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● 静寂の子 谷村志穂
静寂の子静寂の子
谷村 志穂

祥伝社 2006-07

北海道で、子供相手の学習塾兼、自然体験ツアーの企画運営を営む「Burns」。「Burns」は、アウトドア体験の豊富な夫、靖季が主催者であり、中心人物です。妻である百合香はお嬢さん育ちで、両親にはろくな学歴もない靖季との結婚を反対されていますが、まっすぐに彼を慕い、常に夫として彼を求め、彼との間の娘を大切に育てています。

物語は、「Burns」のメンバーであった戸田勇の水難事故死から始まります。勇の二人の子供が「Burns」に通っており、それをきっかけに勇も、水への恐怖心を克服し、泳げるようになったのです。しかしある日、勇は、1人で危険な海に潜り、なくなってしまいます。

この事故に責任を感じた靖季が、百合香や娘と距離をおきたいと考え、勇の未亡人である理津子と、その子供たちを慰めようとして、彼らに接近していった事から、2つの家族にも、「Burns」にも亀裂が生まれ、人間関係がそれぞれすれ違っていきます。

靖季、という人物は、「すべての人に愛を与えたい」などという、実際には不可能な理想論を口走ってしまうロマンチストでありながら、やっていることはその場その場の感情に流されるだけの「少年の心を持ち続けている」人です。私はかなり早い段階で、カリスマ的な存在でみんなの憧れであると描写されている彼を、嫌いだな、と、思ってしまいました。でも、この小説の前半部分では、靖季は勇の死に責任を感じ、彼の遺族を思いやる善意の人として描かれます。

一方、彼の妻、百合香は、夫がいない寂しさを、他の男との肉体関係で埋め合わせようとするような女として描かれていきます。靖季からすると、ヒステリックで情緒不安定で、娘の面倒もろくにみれない、やっかいな女として描かれます。そして、対照的に、勇の未亡人である理津子は、女性らしい、しなやかなたくましさを持った、魅力的な人物として描かれます。靖季はみるみる理津子に魅かれて行きますが、あくまでも善意の人である靖季は、理津子と不倫関係をもとうなどという下心はない、ということになっています。

ああ、本当に靖季ってダメ男じゃん!だからって、百合香もダメじゃん!・・・というわけで私は、個人的に、前半を読んでいる間、主人公の二人に不満だらけでした。このまま靖季が理津子とくっつくようなことがあったら、この本のことは永遠に忘れてしまおうと思ったくらいです。私、靖季タイプの人間を個人的に知っていて、その人の身勝手に、かなり迷惑した経験があるので、「一見、善意の人。でも実は、勝手な人。」って本当に嫌いなんです。

でも、さすが、谷村さん。主要登場人物それぞれの深層心理をちゃんと描き、それぞれにエピソードを与えてちゃんと成長させ、さりげなく視点を逆転させて、私の不満を解消してくれました。北海道の自然を背景に読後感の良い物語に仕上がっていました。ラストシーンはかなり型どおりでしたが(「余命」に雰囲気が似すぎ・・・)、いい本でした。

| た行(谷村志穂) | 07:48 | - | - |
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