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■ 夜離れ 乃南アサ
夜離れ夜離れ
乃南 アサ

実業之日本社 1998-05

図書館で、乃南さんこんな本も出してたんだ〜、知らなかった。発見、発見、と、思って借りてきたら、自分の本棚にあった、という・・・まあ、よくある話(^_^;)。だからたぶん再読なんでしょうねー。まったく記憶にありませんが。

乃南作品は、短い期間に、集中的に読んだので、どれがどれやら分からなくなっていたりします。特に短編集はね。もう、どれがどれやら、さっぱり、です。

この短編集のテーマは、結婚、のようです。全体としては、女って怖いわ〜っていう感想になってしまうのですが、どのストーリーも、どこか突き抜けているというか、キャラクターの行動が極端で、意外にドロドロはしていない、不思議な読後感でした。

□ 4℃の恋
ナースの晶世は、祖父が危篤状態で、自分の病院に入院しています。よくあたると評判の、先輩ナースの勘によると、あと2日くらいで亡くなるようです。しかし、晶世にはその日から、旅行の予定があるのです。どうしても行きたいのです。晶世のとった手段は?女って怖いわ〜。

□ 祝辞
しっかりものの姉と、甘えん坊の妹、といった感じで、役割分担のはっきりした親友同士がいて。で、片方が結婚を決めたときから、二人の関係は狂い始めます。ストーリーも人物造形も、あまりに型どおりなので長編だったら興ざめするところですが、この短編は良かったです。もうあまりに型どおりで、笑うしかないって感じ。ラストの結婚式シーンなんて、もう、本当に笑えました。実際にやらなくても、やりたい、って、思ってる人は、どの披露宴の会場にも1人や2人、必ずいるんでしょうね。

○ 夜離れ
これは面白かったなあ。学校を出たら家庭を持ち、妻となり母になり、多少の波風はあっても、平穏で無難な人生を歩む。そう決めていた比佐子ですが、卒業時に未曾有の就職難にあい、赤坂でホステスのアルバイトをすることになります。ホステスの仕事は順調で、金と物に満たされた派手な生活を、比佐子は楽しみます。ところが比佐子の、地味で普通の結婚がしたい、という考えは変わらず、その目標を叶えるための比佐子の努力が始まります。しかし・・・。オチが良かったです。そう来たか!って感じで、言葉を失いましたもん。

ほかに

△ 青い夜の底で
□ 髪
△ 枕香
| な行(乃南アサ) | 07:39 | - | - |
★ 晩鐘 乃南アサ
photo
晩鐘〈上〉
乃南 アサ
双葉社 2005-05

by G-Tools , 2006/05/24





photo
晩鐘〈下〉
乃南 アサ
双葉社 2005-05

by G-Tools , 2006/05/24





ネタバレあり。

「風紋」の事件から7年。殺人事件の犯人であった、松永の息子、大輔は小学5年生になっています。父親の事件のことはもちろん、母親のことも知らされず、病弱な妹、絵里と共に祖父母に育てられました。同じ敷地内に住む伯父の家族に、いつも辛くあたられてきたため、表面的には素直ないい子を演じています。父親代わりとして絵里を守るために、早く大人になりたいと願っています。

そんなある日、伯父の息子、大輔の従兄妹にあたる、中学生の歩が殺害されるという事件がおこります。こんどは犯罪被害者となったこの一族は、7年前の高浜家と同じように、マスコミに追われ、口さがない近所の噂話に追い詰められ、家庭は崩壊します。そしてその混乱の中で祖母と妹が入院し、大輔は「叔母」と聞かされていた、実の母親、香織と共に東京で暮らさなければならなくなりました。そこで大輔は、自分たちの家族の様々な秘密を知るようになり、悲劇に向かって突き進んでいくことになります。

複雑な育ちゆえに大輔は、登場したときから計算高いというか、ずるく、悪賢い子供で、好きにはなれませんでした。それでも彼が、あんなに重い罪を、あんな理由で行うところまで、追い詰められてしまったことは、とても残念で、納得できないものがあります。本来の大輔は、「人殺しの息子だからって、それがなんだ!俺は俺だ!」と、はねのけられるくらいの強さと、どんな状況でもうまく立ち回れる賢さを持った子供だったはずです。妹を守りたいという責任感と、優しさも持っている子供でした。

読書中に、重松清「疾走」を、何度か思い出しました。犯罪を犯すにいたる少年は、絶望的な「孤独」に苦しんでいる。誰でもいいから、大輔をきちんと見ていて、必要な言葉を投げてあげられる大人がいればよかったのに、そうしたら、大輔と絵里の悲劇は起きなかったのに、と、悲しく思います。「疾走」と違い、大輔には実の母親がいて、祖父母がいて、伯父も伯母も近くにいました。でもみんな、大輔が表面的に優等生であることに満足し、大輔の言葉を鵜呑みにし、大輔に秘密を持ち、大輔とちゃんと話をしようとはしなかった。誰かが彼の話を聞き、彼に真実を知らせ、彼が余計な不安に脅えずにすむように、導き、支えてあげなければいけなかったんだと思います。

