感キャラ。このあたりもちゃんと、計算されつくしている感じ。

さすが、森博嗣さん。
| ま行(森博嗣) | 21:50 | - | - |
★ 象られた力 飛浩隆 
4150307687象られた力
飛 浩隆
早川書房 2004-09-08

by G-Tools

「グラン・ヴァカンス」の感想を書いたら、色んな人からオススメされた、飛浩隆さんの短編集。単純に、すごくよかったです!テクニックのある作家さんなんですね。もちろん、それだけじゃないんでしょうけど。

文体は硬いのですが、あらゆるものの描写が緻密で、表現が豊かで、文章が美しいので、けして読みづらくはありません。ストーリーもけして奇抜ではない。それなのに、どの作品を読んでも、自分の感覚や、感性を、極限まで研ぎ澄ますことを、要求されているような気がしました。(←ものすごく誉めています)

4つの作品が収められているのですが、1作目の「デュオ」だけはちょっと異色。これはジャンルで言うと、サイコホラーが一番近いと思います。でもミステリーでもあるし、もちろんSFでもある。

ふたごのシャム双生児、デネスとクラウス。左腕を操るデネスと、右腕を操るクラウスは、完全に協調することが出来、二人合わせて、天才的なピアニストです。伴奏をしていても、一流の音楽家であるソリストをリードしてしまうほどの。主役は、彼らのピアノのために呼ばれた、調律師のイクオ。敏感な耳を持ったイクオは、このふたごのとある秘密に気づき、彼らを助けようとしますが・・・。

デネスとクラウスは、聾唖者です。耳が聞こえず、手話で話します。ふたごがイクオに出会った日に言ったこのセリフ、

「ぼくは音楽だけはちゃんと聴けるんです。メロディも、音色も、感情もすべてわかる。音楽のうち音以外のすべてが」

この言葉の意味が、わたしにはまったくわからなくて。若い純文系の作家さんにたまにいる、イメージ先行型で言葉遊びをしているだけの、中身のない本だったら好みじゃないな、と、思いました・・・。でも、ごめんなさい。大間違いでした。このセリフが、この物語の出発点でした。デニスとクラウスは、なぜ耳が聞こえないのか。なぜ音楽だけは聴けるのか。物語の大きな謎の1つでした。

骨格のしっかりした、複雑な小説で、ストーリーを把握するだけでもかなりの集中力が求められます。でも、集中力総動員で読むだけの価値はあります。「そうです。私が、彼をころしました。」という独白ではじまる、誰が誰をどうやって殺したのか、というミステリーでもあるので、ネタバレしたくないから、あんまり書けないけど、すごくよかったです。

予想外の展開と結末に、あっと言わされます。それに、とても哀しい物語なんです。自己を表現する手段を持たないものの、悲しみと怒り。喪失感と無力感。後悔と恐怖。色んな人の色んな感情が痛くて、背筋がぞっとするような中編でした。

結局は奏でられる事のなかった、和解の音楽、聴きたかったです。

さて。2作目から4作目までは、SFらしいSFです。

3作目の「夜と泥の」は、イメージの魅力がとても強かったです。特に、沼地の泥の中から現れる少女の描写はすごい。年に一度の夏至の夜に、光を凝集するように立ち現れ、月光を浴びて舞い踊り、腐り落ちて泥に還る少女。詩的です。でも、この小説は詩的なだけでは終わらず、この惑星の秘密を明らかにする、ちゃんとしたストーリーがあります。面白かったです。

そして、4作目の「象られた力」。惑星・百合洋(ユリウミ)が住民もろとも消滅して一年。隣の惑星・シジックのイコノグラファー・圓(ヒトミ)は、百合洋の言語体系に秘められた、「見えない図形」の解明に取り組んでいます。圓の周辺では、百合洋の図形をモチーフにしたアートが。様々な形で異常なほど流行しています。しかし、その図形には、世界を破滅に導くほどの力があったのです。そして・・・

という、パワフルで、壮大な、混乱と滅亡の物語。読み応えがありました。そして、他の作品は海外SFっぽい、と、感じたんだけど、この作品はとても日本的な気がしました。なぜかは・・・自分でもよくわからないけど。


さて。ここまで読んでくれた人にはわかると思いますが、わたしは「デュオ」が一番好きでした。好みの問題だけではなく、この作品だけ、突出して、レベルが高いと感じました。SFを好きな人なら、「象られた力」が一番良い、と、言うかもしれません。私も「象られた力」は、かなり好きでした。でも、SFを読み慣れていない人には、きっと読みづらい小説だよね。

