CATEGORIES
LINKS
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
● 最悪 奥田英朗
4062092980最悪
奥田 英朗
講談社 1999-02

by G-Tools

小さな鉄鋼所の社長・川口は、長引く不況にあえいでいた。下請けの下請けという立場は、どんなに無理な仕事でも断る事はできない。後から引っ越してきた近隣のマンションの住人は、残業を騒音公害だといって騒ぐ。

銀行員のみどりは、社内での上司のセクハラに悩んでいた。味方になってくれそうだった人たちは、その上司にかつて派閥抗争で負けた人たちで、みどりを利用しようとしているだけ。彼らにセクハラの事実を知られた事で、みどりは更なる窮地に追い込まれていく

パチンコとかつあげで生計をたてる和也。トルエンをめぐるちょっとした誤解が元で、やくざに弱みを握られる。

追い詰められた3人が、出会ったとき、転落は加速を増していく・・・

3人の物語を平行して描いていく前半、川口の物語はとても読み応えがあった。リアリティもあったし、近隣住人のやとった弁護士とのやりとりも、そらおそろしい感じがした。川口が追い詰められていくのはよくわかる。とても哀しい。みどりも、まあまあ、同情できる。よくある不幸だとは思うけど、不幸には違いない。問題は和也だ。和也と和也をめぐる人々の物語は、ページ数をさかれているにもかかわらず、ろくに描きこまれていない感じがする。もうちょっと平等に描けていると、後半がもっと魅力的に感じられたと思う。

それにしても、タイトルどおり「最悪」な本。救われない本だなあ・・・。私は「邪魔」のほうが好きだな。というより、これから読む人は、奥田さんの本は、出版順に読んだほうがいいような気がします。この人は、目に見えて成長していく作家さんみたいだし、時代のニーズに答えている人でもあるようなので。
| あ行(奥田英朗) | 11:03 | - | - |
■ 自殺自由法 戸梶圭太
4120035581自殺自由法
戸梶 圭太
中央公論新社 2004-08

by G-Tools

日本に「自殺自由法」施行された。自殺が自由、というのは、単に自由であるというだけではない。行政が、とある施設で、無痛死を保障してくれるのである。死にたい人はいつでも楽に死ねる。

この法律に付随して起こる様々な出来事を描いた作品。当然、たくさんの自殺志願者が登場する。他にも、生活保護受給者に自殺を推奨する行政、息子を自殺させようとする親、自逝志願者のために遺品を回収する業者、など様々な人物が登場する。最初から最後まで衝撃的であり、不愉快な本である。

本当に、後味最悪!(著者自信も、書いてから2日ほど、鬱になったそうだ・・・)。シリアスに描かず、ブラックユーモアとして描いたところが、これまた不愉快。終わり方の救いようのなさも、典型的日本人として、苦い。

でも、小説として、間違いなく、読み応えはある。
| た行(その他の作家) | 02:14 | - | - |
■ 生首に聞いてみろ 法月綸太郎
4048734741生首に聞いてみろ
法月 綸太郎
角川書店 2004-09

by G-Tools

著名な彫刻家・川島伊作が病死した。遺作となった、娘の江知佳をモデルにした石膏像からは、首から上が切り取られ、持ち去られてしまう。これは、江知佳への殺人予告か?それとも、悪質ないたずらか?

法月綸太郎、10年ぶりの長編、という事で、素直に嬉しいです。(その割には読むのがだいぶ遅くなりましたが・・・)これは、完璧にフェアというわけではなかったけど、ちゃんと本格ミステリーでしたねー。久々に読みました。面白かったです。

前半は特にスリリングで、キャラもたっていて面白かったなあ。ぐいぐい引き込まれました。不思議な事に、やっと殺人事件が起きた中盤から、ストーリーが失速した感じがします。いわゆる中だるみ。一番大きな事件がおきて、さあこれから!というときに、中だるみした印象。不思議だ・・・。

謎解きが本格的に始まり、数々の伏線が収束していく終盤は、やっぱり面白かったです。ただ、わたしは、ついうっかり一番最初に提供された、最大の謎である、首から上が持ち去られたのはなぜか、という謎に予想がついてしまって・・・。まあ、あれだけしつこく、伏線が何度も何度も語られれば、予想がついた人は多かったと思うんですけど。

