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● 脱出記 スラヴォミール・ラウイッツ
脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち
スラヴォミール ラウイッツ Slavomir Rawicz 海津 正彦

ソニーマガジンズ 2005-09

わたくし、またまたすごい本を読んでしまいました・・・。

時は、1941年。第二次世界大戦の真っ最中です。主人公は、ポーランド人のスラヴォ。彼は、スパイではないか、という言いがかりをソ連につけられ、ひどい拷問を受けます。それに耐えて、自分はスパイではないと言い続けたにも関わらず、結局は、シベリアでの強制労働25年という刑を言い渡され、収容所送りになりました。

この本は、彼がシベリアの強制収容所から、6人の仲間たちと共に脱出を企て、6500キロあまりの道のりを、1年以上かけて歩き、「自由の国」インドにたどりつくまでの物語です。本の最初に、彼らの逃走ルートがのっているのですが、それを見るだけでも、この旅の過酷さがわかります。はじまりは、極寒の地、シベリア。それを南下してヘンテイ山脈を越え、ゴビ砂漠の真ん中をつっきり、最後は世界の最高峰がつらなるヒマラヤ山脈を縦断しています。ただ旅をするだけでもこのコースは、命がけのチャレンジで、冒険と言えるでしょう。しかし彼らはそれを、まともな装備も、準備も、資金もなく、追われる恐怖と闘いながら、やりとげたのです。すごすぎます。

淡々とした筆致で描かれているので、そんな壮絶な物語を、恐がりの私でもあまり恐怖を感じず、さらっと読んでしまいました。しかし、飢餓や、ゴビ砂漠での炎暑や渇きとの闘いは、想像を絶する苦しみだったはずですし、最後のヒマラヤ登攀の部分だけだって、山岳ノンフィクションの1冊や2冊は書ける過酷さであったはずです。実際、仲間の半分が、旅の途中で亡くなっているわけですから。「迫力」や「臨場感」をもっと出してエキサイティングな冒険譚にしたり、仲間同士の友情や連帯感、家族への思いなどをもっと描いて、涙腺を刺激する描き方もあったはずです。

なぜ、その部分を「淡々とした筆致」で描いているのか。自慢してもいいはずの、その冒険譚を、なぜもっともっと強調しないのか。そのほうが、感動的で泣ける本になったのに・・・と、最初は思いました。でも、あとがきを読んだ今では、それは、著者の「本当に言いたいこと」ではなかったからだろうな、と、わかります。

スラヴォは、その旅の過酷さより、ソ連、あるいは共産主義国家の、他国民に対する理不尽な扱いのひどさを、一番、訴えたかったのでしょう。自国・ポーランドをはじめ、ラトヴィアや、ユーゴスラヴィア出身の仲間たちや、旅の途中で出会ったウクライナの少女が受けた、ひどい仕打ちのほうを強調したかったのでしょう。どんなに旅が過酷でも、「自由」を奪われるよりは良いのだ、と、言いたかったのでしょう。メインは、政治的主張なのです。ほぼ、共産主義が淘汰された今読むのと、第二次大戦後すぐ、そして冷戦の最中に読むのとでは、ずいぶん感想が違うであろう本です。

あとがきには、このように書かれていました。
何よりも大事なことは、自由は酸素と同じように大切だと、心底から感じることであり、自由はいったん失われたら、それを取り戻すのが困難だという事実を、本書を読んで思い出していただけたならこれに勝る喜びはない。
そんなわけで、この本で活字になっていない部分を、学生時代に習った現代史と地理の知識を引っ張り出し、登場人物それぞれの言葉にならない思いを想像して、行間を埋めながらじっくり読む事をオススメします。

そうそう。現代史が苦手だと、どうして「インド」なんていう遠い場所まで逃げなければならなかったか、わからないんじゃないかな?地図だけを見ると、なんで朝鮮や、中国(満州)に逃げなかったの?って思ってしまいそう。でも・・・その責任は、かなり我が日本国にあるんじゃ・・・。一応日本国民の端くれとして、良心が痛む気がします。この本が、日本語に訳されるのは初めてだそうですが、この本の初版が出たのは、1956年。何度も重版がかかり、様々な言語に翻訳されて、世界中で読まれてきた、ノンフィクションの名作だそうです。



今でも、北朝鮮には、強制収容所がある。わたしは、政治的には中立、がポリシーなので北朝鮮批判をするつもりはまったくありません。わたしが知らないだけで、他にも強制収容所のある国なんてたくさんあるのかもしれないしね。でも、この本は、まだまだ、現代においても現在進行形で「より多くの人に、読まれるべき本」だと思います。
| ノンフィクション | 04:15 | - | - |
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