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★ 千年樹 荻原浩
千年樹千年樹
荻原 浩

集英社 2007-03

木はすべてを見ていた。
ある町に、千年の時を生き続ける一本のくすの巨樹があった。
千年という長い時間を生き続ける一本の巨樹の生と、
その脇で繰り返される人間達の生と死のドラマが、時代を超えて交錯する。
ネタバレあり

とても良かった。

連作短編集です。ひとつひとつの短編がとても濃厚で、読み応えがあり、感動的で、粒ぞろいでした。どの短編も、過去と現代の二つの物語が並行して描かれ、登場人物の思いが時を超えて出会ったり、重なったします。雰囲気としては、暗くて重い物語ばかりなのですが、幸せで温かなエピソードも、適度に盛り込まれていて、その加減も絶妙でした。連作短編集としてはスケールの大きい大河ドラマにもなっていて、深い余韻の残る、名作。構成の妙にうならされました。

人間の弱さと愚かさと、それが招く絶望的で悲しい結末、どの短編でも、くすの木の周りで起こるのは、悲劇ばかりです。くすの木があんな形で「萌芽」したからそうなった、という設定なのかとも思いましたが、きっと違いますね。ネガティブな視点で見れば人間なんて、人間の社会なんて、そんなものなのかもしれません。あるいは、植物の視点で見れば、自分たちから勝手に搾取し、自分たちの住環境を破壊する「敵」としての人間は、お互いに傷つけあい、騙し合い、殺し合う、馬鹿で醜悪な生き物なのかもしれません。

でも、木は何をするでもなく、ただそこにいて人間たちを見つめるだけ。

文学の中に出てくる大木には、よく、温かさや包容力といったものがイメージづけられていますよね。大木が人間を憐れに思っているかのような。そういうイメージ付けが、この小説では、されていないように思いました。だからと言って、冷たさを感じるわけでもないのですが。感じられるのは、木の、圧倒的な存在感だけ。神の立場とでもいいましょうか、どんなに悲惨な人間ドラマにも左右されることなく、ただそこに在り続けるくすの木。

そんなくすの木にも最後の日というのはやってくる。無常感なんて言葉を、久しぶりに思い出しました。ま、最後の日で終わってしまうというわけではないのが、このくすの木のしたたかな強さで、この本で描かれていた人間の弱さに比べると、対照的でもありました。


□萌芽
国司の公惟は浅子に襲われ、負傷した体で妻と幼い子供と共に、山に逃げ込みました。くすの木の種がこの地にまかれた瞬間の物語。現代では、星雅也が岸本たちにいじめられ、くすの木のそばで自殺を考えています。

☆瓶詰の約束
太平洋戦争末期、町を空襲が襲います。小学生の誠次は、宝物の瓶を抱えて逃げ、くすの木のある神社にたどりつきます。現代では、その場所にある幼稚園が閉園しようとしており、そこで働く加奈子が、園児たちと共に、タイムカプセルを埋めようとしています。ラストシーンに向けて一気に引き込まれる、とても切ない物語でした。

○梢の呼ぶ声
14歳の時に売られて遊郭で働いてきたきよは、長内という客と恋に落ち、2人で逃げようと約束し、くすの木の下で長内を待ち続けています。現代編では、遠距離恋愛中の恋人・博人を、啓子が同じ場所で待ち続けています。過去編も現代編も、待ち続ける女の悲しくて辛い物語なのですが、そこに救いがないわけではない、そんな物語でした。

□蝉鳴くや
台所組舌役(つまりお毒見薬)の忠之助は、藩主の食事がすすまなかったことが原因で、理不尽にも、切腹しなければならなくなります。現代編では、中学教師の岡田が、くすの木を上司や生徒に見立ててナイフを突き立て、ストレス解消を図っています。

○夜鳴き鳥
親も、仲間もおらず、たった1人で旅人を殺し物取りをして生きてきたハチ。しかしある日、自分が殺した女が、自分の母親かもしれないと思うようになった彼は、彼女の死体と暮らし始めます。いろいろな意味で恐い物語だったのですが、ハチが可哀想で、強く印象に残りました。現代編では、ケンジが、ヤクザの堀井の命令で、岸本を埋めるための穴を、くすの木のそばにほっています。

□郭公の巣
貧しい小作の家に嫁いだトミが生んだ5番目の赤ちゃんは女の子で、だから、舅も姑も、あたりまえのように殺せと言います。トミは赤ん坊を鎮守の杜にある池に沈めるために出かけます。現代編では同じ場所に、子連れ同士で再婚したばかりの、ぎこちない家族が遊びに来ています。現代編が、非常に怖かった!