一番衝撃的な謎の伏線はできるだけ隠して、その他の謎の伏線はわかりやすく表に出して。そうしてくれたほうが、嬉しかったかなあ。真相を知ったときの衝撃を味わいたかったです。もちろん解けた謎はそれ1つだけで、真犯人だの、細かい謎解きだのはわからなかったので、うんうん、なるほど、と、終盤を気持ちよく読めました。

面白かったけど、2004年度このミス1位には???です。それほどの作品かなあ?本ミス1位には納得しますけど。過去の法月綸太郎シリーズのいくつかの作品のほうが、ずーっと印象が強いです。悩める作家・綸太郎のキャラにも、ロジック以外の物語の部分にも、もっと感情移入できたような気がする。トリックも、もう少しだけ派手で印象的で、謎解きの快感も大きかったような気がする。気のせいかな?待たされすぎて、ハードルが上がっちゃっただけかなあ?

これは昔の作品を再読してみなくちゃ・・・。確か、私が一番好きだったのは「頼子のために」だったと思います。実家にあるはずだから、年末年始に再読してみようかな。
| な行(その他の作家) | 22:43 | - | - |
★ ベルカ、吠えないのか? 古川日出男 
4163239103ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男
文藝春秋 2005-04-22

by G-Tools

戦争の世紀であった20世紀を、撤退する日本軍に置き去りにされた、4頭の軍用犬からはじまる、「犬の歴史」として描いてしまった作品。この発想がすでにただものではありません。開き直りとも思えるこんな言葉から、この小説ははじまります。
これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。
おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、
この世にフィクション以外の何があると思ってるんだ?
第二次大戦・米ソの対立・朝鮮戦争・東西冷戦・ベトナム戦争・アフガニスタン侵攻・そしてソ連崩壊。4頭の軍用犬の子孫は、世界中に広まり、戦いの中で、数奇な運命をたどります。国同士の大きな戦争だけでなく、マフィアの抗争や、革命にも利用されます。

犬たちに「お前」と呼びかけて進む二人称の文章が、硬質で、突き放した印象を与えつつ、現在形や進行形を多用して臨場感を出す。計算されつくした独特の文体が、この一歩間違えればキワモノになってしまう発想を、直木賞候補にまでしたんだと思います。

とにかく、表紙が恐い。そして、この表紙は、いい!この本は、犬を、人間に忠実で、利用されるだけの動物としては、描いていないのです。使命感や、独自の矜持や理念を持った、高貴な生き物として描いています。たくさんの犬たちが、人間同士の醜い争いの中で死んでいきますが、「泣かせよう」的な部分は、まったくありません。あくまでも硬くて、骨太で、かっこいい小説です。

・・・と、言いましたが、ユーモラスな部分もあります。表現がユーモラスとかいう細かい部分だけでなく、「動物の本能」として描かれているものが、とっても人間らしい、情緒とか倫理の問題だったりするので笑えるんです。犬という動物に対して、こういう幻想を持つという手があったか!と、思いました。日ごろ、かわいいペット(しかも猫に比べると、人なつこくて従順なイメージだし)としてしか犬を見ていないので、新鮮でした。

面白い?と聞かれると、ちょっと困ります。私は面白かったけど・・・現代史が嫌いな人には、オススメできません。超個性的な価値観を持つ先生から、世界史の授業を受けているような気分になる本でしたし、予備知識がないと頭が痛くなると思うから。
| は行(古川日出男) | 01:22 | - | - |
★ 恋愛中毒 山本文緒 
4041970105恋愛中毒
山本 文緒
角川書店 2002-06

by G-Tools

再読。今は再読中心に読書中。

山本さんの心理描写は、いつも容赦がない。時に、露悪的と感じるほどだ。この本でも、主人公の女性の心理描写が丁寧になされているので、つい感情移入してしまう。でも、この本で山本さんは、いつものように露悪的な心理描写をしているように見せかけておいて、この小説が山場をむかえるまで、ヒロインの心の核心にある狂気にふれなかった。核心に触れずに、読者を味方につけ、ストーリーをひっぱり、読者を驚かせる。鳥肌が立つ。本当にうまい。

