★★★☆☆
気をつけたけど・・・多少のネタバレあり。
ものすごく面白かった。ひさびさに、入り込んじゃいましたねー。「自分、ちょっと落ち着けよ」と思って、ちょっと休憩入れたくらい・・・。感想書くの、むずかしいなあ。
帯には、何に遠慮してるのか「ヒューマン・ファンタジー」なんていう訳のわからないジャンルが書いてありますが、これはSFです。典型的なSF。だから、他のどの石田衣良作品とも似ていないし、従来の石田衣良ファンは好きではないんじゃないかと思うような作品です。石田衣良さんと言えば「現代感覚」が売りで、今風の、都会の、若者の社会を描く人でしょう?でもこの作品の舞台は、200年後の「ブルータワー」と呼ばれる塔のある世界。作風は1960〜70年代の懐かしいSF。主人公は、脳腫瘍患者の中年男。全く石田衣良さんっぽくない。
あとがきによると、9・11事件で受けた衝撃を小説の形で残したい、という気持ちから始まり、アメリカSF黄金期のある作品へのオマージュという形で終わっているそうです。なるほど、です。
200年後の未来は、生物兵器によって大気が汚染され、タワーの中だけでしか安全を保障されていない世界です。生物兵器「黄魔」、テロ、出生率の低下など様々な問題があって、人類は絶滅の危機に瀕しています。主人公は、近未来の新宿の高層ビル内のマンションと、200年後のタワーの中を行き来しながら、200年後の未来を救うために奮闘するのです。アメリカSFというよりは、「風の谷のナウシカ」風。ナウシカ好きな人は、この本も好きだと思うなぁ。あ、あと、あさのあつこの「NO.6」も思い出しました。
未来に飛ばされた主人公と同じく、読者も未来の世界がどんな世界か最初はわからない。誰が敵で、誰が味方なのかも、なかなかはっきりしない。そんな先の展開が全然読めない中で、大事件が次々におこって、ぐいぐいストーリーに引き込まれてしまいました。それに、脇役達がとても魅力的なのです。命の危険と隣りあわせで暮らす、未来の人々は、それぞれかっこよくて、たくましくて、彼らが一人、また一人、と死んでいくたびに目頭が熱くなりました。
あと、表紙の「ブルータワー」の絵がすごく素敵。ジャケ買いしそうなくらい素敵。小説の中の「ブルータワー」は、全然魅力的な場所ではないのですが、だから余計に、泣けてくるくらい綺麗です。
私は、この本、すごく好きです。基本的に子供の頃、海外SFにどっぷりつかっていた時期ががあるので懐かしかったし、私も石田さんと同じようにSFというジャンルの衰退を嘆いているSFファンの一人だから。あとがきの、この言葉は、私の思うところでもあります。
がんばれ、負けるな、エスエフ。現実が想像のすぐあとを追いかけてくる時代、今こそSFがもつはるかな夢と未来にむかう力が求められているはずだ。
人間の悪や残酷さを見たとき、僕達はそれと同じ数だけきっとある光と優しさに目をむける必要があります。
でも、読み終わってみると★は3つなんだよねー。読んでる間は本当に楽しくて、★10こあげたい!とか思ってたのに・・・。
一つ目の☆は、どうしたって、ラストのツメが甘い。あらゆる意味で甘すぎる。SFなんだから、かなりご都合主義なのはもう仕方ない。突っ込みどころ満載だけど、あえて目をつぶります。世界の救い方が、びっくりするほど地味だったのも、わたし的には良かった気がします。でも、脳腫瘍問題とか、不倫問題とか、何より未来の世界の社会問題とか・・・そんなに簡単に解決したことにしちゃうなんて・・・そんなぁ。
まあ100歩ゆずって、そこまでは許すとしても、エピローグは絶対にいらなかった。あれが、何かの作品のオマージュなのかなぁ。だとしてもやっぱり、あのシーンはいらない。ないほうが絶対いい。これから読む人には「エピローグは読むな」と、言って回りたいくらいです。エピローグなしで終わってくれれば、希望のある余韻が残ってよかったのに。★4つにしたのに。ものすごく残念で、がっかりでした。
二つ目の☆は、どうしても中年男の妄想についていけなかった。なんであっちでもこっちでも、若い女にもてまくり、せまられまくるんだ。「からだを大事に」ってそういう意味だったんかい!全体的に青臭い、理想主義的ヒーロー小説で、それを楽しんでるのに、そこだけオヤジくさいから、ひくんだよね〜。
でも、エンターテイメントとしては面白かった。本当に、面白かったです。石田衣良ファンの方と、コアなSFファン以外の方には、オススメできます。