○バァバの石段
戦争中の物語。自由恋愛に憧れる19歳の昭子は、親が決めた相手と結婚することが決まってしまいました。現代編では、真樹が、祖母の遺品の中の手紙から、祖母の人生をたどります。この短編集の中で、一番明るく、一番前向きな物語でした。

□落枝
浅子と長尾の争いの中、幼なじみのクラを助けにいく千代丸の物語。現代編の主人公は、市役所に勤めるようになった星雅也。たびたび事故の原因となるくすの木に振り回されています。過去編も現代編も第一話の「萌芽」とつながっています。

| あ行(荻原浩) | 21:56 | - | - |
■ さよなら、そしてこんにちは 荻原浩
433492574Xさよなら、そしてこんにちは
荻原 浩
光文社 2007-10-20

by G-Tools
一風変わった職業についている人たちを主人公にし、一生懸命頑張る姿を温かく描いた短編集。手軽に読めて、後味も良くて、いい本でした。ただ、ちょっとインパクトは薄い。

○ さよなら、そしてこんにちは
笑い上戸の葬儀屋さんのお話。一番印象深く、一番好きな一編でした。

△ ビューティフルライフ
会社をリストラされたあと「農業をやる!」と宣言して田舎に移住したお父さんと、それに巻き込まれる家族の物語。「愛しの座敷わらし」につながる感じです。

□ スーパーマンの憂鬱
スーパーマン…と言っても、スーパーの店員さんの物語。タイトルにぷぷっと思いました。テレビの情報に振り回される消費者と、それに振り回されるスーパーマン。リアルでした。

美獣戦隊ナイトレンジャー
子供向けの特撮ヒーローものに出演するイケメン俳優と、彼らに、子供をたてに子供そっちのけで夢中になる母親たちを描いた物語。

△ 寿し辰のいちばん長い日
すし屋の板前さんの物語。

○ スローライフ
料理研究家の話。

長福寺のメリークリスマス
和尚さんと、クリスマスをやりたい家族の物語。これぞ、ザ・日本人。共感する人が多いんだろうなあ、と、思いましたが、私は好きじゃないです。
| あ行(荻原浩) | 16:05 | - | - |
● 四度目の氷河期 荻原浩
四度目の氷河期四度目の氷河期
荻原 浩

新潮社 2006-09-28

簡単に言うと、思い込みの激しい孤独な少年の、父親探し、ひいては自分探しの物語です。

学者の母親と2人暮しのワタル。父親がいないこと、目や髪の色が薄いこと、独特の色使いで絵を書くこと、走るのがとても速いこと。幼い頃から周りの子供とは少し違っていたワタルは、差別やいじめにあい、辛い少年時代を送ります。かなり重くて暗いです。重松清風・・・と、思ってしまったのは、「疾走」にどこか似ているからでしょうか。思春期までのワタルの孤独の深さと絶望感といったら、本当に荻原さんの本だろうか、と確認してしまうほどでした。基本的には、重くて暗い小説でした。

でも、ユーモラスなシーンもたくさんあります。自分でも、自分が「トクベツ」であることを自覚し、自分の父親は誰だろうと考え続けていたワタルは、なんと、自分の父親がクロマニョン人である、という結論に、本気で達してしまうのです。そしてクロマニョン人の後継者として、いつかきっと来るはずの氷河期に備え、準備をはじめます。山を走り回って身体を鍛え、槍投げの練習のために陸上部に入り・・・。

そんな、彼にも唯一の友だち、そして理解者がいます。都会からの転校生で、サチという少女です。彼女も、父親が暴力をふるう家庭に育ったことで、孤独を抱えています。中学に入っても、高校に入っても、ワタルは孤独で、たった1人の家族である母親も癌で入院してしまいますが、サチは彼のそばにいつづけます。2人の会話も楽しく、微笑ましいです。

物語の終盤で、ワタルの出生の秘密が明らかになります。もちろん父親がクロマニョン人であるわけはなく、彼は自分が「思い込みが激しい」ことに気づき、そんな自分を笑ってあげられるようにもなります。