吉川英治文学新人賞受賞作。データーは残っていないけれど、一度書評を書いた。この本は、色んな切り口で読むことができる。私はヒロインに感情移入してしまったが、ヒロインの元夫や夫の友人ら、男性もかなり病んでいる。もちろん、ヒロインの恋の相手である作家も、その家族もひどくゆがんでいる。そんな事を細かく書き出すときりがないです。

これは、引用したい文章。
どうか、神様。
いや、神様なんかにお願いするのはやめよう。

どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛し過ぎないように。
愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。だからもう二度と誰の手も握らないように。

諦めると決めたことを、ちゃんときれいに諦めるように。
二度と会わないと決めた人とは、本当に二度と会わないでいるように。

私が私を裏切ることがないように。
他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。
| や行(その他の作家) | 04:37 | - | - |
● 子どもたちは夜と遊ぶ 辻村深月
4061824295子どもたちは夜と遊ぶ(上)
辻村 深月
講談社 2005-05-10

by G-Tools

4061824309子どもたちは夜と遊ぶ(下)
辻村 深月
講談社 2005-05-10

by G-Tools

ネタバレありあり!

アメリカ留学をかけた論文コンクール。同じ大学に通う、努力家の秀才・狐塚と、天才肌の美青年・浅葱の二人が、最優秀賞候補と目されていた。しかし、選ばれたのは「i」という謎の人物で、その論文は、二人の力量をはるかにしのぐものだった。

2年後。「i」の正体を探っていた浅葱は、「i」から意外な事実をつきつけられ、そして、悲しい殺人ゲームが始まる・・・。

ミステリーというよりは、サイコホラーというか・・・病んだ人間と、ゆがんだ人間関係を描いた小説としてオススメ。(一応、童謡の見立て殺人とかもやってるんだけどね・・・。)うん。大学生ってのは、本当に子供だよね・・・。だって高校生の次は大学生なんだから、こんなものでしょう。

ストーリーの割に登場人物が多くて、しかも心理描写が驚くほど丁寧です。縦軸は、狐塚と浅葱の大学仲間を中心に進んでいくのですが、そこには狐塚の彼女・月子、同居人・恭司、狐塚と浅葱の先輩・荻野さん、月子と同じゼミの真紀ちゃん、そのゼミの担当教授秋山、月子の友人・紫乃といった人々がいます。全員主要キャストです。

これだけの数の人間の、過去や、事情や、複雑に絡まるそれぞれの思いを、しっかり描いていて、色んな人に感情移入させられてしまいます。うまいです。やはり、浅葱の暗い過去というのが、一番の目玉でしょうが、わたしは月子&紫乃の「病んだ恋人同士」のような友情の描き方にもしびれました。うまい!

だからこそ、下巻の怒涛のストーリーが本当に切ないのですが、上巻がだれた感じは、なきにしもあらず。

これ以外にも、平行して語られている、赤川翼という少年のストーリーもあるし、構成は複雑です。緻密にはりめぐらされた伏線あり、小さなどんでん返しが随所にあり、なんというか・・・メフィスト賞作家さんらしい本です。読みがいがあります。

このぐらいでいいかな?もう、ほんとにネタバレするよ。

ミステリーだと思って読んだけど、最後まで読んだら、この本ったら、純愛本だった。かなり切ないラブストーリー。そんなあって感じ。泣ける!

月子が浅葱を好きだって事は、かなりわかりやすく書いてあって、ばればれだったので、てっきり、月子が、狐塚から浅葱にのりかえる話なんだと思ってしまいました。月子と狐塚の関係に関しては・・・叙述トリックというより、もう「嘘」の領域だよね・・・。わたし、叙述トリックは大好きで、してやられた時は本当に快感なんだけど、ここまで来ると・・・わたし的に、ギリギリアウト!だって、この本「狐塚孝太と別れるかどうかが、今日決まる。月子は・・・」って始まるんだよ。浅葱じゃなくても騙されるって。とにかく浅葱が可哀相でした。

浅葱と恭司はもちろん病んでいるんですけど、二人が「健全だ」と、羨んでいる狐塚と月子も、かなり病んでるんだよね。っていうか、二人の家庭が病んでるんだね。月子と母親の関係は、遠慮がありすぎて気味が悪い。孝太と月子の関係も病んでると思うなあ。兄妹でお揃いのストラップをいつまでも使い続けてるなんて、なんだかなー。確かに、本人が独白しているように、月子と紫乃の関係が病んだのは、月子のせいなんでしょうね。

