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▲ ママの狙撃銃 荻原浩 
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ママの狙撃銃
荻原 浩
双葉社 2006-03

by G-Tools , 2006/05/31





ネタバレあり。

この本の感想を書くのは、とても難しいんです。あまりに、難しいので、この数日ブログの更新をサボっていたくらい・・・。ストーリーの難しい本というわけではありません。文章もテンポが良く、ユーモアに溢れていて、荻原さんらしく、読みやすかったです。でも、この物語をどう解釈すればいいのか・・・ああ、難しい(笑)

主人公は、福田曜子、41歳、専業主婦。サラリーマンの夫と、有名私立中学に通う娘と、能天気な幼稚園児の息子の4人家族です。最近、念願のマイホームを購入し、平凡でそれなりに幸せな毎日を送っています。曜子は何よりも家族の幸せを大事にする、ごく一般的な主婦です。

しかし、曜子には、家族にも秘密の過去があります。曜子は、6歳の時から10年間、アメリカのオクラホマで、殺し屋だった祖父、エドと暮していました。誰もが自分の身を守るために戦っているような国、アメリカで、曜子はエドから、射撃を初めとする戦闘の技術を受け継ぎました。曜子には素質があり、エドのあとを継ぐ暗殺者となって、25年前に1人の男を暗殺しています。しかし、祖父の死後、日本に帰ってきてからは、その世界からはすっかり足を洗っています。

物語は、過去に曜子に暗殺を依頼した、Kという男から、25年ぶりに暗殺の依頼が来るところから始まります。夫のリストラという家族の危機に直面して、曜子は、お金のために、再び人を殺すことを決意します。そして・・・

ママはスナイパー♪って感じで、曜子が軽いタッチで悪人をバシバシ殺しちゃって、お金を稼いで、家族を守って、主婦と暗殺者という二重生活を、ただ面白おかしく描きましょう・・・っていう本なら、それはそれで「あり」だと思うんです。善良だけどヘタレの夫や、愉快な息子のキャラクターも、違和感なく生きてくる。赤川次郎チックに、さらっと読んで楽しくて、それだけの本として成立すると思う。これからも、こんな生活が続きます、という結末でも、それなら、「あり」だと思います。

でも、この本は違います。曜子は長いこと、自分が殺した人の幻影を見、罪悪感を背負って生きてきました。再び暗殺を行う決意をし、スナイパーとしての本能が徐々によみがえり、周到に準備を進めながらも、曜子は悩みます。その苦悩と葛藤がかなり丁寧にじっくりと描かれているので、この部分は重いです。ユーモアのある文章も、笑えるエピソードも、それでかすんでしまっています。

ラストで曜子が自殺してしまったとしたら、衝撃の結末ではありますが、小説のオチとしては「あり」だったと思います。伏線ピシッと張られているし。でも、そういう結末ではないんだよね・・・。

曜子が、いじめやリストラや借金と、身を挺して戦う、パワフルウーマン小説として読めばよかったのかなあ。でも、その部分でも、微妙。

日本という狭い国で抑圧されてきた、曜子本来の人格が解放され、暗殺者としての本能が蘇ったことで、曜子はいじめに合っている娘を、彼女らしいやり方で守ることになります。いじめっこがやっつけられるシーンは、気分爽快で、こんなお母さんがいたらかっこいいと思いました。でも、やりすぎなんですよね。すっきりしたはずなのに、後味が悪いエピソードになってしまっている。どんなに嫌なガキでも、精神に異常をきたすほど、銃で脅しつけるなんて、やりすぎですよね?

荻原さんが、何を書きたかったのか、何をテーマにしたのか、わかりませんでした。「明日の記憶」が有名になりすぎたので、違う傾向の話を書こうとしたんだろうなあ、というのは、表紙を見ただけでもわかります。でも内容的には、結局ドタバタコメディにも、ハードボイルドにも、徹し切れなかったようで中途半端。重さと軽さの絶妙なバランス、っていうところを狙ったのかなあ、と、思いますが、重さと軽さが交じり合えずに分裂したまま、1冊の本になってしまった感じがします。

設定は面白かったし、読みやすかったし、楽しめる部分はたくさんあったんだけど、読後感としては、不完全燃焼、っていうのが一番近い言葉です。
| あ行(荻原浩) | 14:23 | - | - |
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