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★ 慟哭 貫井徳郎 
4488425011慟哭
貫井 徳郎
東京創元社 1999-03

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再読。

刑事佐伯を中心に幼女誘拐事件の捜査を行う警察の行動と、犯人らしき謎の男の行動が交互に描写されて、ストーリーは進行していきます。初めて読んだ時から、「図書館本」で帯がなかったので、先入観はありませんでした。だから、この本にはゴーンとやられました。名作だと思いました。

いっさいネタバレができない本なので、感想を書くのが辛い・・・。

再読してみて。この本は、名作ではあるけれど、季節ものだったような気がします。私が初めて読んだ頃は、すごく評価が高かったらしい。それにはとても納得できます。それから6年近くたった今でも、読み応えのある本であることに変わりはないし、佐伯の内面や家族に関する描写など、「名作!」と思う部分も多かったです。でも、やっぱりあの時期だったからこその、高評価だった、とは言えると思う。

「この手」のトリックや、「この手」のトリックの更なるアレンジ版などが、次々と出過ぎてしまった今となっては、最大の売りであった○○○の衝撃は、やはり薄れてしまっている。(ネタバレできなくて辛い!笑)

でも、再読する価値はちゃんとある本でした。 
| な行(貫井徳郎) | 16:12 | - | - |
▲ 私が語りはじめた彼は 三浦しをん
4104541036私が語りはじめた彼は
三浦 しをん
新潮社 2004-05-25

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ある種の女性にとてももてる、大学教授:村川。彼を取り囲む人々が、彼に関わった物語を語る、連作短編集です。彼の部下、妻、息子、娘の婚約者、義理の娘の隣人、などさまざま人々の、さまざまな物語があり、彼の人生を追っていきます。

一作一作の短編には、心に残るものもありました。村川の愛人の夫がつづる「残骸」は最後の諦観とも言える文章が切なかったし、村川の実の息子が、村川の離婚直後の心境を語った短編「予言」や、最後を締めくくる「家路」などはかなり好きでした。

しかし。だがしかし。

中心人物の村川教授。彼のどこがそんなにいいのか、私にはさっぱりわからなかったし、彼がどんな人なのかという輪郭さえわかりませんでした。彼についてのそれぞれの印象を誰もちゃんと語っていない。それぞれ自分の事を語っているだけで…タイトルに偽りあり!と、思いました。

タイトルも装丁も素敵だし、内容も惹かれるものがあったので、そこが残念。一人一人が、あとほんの少しづつ多く、彼について語ってくれれば、もっと面白かったのに、と、思いました。
| ま行(三浦しをん) | 16:10 | - | - |
★ クライマーズ・ハイ 横山秀夫 
4163220909クライマーズ・ハイ
横山 秀夫
文藝春秋 2003-08-21

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特に、あっと驚く仕掛けがあったり、感動のあまり泣かされたりする、派手な小説ではありませんんが、大作で、力作でした。読み応えがありました。読む価値もありました。

85年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元群馬の、ローカル新聞の記者達を描いています。主人公は、悠木和雅40歳。過去に部下を死なせた負い目から、出世せず、部下を持たない遊軍記者的存在である事を、自らに科してきたのに、社内の覇権争いや、人事の思惑によって、この世紀の大事故の全権デスクを命じられてしまいます。

この小説は記者達の群像劇です。悠木の他にも、事故現場に当日たどりつき、その悲惨さに深く傷ついた新人記者、悠木への嫉妬や、社内の派閥抗争によって、渾身の記事を無にされてしまう実力派の記者佐山、地元新聞のプライドを忘れない整理部長の亀島など、たくさんの人物が、この事故にくらいついていきます。逆に、この混乱のさなかにも何の緊張感もなく、自分の出世と派閥争いや、営業所や有力者へのご機嫌取りにしか、関心を持たない社内の人間も登場します。非常にリアルです。

地方紙ですから、全国規模の大手新聞社には色んな意味で負けてしまいます。雑誌やテレビで流される、視覚的に衝撃的なものにも、文章である「記事」は負けてしまいそうです。そんな葛藤をそれぞれが抱えながら、それでも「記事を書く事」にプライドを持っている記者達。かっこよかったです。