短編集全体としては、作品選択を誤ったような、並べ方が悪いような、そんな気がします。まあ、まずは作品ありき、だったようですから、仕方ない部分もあるとは思うけど・・・それにしても。

まず、「デュオ」が、テーマも雰囲気もジャンルも、ポーンと浮いちゃってるのが気になる。それを最初に入れるって、どうなのよ、とも思う。「夜と泥の」と「象られた力」は、同じ世界のストーリーらしいので、連続して収録するくらいなら、この世界だけで本にすればいいのに、と、思う。「呪界のほとり」は・・・なんで収録しちゃったんだろうね<失礼 m(__)m。まあ、ちょっとは面白かったけど・・・ユーモアっぽいものを1つ入れようと思ったのかなあ。

というわけで、この短編集自体には、若干の文句があるけど、本が好きな人には、「デュオ」だけでも読んでみて欲しい、と思います。「デュオ」は、とてもオススメです。
| た行(飛浩隆) | 01:22 | - | - |
■ ソウルドロップの幽体研究 上遠野浩平
4396207859ソウルドロップの幽体研究
上遠野 浩平
祥伝社 2004-08

by G-Tools

傍目にはどうでもいいとしか思えない物を盗み、同時にその人の命を奪う、怪盗・ペイパーカット。殺人事件の前に、「生命と同じだけの価値ある物を盗む」という犯罪予告状が届けられていたホテルの一室からは、なぜかオレンジキャンディが1つなくなっていた。この事件をペイパーカットの仕業と認定したサーカム保険は、調査員伊佐と、千条を派遣する。

あらゆる意味で、上遠野さんらしい本。上遠野さんファンは、楽しく読めると思います。ストーリーはよくまとまっていてまあまあ面白かったです。慣れない人は、独特の語り口や、哲学的表現が、読みづらく感じるんじゃないかな?上遠野本を初めて読む、という人には、お勧めしません。(そうだなー。やっぱり初上遠野さんなら、ブギーポップシリーズから入るのがいいと思う。個人的にはしずるさんのシリーズが好き。)

あ、このサーカム保険もシリーズ化しそうな雰囲気です。ストーリーはまあまあってところだったけど、ロボット探偵・千条がツボでした。調査員・伊佐との会話も面白かったし、彼らの過去が気になるし、千条の成長も楽しみ。次作がもし出たら読むと思います。
| か行(上遠野浩平) | 19:00 | - | - |
■ アーモンド入りチョコレートのワルツ 森絵都 
4043791011アーモンド入りチョコレートのワルツ
森 絵都
角川書店 2005-06-25

by G-Tools

3つのピアノ曲をもとにした3つの短編。もともとは児童文学だったようですが、大人が読んでも、いい本です。文庫落ちした表紙、すごく素敵。好みだな。

森さんらしく、どれも、大人と子供の境界線上にいるような年頃の、すべての感情が増幅されてしまうような季節を、静かに描いています。

一番心に残ったのは、1作目の「子供は眠る」です。毎年、夏休みを、別荘で一緒にすごしてきた、仲の良いいとこたち。リーダーは、一番年長で、別荘の持ち主、クラシック好きの章君です。

シューマンの「子供の情景」は、私もけっこう好きで、一時期よくかけていました。これを、じーっと無理やり聞かされていたら、眠くなる気持ち、わかります。それだけじゃなくて、王様な章君に対するみんなの気持ちや、行動には、いい大人の私も共感してしまいます。

損得を考えて、人間関係に卑怯になってしまう気持ち。大人になると、もっと柔軟に対応できるし、気持ちを賢く逃がせるようになるけれど、その分「卑怯」度数では、大人のほうがはるかに高いと思います。でも、それを「卑怯」と感じる心は、大人になればなるほどなくしてしまうような気がする。だから、この小説はとても眩しかったです。

2作目の「彼女のアリア」も素敵な物語でした。不眠症の少年と、虚言癖のある少女の物語。ちょっと切ない、ボーイ・ミーツ・ガール小説です。卒業の日の、「ぼく」が、すごくかっこいい。きっと、素敵な男性に成長するでしょうねー。藤谷さんにも頑張って欲しいな。「ゴルドベルグ変奏曲」は、ちょっとこの物語のBGMにするには、こうるさいとは思うけど。

3作目は「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。ピアノ教室の物語。職業柄興味深く読んで、色々考えさせられるところはありました。ただ、小説としてはどうかな?一番大人っぽくて叙情的ではあったんだけど。ストーリーがちょっとわかりづらいというか・・・あまりに微妙。個人的には、他の2作のほうが好きでした。
| ま行(森絵都) | 23:17 | - | - |
● 2005年のロケットボーイズ 五十嵐貴久
45752353182005年のロケットボーイズ
五十嵐 貴久
双葉社 2005-07

by G-Tools

ミステリーではないけど、ネタバレ警報を出したい!

