CATEGORIES
LINKS
<< ■ 出口のない部屋 岸田るり子 | main | ● 13階段 高野和明 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
▲ 摘出 霧村悠康
摘出―つくられた癌摘出―つくられた癌
霧村 悠康

新風舎 2005-09

画像だとわかりにくいけど、表紙があまりに印象的で、思わず手にとってしまいました。

主人公は、若い希望に燃えて、癌の分野で国際的に有名な国立O大学の高木教授の医局に入った、二年目の研修医、本木。本木は乳癌で右の乳房を切り取らなければならなかった、広子という担当患者の手術で、左の乳房を切り取ってしまう、というミスを犯します。仕方なく、執刀医の高木教授は、両方の乳房を切り取り、左の乳房にも癌あったことにしよう、と、事件のもみ消しをはかります。

2週間後、病理検査の結果が出て、広子の左の乳房には、本当に極小の癌があったことがわかり、本木は、ひょうたんから駒、と、安堵しますが、ことはそう簡単には終らなかったのです・・・。

後半に入ると、匿名の手紙によって、広子とその家族が医療ミスのことを知ります。また、DNA鑑定によって、広子の左の乳房から発見されたはずの癌が、広子のものではなかったこともわかります。誰が何の目的で匿名の手紙を書き、広子の病理検査の結果を操作したのでしょうか?外科学会の会長選を控えた高木教授と、彼の追い落としを狙う部下の神崎教授の動きは?しだい良心の呵責に耐えられなくなっていく本木の行く末は?

数々の医療ミスをもみ消していく大学病院。治験で患者が亡くなっても、新薬を完成させようとする製薬会社。出世目的の政治的活動に熱心な医師たち。いわゆる「白い巨塔」小説で、目新しくはありませんが、著者が現役の医師ということで、本当にこんなことがおこっているんだ・・・と思うと、実に恐ろしい本でした。ドキュメンタリーとして読めば、下手なホラー小説より恐いです。読み応えはあります。

ただまあ、小説としては・・・素人っぽかった!とりあえず文章が、小説の文章にはなってない。それに、視点の乱れがすさまじい。一人称と三人称が混ざった文章なのですが、それが意図的ではなく、単なる混乱に見えます。

本木に感情移入して、共に悩み苦しんだり怒ったりできるほど、本木の人間像が描きこまれていません。被害者の広子さんや家族の苦しみも、描ききれてはいない。2人とも主役をはれている、とは言いがたいです。「白い巨塔」の中の人々の群像劇として読むには、登場人物それぞれのキャラがたっていないし、人物造形や、心理描写が、ステレオタイプで、嘘くさい。ストーリーも本流と傍流の整理が出来ていないようで、無駄なエピソードが多い。

おそらくこれらは、読者の胸を打つ小説を書くことよりも、大学病院の内情を告発することに、この本の目的があるから仕方なかったのでしょう。でも、だったら、小説にする必要なんかないと思います。現実に起こったことを詳細に公表し、堂々とノンフィクションと宣言するべきです。その上で、一般の人たちが読みやすいように「小説仕立て」にすればいいと思います。色々と難しい大人の事情はあるのでしょうから、お察ししますが・・・。このような本を、現実を知り、問題意識を持っている医師が描いておいて、「この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。」などと注意書きをつけるのは、「逃げ」「自己欺瞞」に見えて、感じが悪かったです。
| か行(霧村悠康) | 14:31 | - | - |
スポンサーサイト
| - | 14:31 | - | - |