この「過去」と並行して語られるのが、クライマーにとっては難関と言われる危険な「衝立岩」に挑もうとしている、という悠木の「現在」です。事故の当日、悠木は同僚で登山家の安西と「衝立岩」に登ろう、と約束していました。しかし、日航機事故が起きて悠木は職場を離れられず、ちょうど同じ頃安西も、過労死のように倒れて植物状態になってしまい、約束は果たされないままでした。このパートでは、悠木のプライベート、特に息子との関係に苦悩してきた様子が描かれます。

本書のテーマからは多少ずれる気はしますが、私の感想は、仕事にプライドを持っているという事は、かっこいいことだな、と、いう事です。(ものすごくミーハーに「仕事のできる男ってかっこいいよねー♪」というのと、何も変わらないのですが。)どんな種類の仕事であっても、給料の安さや、会社の大小や、出世争いや、自分の失敗に一喜一憂していても、自分の仕事にプライドを持っている人は、それだけですでに何者かではあるのだな、と思いました。

この事故が起こったとき、私は小学生で、夏休みの帰省で飛行機に乗った直後で、ニュースはとても衝撃的でした。この事故がきっかけで、それまで大人が読むものだと思っていた新聞を、毎日読むようになりました。スクラップというものを初めてしました。そんな事も思い出したりした本でした。
| や行(横山秀夫) | 16:08 | - | - |
● コールド・ゲーム 荻原浩 
4062114569コールドゲーム
荻原 浩
講談社 2002-09

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甲子園に届かなかった17歳の夏。進路に悩む光也の周りで、中学時代のクラスメートに次々と悪質な悪戯が行われるようになります。その悪戯は、中学2年生のとき、クラスでいじめの標的であったトロ吉の復讐なのではないか、そう考えた光也は、トロ吉を説得し、友人を守るために動き出します。しかし、トロ吉の居場所はなかなか見つからず、悪戯はエスカレートしていき…

テーマが「いじめ」である以上、明るい話にはなりようがないのですが、荻原さんらしくユーモアを交えて、読みやすく仕上がっています。それに、物語はそのいじめから4年後のものなので、ある程度客観的に、落ち着いた目線で、皆が「いじめ」をふりかえります。光也自身は、いじめの首謀者であった不良グループの亮太と友人だったために、いじめられることも、いじめに加わることもなく、野球に没頭していましたが、そんな光也でも、トロ吉へのいじめを止めなかったことに自己嫌悪を感じています。他のクラスメートたちも、似たようなものです。
「俺たち、そんなにひどいことしたかな。あの時は、しょうがなかったんだよ。自分だけやらないとクラスで立場がなくなっちゃうって感じで……」
程度の差はあれ、ここ数十年の日本の義務教育を受けた人なら、「いじめ」に関わったことのない人などいないのではないでしょうか。いじめの首謀者だった不良少年。彼が恐くてしたがったほかの少年達。いじめを告発した優等生。面白がって見ていた少女達。この本では彼らのそれぞれの心情を丁寧に描き分けていて、誰もがどこかで身につまされる、そんな本です。

ミステリーとして真相にはあっと驚きましたし、上手な小説だったのですが、クライマックスとそれに続く結末が、本当に悲しくて、切なかったです。でも、主人公・光也の、成長ストーリーとしては爽やかで、とてもよかった事が救い。ずっと、トロ吉に謝ろう、と思って動いていた光也ですが、最後には「勝手に人に頼るな。自分を救えるのは自分だけだ」と、思うようになります。「いじめはいけませんよ」みたいな単純で説教臭いメッセージで、終わらなかったので、ほっとしました。
| あ行(荻原浩) | 16:07 | - | - |
● アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎 
4488017002アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂 幸太郎
東京創元社 2003-11-20

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壮絶に面白かった・・・。さすが伊坂幸太郎さん!