バリバリの文系人間なのに、電気大学付属の工業高校に通う事になってしまった、おちこぼれの主人公が、一癖も二癖もある仲間たちと共に、手作りの極小衛星(キューブサット)を作ることになります。最初は、学校側から押し付けられて、とりあえずこなそう、という義務だった衛星づくりに、次第に真剣になり、自分たちで夢を見つけて、それをかなえる物語。

すごく良かった。面白かった。イデオ・サヴァンの天才数学少年、技術を生かす場を得た町工場のおじいちゃん、材料入手に一役買う電気屋の娘など、キャラクターが、一人一人、いきいき描かれている。いい子・いい人ではなく、欠点だらけの人間の集合で、だから、くだらない問題も次々におこるんだけど、そこがいいんです。ライバルが「鳥人間部」というのも、笑えました。

何度も挫折しそうになりながらも、みんなでそれを乗り越えて、ハッピーエンド!爽やかな青春小説です。

あ、ロケットは飛びません・・・。いえ、飛ぶんですけど、ロケットはロシアが飛ばしてくれるのねー。それに、キューブサットをのせてもらうんです。まあ、タイトルに偽りあり、ではありますよね。でも、そこら辺におとなげなく突っ込みを入れたりしないように、と、あとがきにありました(笑)。そんなことしませんって。それに、最終的には、ロケットにつながっていくんだしね。

私は、理系の知識がないので、文系人間が語り手を務めてくれるこの本は、ちょうど良く、違和感もなかったけど、理系の人には物足りなかったりするのかもしれません。でも、小説としては大変面白いので、文系の方、そして、理系でもおとなげのある方には、オススメ!

それにしても、友香先輩が、こんなに脇キャラだったとは・・・。
彼女メインの小説があったら面白そう。
| あ行(その他の作家) | 20:49 | - | - |
▲ 星の綿毛 藤田雅也 
4152085266星の綿毛
藤田 雅矢
早川書房 2003-10

by G-Tools

どことも知れぬ砂漠の惑星。そこでは、種子を播きながら移動する「ハハ」と呼ばれる巨大装置が、荒れた大地を耕し、「ムラ」の人々を養っていた。「ムラ」には、ときどき、「トシ」からの交易人が現れ、収穫物を買い取り、様々な道具を売ってくれる。

少年ニジタマは、見た事のないその「トシ」に憧れ、「トシ」に行ってみたいと思っていた。そんなある日、交易人ツキカゲが、彼を「トシ」へ連れて行ってくれるという。誰にも内緒で「ムラ」を出たニジタマの旅は、やがて、世界の秘密を明らかにし、遠い昔の約束を、果たす事になる・・・。

あとがきにもあるように、この「造り出された世界」の描写が最高です。細部まで作りこまれていて、想像力を刺激してくれます。この静かな「世界」自体が、切ない、です。この「世界」が、1冊分だなんてもったいない。もっと長いシリーズの舞台になれます。

ただ、世界が魅力的なわりには、ストーリーに入り込みづらかったです。主要な登場人物の背景や、内面の描写をもっとしてくれたら。そして、ストーリーの「謎解き」にあたる部分を、もっとわかりやすくしてくれたら、と、思います。全体的に、情緒的すぎて、説明不足な感じ。(私の頭が悪いだけ、という可能性もあります・・・)

叙情SFって、説明が多すぎると成立しないような気もしますし、難しいところですよね。好みの問題だと思います。この本は、ストーリーは切ない感じで、悪くないはずなんだけど・・・おしい!
| は行(その他の作家) | 19:55 | - | - |
● 狼の寓話 近藤史恵
4198506140狼の寓話―南方署強行犯係
近藤 史恵
徳間書店 2003-10

by G-Tools

新米刑事の會川は、一週間前の殺人事件の捜査にまわされます。殺人事件は初動捜査が重要。一週間も前の、しかも犯人がわかっているような事件に會川が回されたのは、着任早々ミスを連発したためです。しかも組まされた相手は、黒岩という変わり者の女性刑事です。

夫が殺され、犯人は妻で、あとは妻を発見し逮捕するだけ、という簡単な事件のはずなのに、黒岩刑事は何かひっかかるところがあるようで、なかなか妻の逮捕状を請求しようとしません。妻には動機がないからです。読者としては、章ごとに冒頭に差し挟まれる、ルカという少女の童話も気になります。殺人事件の犯人は?動機は?童話の意味は?