それから、「i」の正体という一番の謎のオチが、ちょっとしょぼかった。ミステリーとしてはあまりに安易。その手前まで、浅葱=「θ」と月子のストーリーが山場をむかえるまでが、すごく良かったのでとても残念。

そこまでが本当に、良かったんだよねー。月子と狐塚の関係がはっきりしてから、浅葱と月子が対決するまで。作者、力入ってますって感じで。読むほうも、本を持つ手に力が入るというか、ページをめくるのももどかしいというか。かなりテンションが上がっていたので・・・なんかこけました。最後、恭司くんがかっこよく持ち直してくれて、多少救われたけどね。

というわけで、一番好きなキャラクターは、恭司です。彼の言葉を1つ引用♪
人間てのは、大好きな人が最低一人は絶対に必要で、それを巻き込んでいないと駄目なんだ。そうでないと歯止めがかからない。
かっこいいなあ。結局彼が、一番大人だと思う。秋山教授なんて、単なる変態親父だし。(あ、でも、真紀ちゃんの彼氏になんて言ったのかは気になる)

まあ、この感想の長さからわかるとは思いますが、色々つっこみどころはあれど、わたしはこの本好きです。盛り上がりました。
| た行(辻村深月) | 00:23 | - | - |
■ RED RAIN 柴田よしき
4894565927RED RAIN
柴田 よしき
角川春樹事務所 1999-11

by G-Tools

柴田よしきの近未来SF。再読。

ストーリーは、「Dタイプ」と呼ばれる元人間、ある宇宙物質に感染して突然変異し、理性を失って人間を襲う怪物と、彼らを「保護」する任務を務める、特別警察官シキの攻防戦を軸に進みます。シキは、かなりハードボイルドな雰囲気の主人公なのですが、終盤、突然、物語が切ないラブストーリーになってしまってびっくりしました。でも、面白かった!前半のほうがテンポがよくて好きです。

「RED RAIN」は、そのまま、赤い雨のこと。酸性雨の人体への毒性は明確になり、危険を知らせるため、雨雲には定期的に赤い物質が散布されるようになった。赤い雨が降り、川底も、海も赤くそまった。土は素手で触る事ができないほど危険であり、地球はもう母なる青い星ではない。温暖化の影響でたくさんの国が海の底に沈み、日本でも四季はとても曖昧になった。環境ホルモンの影響は、不眠症・不妊症を激増させ、若者は攻撃的になり、高齢化にはますます拍車がかかる。

この本が書かれたのは1998年。舞台は2041年。確実に、私たちは、この未来に近づいている。けっこうリアルに、嫌な感じ・・・。

ひさびさに「アルシンド」という言葉を見た。まだ禿が不治の病だったっ時代のアイドルだそうだ。そこは笑った。
| さ行(柴田よしき) | 13:26 | - | - |
荻原浩 Best3
この記事は、My best books!へのトラックバック投票です。

「母恋旅烏」が積読になっていて、「さよならバースディ」が未読です。

1位 噂
2位 ハードボイルド・エッグ
3位 コールド・ゲーム


1位「噂」はすんなり決まりました。広告業界を舞台とした頭脳派ピカレスクと見せかけて、凄惨な殺人事件をめぐるクライムサスペンスと見せかけて、子持ち独身刑事たちのハートフルストーリーと見せかけて・・・・最後はどれも違った・・・。二重三重に読者をだますこの構造。「一生宝物にしたい、大好きな作品」かと言われると困りますが、やられちゃったときの快感が忘れられません。

2位「ハードボイルド・エッグ」は、逆に、「一生宝物にしたい、大好きな作品」。笑いあり、涙あり。すごく心あたたまる、素敵な本。大好きです。

3位「コールド・ゲーム」。ここには「明日の記憶」とどちらを入れようか、ものすごく悩みました。完成度は明らかに「明日の記憶」が高い。映画化するくらい世間の評価も高い。わたしも、ものすごく、感動した。

