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● その日の前に 重松清
4163242104その日のまえに
重松 清
文藝春秋 2005-08-05

by G-Tools

ネタバレ警報発令!

完敗。

私は、基本的に、お涙頂戴系には評価が厳しいんです。特に、病気で人が死ぬものと、ペットが死ぬものには、きついです。いくら小説の中だからって、読者を泣かせるために、簡単に命を奪うなよ、と、思っちゃいます。安易なオチだ、と、思って、さめるんです。(それでも泣いちゃうので・・・それがまた腹が立って(笑)

でも、この短編集は、あまりにもストレートに「死」をテーマにしているので、そういう風には感じませんでした。この本は、死が決まったところから、物語が始まるのですから、「死」は前提であって、安易なオチではないのです。

この本には、7編の短編が収録されています。

・ひこうき雲
・朝日のあたる家
・潮騒
・ヒア・カムズ・ザ・サン
・その日の前に
・その日
・その日のあとで

最後の3章は、短編というより、中篇の1章・2章・3章、という感じです。癌を告知された和美と家族が「その日」までをどう生きたか。家族(夫と2人の息子)が、「その日」をどう迎えて、「その日のあと」をどう生きるか。という、タイトルどおりの物語です。

「その日の前に」の段階では、ちょっとさめた目で読んでたんですよね〜。和美さんがあまりにも、立派と言うか、冷静というか、悟りすぎだったので。ずいぶん前から告知をされていて、和美さんは様々なしたい事、なすべき事を終え、死を受け入れる段階まで来ているという設定でしたし、それを夫目線で描いているから、かなり美化されてもいて。リアリティがない気がしてしまったんです。

ところが、それに比べて「その日」のリアルなこと。感傷にひたっている暇も無く、淡々と雑務をこなす「その日」。しばらくは風呂には入れないだろうと風呂に入り、身内に連絡を取り、息子たちの面倒をみて。続く「その日のあとで」もリアルです。妻が亡くなっても、世界は周り、日常生活は続きます。妻宛のDMは届き続け、家族は3人3様の反応を示します。

「その日」の三ヵ月後に、看護婦さんが和美から預かったという手紙が、夫の元へ届く、というベタな展開があるんですよね。その内容が、たった1行。
忘れてもいいよ
これは、泣ける!ベタでも泣ける。くさいけど泣ける。さすがの私も、これには来た〜。あいかわらず立派すぎる和美さんなんだけど、手紙を残すという行為でなら、このくらい立派な事を、人間はできるかもしれないと思います。色々なことを考えて、考えて、考えて、結局この一行だけを書いた和美さん。うーん、泣ける!

著者が、さあ、ここで泣いてください!と、言っているわけです。そこで泣いてしまうなんて、私的には、ちょっと負けなわけです。しかし、出てしまった水分をずずっと吸い上げる機能は、目にはついていないわけです。というわけで、この3部作には素直に完敗しました。泣けました。

その前に置かれている4つの短編も、真っ向から「死」をテーマにしたストーリーです。淡々とした筆致で、登場人物の心情を丁寧に描いていて、読みやすいし、色んな事を考えさせられます(「その日」3部作には負けるけど)。最後の3部作の中に、その登場人物が、少しずつゲスト出演しています。そのあたりは、あくまでも遊び心というか、小説のゆとり部分として、さらっと見つけてちょっと喜べばよさそうです。見所!というほどのものではありません。

それにしても・・・泣ける本ブームがここまで続くとは思いませんでした。長く続いた事で、駄作と秀作の二分化が進んでますよね。名作かどうかは、時がたたないとわからないけど。
| さ行(重松清) | 23:59 | - | - |
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