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● クラインの壷 岡嶋二人
クラインの壷クラインの壷
岡嶋 二人

新潮社 1989-10

わたしは、岡嶋二人の解散前からのリアルタイムのファンでした。でも、この本は再読ではありません。岡嶋二人名義で発表された、最後の作品であるこの本を、今まで読まずにいたのには、ちゃんとわけがあるのです。

そのわけを書く前に、一応、内容紹介を・・・。

ヴァーチャル・リアリティをテーマにしたミステリィ。その割に、今読んでも古くは感じないのが、さすがです。専門用語や、そのVR装置についての仕組みを詳しく描かなかったことが、時がたってみれば勝因かもしれません。でも、そのあたりをもっと緻密に、具体的に描いていれば、SF小説としてのリアリティを持たせられて、もっと高い評価が得られたのかも。瀬名秀明さん風に。でも、そういう小説は読者層が偏るし、早く古くなりますから、この本はこれでいいんだと思います。

とても面白かったです。ラストのなんとも言えない読後感も、けっこう好きでした。

さて、この本をわたしが、珍しく積読していたのは、この本のせいです。

おかしな二人―岡嶋二人盛衰記おかしな二人―岡嶋二人盛衰記
井上 夢人

講談社 1996-12

本当に悲しい、悲しいエッセイなんです。

基本的に図書館派で、新刊本にすぐ手を出すタイプでもない私は、「クラインの壷」を読む前に、この本を読んでしまいました。そして、ものすごく嫌な気分になりました。

どのように2人で1つの小説を作っていたのか、というのはずっと気になっていたことだったので、その秘密が明かされたこの本は興味深く読めましたし、2人の貧乏青年が、江戸川乱歩賞を受賞するまでの前半部分「盛」は、青春と友情、って感じで、楽しく読めました。

でも、2人が作家として忙しくなってから、解散に至るまでのいきさつが赤裸々に書かれた後半部分「衰」は、感じが悪かった。あまりに赤裸々なので、エッセイではなく小説みたいに、心情は伝わってきました。解散の理由は、「そう思っちゃったら終わりだよな〜」って感じで、ファンだったわたしも、解散に納得せざるを得ないようなものでした。結局のところ、感情的なすれ違いを繰り返して、人間関係が仕事によって壊れてしまう本で、まるで夫婦の離婚劇を見るような一冊でした。とても悲しかった。

でも悲しいだけじゃなくて、感じが悪かったんです。それはこの本が、すべて、井上さん側からしか語られていないからで、徳山さんにだって、これを読んだら言いたいことはたくさんあるだろうなあ、と、思うと、あまりにフェアじゃない気がして、当時の私は、かなり滅入ったのでした。

そんなわけで、わたしは井上夢人作品はもう読まない!と、決めて、で、実質井上さん1人で書いたという、この、「クラインの壷」も、読めなくなっちゃったんですよねー。

今思えば、私も、若くて真面目だったなあ。

この本に書いてあることは、井上さんにとっては、真実なんですよね。そして、それを公表することは、作家としての井上さんの実力を証明することでもあり、井上さんがこの後1人で作家として生き残っていくためには、色んな意味で、必要だったんでしょう。自分の弱さやずるさをさらけ出しても、あくまで「仕事をする男」である井上さんを、今ならそんなに悪く思ったりはしません。

それに、たとえば井上さんが夫で、徳山さんを妻と考えれば、徳山さんが何も語らないのは最後の愛情って感じもします。言いたいことはたくさんあったんだろうけど、相手に拒絶された以上は、井上さんの今後の仕事の邪魔は、あえてしなかったんでしょうね。

これを夫婦の離婚と考えると、「女」は、前の恋人をふっきるのに、「男」ほどの時間はいらないんですよねー。どれだけすがってもダメで、完全に終ってしまったら、女は男ほどひきずらない。ひきずりたくない。思い出したくもない。本を書くなんてとんでもない。早く忘れたい。忘れちゃえ!!!って、女はそんな感じですよね。

まあ徳山さんは女じゃないですけど、もう小説は書かない事にした彼が、何も語らなかったことも、それでも井上さんがすべてを語ることを許したことも、なんか今なら納得できます。徳山さんが別の業界で、きちんと成功しているといいなあ。

そんなわけで私は、最近井上夢人作品を読むようになりました。「岡嶋二人盛衰記」も、今読むと、大変面白いエッセイだと思えます。

そしてわたしは、「クラインの壷」を、このたびやっと読んだのでした。

おしまい。

それにしてもこの文章は、本当に「クラインの壷」の感想なんだろうか・・・。
| あ行(その他の作家) | 07:44 | - | - |
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