母親の死。本当の父親との対面。それらの後でワタルは、長い間「父」と信じていたクロマニョン人のミイラに会いに行くのです。そして・・・

終盤の展開が、本当に上手かったです。悲しくて、切なくて、でも爽やか。ネタバレはしませんが面白いので、長さに負けずに、ぜひ最後まで読んでほしいです。

重いエピソードが満載で、テーマは少年の孤独と成長で、どうしたって暗い小説なのに、笑えるシーンもちゃんとあって、その辺りのバランス感覚はさすが荻原さんです。「僕たちの戦争」や「明日の記憶」もそうでしたが、テーマが重くても、それを、逃げ場がないほど突き詰めて描くわけではなく、ユーモアと優しさで温かく包み込む。痛くない。読み応えがあるのに読みやすい。それが、荻原作品の特徴だし、だから私は、荻原さんのファンです。いい本でした。

でも・・・この後を描くかどうか、とても悩むのですが・・・。感想はここでやめても、いいような気もするのですが・・・。

出生の秘密、あるいは、家庭の事情があって、孤独な少年時代を送った青年の心の軌跡を描いた物語。あるいは、周囲との違和感に悩む少年が、自分探しをしつつ、成長する物語。というのは、ありすぎるほどよくあるテーマだと思うんです。純文学の一大テーマだと思うし、あらゆるジャンルの中にこのテーマは散りばめられています。それらと、この本を比較すると・・・どうかな?父親がクロマニョン人だと思い込むという発想は面白かったけれど、それ以外の部分は「よくある話」以上のものだったかな?微妙です。

それに、荻原さんの持ち味である、暗さや重さを突き詰めない「寸止め」のバランス感覚が、このジャンルでは長所かどうか微妙です。このジャンルには本当に暗くて、痛くて、心が塞がれて、途中で読むのをやめたくなるような本がたくさんありますよね。そういう本はそういう本で、好きかと言われると困るのですが、やはりこの本は、そういう物に負けているように見えてしまいます。たとえば「疾走」と比べると。あるいは「晩鐘」乃南アサ や、「白夜行」東野圭吾 と比べても。(たとえば・・・にミステリィしか出てこないあたり、私の読書傾向の偏りがうかがえますね・・・。)そしてそれを補うほどのオリジナリティが「クロマニョン人」にあったかどうかは、微妙です。

というわけで、☆をつけたいくらい読み応えのある本だったけど、○にしておきます。
| あ行(荻原浩) | 00:18 | - | - |
▲ 押入れのちよ 荻原浩
押入れのちよ押入れのちよ
荻原 浩

新潮社 2006-05-19

帯にもあるように、荻原印の、ホラー短編集、でした。

基本的に、「荻原印」と「ホラー」というのは、融合に無理があるというか、配合のバランスが難しいんだな、というのが、正直な感想です。

だってね、「荻原印」って、恐くないんだよね。全然。荻原印の基本って、できれば明るく、人にはやさしく、どんな時でも前向きに、でしょう?がんばってはいたと思うけど、やっぱり、湿ってない。寒くない。全然まったく恐くない(笑)。

でも、だから面白くなかったのかというと、そんなことはなくて。恐くはないけど、面白い物語ではありました。コメディやブラックユーモアあり、ハートウォーミングな人間ドラマありの、バラエティに富んだ作品集です。荻原作品の中で上位にランキングされるかと言われれば、そんなことはないけど、この本はこの本で、面白かったです。

○ お母さまのロシアのスープ
仲の良い双子の姉妹は、隠れるように、ひっそりと暮しています。お母さまと共に、ロシアから中国の山中へ、追われるように逃げ暮す、この家族の秘密とは?オチにやられました。

○ 押入れのちよ
ヘタレの主人公が引っ越したおんぼろマンションの押入れには、明治の少女、ちよが住んでいました。2人のキャラがよくて、会話、かなり笑えました。設定は典型的なホラーなのに、本当に全然、恐くない(笑)。このキャラで長編を書いて欲しかったです。

○ コール
男2人に女1人の、友情と、恋の行方を描いた物語。ホロリとくる、切ない物語でした・・・。荻原さんっぽさ全開でした。

□ 木下闇
これが一番、典型的なホラーでした。ジャパニーズホラームービーって感じ。幼い頃、田舎の屋敷で行方不明になった妹の行方を探して、「あること」を確かめに、屋敷を訪れた「私」は、妹の失踪の真相をしります。

