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■ 世界音痴 穂村弘
4093873739世界音痴
穂村 弘
小学館 2002-03

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「現実入門」が面白かったので、再読。

でも、以前に読んだときは、かなり適当に読み飛ばしてしまった本だったので、初読のようなものですが。

最初に読んだときは、笑えないくらい本気で暗い、自虐的な文章だなあと思いました。自虐をネタでやるなら、読む人を暗い気持ちにさせない自虐をやって欲しい、と、思ったし。哀愁を感じるというより・・・なんでこんなにネガティブなんだ!と、怒りさえ覚えてしまいまして(笑。どうしてもこの本が好きになれなかったんです。彼の「世界音痴」的な部分には、私も、少し共感できるというか、私も「世界音痴」の一人だなあとは思うのですが。

でも、彼が自虐的になっているのは、「世界音痴」だからというより、「結婚できない」からなんだもの。彼にとってそれが、一大事だという事はよくわかりましたけど、あまりにプライベートな事すぎて、そんなネタで本1冊つくるなよ、と、思った次第です。小説ならともかく、エッセイなんだもの・・・。

でも、「現実入門」を読んだあとで、この本を読むと、すごくしみじみと味わい深いです。本当によかったですね・・・穂村さん。人間は、何歳になっても成長できるんだなあ、と、思ったりしました。このエッセイ、改めて読むと、けっこういい本でしたね。

| は行(穂村弘) | 19:20 | - | - |
● 夏の魔法 本岡類
410408302X夏の魔法
本岡 類
新潮社 2005-05-19

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ネタバレ警報!

進行性の胃癌にかかって会社をやめ、手術は成功したものの、再発の不安を抱えながら、「今を生きる」ことや「命の実感」を求めて、酪農という新しい仕事について4年。那須高原で暮らす、中年の男性・高峰が主人公です。彼には、離婚歴があり、4歳の時に別れたきりの、15年間も会わないままの息子がいます。

息子は、高校卒業後、引きこもりになっています。大学も行かず、就職もせず、家にとじこもり、母親にあたり、自殺未遂事件まで起こしました。そんな息子・悠平が、自ら「牧場の仕事をしたい」と、高峰のもとにやってくるのところから物語がはじまります。最初は顔を見分ける事もできず、コミュニケーションもろくに取れない二人ですが、とりあえず牧場の仕事を共にすることになります。

若者が「牧場の魔法」に癒され、将来に立ち向かう力を身につける、癒しのストーリーでもあり、父と子が、新しい絆を結んでいく温かいストーリーでもあります。酪農という仕事には縁がなかったので、とても興味深かったです。大変な仕事ですね・・・。自然を相手にする高峰と悠平の暮らしは波乱万丈で、最初から最後まで飽きることなく読めました。ご近所さんたちも個性豊かで、優しい人ばかりで、面白かったです。ちょっと「優駿」を思い出しました。

ラストもとても素敵なんです。もちろん悠平の選んだ旅立ちも素敵ですが、今までずっと一人ぼっちで死と向き合ってきた高峰も、息子を得て、もう1人じゃなくなって、新しい人生をはじめるんです。高峰にどっぷり感情移入していた私には、嬉しいラストでした。爽やかなとてもいい本でした。

だけど、読み終えたあと、私は思ってしまったんです。「お母さんの立場は?」って。そもそも離婚の原因は高峰の不倫です。その後1人で悠平を育てて、苦労した事も多かっただろうに。お母さんだってさんざん悩んで、ひきこもりの悠平に尽くしていたのに。たった1年の父親との生活で、こんなに立ち直ってしまうなんて・・・。お母さんという人の扱いが、この本の中では悪すぎる。人格も行動も、悪く言われてばっかりで、ほめられているのは若い頃の外見ぐらい。

作者は別に、高峰のような頼りない男でも、父親が息子には不可欠だ!母親1人じゃ男は育てられない!などと、言いたかったわけではないと思うのですが・・・。ただ単に、なんというか、これは男の本だな、と思います。男の人が書いた本だし、男の人に都合のいい本だし、男の人に好まれる本じゃないかなあ、と。

というわけで、私は女なので、評価を1つ下げました。でも、いい本です。超オススメ。
| ま行(その他の作家) | 11:36 | - | - |
● 空の中 有川 浩 
4840228248空の中
有川 浩
メディアワークス 2004-10-30