初対面の美青年に「広辞苑を盗みに行こう」と誘われる、という最初の事件によって、ぐっと本に引き込まれ。例によって例のごとく、完全にミスリードされ、最後には、あっと驚いてしまいました。それに、構成の妙といいますか、バラバラだったパーツが収束して、謎が解けていく快感は、期待通りです。

それに、この作品の魅力はなんと言っても、テンポのいい気のきいた文章。会話の面白さには定評がある伊阪さんですが、この本ではその魅力が全開な上に、交互に語り手をつとめる「僕」と「わたし」の一人称の地の文が、もう本当に面白い。2人とも、特に変わった性格というわけでも、特に面白い思考回路の持ち主というわけではないのですが。普通の人の考えている事でも、伊坂さんが書くとなんでこんなにも面白いんでしょうか。

この本のテーマが何なのかは、読む人それぞれだと思うんです。テーマとか深く考えないで、面白く読めればそれでいい本だとも思います。でも1つだけ。

ブータンから来た、留学生から見た、私たちの国日本は、どんな国だったのでしょうか?それを考えると、なんだか悲しくなります。
| あ行(伊坂幸太郎) | 16:05 | - | - |
■ 死者の鼓動 山田宗樹
4048731556死者の鼓動
山田 宗樹
角川書店 1999-03

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テーマは臓器移植。移植しなければ助からない、と、診断されている心筋症の少女・玲香。彼女には、洋子という友人がいて、洋子は何かあった時に、自分の心臓が玲香に移植される事を願って、ドナーカードを作っていました。夏のある日、玲香はあと1月の命と言われるまでに病状が悪化。そこへ、事故で重症を負った洋子が運び込まれます。

洋子は奇跡的に一命を取り留めたとしても、植物状態になることは間違いなく、逆に死ねば(脳死になれば)、ドナーになるという望みをかなえる事ができます。(でも、玲香のドナーになれるとはかぎらず、そこが難しい所なんですが…。)玲香のほうは着実に死に近づいており、洋子の容態がはっきりする前に、玲香の心臓が持ちこたえられずに死んでしまう、(つまり、結局は2人とも死んでしまう)という可能性が高い、という状況です。

心臓外科医であり教授でもある玲香の父、その部下である助教授や看護婦達、臓器移植に反対する洋子の父、娘を愛する玲香と洋子それぞれの母親。様々な人物が、自分のエゴと良心の間で、人の命に関わる重大な決断を強いられることになります。探偵役としてストーリーを引っ張るのは、臓器移植コーディネーター、というあまり良く知らない仕事をしておられる方で、こんな仕事があるんだぁ、と、勉強になりました。

さすが、山田宗樹さん。はずれがないですねー。ミステリーとしても真相に驚かされましたし、色んな意味で読み応えがありました。ラストも、私としては、すごく好きです。

…でも、一人暮らしを始めたばかりの人間が、夜中に読むべき本ではなかったかも…。暗いし、重いし…。
| や行(山田宗樹) | 16:04 | - | - |
● 十八の夏 光原百合
4575234478十八の夏
光原 百合
双葉社 2002-08

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★★★★★

「花」をモチーフに使った4つの短編が収められた、ミステリー短編集。

温かくて、さわやかなだけじゃ物足りない。ドロドロしすぎて暗いのは、読んでいて辛い。そのバランスの微妙なさじ加減で、私はある作家さんを好きになったり、嫌いになったりするようです。私にとっての初光原百合作品であるこの本は、そのバランスが絶妙でした。好きです。

しいて言えば、加納朋子さんの小説に似ているような気がします。ミステリーだけど、ミステリー好きにオススメする本という感じではなく、恋愛小説でもあり、青春文学でもあり、といった感じです。4つの作品の印象が、すべてバラバラで、引き出しの多い作家さんだなあ、と、思いました。出会っちゃったなあ。期待できるなあ。

・十八の夏
予備校生の信也が出会った、最近よく土手で絵を描いている女性。ふとしたことから、その女性・紅美子と交流を持つようになった信也は、紅美子が「お父さん」「お母さん」「私」「僕」と名前をつけられた朝顔を育てている事を知ります。彼女にしだいに魅かれて行く信也ですが、彼女の朝顔には大きな秘密があって…。

ネタバレしませんが、ラストは、びっくりです。伏線はばっちりはってあったのに…目からうろこでした。

・ささやかな奇蹟
妻を亡くしてから息子を育ててきた男。私生児を生もうとしたけれど、死産で赤ちゃんを失った女。辛い過去と心の傷を持つ者どうしが、ゆっくりと新しい一歩を踏み出すまでの、心温まる物語です。息子と方言がいい味出してます。これをミステリーと呼ぶのはいささか無理がありますが…多少のミステリーは含まれています。花はキンモクセイです。

