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★ 風紋 乃南アサ
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風紋〈上〉
乃南 アサ
双葉社 1996-09

by G-Tools , 2006/05/23




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風紋〈下〉
乃南 アサ
双葉社 1996-09

by G-Tools , 2006/05/23




「犯罪被害者に限定して言えば、事件の加害者となった人間以外はすべて、被害者になってしまうのではないかと、私はそんなふうに考えている。そして、その爆風とも言える影響が、果たしてどこまで広がるものか、どのように人の人生を狂わすものかを考えたかった」

あとがきより
再読。とにかく長い本ですが、その長さが苦にならないくらい、読ませる本でした。1つの犯罪によって狂わされた、登場人物の運命が気になって、どんどん読んでしまいます。それに、長いだけのことはある本です。読み応えがありました。

高浜真裕子は、M女子高校の2年生。修学旅行を楽しみにし、通学途中に見かける他校の男子生徒に心をときめかせ、学校帰りには友達とオムライスを食べる、そんなごく普通の少女です。しかし、ある日突然、専業主婦だった母親を殺されます。

この事件をきっかけに、まさに「風紋」のように広がっていく、悲劇の連鎖を描いています。

その日、家庭内暴力で母親を苦しめていた浪人生の姉と、浮気を続け家庭を顧みていなかった父とは、なかなか連絡がつきませんでした。真裕子は1人で帰ってこない母親を心配し、警察からの連絡を受け、遺体を確認することになります。彼女が受けたショックは計り知れません。

警察の捜査、そして裁判で、事件の真相が明らかになるにつれ、彼女はさらなる精神的ダメージを受けることになります。家庭の事情が次々に暴かれて、家族とも親戚ともギクシャクし、マスコミに追いかけられ、近所でも学校でも噂になり、居場所を失い、追い詰められてきます。

しかし、ダメージを受けたのは、真裕子とその家族だけではありません。もう1つの家族も、悲劇に見まわれています。加害者として逮捕されたのはM女子高校の教師、松永で、彼の妻である香織と、彼の弟である和之も、人殺しの家族としてすべてを失い、次第に追い詰められていきます。

この本では、裁判の結審までが描かれます。裁判は加害者をどう裁くかが中心であり、被害者については、忘れられていくだけです。「私、裁判って、お母さんのためにやってくれるんだと思ってた。本当に。」という、真裕子の言葉が辛かったです。

被害者と加害者の間に、本当はいったい何があったのか、裁判で明らかになる事情だけでは、真裕子はもちろん、読者だって納得できるとは言えません。でも、それがなんともリアルでした。殺したものと、殺されたもの、当人にしかわからないことがあり、それは、警察が明らかにすることもできなければ、裁判で裁けるものでもない。理不尽な1つの死の前で、残されたものが、推理小説のようにすっきりと納得できることなんてないのでしょう。

宮部みゆきさんの「模倣犯」を思い出しました。被害者の遺族や、加害者の家族、マスコミなど、犯罪の周辺にいるすべての人に焦点をあて、奥行きと広がりのある重厚な物語にをつくっている、という点で似ています。「模倣犯」のほうはミステリーの色合いが強く、社会派の問題提起作品ではありますが、上質のエンターテイメントでした。この「風紋」はミステリーではありますが、より深く、よりリアルに、登場人物の心情に踏み込んで描かれており、エンターテイメントというだけではない重みのある本です。「模倣犯」の知名度を考えると、この本も、もっと有名になって、もっと評価されても良かった本なんじゃないかなあ。

続編として「晩鐘」が出版されています。こちらが未読だったので読もうと思って、まずこの「風紋」を再読しました。明日、「晩鐘」の感想をUPします。
| な行(乃南アサ) | 16:21 | - | - |
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