ほかに
□ 殺意のレシピ
△ 老猫
□ 介護の鬼
△ 予期せぬ訪問者
△ しんちゃんの自転車
| あ行(荻原浩) | 07:42 | - | - |
▲ ママの狙撃銃 荻原浩 
photo
ママの狙撃銃
荻原 浩
双葉社 2006-03

by G-Tools , 2006/05/31





ネタバレあり。

この本の感想を書くのは、とても難しいんです。あまりに、難しいので、この数日ブログの更新をサボっていたくらい・・・。ストーリーの難しい本というわけではありません。文章もテンポが良く、ユーモアに溢れていて、荻原さんらしく、読みやすかったです。でも、この物語をどう解釈すればいいのか・・・ああ、難しい(笑)

主人公は、福田曜子、41歳、専業主婦。サラリーマンの夫と、有名私立中学に通う娘と、能天気な幼稚園児の息子の4人家族です。最近、念願のマイホームを購入し、平凡でそれなりに幸せな毎日を送っています。曜子は何よりも家族の幸せを大事にする、ごく一般的な主婦です。

しかし、曜子には、家族にも秘密の過去があります。曜子は、6歳の時から10年間、アメリカのオクラホマで、殺し屋だった祖父、エドと暮していました。誰もが自分の身を守るために戦っているような国、アメリカで、曜子はエドから、射撃を初めとする戦闘の技術を受け継ぎました。曜子には素質があり、エドのあとを継ぐ暗殺者となって、25年前に1人の男を暗殺しています。しかし、祖父の死後、日本に帰ってきてからは、その世界からはすっかり足を洗っています。

物語は、過去に曜子に暗殺を依頼した、Kという男から、25年ぶりに暗殺の依頼が来るところから始まります。夫のリストラという家族の危機に直面して、曜子は、お金のために、再び人を殺すことを決意します。そして・・・

ママはスナイパー♪って感じで、曜子が軽いタッチで悪人をバシバシ殺しちゃって、お金を稼いで、家族を守って、主婦と暗殺者という二重生活を、ただ面白おかしく描きましょう・・・っていう本なら、それはそれで「あり」だと思うんです。善良だけどヘタレの夫や、愉快な息子のキャラクターも、違和感なく生きてくる。赤川次郎チックに、さらっと読んで楽しくて、それだけの本として成立すると思う。これからも、こんな生活が続きます、という結末でも、それなら、「あり」だと思います。

でも、この本は違います。曜子は長いこと、自分が殺した人の幻影を見、罪悪感を背負って生きてきました。再び暗殺を行う決意をし、スナイパーとしての本能が徐々によみがえり、周到に準備を進めながらも、曜子は悩みます。その苦悩と葛藤がかなり丁寧にじっくりと描かれているので、この部分は重いです。ユーモアのある文章も、笑えるエピソードも、それでかすんでしまっています。

ラストで曜子が自殺してしまったとしたら、衝撃の結末ではありますが、小説のオチとしては「あり」だったと思います。伏線ピシッと張られているし。でも、そういう結末ではないんだよね・・・。

曜子が、いじめやリストラや借金と、身を挺して戦う、パワフルウーマン小説として読めばよかったのかなあ。でも、その部分でも、微妙。

日本という狭い国で抑圧されてきた、曜子本来の人格が解放され、暗殺者としての本能が蘇ったことで、曜子はいじめに合っている娘を、彼女らしいやり方で守ることになります。いじめっこがやっつけられるシーンは、気分爽快で、こんなお母さんがいたらかっこいいと思いました。でも、やりすぎなんですよね。すっきりしたはずなのに、後味が悪いエピソードになってしまっている。どんなに嫌なガキでも、精神に異常をきたすほど、銃で脅しつけるなんて、やりすぎですよね?

