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■ 盗作 飯田譲治 梓河人
盗作(上)盗作(上)
飯田 譲治

講談社 2006-01-28

盗作(下)盗作(下)
飯田 譲治

講談社 2006-01-28

平凡な女子校生の彩子は、ある日夢に見た光景に激しく突き動かされて、たった一晩で一枚の絵を描きます。彩子にはもともと絵心などなく、デッサン力では美術教師に中の下と評価されるような腕しかありません。しかし、その日に書いた絵は絶賛され、多くの人を感動させ、大きな賞にも入選してしまいます。ところがその絵は、何年か前に発表されたモザイクアートと、まったく同じものだったことが、クラスメートで画家を目指す、紫苑によって明らかになります。彼女の作品には「盗作」のレッテルが貼られてしまいます・・・。

この体験を皮切りに、芸術と創作に振り回されて波乱の生涯を送ることになった彩子の一生を描いています。エンターテイメント小説としてはとても面白くて、長い話なのに読みやすく、スラスラ読めます。

「アナン」から連なる物語なのですが、スピリチュアル・ファンタジーという側面は、迫力が弱まった気がします。「アナン」では、あえて説明しないことで、読者が「何だかよくわからないけど、何かすごいものなんだろうなあ。」と思わされた、「アナン」「盗作」の世界での芸術や創造の本質というものを、一生懸命言葉で説明しようとしたのが、この「盗作」という本だと思います。言葉で説明できないものを、何とか言葉で説明しようとした結果、魅力が伝わらなくなってしまった、と感じました。(あ、でも、そういう点での描写には、努力賞をあげたい気はします。がんばってました!)

だから、「アナン」のそういう面に魅かれた人は、「盗作」は好きじゃないだろうなあ、と、思います。でも私は、「アナン」の超現実の部分にはあまり魅かれなかったので、「盗作」の、創作とは何かというテーマのほうが好きでした。「アナン」は、私もそれなりに好きな本ですが、主に、アナンと父親との強い絆や、アナンを愛する周囲の人たちとの温かい交流が印象的で、それから、アナンの父親のドラマチックな生涯にも引き付けられて、そこが好きだったんです。アナンの天才性や、その作品に普通ではない力が宿っていることなど、スピリチュアル・ファンタジーの部分は、特に好きではありませんでした。だから、この「盗作」のほうが、そういう意味では楽しめました。

私もこの本にあるように、本物の創作に必要なのは、まず第一にキャッチャーとしての能力ではないかと思います。もちろんそれは、スピリチュアル・メッセージだの、サイキックだの、世界を動かすエネルギーの流れがどうのこうのといった、怪しげなものではなく、もっと単純に、誰もが持っている「感受性」というものとほとんど同じです。感じる力の強さと、それを形にしたいという強い意志が、創作には最低限必要ですよね。その部分までは、この本でも描かれていて、うんうん、そうなのよねー、と、納得しました。

ただ、本当はそこから先が長い長い、創作と芸術の世界の苦悩だったり、醍醐味だったりするんだと思うんですよね。技術を身につける努力や、たった一つのパーフェクトを目指して創意工夫をくりかえす過程という、創作の99%を占める部分を、この本では奇跡的なものとして扱っている事が、私は気に入らなかった。でも、そこを否定してしまうと、この本の設定も物語の展開も、根底から否定しなくてはいけなくなるので・・・。これは私の個人的意見として置いておいて、この物語はこの物語として、楽しみました。でもやっぱり、彩子はしょうがないとして、せめて紫苑さんが積み重ねたであろう努力の部分に、もう少しスポットをあててくれたら良かったのに、と、思いました。

で、ですねー。正直に言ってしまうと、それ以外の部分では、「アナン」のほうが、良かったように思います。両方ともファンタジーなので、ありえない物語なのはあたりまえなんですけど、「アナン」のほうが、現実感と非現実感のバランスが良くて、読みやすかったんです。最初のホームレスさんたちの生活がやけにリアルだったので、ファンタジーなのに、本当に「アナン」の世界の人々がどこかに生きている様な気がしてしまい、色んな人に感情移入して読めました。アナンの周囲の人々は、それぞれに個性的で魅力的な人物でした。アナンの才能がモザイクアートというマイナーな1つの方向だけに発揮され、少しずつ成長していくのも、天才を描いているとはいえ現実的で、アナンの作品が実際にどこかにあるような気がして、それを見てみたいと、強く思いました。

でも「盗作」は、その始まりの、咲子が絵を描くシーンからしてありえない話だったのはしょうがないのですが、それ以後もずっと、ありえねーって思うばかりで、現実感がありませんでした。それにこれも物語の展開上しょうがないのですが、咲子がとにかく普通すぎて。小さい頃から我がなく、成長してからも自分を抑えてばかり、だなんて、とても魅力的な主人公とは思えません。咲子の周囲の人間関係も、物語のために配置されたような現実感のない人々で、それぞれの人物の描写が薄かったです。かろうじて描けていたのは紫苑さんくらいですよね?カヅキや桜など、もっと印象に残っていてもいいはずの登場人物もいたのですが・・・いまいち。それに、絵画、音楽、小説、って読みすすめればすすめるほど、芸術のジャンルが広がり・・・ありえなさすぎて呆れましたし、踏み込みが浅くてしらけました。歌詞や小説のあらすじが書いてあるのですが、それがけっこうありがちで、この本で描かれているような特殊な魅力を感じ取ることもできなくて・・・。ノーベル賞を受賞するあたりですっかり冷めてしまいました。

あ〜。けなしまくっていますが・・・とても面白かったんですよ。それは間違いないです。
| あ行(その他の作家) | 14:05 | - | - |
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