・兄貴の純情
演劇にすべてをかけ、親に心配ばかりかけている、「決断力はあるが、判断力に問題がある」兄貴。「判断力はあるが、決断力のない」おとなしい僕。ある日、兄貴が、とある女性に恋をして、その性格にしたがってまっしぐらに走り出したところから、物語は始まります。切ないけれど温かいラストがすごく良かったです。なんだかんだ言って兄貴思いで、弟思いの2人。兄弟っていいなあと思わせてくれる作品でした。

・イノセント・デイズ
この本の中で、一番ミステリーらしい作品。昔、1つの事故と1つの自殺と食中毒で、4人の大人が死亡し、二つの家庭が崩壊しました。残されたのは、当時まだ子供だった史香と、高校生だった崇の兄弟です。2人が通っていた学習塾の先生が、この物語の主人公。大人になった史香と再会した浩介は、意外な真相を知る事になります。

個人的には、この本の中でも、この作品がイチオシです。出だしの1段落がうまくて、あっという間にひっぱりこまれました。ロマンチストの浩介先生と、現実主義の志穂先生という夫婦の会話が絶妙です。まるで上記の私の小説観のようで、面白かったです。ミステリーとして、私をきちんと驚かせてくれて、うならせてくれて、でも希望の光が見えるという、ラストはとても好きでした。
| ま行(光原百合) | 16:02 | - | - |
● 君の名残を 浅倉卓弥
4796641335君の名残を
浅倉 卓弥
宝島社 2004-06-15

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★★★★☆

幼馴染みの白石友恵と原口武蔵は、それぞれに男女の剣道部の主将を務める高校生。小さい頃から共に剣の腕を磨いてきました。ところが2人はある日、友恵の友人由紀の弟・志郎と共に、平安時代末期の世界へタイムスリップしてしまいます。

コバルト文庫(女の子向けライトノベルの老舗です)に、きっとシリーズという倉本由布さんの歴史恋愛小説があります。かなり人気があって、20冊以上出たと思います。「君の名残を」を読み始めたとき、すぐにこのシリーズと重なりました。タイムスリップで過去に飛ばされた主人公が、歴史上の有名人と恋に落ち、結婚をし、子供を生み、気がつけば自分も、歴史上の有名人になっている。きっとシリーズの最初は、女子高生の濃子が、織田信長の妻・濃姫になるストーリーでした。この「君の名残を」では、友恵と武蔵という名前の2人が過去に飛ばされます。と、くれば、巴御前と、武蔵坊弁慶だな。と、大河ドラマの「義経」を見ているので、すぐに思いついてしまいました。と、なれば、2人が敵同士になってしまう、切ない系の恋愛小説なんだな。まるで少女小説!と、勝手に思ってしまいました。

前作「四日間の奇蹟」がかなり良かったので、期待していたのですが…。あれはまぐれかな、やっぱり2作目でコケたかなと、思いました。

ところが。ここでなめてかかってはいけませんでした。

この小説、この後、かなり骨太な歴史小説をちゃんとやっていくんです。「タイムスリップ」や「恋愛」の要素はあくまでもスパイスで、平家物語を元にした歴史小説の部分が大きい。過酷な運命を二重三重に背負い、苦しみながらも、義経を守って戦い続ける武蔵。愛する人(木曾義仲)の死という歴史上の事実に、懸命に逆らおうとする巴。後半では、意外に重要だった士郎の役割も明らかになります。ややご都合主義な感はありますが(まあ、ご都合主義でないタイムスリップ小説なんて読んだことないですけど…)、筆力があるので、どっぷりひたれます。文章に貫禄があるんですよね。いくつも賞を取った有名な作家さんが、新しい分野にチャレンジしたような雰囲気。これが2作目だなんて…絶句です。タイトルも素敵ですよねー。歴史小説に抵抗がない方には、オススメできます。

それから、私は女だからどうしても友恵ちゃん目線でばかり読んでしまったのですが、それはちょっと失敗でした。この本は、絶対に、武蔵君目線で読むべきです。絶対です。(武蔵君目線でも、と言うべきですね。)男性なら、そして女性でも武蔵君目線で読めば、この本のラストシーンは、感動ものです。
| あ行(浅倉卓哉) | 16:00 | - | - |
■ 1ポンドの悲しみ 石田衣良
40877468951ポンドの悲しみ
石田 衣良
集英社 2004-03-06