荻原さんが、何を書きたかったのか、何をテーマにしたのか、わかりませんでした。「明日の記憶」が有名になりすぎたので、違う傾向の話を書こうとしたんだろうなあ、というのは、表紙を見ただけでもわかります。でも内容的には、結局ドタバタコメディにも、ハードボイルドにも、徹し切れなかったようで中途半端。重さと軽さの絶妙なバランス、っていうところを狙ったのかなあ、と、思いますが、重さと軽さが交じり合えずに分裂したまま、1冊の本になってしまった感じがします。

設定は面白かったし、読みやすかったし、楽しめる部分はたくさんあったんだけど、読後感としては、不完全燃焼、っていうのが一番近い言葉です。
| あ行(荻原浩) | 14:23 | - | - |
■ あの日にドライブ 荻原浩 
4334924727あの日にドライブ
荻原 浩
光文社 2005-10-20

by G-Tools

エリート銀行員だった牧村伸郎は、部下のために、支店長にうっかりたった一度逆らってしまったためにリストラ。なかなか望みどおりの再就職先がなく、つなぎにと、タクシー会社に運転手として就職します。

タクシー会社の運転手としては初心者で、やる気もない牧村は、営業ノルマを達成できない毎日。激減した収入に、妻はパートづとめをしなければならなくなり、娘は反抗期で、家にはいづらい。ストレスからくる円形脱毛症と、タクシー運転手の職業病各種に悩まされ、「俺の人生はどこで間違ってしまったのか」と、ひたすら鬱々とします。この鬱々は、やが妄想を生みます。学生時代につきあっていた彼女と別れなかったら。夢だった出版社に就職をしていたら・・・。

この妄想が、色も匂いもあるような、精密さで描かれます。牧村が、このどん底の精神状態から、そして妄想の世界から、這い上がっていく再生ストーリーです。牧村がタクシードライバーという仕事に慣れ、少しずつ、気持ちが上向いていき始めてからは、楽しく読めました。

「タクシードライバー」業界について、ユーモラスに描かれていて興味深かったです。ドライバーたちが個性的で、いい味出しています。それに、牧村の家族たちも、けっこういい味出してました。

ただ、ストーリー展開が弱い、というか、物語の面白さが、荻原さんにしては弱い気がするのです。元エリートのプライドを捨てきれず、自分の運のなさを嘆き、牧村がひたすら暗くしずんで、鬱々と妄想する前半が、とにかく長く感じられて。我慢の読書でした。あんな理不尽な職場、やめられて良かったじゃん、などと思ってしまったので余計に。

後半は、ややご都合主義ながら、荻原さんらしくとても楽しく、感動的だったので、我慢して読んでよかったのですが。さすが荻原浩さん、と、最後には思ったのですが。
| あ行(荻原浩) | 23:30 | - | - |
■ さよならバースディ 荻原浩 
4087747719さよならバースディ
荻原 浩
集英社 2005-07

by G-Tools

「バースディ」は、ボノボ(チンパンジーによく似た類人猿)の名前です。類人猿の言語習得実験を行う研究センターで、研究者や助手たちにかわいがられ、言語を教えられて、育てられています。

主人公は、研究者の1人。彼の恋人であり、研究の助手をしていた女子学生が自殺したことが事件の発端です。彼女は、その直前まで自殺するような様子はありませんでした。むしろ、彼のプロポーズを受けようとしていたのです。

彼女は、本当に自殺したのか。なぜ自殺しなければならなかったのか。彼女が自殺をした瞬間、バースディは同じ部屋で、それを見ていました。

恋人を失った研究者が、バースディが見た記憶を、教え込んだ言語から引き出し、真実に迫ろうとするサスペンス。ミステリーとしては面白い趣向だったと思います。そして、バースディの記憶から、謎解きが行われる、と、思ったその時、新たなる衝撃の真実が明らかになり・・・大ショックです。ある意味では、叙述トリックです。見事に騙されてしまいました。やられた!

ただ、小説としては。主人公と助手の恋愛関係の描き方が浅いんですよね。というより、主人公が人間関係において未熟なんです。何も見えてないの。科学者らしい研究馬鹿ってやつなのかなあ。大学内の人間関係も、損得勘定の裏側も、彼女の心のうちも。だから、結婚したいほど好きな相手に、完全に騙されるような事になるわけですが…。彼女の服装や、露出度や、顔の描写はやけに多いのに…お前は中坊かって!って感じでした。まあ、秘密を持ちすぎの「彼女」もどうかと思いますが、まったく何も気がつかない「研究者」も、鈍感というか、馬鹿というか、マヌケというかなんというか。最後の最後まで、主人公の「誠実さ」や「生真面目さ」よりも、マヌケっぷりのほうが気になってしょうがない本でした。

ラスト近く、バースディを通じて死んだ彼女からのメッセージが出てくるシーンは泣けるシーンでした。何も理解いていないボノボ。だからこそ、伝わる死者からのメッセージ。はー。

