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■ ライオンハート 恩田陸
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ライオンハート
恩田 陸
新潮社 2000-12

by G-Tools , 2006/05/06




いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。
再読。日本人作家による外国が舞台で外国人が主役の本は、たいてい寒いと思うのですが、この本は大丈夫。メロドラマというのも、基本的に寒いものだと思うのですが、この本はSFなので大丈夫。恩田さんのこういうバランス感覚は本当にすごいなあと思います。

連作短編集です。短編は5つですが、各短編の合間に「プロムナード」と名づけられた、短いシーンが挟まる構成になっているので、物語は6つ。それぞれの物語に、エドワードとエリザベスがいます。深く思いあっているのに、いつも必ずすれ違ってしまう2人。時を越え、空間を越え、かならず出会い、一瞬の逢瀬の喜びと、辛い別れを繰り返す。美しくも悲しい、SFラブストーリーです。

初めてこれを読んだときは、すでに自分のHPで読書感想文をUPしていたので、そのデータがどこかにあるはずです。でも、なぜか見つかりません。たしか、それぞれの短編の表紙になっている絵画が、ぴったり合っていて素晴らしいということと、「運命的な恋」には乙女の1人として憧れずにはいられない、というようなことを、テンション高く書きあげた記憶があります。

なので、今回は、ちょっと違うことを書こうと思います。

・「エアハート嬢の到着」 1932年 ロンドン
・「春」 1871年 シェルブール
・「イヴァンチッツェの思い出」 1905年 パナマ
・「天球のハーモニー」 1603年 ロンドン 
・「記憶」 1855年 フロリダ 
・「プロムナード」 1978年 ロンドン 

第1話「エアハート嬢の到着」では、とにかく出会いの喜びを全身で表現するエリザベスが印象的です。初めての出会いなのでとまどうばかりのエドワードとの対比によって、エリザベスの喜びが余計に強調されています。別れのエピソードのインパクトも強くて、つかみにはピッタリの作品。

第2話「春」は、エドワード側から2人の出会いと別れを描いています。出会うことを待って待って待ち続けて、それでも、けして結ばれることはない、一瞬の逢瀬しか許されない、という、2人の運命的な恋の悲しい側面が強調されています。最初の2つの作品で、この本の幹がしっかり描かれました。

2人の物語が完全に脇に回っているミステリィ風の第3話「イヴァンチッツェの思い出」では枝葉が描かれて世界が広がり、第4話「天球のハーモニー」ではオリジナルのエリザベスとエドワードが登場して、しっかりと(?)根がはられます。「天球のハーモニー」から「記憶」までの150年の間にも、語れなかったエリザベスとエドワードの物語があるのかもしれませんね。

第5話「記憶」の美しい予定調和は、最後の物語にふさわしい爽やかさで、読者サービスといった感じ。これはこの本の、花、かなあ。「春」と「記憶」では、2人の年齢がつりあっています。一瞬の逢瀬を繰り返すのが運命である2人ですから、「記憶」の老夫婦のどちらかは、ラストシーンの直後に亡くなったのかもしれませんね。そして時間的には、「春」の2人に転生したってことになるのかな?と、思います。

これからも続いていく物語を予感させ、絶妙の余韻を作り出した「プロムナード」のラストは、この本の実であり、そして、読者の心にまかれた種だと思います。

タイムトラベルものですから、基本、なのかもしれませんが、やっぱり構成の妙というのが光る作品だったと思います。初読の時は、あんまりその辺りにこだわらずに、雰囲気重視でメロドラマを楽しんでしまったのですが、再読ではそこにやられました。この本は上手い! 

「イヴァンチッツェの思い出」は、単独では面白い作品だったのですが、全体からみると、ないほうがすっきりしたかもしれません。エリザベスとエドワードのメロドラマを追っていると、この作品が、全体の中だるみに感じられます。あるいは逆に、あそびの短編がもう2つ3つあると、作品に奥行きや、深みや、遊び心が出て、良かったんじゃないかなあ、と、思います。個人的には、後者を激しく希望しているので、外伝が出ないかなあ、と、期待したりして・・・。まあ、いくらなんでも、それは無理か。
| あ行(恩田陸) | 00:54 | - | - |
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