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■ 風味絶佳 山田詠美
4163239308風味絶佳
山田 詠美
文藝春秋 2005-05-15

by G-Tools

うん、良かったです。基本的に、恋愛小説が苦手なので、恋愛小説には辛口になってしまうことが多い私ですが、これは良かった。恋愛だけの本には見えなかったし、恋愛がメインでもなかったような気がするからかなあ。

もちろんどの作品も、恋愛を描いているから、サラッと読みやすいんですけど、実は「生きる」ということを正面から描いた、すごく真面目な本でした。ま、まじめに感想を書かなければ・・・。

以下、印象的だった順に。

・間食 

鳶職人の雄太は、年上の同棲相手、加代がいながら、次々に色んな女性と恋をしています。現在の雄太の恋人は、女子大生の花です。歪んだ愛し方しかできない人たちの物語。もちろん誇張はあるんだけど、人物像がとてもリアルだと思いました。というわけで、1番印象的だった話。

雄太みたいな、子供っぽい残酷さをいつまでも持っている男ってたくさんいるよなあ。女には、花みたいな、表面的に優しいものに騙されたいと思う甘い部分ってあるよなあ。本質はどうあれ、わかりやすい言葉や形で、いくらでも優しくされたい、みたいな。(母になったら変わるのか?という点に関しては、経験がないのでわからないけど・・・。)

それに、女には、加代みたいな、優しくする喜びに自分が酔ってしまうようなところってあるよなあ。母性本能の一言では片付けられないし、男をつなぎとめる手段というだけでも、たぶんない。きっと不安を解消しようとしてるんだよね。これだけ尽くしているんだから、彼は私から離れられない、って信じたい、みたいな。スポーツ選手っぽいなあ。練習は自分を裏切らない!あんなに辛い練習をしたんだから、絶対勝てる!みたいな。・・・なんか違うか。

そんな三角関係の話を、雄太の口から聞くことになる、寺内という青年が最高でした。つかみどころのない、おもしろいキャラクター。「で、加代さんて人は、誰に可愛がられてるの?」という言葉が良かったです。寺内さんは、加代に同情したわけでも、雄太に説教したわけでもなく、客観的に人間関係を分析して、そのまま口に出したんだろうなあと思います。

寺内さんのように、超然として見える人、っていうのもいるよなあ、と、思いました。周囲の思惑など気にもとめない様子で、自分が世界の中心であるように振舞う。他人と積極的に関わることはなく、自己主張せず、静かにそこにいる。口を開かせると、妙に意味深なことを言う。そう見える人はいるけれど、でも、寺内さんの内面も、描いてしまえば、きっと超然となんかしてなくて、けっこう普通の人なんだろうと思いました。

・夕餉

ゴミ収集車の乗務員について、家を出てしまった元主婦、美々の物語。ひたすら男のために、こった料理を作り続ける美々の様子が、あまりに必死で、痛々しいです。そして料理やゴミの分別に関する、山田詠美さんの精密な描写が、ホラー映画のような恐さを感じさせます。そら恐ろしい・・・。

でも、なぜか素直に美々を応援したくなる作品でした。幸せになって欲しいなあ。最後に美々が決心したこと、それを実行する様子を読みた。読んで自分がすっきりするのか、恐ろしいと思うのか、それを知りたい気がします。

・春眠

章造は、大学時代の仲間・弥生に、ずっと片想いをしていました。しかし、弥生は、自分の父親と結婚し義母となってしまいました。ああ、章造くん、かわいそうに。

亡くなった実母への思慕、ずっと斎場で働いてきた父に対して抱いてきた複雑な感情、実は章造の気持ちに気がついていた弥生、章造よりずっとシビアな妹からの説教、などなど。読み進めれば、読み進むほど、章造くんが痛いというか、可哀想になるストーリーでしたが、ラストは爽やかでした。夫婦も、兄弟も、親子も、いいよねー。うん。

・アトリエ

麻子と裕二という夫婦の物語。精神的に脆いところのある妻・麻子と、彼女を支える夫・裕二の関係が、裕二の一人称で描かれます。読み始めたときから、ざわざわと、気持ちの悪い小説だったのですが・・・最後まで気持ちが悪かったです。

裕二の視点からしか描かれていないのですが、それでも、裕二の愛し方が歪んでいることは一目瞭然。2人の関係は、明らかに共依存ですよね。裕二がいないとダメになってしまう麻子。麻子に必要とされることで自分を支えている裕二。麻子が妊娠したことで動き出す物語は、2人がいかに子供同士であるか、自立できていない人間であるかが滲み出ていて、嫌な感じでした。

最後まで麻子の気持ちが描かれないままなので、想像で補わなければいけない部分が多いのですが、それでよけいに考え込んでしまう作品。上手い!

・風味絶佳
・海の庭

この2つも良かったです。
日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。職人の域に踏み込もうとする人々から滲む風味を、私だけの言葉で小説世界に埋め込みたいと願った。

あとがきより。
「職人」にこだわったことが、短編集全体としては、あまり生かされていないような気がします。そこだけが、ちょっと残念。
| や行(その他の作家) | 14:16 | - | - |
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