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■ しかたのない水 井上荒野 
4104731013しかたのない水
井上 荒野
新潮社 2005-01-26

by G-Tools

あるフィットネスクラブを舞台にした、6篇の恋愛短編。フィットネスクラブという空間は不思議ですね。見ず知らずの他人が、すぐ近くで大量の汗をかいたり、必死の形相で踊ったりする。「裸の付き合い」なので、外で会うと誰だかわからない事もある。友達を作って仲良く楽しんでいる人たちもいれば、1人黙々と運動する人もいる。この本にはそんな不思議空間の中で起こる、どろどろの恋愛ばかりが出てきます。登場人物は、性別も年齢層も幅広いですが、不幸でかわいそうな人たちばかりで、切ない本でした。

第1話「手紙とカルピス」の主人公は、本格的に水泳に打ち込んでいたのに、水着泥棒の嫌疑をかけられて退部になり、投げやりな人生を送るようになった「俺」。彼には同情の余地がたっぷりあるのですが、それでも彼の女性に対する扱いの乱暴さには、嫌な気分になりました。

でも、この短編集では、この話が一番嫌な感じで、次からだんだん共感できる話になっていきます。若い受付嬢に騙される、中年男の悲哀を描いた短編があったり。かと思えば、その受付嬢がそうしなければならなかった、悲しい裏事情を描いた、別の短編があったり。

全部の短編を通して、このフィットネスクラブでは、フラメンコ教室の担当だった冴美先生の行方不明事件が噂になっています。彼女の夫で、このクラブの支配人である新藤が、最後の短編の主人公です。第6話は、夫婦の絆を描いた、おちついたストーリーでした。

連作短編集や、テーマのあるアンソロジーでは、最初の方はすごく面白いのに、真ん中でだれて、最後に無理やり閉める、といったパターンがよくありますが、この本は私にとっては逆でした。読み始めたときは「期待薄」だったのが、だんだん面白くなっていって、余韻を残して終わっていく。満足感のある本でした。

ただ、私はミステリー馴れしてしまっていて。この本はミステリーではないのに、謎がすべて明かされる事を期待してしまうんですよね。清川ナオはなぜ何年も文通を続けていたのか。勝子が表れ、そして消えた理由は何なのか。他にも色々な謎が、「想像にお任せします」と、放ってあるのが気になってしまいました。教えて〜って感じでした。
| あ行(井上荒野) | 21:33 | - | - |
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