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期待していたより、面白かったです。ものすごーく簡単に言うと、とある未知の生物(怪獣?)と、人間が、戦ったり戦わなかったりするお話です。ジャンルで言うと、SFとファンタジーの中間くらいになるのかなあ。とにかく、ライトノベルではあります。ハードカバーで、この厚さで、中身はライトノベル。新しいマーケティング法ですねー。

ことのはじまりは、航空機の事故です。大規模な国家プロジェクトとして国産輸送機の開発が行われるのですが、テスト飛行で2度の事故がおこり、2人のパイロットが死亡してしまいます。片方のパイロットには息子がいて、彼が主人公の1人・瞬です。瞬は父親の死の直前に、クラゲに似た生き物を海岸で見つけ、幼馴染の佳江と共に飼いはじめます。知能が高く、人語を理解し、携帯電話を通じて話もできるその生き物を、瞬は亡くなった父親の代わりの「完璧な家族」として扱うようになります。

もう1人の主人公は、航空機の設計士で、この事故の調査委員として派遣された高巳です。彼は、事故の生き残りである光稀と共に、空に浮かぶ人外生物・白鯨が事故の原因である事を知り、それを日本政府が認知した後は、交渉の窓口役となります。

自分たちの住む空の上に、自分たちを殺傷する能力を持つ、知能の高い生物がいる。その恐ろしさに世論もゆれます。もう1人の亡くなったパイロットの娘は、反白鯨運動団体を立ち上げ、白鯨を攻撃しようとします。

とまあこんな感じで、人類と白鯨の未来は?!という本です。

登場人物のキャラクターは、みんな、典型的なライトノベルの登場人物といった感じです。ひょうひょうとしたつかみ所のないヒーロー。凶暴だけどシャイなヒロイン。孤独な少年には面倒見のいい幼馴染がいて、美少女には暗い過去があり、お年寄りは賢くて優しい。でも、白鯨の造形がちょっと興味深かったです。今まで読んだことのない種類の怪獣で、新鮮でした。高巳との会話はとっても笑えましたし。

個人的には高巳&光稀のカップルが好きでした!ストーリーも面白かったし読後感も良かったです。
| あ行(有川浩) | 16:52 | - | - |
● 象と耳鳴り 恩田陸
4396631588象と耳鳴り
恩田 陸
祥伝社 1999-10

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再読。

引退した元判事・関根多佳雄が活躍する、推理短編集です。「六番目の小夜子」の関根秋くんのご家族総出演といった感じです。秋くん本人は、出てきませんが。

ただの推理小説として評価すれば、中途半端、という感想になってしまいます。謎が解けているようで、解けてない。解けたかと思うと、そうじゃないかもしれないと言われる、といった感じで、すっきりさせてはくれないのです。でもこの癖のある後味というか、眩暈のするような感覚が、ファンにはたまらない。そんな短編集です。

その中では、多佳雄の息子・春が活躍する「待合室の冒険」はすっきり感がありました。娘・夏の出てくる「机上の論理」もシニカルで面白かったです。

一番印象的だったのは、「海にゐるのは人魚ではない」。多佳雄がふと耳にした二人の小学生の会話から、ある心中事件の真実を暴くストーリーです。これは中原中也の有名な詩を小道具に使った、上手な描き方で、独特の雰囲気があって、凄惨な事件ですが、よかったです。

「象と耳鳴り」も、短いのに奥の深い小説で、再読なのに、さらに再読してしまいました。

「給水塔」は、いつもの恩田陸さんだなあ、と、ほっとさせてくれた作品。もちろん殺人事件がおこっているので、ほっとするようなストーリーではありませんが。

1人の探偵役が謎を解く短編集であるにもかかわらず、いろんなテイストの推理小説がつまっています。さすが、です。
| あ行(恩田陸) | 17:20 | - | - |
■ 間宮兄弟 江國香織
4093874999間宮兄弟
江國 香織
小学館 2004-09-29

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感想書くの、難しいなあ・・・この本。

生真面目で、多趣味で、人に優しく、努力家。でも、外見に恵まれず、性格も要領が悪く、おたくっぽい雰囲気もあってもてない。年齢=彼女いない歴で、「ありえない」男兄弟のむさくるしい二人暮し。2人はたくさんの思い出を共有し、2人にしか通じないたくさんの言葉や気持ちがあり、都会のとあるマンションで、静かで満ち足りたときを送っています。なんでも、「女の尻を追いかけるのをやめたら、平安が訪れた」んだそうです。

