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■ ひかりをすくう 橋本紡
ひかりをすくうひかりをすくう
橋本 紡

光文社 2006-07-21

とてもいい本でした。癒される本でした。

グラフィック・デザイナーの智子は、仕事にいつも全力投球。手を抜く、ということができませんでした。過密スケジュールのストレスの多い生活を続けるうちに、ある日、パニック障害の発作を起こします。

最初の発作のときたまたま居合わせ、病院に付き添ってくれた同僚の哲ちゃんと、同棲するようになった智子。哲ちゃんは、仕事を辞め、主夫として家事をこなし、智子の負担を減らそうとしてくれています。病院でたくさんの薬ももらっています。それでも、智子はもう限界で仕事を続けることができません。智子は仕事をやめ、2人はマンションを引き払い、しばらく田舎の小さな街で静かに暮らすことにしました。

哲ちゃんと、不登校の中学生小澤さん、小澤さんが拾ってきた子猫のマメとの地味な暮らし。それがゆるゆると、少しずつ、智子の心を落ち着かせてくれます。穏やかに流れる日常が、智子には、何よりの薬でした。

そんな生活を静かな筆致で描きながら、現実の不安要素をちらちらと見え隠れさせる、著者の手法が上手いです。経済的な不安、智子の病気、智子と父親との確執、マメは猫エイズのウイルスを持っているし、離婚歴のある哲ちゃんの過去を、智子はすべて知っているわけではありません。

そして、ある日、哲ちゃん元妻と、智子が対面することになり・・・。

期待に答えなければならない、仕事で結果を出さなければならない、負けて故郷に帰りたくない。周囲から追い詰められているようで、その実、自分で自分を追い詰めている。現代人は、どんな立場にあっても、多かれ少なかれそういう部分があるのではないでしょうか。智子のように、それをやめることができたら、いいですよね。そしてそれにはたぶん、この本にあるように、手作りのもので暮す地味な生活とか、数少ない人たちとの穏やかで暖かな関係とか、小さな動物との触れ合いとか、そういうものが効くんだろうなあ、と、思います。

タイトルもとても素敵ですね。本当に、いい本でした。

でも、あまりにも現実ではない本だったなあ。この本は、リアルじゃないを通り越して、まったくのドリームでした。それは、この本に関しては、減点対象のように感じました。

智子のように働く女性はみんな、私にも哲ちゃんを1人ください!と、思うことでしょう。でも、哲ちゃんのような男性(自称、ではなく、女性から見て、ね。)は、日本中探しても、まずいないだろうなあ。智子の不安定な心も、小澤さんの幼い恋心も、包み込んでしまう包容力。威張らず、いつも穏やかで、優しくて、気が利いて、裁縫から料理まで家事は万能。そしてまっすぐ智子を愛してくれる。働く女性・・・だけじゃないよなあ。どんな立場であっても、一家に一台哲ちゃんを(笑)!ですよねー。

それに、ドロップアウトしたとはいえ、智子には才能があり、彼女の才能を認めてくれて、いつでも、いつまでも待っていると言ってくれる人たちがいます。いつでも戻りたければ仕事に戻れる環境が整っているんです。パニック障害の発作も、仕事を辞めてからはほとんど出ておらず、この手の病気にしては、比較的短期間で治ってしまいそうな気配。それに、物語の中で智子には、父親の遺産というのが転がり込んできてしまい、ますます恵まれた環境に・・・。ここまで来ると、やっぱりドリームですよね。

特に、遺産エピソードは余計だった気がします。絶対に必要というわけでもないエピソードだったので、そのせいで、後味がにごった気がします。智子に共感し、同情し、応援しながら読んでいたんだけど、最後の最後で「うらやましーぜっ。けっ。」っていう気持ちが、ちょっとだけ勝っちゃったのが残念。
追記 : 橋本紡さんって、男性だったんですねー。てっきり女性だと思っていたので驚きましたが、それ自体は別に、どうでもいいんですけど・・・。この本が自伝的小説だというのがどうも・・・。著者が智子に自分を投影しているのであれば、好感度が上がりますが、哲っちゃんに自分を投影していたら、私の中で、好感度がた落ちです(笑)
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