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● 遮断 古処誠二
遮断遮断
古処 誠二

新潮社 2005-12-20

戦に現出する最大の恐怖は道徳の失効だった
末期ガンで死期の近い孤独な老人が、自分の人生を変えた沖縄戦を回想をするという形式で、物語は進みます。その合間に、彼の元に届いた一通の手紙が一文ずつ挿入されます。

昭和20年5月、沖縄戦の真っ只中で、19歳の真一は、逃亡兵となりました。真一は、かくまってもらおうと自分の育った部落の人々が隠れ住む壕に向かいます。しかしそこはすでに日本兵の監視下にあり、真一は受け入れられませんでした。

そしてそこには、真一の幼馴染のチヨがいました。チヨは、部落壕を逃げ出すときに置き去りにしてしまった、4ヶ月の娘、初子が、まだ生きていると信じています。初子を探して目立つ振る舞いをし、部落の人々を危険にさらしています。真一はチヨを連れて、生きているとは思えない初子を探しに、戦火の沖縄を故郷の村へ戻ることになります。

途中でこの旅は、片手片足を負傷したある少尉との3人旅になります。少尉も、とある理由で沖縄を北上しようとしており、真一は案内役として少尉の地位を利用しようと考え、少尉は真一を自分の運び手として利用するのです。

アメリカ軍の南下に逆らっての北上は、あまりに危険で、正気の沙汰ではありません。真一にそれをさせたのはなんだったのか。少尉が沖縄を北上した真の理由はなんだったのか。3人は部落壕にたどりつき、生き延びることが出来るのか。そして、謎の手紙の送り主は、はたして?

単に平和を訴えるだけでなく、人間の本質に迫ったり、償いや孤独や道徳について考えたりしている、深ーい深ーい本ですが、やっぱりいわゆる戦争小説です。つまり・・・恐かった!恐いの苦手なんですよ〜。本当に本当に苦手。こういう本もたまには読むべき、と、思って時々読むんですけど、時々で十分です。恐いよ〜。(ちょうどこれを読んだ日のニュースでは、北朝鮮がミサイルを発射したと報道していました。)

「戦争って恐い」という以外の部分で印象的だったのは、終盤の少尉と真一のやりとりです。生粋の日本軍人の誇りを持った少尉は、沖縄人に対する差別も、逃亡兵である真一への侮蔑も隠しません。元は農民で、即席の訓練を受けただけの防衛隊員である真一とは、思想がまったく相容れません。しかし、少尉には少尉の「善」や「義」や「道徳」があるのです。旅を続けるうちに、真一と少尉の間には、奇妙な絆が生まれます。

この小説は登場人物にも、ストーリーにも、描写にも、無駄がありません。物語をとことんシンプルな構成にして、くっきりと文学的なテーマを浮き立たせている。真っ向勝負の小説。小手先の技術で遊んだりしない、潔く、鋭い、研ぎ澄まされた筆致で、なんだか、古処誠二という小説家を尊敬してしまいます。

極限の状況に置かれたときに犯された罪、あるいは、「考えただけ」で実際には行われなかった罪は、誰にも責められないかもしれない。時が傷を癒してくれるかもしれない。でも、本人の記憶にある限り、背負った罪悪感から逃れることは誰も出来ない。何をすべきか、しないべきか、何を命に変えても守るべきか、それは、自分の価値観、自分の道徳観、にしたがって、自分で決めるべきなのでしょう。それができないのが、戦争、なので、だからこそ悲劇なのでしょう。

平和ぼけした戦争を知らない若者が、なんとか受け取れたメッセージはこの程度で、古処誠二さんに申し訳ない・・・といった感じです。靖国さんのくだりも、申し訳なかったなあ。私、小泉さんの気持ち、今まで全然理解できなかったんで。

終盤の展開はスピーディーで圧巻。さすがミステリィから出てきた方ですね。様々な真相(心の中の隠されたものも含めて)が明らかになり、唖然としてしまいました。そして、真一の人生における「救い」はちょっと切なすぎました。



今回は直木賞候補になったということで、読んだのですが・・・うーん。戦争文学の中で、この本が特別すごいのかなあ?そのあたりは、私には、恐すぎて(^_^;)冷静な判断がくだせません。でも、古処さんの戦争文学の中で、これがベストだとは思えません。でもまあ、だからこそ、直木賞をとっちゃいそうな気がする(笑)。

それに、選考委員の年齢と性別を考えると、この本が受け入れられる可能性は高いですよねー。あまりにもインパクトが強く重厚な作品で、比較すると他の作品が薄っぺらく見えてしまうのも確かですし。うん。本当にこの本、直木賞、とっちゃうかもしれないです。
| か行(古処誠二) | 09:12 | - | - |
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