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■ 赤い指 東野圭吾
赤い指赤い指
東野 圭吾

講談社 2006-07-25

なんと、ネタバレなしでがんばりました!難しかった!

ごく普通のサラリーマン、前原昭夫の家族は、息子を溺愛する妻と、15歳のひきこもりの息子と、痴呆症の母親の4人。嫁姑の不仲は息子が生まれて以来ずっと続いており、昭夫の妹が母親の面倒を見に通って来ています。問題だらけで、とっくに幸福とは言えなくなっていた家庭に、ある日、さらに事件がおこります。息子が見ず知らずの少女を、自宅のリビングで殺してしまったのです。息子の将来を守り、自分の身を守るために、両親は必死で知恵を絞ります。そして、恐ろしい計画を考えつくのです。

少年犯罪が起こるたびに、「親の顔が見たい」と多くの人が言いますが、実際に見たらこんな感じなんだろうと思います。あきらかにダメ親だけど、じゃあ、他の人とそんなにも大きく違うか、と言ったら、そんなことはない。家庭内の問題を積極的に解決しようとせず逃げるばかりの父親も、息子を溺愛し甘やかすばかりの母親も、よくいる。どこにでもいる。本当にたくさんいる。この家族の人物造形や人間関係は、非常にステレオタイプなのですが、それでもリアルだな、と思えました。

本の厚さが倍くらいになりそうですが、もうちょっと家族一人一人の背景や心情に踏み込んで欲しかったような気もします。でも、そうしなかったことには、何か理由があるような気もしています。たとえば、犯罪の当事者である息子の内面や、引きこもりの背景にはほとんど触れていないのは、明らかに不自然ですもんね。加賀恭一郎シリーズであることが、その理由なのでしょうか。

直木賞受賞第2作ということで、「容疑者Xの献身」で初めて東野作品を読んで、「赤い指」が2作目だ、という人も多いかと思います。また、東野圭吾作品を以前から読んでいた人も「容疑者Xの献身」と、比較したくなるのは当然だと思います。そして、ある人は「期待はずれ」だと思うのかもしれません。実際、「赤い指はハズレだ」というメールやコメントを、わたしあてにくださった方が複数いらっしゃいます。(悪意があるとは、思いたくありません。)

そしてわたしは、どう感想を書こうか迷っています。少なくとも、わたしにとっては「期待はずれ」ではない本でしたから。どちらかというと「期待どおり」。社会派の重いテーマを扱いつつ、読みやすいエンターテイメント小説であり、必要なリアリティは備えているけれど、読者へのサービス精神を忘れない。とても東野さんらしい本でした。

(どちらかというと、「容疑者X〜」が、東野さんらしいとは言えない本だったんですよね。特に、犯人の動機の爽やかさが、まったく東野さんらしくない。東野さんの小説に出てくる殺人は、動機がエグく、人間らしい欲にまみれていて、だからこそリアルな事が多い。そういう作家さんだと思います。)

東野作品の中でベスト3に入るような作品か、と言われれば、たしかにそこまで良くはなかったし、欠点だってあるんだろうけど、公平に見て、レベルの高い小説だったと思います。少なくとも、ハズレ、なんて言われるほどひどい小説ではない!

でも、「期待はずれ」と言われる理由もわかるのです。「容疑者X〜」で初めて東野作品を読んで「赤い指」を読みたくなった人は、アクロバティックなトリックに、「あっと驚く」事を期待されたのかもしれませんね。「赤い指」にも終盤でのどんでん返しはありましたが、それは簡単に予想できるもので、「あっと驚く」という点では「容疑者X〜」に負けますよね。

でもこの点で、「容疑者X〜」と「赤い指」を、比べてはいけないと、わたしは思います。東野さんは、引き出しの多い作家さんですが、この2つの作品は、違う引き出しに入っている本だと思うからです。事件が最初に提示され、犯人が最初から分かっているという点で、また、解決編が、あざとい泣かせのエピソードと同時に描かれるという点で、似ているように見えるかもしれませんが、この2つの小説はジャンルが違います。「容疑者X〜」は、倒叙式の本格ミステリィであったのに対し、「赤い指」はある家族の2日間を描いたサスペンスです。「赤い指」にも、どんでん返し的なものはありましたが、それは一流のエンターテイナーの読者サービスであって、この本の中心的な魅力ではないでしょう。「赤い指」と同じジャンルに入ってくるのは、「レイクサイド」や、「手紙」や、「さまよう刃」あたりですよね。「赤い指」は、ミステリィの形をとった、社会派の問題提起小説です。

純愛とか、感動とか、泣けるとか、そんなことを期待された方もいらっしゃるのかもしれませんね。その件に関しては、もう、テーマが違うので、感動するかどうかは人それぞれですよね。そもそも主役が幼児殺しの加害者側なのですから、彼らがどんなに感動的な行動を取っても、彼らに全面的に同情したり共感したりすることなんてできないでしょう。(わたしは、加賀刑事のプライベート部分のエピソードでは感動してしまったのですが、わたしだけかなあ。ある程度予想はついていましたが、看護婦さんとの将棋のエピソードは、やっぱり感動的なエピソードだと思うんですけど・・・。泣けませんでした?)

「容疑者X〜」を気持ち悪いとしか感じられなかった人がいるように、「赤い指」に感動できない人がいてもしょうがないですよね。わたしも、事件の加害者の家族のエピソードは、出来すぎのオチがちょっとあざとい気がして感動で泣くというところには至りませんでした。でも、そこが東野さんらしいし、わたしは嫌いではありません。

というわけで、直木賞受賞第2作と、帯には大きく書いてあるものの、内容は、2匹目のどじょうなんて、全然狙ってない作品だと思いました。原型は1999年に書かれたものだそうですし。(本来なら、2000年に刊行された短編集「嘘をもうひとつだけ」の中の6つ目の作品になるはずだったんですが、東野さんご自身の意向で、長編になったそうです。)。しかも、加賀恭一郎シリーズです。新しい読者を獲得できる大チャンスに、長く続いているシリーズ物を持ってきてしまうなんて、欲がないというか、それでも売れるという自信のあらわれか・・・。

「赤い指」は、最近の東野圭吾作品らしさ満載の本。これは、読者をふるいにかける小説だなあ、と、思いました。東野圭吾さんという作家をこれからも追いかけるのか、「容疑者Xの献身」という1冊の本だけが好きなのか。「赤い指」は、非常に東野圭吾らしい小説なので、これを読むことで読者それぞれにとって、はっきりするのではないでしょうか。わたしはこの姿勢はいさぎよくて好きでした。出版社の姿勢なのか、東野さんの姿勢なのかは、わかりませんが。

とりあえず、加賀恭一郎ファンは、絶対に読むべき1冊。これだけはたしかです。ああ、あの加賀君も大人になって・・・
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