でも「コールド・ゲーム」も好きなんです。ストーリーも好きだし、私の初荻原作品だったので、思い入れもあるし、印象深い。評判はあんまりよくないけど、私は好きなんです。「明日の記憶」は、きっとみんなが入れてくれるだろうから、「コールド・ゲーム」に私は入れます。
| - | 01:28 | - | - |
ロスト・メビウス 上遠野浩平
4840230188ロスト・メビウス―ブギーポップ・バウンディング
上遠野 浩平
メディアワークス 2005-04

by G-Tools

えーと。そうそう、ブギーポップの新作だよね。
で、あれって、いまどういうことになってたんだっけね。
という事を思い出せないまま、読んでしまいました(笑。

新しい登場人物は少なくて、
どこかで見たことがある名前ばかりだったのですが、
「この人、重要だったはず。えーと・・・」
「あー、この人は記憶残ってたんだっけ?」
「あ、そっかあ。この人がブギーポップなんだよ、そういえば」

って感じで、基本的な知識が不足していたので、
ダメダメな読書でした。意味がわかってないと思う。私。
シリーズごと、実家においてきたからなあ。
完結したら、まとめて再読ということで・・・。

あのー。物忘れが激しいだけで、このシリーズ好きなんです。
すべてを忘れてしまう前に、早く完結して欲しい。
| か行(上遠野浩平) | 01:40 | - | - |
■ いつかパラソルの下で 森絵都 
4048735896いつかパラソルの下で
森 絵都
角川書店 2005-04-26

by G-Tools

本人は大真面目なんだけど、傍から見るとそこがどうにもこうにも面白い。最初は微笑ましいという程度なんだけど、何度も「クスッ」を繰り返しているうちに、腹を抱えて大笑いしたくなってしまう。でも、本人は大真面目だし、何を笑われているかもわからない。非常に愛すべき人物なので、周りも一生懸命笑うのを我慢する。でも、我慢すれば我慢するほど、おかしい。

この本は、私にとっては、そういう本でした。そういう性格の登場人物がいるということではありません。この本が、そういう性格の本だったんです。人に性格があるように、本にも性格ってありますよね。

いえ、全然、コメディではないんですよ。文学です。真面目な本なんです。

病的なまでに潔癖で厳格な父親に育てられた3人の兄妹は、その父の死後、父親の浮気という意外な事実を知ることになります。母親はすっかり元気をなくします。3人の兄妹は、父親の真実や過去を理解しようと、調査を始めます。家族愛、兄弟愛、恋愛、その中での価値観のすれ違い、生と死、人生、過去、トラウマ、などなどなど、真面目なテーマのてんこもりで、考えさせられたり、感動したりする本です。

でも、なんでかなあ。私は、かなり色んなところで笑わせてもらいました。主人公の長女・野々ちゃんは能天気なふりをして、かなり悩み多き人。現実逃避体質なんだけど、優柔不断な性格ゆえに、いつも逃げられない。だから彼女の独白はかなり面白かったです。精神年齢が実年齢に追いついていないというか、どこか地に足のつかない3兄妹の会話にも笑ってしまった。彼らの、周囲の人たちや、親戚とのぎこちない交流も笑えるし、色んなところで、どうでもいいディティールが笑いを誘う。

これは、作者、天然かな?確信犯かな?後者だといいなあ。プロの作家さんが、重いテーマをすんなり読めるように、作品の雰囲気を壊さないギリギリのところまで笑わせてくれた結果、ものすごいバランスで、この素敵な本ができた。そうだといいなあ。

正直なところ、野々ちゃんの恋愛に関しては、結末が不満です。できれば自立するなり、できなければ新しい恋人の家に転がり込むなりして欲しかった。単なる棚ボタのハッピーエンドで、あまりにもご都合主義で・・・最後の最後でさめました。お兄ちゃんに関しては、とっても素直に祝福できたんだけど。できちゃった婚なんて、らしくていい!

まあ、とにかく、お母さんが立ち直って良かったし、3兄妹も、やっとまっとうに人生と取り組みはじめた感じがして、読後感は良かったです。

児童文学の森絵都さんを好きな方には、前半の重さや、セックスシーンが受け入れられないような気もします。私もああいうどろどろ、特に好きじゃないけど、「大人の本」として頑張ってる感じが出ていて、微笑ましい感じがしました。児童文学でも、大人向けでも、森さんは森さん。家族との快適な距離を探ったり、自立を目指したり、扱っているテーマは同じだと思いました。
| ま行(森絵都) | 23:22 | - | - |
| 1/4PAGES | >>