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● 風に舞いあがるビニールシート 森絵都
風に舞いあがるビニールシート風に舞いあがるビニールシート
森 絵都

文藝春秋 2006-05

愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている。
大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。
△ 器を探して
有名なケーキ店の、オーナーパティシエであるヒロミの秘書として働く弥生。以前は自身も菓子職人を目指していたのですが、今ではすっかりヒロミの才能に心酔し、彼女の店を守るために奔走する毎日に満足しています。ただ、1つ問題があって、それは、弥生の恋愛に、ヒロミが嫉妬し露骨に邪魔をすることです。

この小説は、単に女性が「恋と仕事の間で揺れる」というような単純なものではありません。1人の人間の偉大な才能に、心が負けてしまったことで、歪んでいってしまう途上にある女性の物語です。この長さにしておくのは惜しいくらい深くも描ける題材。

というわけで、とても印象的でした。でも、オチをはっきりきっぱりつけて欲しいストーリーだったので、消化不良感が大きい作品でもありました。この先が気になる・・・。

□ 犬の散歩
行き場を無くした犬たちの里親を探すボランティア活動に生活を捧げ、犬たちの世話にかかる費用を稼ぐために、スナックでパートまでするようになった、主婦、恵利子の物語。

ボランティア活動にのめりこむ心理を、美化するでもなく、皮肉るでもなく、1人の女性の思いをありのままに描き、それだけにとどめている、そこに好感を持てた作品でした。

○ 守護神
とある大学の夜間部に、優をとれるレポートを代筆してくれる、ニシユキという人物がいる、という噂がある。どうしても4年で卒業したい、フリーター学生の祐介は、ワラにもすがる思いでニシユキを探しますが・・・。

ストーリーの展開が意外だし、会話も楽しいし、面白かったです。爽やかで、愛しい作品。祐介も、ニシユキも、大好きなキャラクターでした。特に、祐介の話を他にも読みたいなあ。超地味なストーリーになりそうですが、それでいいから。

△ 鐘の音
若いころ共に仏像修復の修行をしていた二人の男が、久しぶりに再会。二人にとって特別な、とある仏像の修復作業を回想します。仏像がらみのうんちくが、興味深かったです。取材が面白そう。

□ ジェネレーションX
高校時代の野球部の仲間と、草野球をするという約束を果たす、という、あらすじをちらっと聞いただけで、爽やかとしか言いようのないショートストーリー。タイトルロール前の小休止、といった感じで、肩の力を抜いて素直に楽しめました。ストーリーは単純なんですけど、構成が工夫されていて上手い。

○ 風に舞いあがるビニールシート
冒頭で、タイトル「風に舞いあがるビニールシート」について語られます。子供の頃公園に敷いたレインボーのシートを思い浮かべてしまった私は、とてもメルヘンチックな可愛いタイトルだと思いましたが、全然違いました。もっと必死で切実な意味が込められています。とても印象的でした。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で、現地採用の一般職員として働く里佳。東京で、主に事務仕事を行って、専門職員を補佐するのが仕事です。彼女は3年前、専門職員であるエドと離婚しました。七年間の結婚生活を通して、二人が共に過ごせたのは百日足らず。フィールド活動を重視し、常に世界中の危険地帯を飛び回るエドと、エドの安全と安定した生活を願う里佳は、生活も、考え方もすれ違い、結婚は失敗に終りました。しかし、憎しみあって別れたわけではありません。

物語は、エドがアフガンで殉職し、その死から3ヶ月たったところから始まります。里佳がこの悲しみから、どのように立ち直るのか。里佳の最後の決断は、予想通りの予定調和ではありますが、素敵です。

そして「エドが死の瞬間について感じたもの」について語る里佳の言葉が、とても森さんらしいと思いました。私が、まだ児童文学しか書いておられなかった頃の森さんを、大好きになった時の、あの感動が再び!と、いった感じでした。



「別冊文藝春秋」連載、もちろん「文藝春秋」発行。内容も、社会派のテーマをおりこみながら、人と人との触れ合いを描いた心温まるストーリーばかりで、直木賞候補にならないほうがおかしいという一冊。やっぱり狙って書いたのかなあ(笑)。個人的には、森絵都さんのYA作品のほうが好きですが、森さんが直木賞をとってくれれば、それはそれで嬉しいです。
| ま行(森絵都) | 10:00 | - | - |
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