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● PAY DAY!!! 山田詠美
4101036225PAY DAY!!!
山田 詠美
新潮社 2005-07

by G-Tools

主人公は、17歳の双子、現実的で積極的で要領のよいロビンと、内向的で思慮深く不器用なハーモニー。両親が離婚する事になったとき、兄のハーモニーは、父親と共に父親の実家へ行き、妹のロビンは、母親と共にニューヨークに残ります。一年後、父と兄に会いに遊びに来た南部で、ロビンは、ショーンにめぐり合い恋に落ちます。

ロビンが休暇を終えてニューヨークに戻った後、あの9.11テロがおこり、双子は母親を亡くします。そして、ロビンも一年遅れで南部で暮す事になるのです。悲しみを乗り越えようとする家族と、双子の成長の物語です。

感動的な本でしたが、泣ける!・・・という感じではありません。登場人物がやたら泣くので、もらい泣き体質の人は泣けるかもしれませんが、しんみりする、とか、ぐっとくる、とか、そんな感じの爽やかな感動がある本です。

私が好きだったのは、第二章のラスト。本当に感動でした!第一章がちょっとだけ退屈に感じられたのですが、そこで読むのをやめなくてよかったです。

9.11の衝撃から「何かを書きたい」と思った作家さんは多いようです。「何かを書かなければ」という使命感を持った作家さんも多いらしいですね。その多くが結局は、構想倒れになっていたり、構想だけは壮大だったんだろうなあ・・・という駄作になっているのは、それだけ難しい題材だからなのでしょう。日本人には、小説の中で大量殺戮と政治を描くなら、絶対に必要なはずの覚悟というのが、なかなか決まらないんだろうなあ、と、個人的には思っています。

この本も、9.11を扱った本として読めば、イマイチです。ただこの小説は、9.11を背景にした、たんなる青春小説なので、すごくいい感じです。9.11にも、人種問題にも、ナショナリズムにも、けして深入りせず、あくまでも、両親の離婚に傷つき、母親を亡くした悲しみをもてあまし、父親との距離をはかりかね、初めての恋に夢中になっている、まだまだ子供な双子の内面に焦点を絞ったところが、この本の勝因だと思います。

恋愛・反抗・進路・生死・家族・友情・成長など、青春小説のエッセンスはひとつ残らずつまっています。やっぱり山田詠美さんは上手いよなー。文章が流暢で、すーっと読まされるのに、読み終えてみると、印象的な言葉がちゃんと胸に残っている。

特に、兄のハーモニーの描写が上手いんです。上昇志向と支配欲の強い母親に反発し、両親の離婚後、母親にはもう会わないつもりでいました。だからこそ、ハーモニーは彼女を失った悲しみを素直に表現することができません。罪悪感と後悔で、押しつぶされそうになります。年上の恋人との不倫関係は先が見えず、彼はますます傷ついて追い詰められ、結局、物わかりのよすぎる父親に苛立ち、八つ当たりをするはめに・・・

でも、ハーモニーは、そこからちゃんと立ち上がります。弱々しく見えますが、真に強い男になろうとしている。ハーモニーはこの一冊の中でちゃんと成長したと思います。

一方ロビンですが。彼女はもともと、虚勢をはって強がって、弱みを見せないタイプ。しかも、現実的で、万事に要領がよく、自己主張がしっかり出来る。ハーモニーに比べるとすでに、アイデンティティが確立している少女として登場します。だから、母親の死からも、周囲の大人との関わりからも、南部という土地からも、そんなに大きな影響を受けてはいきません。彼女の場合はひたすら、ショーンと出会って、恋に落ちたらそれに夢中になっちゃいました・・・って感じです。

恋をすると女は・・・の描き方が型どおりすぎて、ロビンは、ちょっとリアルじゃありませんでした。

脇キャラの大人たちはそれぞれに個性的で、実に魅力的です。時には二人をいらだたせるほど物分りの良すぎる父親。いなくなったからこそ大きな存在である母親。湾岸戦争経験者でアルコール依存症の叔父。ハーモニーの恋人で人妻のヴェロニカ。男の絶えないショーンの母親。父親の新しい恋人で、母親と正反対の存在であるケイト。それぞれがそれぞれのやり方で、双子と正面から向き合い、双子を成長させる温かい言葉を残してくれます。登場人物同士の会話が、知的で、テンポが良くて、オシャレで素敵です。

というわけで、遅ればせながら、オススメです。
| や行(その他の作家) | 19:22 | - | - |
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