特に、母親の香織には、これからその責任をじっくり感じて欲しいです。「風紋」からずっと読んでくると、彼女には大いに同情の余地があるのですが、だからって、親としての責任をすべて投げ出して良いはずがありません。「風紋」では香織も被害者でしたが、「晩鐘」の香織は加害者だと思います。今度はすべてを松永1人のせいだと言って、被害者ぶっているわけにはいかないはず。(でも・・・香織のことだから、そうするような気がしますけど。)

大輔が背負ってしまったものは重すぎます。本当に暗く、救いのないラストでした。(最後の絵里のセリフが、どこか演劇臭くて不自然だったのが、逆に良かったです。あの違和感を感じなかったら、電車の中で号泣するところでした・・・。)彼は、数年後、少年院を出てくるでしょう。そして・・・どんな人生を送るのでしょうか。松永や香織との親子関係は、どうなってしまうのかな。兄を殺されたいずみの将来も気になります。

この本の中では、完全に脇役で、小エピソードにおさまっていましたが、松永の弟、和之の自殺も、大事件ですよね。松永は、不倫相手を殺した結果、弟を自殺に追い込み、息子を殺人犯にし、娘を殺したことになります。刑務所で罪を償ったとはいえ、彼が罪を償いきれることなどないのではないでしょうか。

並行して、7年前の事件で母親を殺された、真裕子の物語も語られます。真裕子は24歳になっており、モデルハウスに勤めながら、一人暮らしをしています。人を信じることができず、自分を見失い、根拠のない不安と恐怖にさいなまれた7年間。真裕子の苦しみは、終っていません。この7年の間に、父親は再婚し、真裕子には義母と義弟ができました。姉も結婚して子供を生み、すっかり落ち着いています。真裕子だけが、母を裏切った父と、母を苦しめた姉を、許すことができず、新しい家族に馴染めずにいます。

「風紋」の続編としての真裕子の物語は、新聞記者、建部と恋愛をして、信頼関係を築き、婚約して、ハッピーエンド、というシンプルな構造です。どっぷり彼女に感情移入して読んできた読者の1人としては、嬉しい結末です。でも、本当は、ここですべてがすっきり解決ってわけではないですよね。根強い人間不信や、亀裂の入ったままの家族との関係が、完全に癒されるには時間がかかるでしょう。たかが(などと言ってはいけないのかもしれませんが)恋愛なんかで、すべてあっさり解決というわけには行かないはずです。恋愛をしても結婚しても、血縁関係は切れないし、過去は消えないし、真裕子の人生はあの事件から切れ目なく続いていく。2人の結婚生活にも、なんらかの影響があるのではないでしょうか。その部分を読みたいような、読みたくないような複雑な気分で、だからハッピーエンドが物足りないような気もしないではありません。

数年後、さらに続編が出る、ということはあるのかな。少なくとも、真裕子の物語は、もう、物語の幹になれるほどには残っていないと思います。(っていうか残っていないで・・・お願い。もう、彼女には、このまま幸せになって欲しい。)あとは、妹を殺してしまった大輔の人生と、兄を殺されたいずみの人生が気になるので、それを書きつつ、真裕子の幸せなその後をちょっと教えてくれるような続編を、期待します。

昨日は、前作「風紋」が、宮部みゆきさんの「模倣犯」に似ている、と、書きましたが、こちらの「晩鐘」のほうが、新聞記者が主要人物というところで「模倣犯」を連想しやすいような気もしますね。「風紋」「晩鐘」2つあわせて、やはり「模倣犯」や、東野圭吾「手紙」、真保裕一「繋がれた明日」、永井するみ「希望」、薬丸岳「天使のナイフ」あたりの作品群を思い出します。単純に、犯罪の真相をあてるミステリーではなく、関係者の家族や、マスコミや、加害者のその後など、犯罪の周辺部を描いた作品。近年、たくさん出版されているようですね。もう、そのアイデアだけでは珍しくありませんが、その中でも「風紋」「晩鐘」は、踏み込みの深さという点で、頭1つ抜け出しているような気がします。

エンターテイメントとしては、あまりに長く、重く、暗く、かといってお涙頂戴のわかりやすい悲劇でもなく、簡単に人にオススメできる本ではないのですが、やはり名作だと思います。
| な行(乃南アサ) | 11:43 | - | - |
★ 風紋 乃南アサ
photo
風紋〈上〉
乃南 アサ
双葉社 1996-09

by G-Tools , 2006/05/23




photo
風紋〈下〉
乃南 アサ
双葉社 1996-09

by G-Tools , 2006/05/23




「犯罪被害者に限定して言えば、事件の加害者となった人間以外はすべて、被害者になってしまうのではないかと、私はそんなふうに考えている。そして、その爆風とも言える影響が、果たしてどこまで広がるものか、どのように人の人生を狂わすものかを考えたかった」