というわけで、賛否両論分かれる本でしょうね。私は…否、というほどではないけれど、他の荻原さんの作品のほうが、より好き、です。あ、タイトルは失敗だと思います。ラストシーンのネタバレなんだもん。
| あ行(荻原浩) | 02:45 | - | - |
■ なかよし小鳩組 荻原浩 
4087752429なかよし小鳩組
荻原 浩
集英社 1998-10

by G-Tools

「オロロ畑でつかまえて」に登場したユニバーサル広告社が、今度は、指定暴力団・小鳩組のイメージアップ戦略という難しい仕事に取り組まざるをえなくなります・・・うっかりして。すらすら読めるユーモア小説です。

今作は、主人公がはっきりしています。ユニバーサル広告社のコピーライター・杉山です。ストーリーは、小鳩組との仕事と、杉山の家庭の事情をからめて進みます。杉山には、離婚した奥さんに引き取られた娘・早苗がいるのですが、早苗は、新しい父親となじむ事ができず、しばらく杉山があずかることになるのです。

ユニバーサル広告社のメンバーは、「オロロ畑〜」の時より、キャラがはっきりしてきました。社長をはじめ、個性豊かなメンバーで面白かったです。暴力団の面々も、恐いというよりお茶目で、かわいい。7歳の、おてんば早苗ちゃんも、関西弁丸出しで面白い。それぞれキャラが濃くて、会話が楽しくて、よかったです。

みんなが本当に一生懸命で、最後はちょっと感動します。いい本でした!全国のお父さんにオススメです。

(ただ・・・個人的には「オロロ畑〜」のほうが好きかも・・・)
| あ行(荻原浩) | 20:27 | - | - |
● ハードボイルド・エッグ 荻原浩 
4575233811ハードボイルド・エッグ
荻原 浩
双葉社 1999-10

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主人公は、「人生で大事な事はみんなフィリップ・マーロウに教わった」という私立探偵の「私」。理想の自分と、現実の自分のスキマを埋めきれない、彼のハードボイルドは、すごくピントがずれていて、だから彼の語るすべての文章が面白い!一文も気を抜けないコメディタッチの推理小説です。

彼が、まったくハードボイルドを理解しない「押しかけ秘書」綾と共に、初めて殺人事件を捜査するストーリー。動物と人間の関係について考えさせられる事件でした。「私」を助ける、小さな活躍をする登校拒否の少年と、「私」との、孤独を間にはさんだ会話もよかったです。スピード感のある展開だし、犯人は十分意外だし、とても楽しめました。

でもこの本の魅力は、事件解決にあるんじゃないんだあ。それだけだったらまあ評価としては「可」程度かな。でも、作者の、人間を温かく描く視点がいいんです。笑わせて笑わせて笑わせて・・・で、最後に泣かせてくれる!かなり泣ける!挿絵が、最初と最後にあるのですが、それも含めて泣ける!やられた!

とにかく、いい本でした。いまさらですがオススメです。
| あ行(荻原浩) | 00:24 | - | - |
● オロロ畑でつかまえて 荻原浩 
4087743160オロロ畑でつかまえて
荻原 浩
集英社 1997-12

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超ど田舎の牛穴村が、村おこしのために、倒産寸前の広告代理店と手を組んだ。彼らが計画した「作戦」とは!?

あらすじを書くと、「過疎化」「地方行政」「メディアの影響」など社会的な事を考えたくなってしまうような気がします。この本はそういう問題提起を含んではいますが・・・たぶんそんな事をいっさい考えずに読んだほうがいいんだと思います。

とにかく笑えましたね〜。牛穴村の人たちがみんな純朴で、温かくて、個性的で。会話が全部、漫才かコントのようでした。小さな笑いがいっぱい。大きな笑いも、ドキドキも、ハラハラもいっぱい。ちょっと唐突なラストも、素直に嬉しく思えました。

オロロ豆はけものくさいそうです。けものくさい豆ってどんな味?食べてみたいなあ。1つ不満があるとすれば・・・せっかくタイトルにもなっているんだから、オロロ豆をストーリーにからめて欲しかったなぁ。あのラストをオロロ豆でなんとか演出することはできなかったかなぁ、と考えてしまいます。
| あ行(荻原浩) | 20:14 | - | - |
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