そんな感じで、先が気になって、一気に読めました。オススメです。

ふもとの村からいけにえとして、山の神様にそなえられた少女、ルカ。しかしルカは、生前赤いクモを殺していたので、神様に受け入れられませんでした。死なないけれど、この山でしか生きていけない体になったルカは、何度も何度も、繰り返し狼に食べられる事になります。おなかのすいていないときには、とても優しくて、他の危険からルカを守ってくれる狼ですが、ときどき飢えて、ルカを食べるのです。

この童話の意味するところが、明らかになるにつれて、事件の真相もはっきりしてきます。あっ!って感じで・・・。とても辛くて、痛くて、切ないお話でした。でも被害者・加害者以外のキャラクターの明るさに救われていました。

近藤さんの警察小説は初めて読みましたが、先輩刑事たちが、かっこよかったです。それに、単純明快な兄、さっぱりした母など合川の家族も素敵。キャラクターがしっかり作りこまれているのに、この一冊の中ではそんなに生かされてなかったので、たぶんシリーズ化するんじゃないかなあ。して欲しいなあ。楽しみです。
| か行(近藤史恵) | 23:11 | - | - |
▲ セリヌンティウスの舟 石持浅海
4334076211セリヌンティウスの舟
石持 浅海
光文社 2005-10-20

by G-Tools

ネタバレ警報

ダイビング中の事故で、共に海面を漂流し、固い信頼で結ばれた仲間、6人。そのうちの1人、美月が自殺します。残された5人の仲間が、四十九日のあとに集まり、彼女の死に関する些細な疑問点について、あーでもないこーでもない、と、議論をする物語です。

青酸カリの入っていた小瓶のキャップは誰が閉めたのか?美月の自殺には協力者がいたのではないか?それは誰なのか?なぜそんな事をしたのか?美月が死んだ本当の理由は?

物語の設定は魅力的でした。

石持浅海さんは、好きです。毎回読み終わると、どこかしら、それでいいのか!と、納得のいかない点があるんだけど、それを含めて好き。読んでいる最中楽しかったり、イメージが素敵だったりするから、まあいっかあ、と、思ってしまう。

そんなわたしでも・・・さすがに、この「セリヌンティウスの舟」は、読んでいる間から、もうつっこみどころが多すぎて、全然入り込めませんでした。というわけで、

酷評警報!

この小説は、6人の「固い信頼」を前提に成立しています。その信頼関係に、全然説得力がないんです。ほとんど初対面同士の人間が一緒のツアーでダイビングをし、遭難した時に共にいた、というだけなんです。それも、たかだか40分くらいの事らしいんですよね。孤島で何日も生活して・・・とか、協力し合って助かって・・・、とかならまだ、わかる気もするんだけど。ただ、海面で救助を待ってただけなんです。

まあ百歩ゆずって、そういう信頼関係ができることがあったとして。それでも、この小説で描かれた「信頼関係」は、不自然過ぎ。だってその「信頼関係」を根拠に、他人の気持ちを決め付けるんですよ。しかも仲間はみんな、聖人君子みたいな、いい方向に決め付ける。ダイバーはみんな、綺麗な心の持ち主ばかりだとでも?

特に、死んだ人の気持ちを、勝手に決め付けることなんて、誰にもできないはずなのに、「美月がそれを考えないはずはない」「美月がそんなことするはずがない」といった言葉で、「自殺」なんていう重いテーマを扱っている、色んな議論に、あっさり終止符が打たれちゃう。しかも、みんな簡単に納得する。

そもそも、5人とも美月の自殺を受け入れることができなくて、美月の自殺の理由も納得できないから、死後に集まってみたりしているわけで。設定上、最初から矛盾してるんだよなあ。

他にも「私達の誰もそんなことできない」とか、「私達はみんなそうでしょう?」とかいう決め付けに、「固い信頼」以外の何の根拠もないんです。「ルールはひとつ。信じること」って背表紙に書いてあるから、それがテーマの小説なのはわかります。でも、読者は、全然納得しないってば!

