| 悪意の手記
中村 文則
新潮社 2005-08-30 |
15歳の時に親友を殺してしまった少年が、25歳になってから、それまでの人生を振りかえった、手記の形をとっています。どちらかというと薄手の本なのに、読み応えがありました。すごい!
殺人者が、殺人にいたる心理、そしてその後の罪悪感の有無、その事件によってその人の人格はどう変化していくのか。目新しくもなんともないテーマです。でも、なんとなく心理描写がリアルで、中身が濃い気がしました。主人公が「片親がいなくて、外見にコンプレックスがあって、いじめられっ子で、ロリコンで・・・」とか、「父親は医者でお金持ち、母親は専業主婦の教育ママ、本人は、幼い頃から優等生の仮面をかぶり続けてきた、二重人格者・・・」なんていう定型からは外れていたせいかな。
「なぜ人間は人間を殺すとあんなにも動揺するのか、動揺しない人間と動揺する人間の違いはどこにあるのか、どうして殺人の感触はああもからみつくようにいつまでも残るのか」
少年のセリフは、最近私が、この手の犯罪小説を読むたびに、考える疑問です。
全体的に、満足した小説だっただけに、冷静に考えてみると、結末が予定調和すぎて、ちょっと残念だったかも。