しかしこの夏、二人にちょっとした出会いがあります。二人が企画したカレーパーティーをきっかけに、何人かの女性に出会い、二人はそれぞれに恋をするのです。

ここからは少しネタバレですが。

なんだかんだいって、二人のこの夏の恋が成就する事はありません。二人がそれぞれに失恋し、ひとつの不倫が終わり、ひとつの夫婦が離婚し、結局恋愛的にハッピーエンドなことは何一つない恋愛小説です。(個人的には弟さんの恋心が切なかったです・・・)それなのに、読後感がとても爽やかなのはなぜかな?間宮兄弟はともかく、周りの女性たちが、間宮兄弟から癒しや慰めを得て、それぞれに成長していったからかもしれません。

でもやっぱり、間宮兄弟はもてないだろうなあ、というのが、結論(笑。女性たちが間宮兄弟に好感を持っても、恋愛感情にはいたらない理由がわかる気がしてしまいます。おたくっぽい男の二人暮らしは、気持ち悪い・・・と思うけれど、別にそういうことや、外見のせいだけで、もてないわけじゃないよね。性格もすごくいいんだしね。

二人は二人とも、自分の居心地のいい世界に、非常に満足しているんですよね。子供の頃から慣れ親しんだ、実家的な空間に。恋人が欲しい、妻ができたら大事にする、なんて、考えてはいるんだけど、女性と新しく何かを作っていこうとか、彼女たちの世界に飛び込んでいくような勇気はなくて。あくまでも、自分たちの完全な世界に、それを壊さないような、理想の女性がすべりこんできてくれないかなあ、と、心のどこかで待っている。これだと・・・なかなか普通の恋愛するのは難しいよね。たとえば幼馴染の彼らをよく理解している女の子がいたり、彼らに恋をする母性本能の豊かな女性が突如現れるというような、何か運命的な事がない限り。

それでも、彼らが彼ら二人で、自分たちの温かい世界でずっと暮らしていくのなら、やっぱりそれも「幸せ」の1つの形かも。江國さんらしく、日常生活のこまごました事を丁寧に描いていて、どこか懐かしい感じのする、いいお話でした。間宮兄弟もそれぞれに、ほんっとに人柄が良くて、爽やかな読後感でした。そんな感想です。
| あ行(江國香織) | 10:16 | - | - |
■ ビネツ 永井するみ
4093797358ビネツ
永井 するみ
小学館 2005-05

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エステ業界と、そこで働く女性たちの人間関係を描いた・・・ミステリー。一応ミステリーなんですよね、これ。6年前に「神の手」を持つ、と言われたサリさんというエスティシャンが、強盗殺人で亡くなったという事件の、真相を追っているんです。でも、どうもこの本筋が、中途半端というか。本筋だけど、なくても良かったんじゃないの、そのエピソード、という状態になっています。そのほかの部分が、濃厚で、興味深かったからです。

主人公は、マッサージを得意とするエステティシャン・麻美。彼女は、高級エステティックサロン「ヴィーナスの手」の社長・京子に、あなたは「神の手」を持っている、と、スカウトされ「ヴィーナスの手」で働くようになります。そこで、6年前に死んだサリさんの後釜として雇われた事を知り、サリさんの事件に興味を持ち、調べ始めるのですが・・・ミステリーであれば探偵役であるはずの麻美は、途中からその事件への興味をじょじょに失い、あるものに魅入られ夢中になってしまうのです。

やはりこの本の見所は、ドロドロの人間関係。「ヴィーナスの手」の社長・京子と、夫・安芸津弘庸、弘庸の連れ子である息子柊也、弘庸の愛人・みどり、そしてそこに巻き込まれていく麻美。このあたりの人間関係は、曖昧に微妙にぼかされつつも、ドロドロでした。それに「ヴィーナスの手」に、麻美より前にスカウトされた、結花というエステティシャンの嫉妬と悪意はやっぱりドロドロ。また、「ヴィーナスの手」の客である綾乃と舞の関係もすごいです。高慢で、同僚である舞を見下げる発言を繰り返すわりに、舞の足を引っ張り、舞を傷つける事に余念がない綾乃。仕事はできるのに、要領が悪く、自分に自信がなくて、綾乃の真似ばかりしている舞。お互いの競争心は本当にもう子供っぽくて、ドロドロ。どこもかしこもドロドロで、読み応え、ありました。

ただ・・・麻美という主人公は、好きになれなかったなあ。仕事に情熱を持っていて、自分の可能性を信じてて、努力家で、でも弱かったり、騙されやすいところもあって。好感を持てそうな主人公なのに、なぜか好きになれなかった。