自分たちの中に、犯人も、協力者もいないと信じるなら、とりあえず他殺を疑おうよ。いくら警察が自殺と処理したからって、他殺を全然疑わないなんて、ミステリーとしてありえない!あんたたちが疑わなくても、ミステリーファンは疑うよ。小説の中では、不可能な状況であればあるほど、他殺は起こるんだからさー。5人が、全然、他者が侵入した可能性について議論しないのが不自然すぎる!

そもそも、「サークル内恋愛」じゃないけどさー。男女3人ずつのグループで、その中に公認のカップルが一組いて、もう一組恋愛関係はないとか言いつつ、こっそり肉体関係のあるカップルがいて。それだけで、もうここで描かれているようなピュアっぽいイメージの仲間ではないよねえ。「1人1人が自立した、対等な固い信頼関係」とか、「日常と切り離していたからこそ、キラキラ輝く特別な友情」とか、最初から全然なかったんじゃ・・・。

それにさー。美月と磯崎は、残された人たちに、これからどうしろっていうの?ラストは嫌いじゃありませんが、その後は?美月は「舟が沈まない」事を確信していたらしいけど、そんな馬鹿な!無理だってば!磯崎は言うまでもないし、児島と清美には重苦しい罪悪感が残っているはず。麻子と三好だって、色々と秘密にされていたことがあったわけで・・・気分悪いでしょう。もう舟は撃沈だよねえ?美月と磯崎ってバカなんじゃ・・・。

というわけで、ごめんなさい。この本だけはダメでした。石持さん、次回作、期待してます・・・。
| あ行(石持浅海) | 23:46 | - | - |
■ 最後に咲く花 片山恭一
409386148X最後に咲く花
片山 恭一
小学館 2005-04

by G-Tools

片山恭一さんには、セカチューのイメージしかなかったんです。それに、帯からは、病気の女性との恋愛小説だという事がわかりました。だから、どうせお涙ちょうだい系だろう、と、思って手に取ったんです。お涙ちょうだいは嫌いじゃない。本を読んで泣くのも好き。

ところが、これが、全然違った!いい意味で裏切られた〜。セカチューとは比べ物にならないほど、しっかりした文学でした。なめててごめんなさい、って感じです。

離婚歴のある主人公・永江には、2人の女性がいます。元同級生の由希と、婚約者の沙織です。由希は、いつ死んでもおかしくないような病気で、しかも長くてもあと1、2年しか生きられません。ある日由希は、永江に、苦しむことなく死なせてくれるようにと頼みます。

永江と由希の恋愛ストーリーだけで終われば、「セカチュー」だったんですけど、そうはなりません。永江の友人・藤木の、障害を持つ息子の話が絡んで、生と死、胎児遺伝子の選別、といった哲学的なテーマにどんどんはまっていきます。これが・・・もう、はまっていくという言葉がぴったりで、永江も藤木もひたすら悩むんです。ふかーくふかーく。

というわけで。ネタバレはしませんが、最終的にストーリーは良かったです。考えさせられる事、たくさんありました。本当に。ただ・・・男2人のふかーい悩みに、本1冊分つきあって、ちょっと疲れた感があります。さらに、わたしは永江という主人公が、どうしても好きになれなくて。そもそもが、二股男だし・・・沙織にも由紀にも不誠実なのに、自分が一番不幸ぶってて、なんなのあんた、って感じでした。

好みじゃなかった。でも、いい本だった。片山恭一さんを、見直しました。
| か行(その他の作家) | 16:31 | - | - |
■ Bランクの恋人 平安寿子
4408534803Bランクの恋人
平 安寿子
実業之日本社 2005-10-16

by G-Tools

どこかにいそうで、でも、実はどこにもいなそうな、心のたくましい人たちが次々に出てくる短編集。

色んな人生があるもんだ、と、心が軽くなるような本です。どの短編も、いい!

夫婦、恋人、友人、親子など、色んな人間関係を扱っていて、テーマは限定されていないんだけど、なんとなく一冊の本として、まとまっている感じがします。平さんって、ちゃんとした価値観の定まった人なんだろうなあ、と、思います。

「サンクス・フォー・ザ・メモリー」をラストに持ってくるあたり、やるなあ。お舅さんを介護した、お嫁さんの主張がテーマなんです。このお嫁さんがもう、なんだかいい子でねー。冷たいと責められる、息子さんや、娘さんにもそれぞれ言い分はあるだろうけど、やっぱり、このお嫁さんはいい子!ちょっと感動の本でした。
| た行(平安寿子) | 00:25 | - | - |
| 1/4PAGES | >>