新津さんの作品は、どれもこれも似たような女性心理が中心の、ドロドロサスペンス小説で、読み終わるとどれがどれだったかわからなくなるのですが・・・(すみません、すみません。でも出るたびに読んでるファンなんで、許してください)。この本は、そんなことはありませんでした。なんだか変わった本でした。印象が強かったです。装丁が素敵なのも、印象が強く残った一因かと思います。本当に素敵。
3人の39歳の女性が織り成す、生と死の物語。いつもの新津さんの、結婚にあせるか、仕事に行き詰まるかした女性の、友情か憎悪かの物語だろう、と、たかをくくっていたら、一味違いました。けっこういい感じに骨太な、読み応えのあるサスペンスでした。
薬剤師として働いて、自分の買ったマンションで、金魚と暮す美樹。彼女は3年間続いた不倫を、終らせたばかりです。そこに、殺人の罪を犯したという、高校時代の友人、雪乃が転がり込んできます。雪乃は妊娠しており出産が終ったら自首するので、それまで匿って欲しいと言い出します。迷いながらもずるずると、美樹は雪乃の世話を焼いてしまいます。美樹の元不倫相手の妻、暁子が、マンションを突然尋ねてきたことから、美樹と雪乃の秘密は、彼女にもばれてしまっています。
夫の不倫相手の重大な秘密を握ることになった暁子は、どういう行動にでるのでしょうか?
死体が発見され、警察の捜査は進みます。赤ん坊は育ちます。追い詰められていく雪乃の命運は?
真面目に働いてきたはずなのに、成り行きで犯罪者になってしまいそうな美樹の人生は?
一番の謎であるはずの、雪乃が犯した「殺人」のいきさつや理由に、ほとんど突っ込まれていないのが、ものすごく潔いと思います。主要登場人物3人が、3人とも、死者のことよりも、生まれてくる新しい命について考えているからでしょうか。できるだけ男性を排除する方向で作られている小説だからでしょうか。1つの小説として見たときに不自然な感じはするのですが、この潔さは好印象でした。
雪乃の内面が描ききれていない、とか、美樹の人格に一貫性がないとか、暁子って最後にいいとこどりだよな、とか、欠点も思いつく小説なのですが、それでも、けっこう好きな1冊。