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■ 無言歌 赤川次郎
無言歌無言歌
赤川 次郎

新潮社 2006-07-20

書評系、あるいは、読書日記系のサイトやブログを作っておられる方で、赤川次郎さんの本について、きちんと書いている方は少ないですよね。儲けすぎて、ひがまれてるのかな?(笑)。赤川次郎=なんとなくお子様向けっていうイメージで、もう卒業しました、って感じなのかな。刊行作品数が多すぎて読みきれないから放棄!なのかな。多作だから、内容は薄いだろうっていう先入観かな。わたしは、ずーっとファンなんだけどな。

でもよく考えたら、このブログにも赤川本の感想は1つも書いてないんですよねー。読んではいるんですけど。で、今回読んだこの「無言歌」は、赤川本の中でも読み応えのある1冊だったので、感想を書いてみます。

柳原教授は、教え子だった晶子との不倫をおわらせたばかりですが、未練が残っており、毎日彼女からのメールを待つ日々です。事件は、柳原の娘、真由美の結婚式の当日におこります。その日の朝、柳原の携帯に晶子から、自分も今日結婚式をあげるから、これが最後のメールです、という連絡が入りました。しかし、晶子は、披露宴の途中でなぜか、失踪してしまったのです。

警察の捜査が始まります。柳原の妻である昭子と次女の亜矢は、娘の結婚式の最中だというのに、柳原の姿がしばらくの間見えなくなっていた事に気がついていました。晶子の失踪に、柳原が何か関係しているのか?もしかして柳原は、晶子を殺してしまったのではないだろうか。2人は口にだせないまま、それぞれに悩みます。

晶子はどこにいるのか?この失踪の原因は?崩壊寸前にしか見えない家族の将来は?

この本のテーマは、不倫、かな?違うなあ。たくさんの不倫が描かれているけれど、テーマはたぶん、夫婦、ですね。

柳原と晶子の不倫が事件の始まりでしたが、よりじっくりと描かれているのは、柳原と、妻である昭子の関係です。高校生の娘、亜矢の目からは理解できない部分も多いのですが、長年連れ添った夫婦には、2人の絆がちゃんとあるのです。でもそれは、信頼関係というのとはまったく違っていて、2人はお互いに対する秘密を持ちながら、お互いに相手を信じないままで、学部長選の選挙運動に向けて、協力し合っていきます。

真由美の結婚相手は、父の部下にあたる馬渕という男でしたが、彼にとってこの結婚は、出世戦略の一環に過ぎなかったようです。教授の娘婿になることで、なんらかの恩恵を得ようとしたのでしょう。結婚したとたん、教授の出世欲をあおり、学部長選挙に関して小ずるいところを見せはじめる馬渕に、真由美は違和感を感じます。そして、馬渕も女子学生に手玉にとられ、義父と同じように、不倫にはまってしまいます。この夫婦の間には、愛も、絆も、なかったようですね。

亜矢の友人、純子も、妻子ある男性との恋に傷つきます。純子は、彼の子供をおろさなければなりませんでした。相手は、中絶費用をきちんと払うことさえしません。彼の妻は、自分の夫が女子高生と不倫をし(しかも初めてではないらしい)、妊娠させ、中絶させた、そのすべてを知っていても、彼を放そうとはしません。彼の妻は、すべてが終ったあとで、夫の子供を妊娠した自分の姿をわざわざ亜矢と純子に見せにあらわれます。この2人は、子供という絆でつながっているのでしょう。妻のほうが、そう信じたいだけなのかもしれませんが。

基本的にはサスペンス小説でしたが、晶子と結婚するはずだった加賀との関係、また、加賀が晶子の失踪後に愛し始めたやよいという女性との関係、など、サイドストーリーもあり、男女のドロドロ劇と修羅場が満載の1冊です。事件は解決し、穏やかな日常が戻ってくるまでを描いてはいますが、ハッピーエンド言えません。それでも、赤川次郎さんが描くと、なぜか読みにくくはない。ドロドロなものを、ドロドロに、ドロドロとしてきちんと描いているのに、読後感は、ドロドロではない。すごいバランス感覚ですよね。上手い!

この本の場合、読後感を良くしてくれているのは、柳原家の次女、亜矢の正義感や、純粋さだと思います。それから登場人物の造形のバランスもいいんですよね。美人で、お嬢様育ちで、正義感が強い女性なんて、普通に書いたら女性の反感を買いそうですが、そういう登場人物には、賢さと不器用さを持たせて、読者が応援したくなるような愛すべき人物が出来上がっています。不倫をする男も、出世のために不正を行い、それに妻を加担させる男も、許しがたいですが、最終的には、単なる間抜けでヘタレである事が明らかになるので、憎みきれない人たちです。

この作品に限らず、赤川次郎作品では、人間の悪いところが「弱さ」として描かれていることが多くて、だからどんなにドロドロでも、読後感が良いんでしょうね。

赤川本は、ライトで、爽やかな作品のイメージが強いですけど、実際には、ほとんどの作品が爽やかとはとても言えないし、ハッピーエンドとも言えないし、読みやすいだけで軽くもない。一作一作をきちんと読めば、今、世間で高い評価を受けている、大衆文学系の作家さんたちの代表作と比べても、見劣りしないレベルだと思います。コンスタントに、良作を発表し続けて、それが膨大な量になってしまったことが、なんとなく彼のマイナスになってしまったようで、私は残念です。まあ、押しも押されもせぬ人気作家で、マイナスなんて何もないと言えば、何もないですけどね。
| あ行(その他の作家) | 09:06 | - | - |
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