あとがきより
再読。とにかく長い本ですが、その長さが苦にならないくらい、読ませる本でした。1つの犯罪によって狂わされた、登場人物の運命が気になって、どんどん読んでしまいます。それに、長いだけのことはある本です。読み応えがありました。

高浜真裕子は、M女子高校の2年生。修学旅行を楽しみにし、通学途中に見かける他校の男子生徒に心をときめかせ、学校帰りには友達とオムライスを食べる、そんなごく普通の少女です。しかし、ある日突然、専業主婦だった母親を殺されます。

この事件をきっかけに、まさに「風紋」のように広がっていく、悲劇の連鎖を描いています。

その日、家庭内暴力で母親を苦しめていた浪人生の姉と、浮気を続け家庭を顧みていなかった父とは、なかなか連絡がつきませんでした。真裕子は1人で帰ってこない母親を心配し、警察からの連絡を受け、遺体を確認することになります。彼女が受けたショックは計り知れません。

警察の捜査、そして裁判で、事件の真相が明らかになるにつれ、彼女はさらなる精神的ダメージを受けることになります。家庭の事情が次々に暴かれて、家族とも親戚ともギクシャクし、マスコミに追いかけられ、近所でも学校でも噂になり、居場所を失い、追い詰められてきます。

しかし、ダメージを受けたのは、真裕子とその家族だけではありません。もう1つの家族も、悲劇に見まわれています。加害者として逮捕されたのはM女子高校の教師、松永で、彼の妻である香織と、彼の弟である和之も、人殺しの家族としてすべてを失い、次第に追い詰められていきます。

この本では、裁判の結審までが描かれます。裁判は加害者をどう裁くかが中心であり、被害者については、忘れられていくだけです。「私、裁判って、お母さんのためにやってくれるんだと思ってた。本当に。」という、真裕子の言葉が辛かったです。

被害者と加害者の間に、本当はいったい何があったのか、裁判で明らかになる事情だけでは、真裕子はもちろん、読者だって納得できるとは言えません。でも、それがなんともリアルでした。殺したものと、殺されたもの、当人にしかわからないことがあり、それは、警察が明らかにすることもできなければ、裁判で裁けるものでもない。理不尽な1つの死の前で、残されたものが、推理小説のようにすっきりと納得できることなんてないのでしょう。

宮部みゆきさんの「模倣犯」を思い出しました。被害者の遺族や、加害者の家族、マスコミなど、犯罪の周辺にいるすべての人に焦点をあて、奥行きと広がりのある重厚な物語にをつくっている、という点で似ています。「模倣犯」のほうはミステリーの色合いが強く、社会派の問題提起作品ではありますが、上質のエンターテイメントでした。この「風紋」はミステリーではありますが、より深く、よりリアルに、登場人物の心情に踏み込んで描かれており、エンターテイメントというだけではない重みのある本です。「模倣犯」の知名度を考えると、この本も、もっと有名になって、もっと評価されても良かった本なんじゃないかなあ。

続編として「晩鐘」が出版されています。こちらが未読だったので読もうと思って、まずこの「風紋」を再読しました。明日、「晩鐘」の感想をUPします。
| な行(乃南アサ) | 16:21 | - | - |
■ あなた 乃南アサ
4103710047あなた
乃南 アサ
新潮社 2003-02-27

by G-Tools

珍しい、二人称小説。それがとても効果的に作用していて、新鮮で、興味深かったです。

2浪していて後がない「あなた」は、受験シーズンの大事な時期に、体調を崩したり、奇妙な物音を聞いたり、異臭を嗅いだりするようになります。病院で検査を受けますが、異常はなく、その異変は大学生になっても続きます。やがてその異変は、彼の友人や複数いる恋人達にも被害を及ぼし始め・・・

ホラー小説なのですが、ホラーとしては恐くありません。恐いのは、心理的な部分で、無意識に押さえつけた欲望の暴走というか、女の情念というか、なんというか・・・。やっぱり、恋は、人を狂わせるのかしらねー。と、いうところが恐かったです。

ただ、どうしてそこまで、彼女が暴走してしまったのか。もう一歩、踏み込んで欲しかったなあ。母親や、家族との関係とか、どうして「あなた」だったのか、など。

ホラー小説というと、恐がる人は、いい人である場合が多いですよね。この本で恐がる人である「あなた」は、全然いい人じゃありません。性格悪いし、自信過剰だし、女にしか興味のないどうしようもない男で、女の敵です。そのあたりが、乃南さんらしかった。
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