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石田衣良さんの恋愛短編集。あとがきによると、「三十代前半の、まだ恋愛に迷っている人たちの物語」だそうです。

・ふたりの名前
同棲中の朝世と、俊樹には、それぞれの持ち物にイニシャルをつけておく、という習慣があります。それは、別れる時にもめないためにと始めた事で、2人ともそれに不満はありません。最初は家具や家電にだけつけていたはずのイニシャルを、今ではスーパーで買った卵にまでつけています。

そんな2人の生活に変化をもたらすのが、飼う事になった一匹の子猫です。はじめて2人の生活に、イニシャルをつけることのできないものが入ってきたのです。まだ名前もつけていないこの子猫が、2人にどんな影響を与えるのか?

素敵なお話でした。これは子猫っていうところがポイントですよねー。もっと一般的に、妊娠しちゃった、というお話なら現実にもよくある(そしてあんまり読みたくないような)つまらない小説になってしまう。子猫というところに、夢があって、よかったです。

・秋の終わりの二週間
夫の方が14歳上、という年の差夫婦の物語。誕生日が2週間違いの2人は、その一週間だけ1つ年が近くなり、夫はその2週間とても嬉しそうなのです。この夫婦には末永く、幸せでいて欲しいと思いました。でも、こういう性格の男性って、早死にしそう。奥さんは、第二の人生をとても長く生きるような気がします。女性はそういう意味ではタフですから、2人ともそれぞれに幸せな一生をおくれるんじゃないかな?



印象的だったのは、上の二つです。全部で10の短編が入っていますが、ほとんどが、「素敵な物語」でした。これはもちろんホメ言葉ですが、少しだけ「リアリティがない」という意味合いも含んでいます。ロマンチックすぎるといいますか…。全体的にトレンディドラマみたいでした。男性はみんなそこそこ「かっこよさげ」な仕事をしている。女性はみんな、恋愛のことで悩んでいる。現実はもう少し厳しいよね。実際の30代前半付近の人が読むより、もっと若い人が読んだ方が楽しめるかもしれませんね。小学生の女の子が、中学生や高校生が主人公の少女漫画を楽しむように。

それから、タイトルですが。確かに目次を見ると、本のタイトルにふさわしいようなものはこの「1ポンドの悲しみ」しかありません。これがタイトルになるのは当然です。でも、タイトルが素敵だからといって、これを真っ先に読んだり、これに期待をかけたりするのはやめたほうがいいです。この本の中で、この小説だけが浮いています。ロマンチックなラブストーリーばかりの本の中に、8割がセックスシーンの小説が1つだけ紛れ込んでいるんです。かなり違和感がありました。小説自体がどうこうではなく、この短編集の中に入っているのはどうなんだろう…って。
| あ行(石田衣良) | 15:59 | - | - |
● センセイの鞄 川上弘美
4167631032センセイの鞄
川上 弘美
文藝春秋 2004-09-03

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38歳のツキコさんと70代のセンセイの、大人の恋愛を描いた作品。30歳以上の年の差があり、センセイには「亡くなった妻」や「老い」が付きまとっています。それに「死期」も身近な存在です。そんな2人が、季節の移り変わりと共に、静かに愛を育んでいく様子が描かれています。

川上弘美さん作品は、以前に一度だけ読んだ事があって、タイトルは忘れてしまいましたがその本は、私には合わなかったんです。嫌い、と言ってもいいくらいに。だから、ずっと敬遠していました。でも、この作品の評価があまりにあちこちで高いので、思い切って読んでみました。

すごく良かったです。不覚にも感動してしまいました。いつまでも子供のような不安定さをかかえたツキコさんと、いつも落ち着き払っているのに、すごく不器用なセンセイの会話に、とても温かい交流を感じました。ラスト数ページで時間が少し飛んでいることや、「センセイの鞄」というそのまんまのタイトルの意味も、物足りなさではなく、「うまい、やられた、感動だ!」と思えました。
| か行(川上弘美) | 15:57 | - | - |
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