CATEGORIES
LINKS
<< ▲ 空は、今日も、青いか? 石田衣良 | main | ▲ 愛の島 望月あんね >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
● 終末のフール 伊坂幸太郎
photo
終末のフール
伊坂 幸太郎
集英社 2006-03

by G-Tools , 2006/05/13

「じたばたして、足掻いて、もがいて。生き残るのってそういうのだよ、きっとさ」
この本は大好き。しみじみといい本だった!伊坂さんの最近の作品ではダントツに好き。「砂漠」よりずっと好き。直木賞候補は、絶対こっちにしてください。

「8年後に小惑星が落ちてきて地球は滅亡する」と発表されて5年がたちました。発表直後には恐怖と絶望から、社会は大混乱に陥り、多くの人が亡くなりました。しかし現在その状態は一段落し、小康状態を保っています。

そんな中で、仙台ヒルズタウンに住むごく普通の人たちが、何を考え、日々をどう生きているのか、それが淡々とした筆致で描かれます。設定こそ奇抜ですが、彼らが迷い、悩み、考えることは、誰もが一度は考えたことがあるテーマだと思うし、考えなくてはいけないことなのだとも思いました。生き方、死に方、許すこと、愛することなど、重いテーマに正面から挑んでいるのに、静かで、温かく、読みやすい1冊。素敵です。

8つの短編で構成されており、それぞれの短編には、例によってリンクする登場人物がちらほらいて、それを発見するとちょっと嬉しい、伊坂流の連作短編集です。

公式サイトがとっても素敵
http://www.shueisha.co.jp/hillstown/

こちらは伊坂氏へのインタビュー記事
http://www.s-woman.net/isaka-koutarou/1.html

私だったら・・・。たぶん発表直後の混乱の中で、逃げ遅れてとか、事故に巻き込まれてとか、そういう間抜けな死に方をしていると思います(笑)。もし、そこを生き延びることができていたら、やっぱり、今の生活を続けていくと思います。でもきっと今よりもっと1日1日を大事にすると思うし、人間関係を丁寧に扱うと思う。日常生活の小さな幸せのきらめきが、もっと鋭く感じられると思う。そしていよいよその瞬間が近づいてきたら・・・パニックに陥って、みっともなく泣いたりわめいたりするんだろうなあ。

印象的だった作品。

終末のフール
お母さんの台詞「わたしは簡単には許さないですから」は、結局、ずっと一緒にいますから、という意味なんでしょうね。

太陽のシール
ずっと不妊症だった夫婦が、今になって子供を授かります。生むのか、生まないのか?主役の夫婦も素敵でしたし、障害児を育てながら生きてきた、主人公の友人の言葉も素敵でした。

現実の世界で、胎児診断によって子供に重い障害があることを知った人たちも、同じような悩みを抱えるのではないでしょうか。脳の障害があって、生まれても長くて数日しか生きられないと宣告された子供を、出産することを決意したご夫婦の話を聞いたことがあるのですが、そのご夫婦が出産した理由は「その子を抱いてあげるため」でした。その話を思い出しました。短かろうと、傍から不幸に見えようと、胎児であろうと、命は命ですよね。

冬眠のガール 
大混乱の中で両親が自殺してしまい、1人になった美智の物語。彼女は「お父さんとお母さんを恨まない」「お父さんの本を全部読む」「死なない」という、3つの目標を自ら立てて、静かに生きています。美智が健気で、この設定だけで、もう泣ける!でも美智は、けして悲壮感を漂わせたキャラクターではなく、おっとりとして、のほほんとして、可愛らしい「冬眠のガール」。彼女が「恋人を見つける」という4つ目の目標に向かっていく物語です。

同じく隕石による地球滅亡をテーマにした小説で、新井素子さんの「ひとめあたに・・・」という小説が、むかし好きでした。(最近読んでいないけど、今でも、好きかも。)やはり滅亡間際の一般の人々の日常的な世界を描いたSFラブストーリーです。パニックの時期の狂気を中心に描いた本だったので、この本とはイメージが全然違いますが、地球が滅ぶというときでも「ガール」って恋する生き物なんだなあ、と。可愛らしくていいですよね。

鋼鉄のウール
キックボクサー志望の16歳の少年の物語。極度に神経質になり、部屋にこもる父と、その相手に疲れて不眠症の亡霊のようになった母と、3人で暮らしています。彼が、父親と対決する場面が印象的でした。少年は強い。かっこいい。がんばれ。でも、鬱状態の両親のほうが、リアルではあります。

天体のヨール
オタクの道は、単なる趣味ではなく、生き方であり、死に方である!・・・という物語ではないのですが、私はそこが気に入った(笑)。「星を見るよりも明らかなんだ」って言葉が最高。




さて、ここから、ちょっとだけ、けなします。

色んな人が出てくるけれど、どの短編でも人々は結局、心情的には同じようなところに落ち着く。要約すれば、死に向かって前向きに生きよう、って感じでしょうか。だから、どの作品も読み始めてすぐ、だいたいの展開と結末がわかってしまう。美しすぎる予定調和が、乱されることが1度もない。連作短編集としては、メリハリに欠けるし、パンチが弱い気がします。

この作品は、素直に、視点が時々変わる長編にしたほうが良かったんじゃないかなあ。美しすぎる予定調和も、1度なら(あるいは終盤でまとめて行われたのであれば)納得できるし、私は個人的に、この本の価値観が嫌いじゃないので、もっともっと感動できたと思うんです。でも、繰り返されると・・・やっぱり飽きてしまう。

どうしても伊坂流連作短編形式にこだわるなら、ストーリーのバリエーションに、もっと幅が欲しかったです。(そういう意味で、「天体のヨール」はポイントが高い。この短編がなかったら、もっと評価がさがっていました。)
| あ行(伊坂幸太郎) | 10:48 | - | - |
スポンサーサイト
| - | 10:48 | - | - |