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● 悪童日記 アゴタ・クリストフ
悪童日記悪童日記
アゴタ クリストフ 堀 茂樹

早川書房 1991-01

面白かった!の一言ですむような本ではないけれど、面白かったと言うしかないでしょう。背景は暗いし、テーマは重いし、エピソードのどれもが後味悪いのに、一気に読まされてしまいました。なんか、すごい衝撃的なものを読んでしまったぞ!私は最近までこの本の存在すら知らなかったのですが、世界的な大ベストセラー小説だそうですね。

第二次世界大戦末期のヨーロッパ。「大きな町」では空襲が続き、主人公である双子の兄弟「ぼくら」は戦禍に追われ、国境近くの「小さな町」に住む祖母に預けられます。祖母は近所の人から「魔女」と呼ばれ、夫を殺したという噂もある恐い人。働き者ではあるけれど、ケチで、不潔で、「ぼくら」に優しくしてはくれません。「ぼくら」は二人だけで、生き抜くために戦うことになります。

「ぼくら」は学校に行けなくなった分、作文の練習を自分たちでしており、それがこの日記になっています。作文には真実のみを記載しなければならない、という厳格なルールがあり、そのためこの物語には、具体的な感情表現がなく、「ぼくら」の一人称であるにもかかわらず、客観的な描写のみですすめられます。

そんな文章であり、子供の作文でもあるので、一章一章が短く、本の厚さの割にエピソードが多く、濃厚です。そして刺激的です。「ぼくら」は、まずは生き抜くために、あるときは自分たちなりの正義感のゆえに、そしてときには、もしかしたら愛情ゆえに、犯罪行為を淡々と重ねます。「ぼくら」は、痛みや悲しみを感じないよう、感覚のある部分が麻痺するように自分たちを鍛練し、それにともなって「ぼくら」の犯罪行為も、子供らしくも人間らしくもない、恐るべきものにエスカレートします。

この物語の背景として描かれている戦争や、それによる人心の荒廃や、ホロコーストや、東ヨーロッパの政情不安の描写がリアルです。訳者による脚注が、さらに歴史的な正確さを感じさせてくれています。このリアリティがなかったら、この物語は単なるエログロ小説にしか見えず、私は受けつけなかったかもしれません。でもこの本は、大量の刺激を提供することで読者に媚びた、ただのエログロエンターテイメントとは、一味も二味も違います。

化け物じみて冷徹で、非情で、残酷なものになっていく「ぼくら」ですが、序盤では、子供らしさや、寂しさをにじませてしまう箇所があり、その部分が印象的でした。たとえばあるとき「ぼくら」は、自己鍛練の一貫として乞食の練習をするのですが、物をくれた人たちのほかに、髪をなでてくれた女性がいました。二人はもらったものは全部捨ててしまうのですが、「髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。」と書きます。切ないな〜。

訳者によるあとがきが、この本の背景についての説明という形式でありながら、物語の多角的な分析にもなっていて、とても良かったです。あれを読むと、私が書くべきことなど、もう何もなし、という気になります。

ただ、ラストの意味がわかんなかったんですけど・・・それって私だけ?どうして「ぼくら」は分かれたの?三部作の続きを読めばわかるのかな?
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