本人が「エステティシャンにはお客様の気分を感じ取れることが大事」とかなんとか、しょっちゅう言っているわりに、他人の気持ちを全然考えてない自己中な女性だったから、かな。出る杭にならないようにと仕事の手を抜いてみたり、スカウトされればされたで他のスタッフを見下していたり。柊也があらわれたとたん、今まで甘えっぱなしだった彼氏をあっさり振って、でも励まして欲しい時には電話して。

ミステリーとしての結末は、単純じゃないところが、私は好きでした。はっきりとは描かれていないたくさんの恐ろしい犯罪。この先、麻美はその何も知らないまま、崖っぷち人生を歩いていくんだ、と、思うとぞっとしました。余韻の残るうまい終わらせ方だと思います。それからやはり、私は全然詳しくないので、エステ業界の裏側を描いた業界ものとしておもしろかったです。
| な行(永井するみ) | 18:04 | - | - |
● 賢者はベンチで思索する 近藤史恵
416323960X賢者はベンチで思索する
近藤 史恵
文藝春秋 2005-05-26

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連作推理短編集・・・なのですが、これは、推理小説としてよりも、青春小説としてよかったと思います。

主人公の久里子は、服飾の専門学校を出たものの、服飾デザイナーになるという夢をかなえるのは簡単ではなく、現在フリーター。バイト先のファミレスで「賢者」国枝さんに出会います。国枝さんは、毎日コーヒー1杯で3時間ねばる、ちょっと呆けたおじいさん。久里子は彼と親しくなり、彼がいくつかの事件を解決する様子を見る事になります。

近藤史恵さんという作家さんは、ドロドロの人間関係も描けるし、人の心の美しい部分も醜い部分もきっちり描けるし、傷ついた人の心もちゃんと描ける。「人間を描く」ということのきちんとできる作家さんだと私は思っています。この本は、近藤さんの本にしては、あっさり系だと思いました。でも、いまどきの、等身大の人間を、温かい目で、そのまま描いたんだと思います。

暗い主人公ではないけれど、心の中には本人なりの悩みや不満がちゃんとあって。浪人中の弟の心配をしたり、親への不満をぐっとこらえたり、夢が破れたことよりも将来への不安でいっぱいだったり、それよりもさらにバイト先のかっこいい男の子の方が気になったり。実に等身大です。

最終章で明かされる、探偵役・国枝さんにまつわる物語は、あっさりと温かく語られはしますが、久里子の恵まれた生活に比べると、実に暗くて、重い。1冊本が作れそうなネタです。それをあっさり流して、久里子の成長物語の一部にしてしまったあたりが、すごいなあ、うまいなあ、やるなあ・・・と、感服しました。しめるところをギュッとしめた感じ。さすがです。

謎だらけの、国枝さんというおじいさん探偵の正体に関しては、ちょっと意表をつかれましたが、推理小説としては平凡。でも、かなりオススメ。爽やかないい本です。
| か行(近藤史恵) | 00:20 | - | - |
★ 博士の愛した数式 小川洋子
410401303X博士の愛した数式
小川 洋子
新潮社 2003-08-28

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事故で記憶力を失った老数学者と、彼の世話をするために雇われた家政婦母子のふれあいの物語。

博士は脳に、博士の義姉は足に障害があります。主人公は男に逃げられたシングルマザー。不幸の要素はたくさんあって、暗い話になりそうなのに、この本はそうはなりません。透明感があって、優しくて、素敵な物語です。

後味が非常にいいのは、最後の数ページのおかげだと思います。彼らが生活を共にした期間はとても短かったけれど、その後もずっと彼らのふれあいは続いていきます。なんとなく続いていくわけではなく、努力によって続けられていくんです。施設に入所した博士を、母子はその後何年も定期的に訪問し、そのたびに自分たちの事を覚えていない博士との友情を結びなおし続けるのです。

友達は大切に。そんなあたりまえのことを、本当にやっている人が、どれだけいるだろうか、と考えさせられました。

この本はあちこちで、推薦図書や、読書感想文の課題図書などになっていましたね。人間ドラマとしてすばらしいので当然といえば当然ですし、学校の先生や親が、子供に勉強好きになってほしくて、この本を読ませようと思う、というのはわかります。博士の数学に対する愛はとても崇高なものに思えたし、博士が語る数学の魅力や美しさには、一瞬(ほんの一瞬(笑))、私も数学って好きかも、と、思ってしまいましたから。でも、若い人には、「課題」だから無理やり読む、という読み方をして欲しくない本でした。感想を書くために読んだら、きっとこの本の魅力は、半減してしまうのでしょうから。
| あ行(小川洋子) | 20:37 | - | - |
● 対岸の彼女 角田光代
4163235108対岸の彼女
角田 光代
文藝春秋 2004-11-09

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角田光代さんの本は、どれだかもう忘れたけど、以前に1冊読んでいて、でも私には合わないようだったので敬遠していました。でも、この本が直木賞を取った時に、読んどかなくちゃかなあ〜と、思って、図書館予約して・・・来たのが昨日!もう、予約した事すら忘れていました。

でも、読んで良かった、かな。この本は、結構好きでした。

本屋さんでは、「負け犬と勝ち犬 女同士の友情の行方は?」というようなあおりPOPを見た記憶がありますが、この本はそれが一番のテーマではありませんね。そんな風に軽い感じの本でもないし。

そもそも、主人公・勝ち犬の小夜子は、子供を連れて公園を渡り歩く毎日に、いじめられっこだった子供時代を思い出すばかりの、暗い登場です。夫や姑とのコミュニケーションもうまくいかず、子育てには自身がなく、勝ってる感はまったくありません。一方の負け犬であるところの女社長・葵は、気さくで友達も多く、自由奔放に、明るく登場します。

この2人の現在の物語と、葵の高校時代のナナコという少女との物語が交互に語られていくのですが、私は、葵&ナナコの物語のほうが印象的でした。葵の独白が、勉強になりました!って感じで。

私は女子のグループというのがとても苦手な学生でした。グループの構成とか、メンバーの動きとか、力関係とかをまったく理解できず、どこで笑ったらいのかもわからなかったし、次に誰をいじめる事になっても理由がわからなかった。マイペースにやりたい事をやっていたので、いじめられる事はなかったけど、それは運が良かっただけです。ナナコのように、他の場所に大事なものがあるから、と、開き直れるわけでもなく、葵のように、いじめにあわないために必死になる事もなく・・・小学校でも、大学でも、職場でも、いまだに女社会の常識に鈍感なままです。でも、仕事がら理解したいという気持ちはあって、だから、勉強になりました!読んでよかった。という感想になります。

この本で主人公・小夜子が繰り返し自問するのは、「なんのために私たちは年を重ねるんだろう」です。この問いに対して小夜子が出す答えは、前向きで、好きでした。小夜子にはとても好感を持てました。

でも、葵のほうは、学生時代と現在とのギャップを、小説が埋め切れていない、という気がします。どうしてもともとは小夜子とよく似たタイプだった葵が、ナナコに似たものになってしまったのでしょうか。説明に説得力が足りない気がしました。結局は、3人とも似たもの同士、という結論になるのでしょうか。それとも、すべての人が似たもの同士、と言いたいのかな?もちろん、ナナコのその後も気になりますし。

確かにいい本でした。女の友情もので、しかも重い話わりに、恋愛が絡まないせいか、とても爽やかな読後感。

でも、直木賞をとるほどの作品かなあ・・・うーん。それに、女性心理を鋭く描く作家として桐野夏生さんと並べられている書評を読みましたが・・・全然質が違うし、比べ物にならないような・・・(ああ、これは個人の好みですね。)
| か行(角田光代) | 23:26 | - | - |
▲ 温室栽愛 狗飼恭子 
4344006399温室栽愛
狗飼 恭子
幻冬舎 2004-07

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読了した人にしか、わからない感想文。

女の友情もの、として読めば、とても好きなお話でした。主人公・佐知の、26歳にしてはあまりに低い精神年齢に、とまどい続けるばかりだったのですが、最後の最後に出す結論はとても好きです。佐知と桜子の仕事が、うまく行きますように、と祈らずにはいられません。

ただ、恋愛ものとして読むと・・・なんか、作者の個人的な意見みたいなものが前面に押し出されていて、ちょっと引いてしまう部分はありました。
友情っていうのは、同性だろうが異性だろうが、肉体関係のない擬似恋愛の事を言うんだと思う。好きな相手じゃなきゃ大切になんかできない。それはきっと、友情も愛情も変わらない。恋も家族愛も変わらない。
2人が意見を二転三転させた末に、最後に出すこの結論には基本的に賛成なんだけどね。

それに、桜子の気持ちは最後に来てよくわかったし、桜子の今後は応援したいんだけど。佐知の恋愛って、最初から最後まで、やっぱりなんとなく応援できない・・・という感じが残ってしまいました。佐知は、都合のいい女から、ものすごーく都合のいい女に変わっただけだと思うんだけど。この開き直りが成長なのかな?私にはそうは思えません。
| あ行(その他の作家) | 02:11 | - | - |
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