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▲ 闇の底 薬丸岳
闇の底闇の底
薬丸 岳

講談社 2006-09-08
少女を犠牲者とした痛ましい性犯罪事件が起きるたびに、かつて同様の罪を犯した前歴者が首なし死体となって発見される。狂気の劇場型犯罪が、日本中を巻き込んだ−。運命が導いた、哀しすぎる「完全犯罪」。
デビュー作『天使のナイフ』では、犯罪者の更生と贖罪について、当人の内側から描く視点でしたが、今回はそれを外側から描いているんだな、と、思いました。同じテーマの裏と表、って感じです。だから、全然違う物語なのに、なんとなく2番煎じの臭いがする・・・(笑)。でもまあそれは、すでに作家としてカラーが確立しているってことなので、いいことですよね。

今考えるとやはり、『天使のナイフ』は江戸川乱歩賞受賞作品だけあって、レベルの高い作品だったんですよね。いくつもの物語が重なり合った複雑な構成に驚かされたし、何人もの悲しい登場人物に感情移入できたし、色んな事を考えさせられるすごい本だった。この本は、十分読み応えがあったのですが、『天使のナイフ』に比べてしまうと、色んな意味で薄かった気がします。

でも、次作も読みます。楽しみです。
| や行(その他の作家) | 18:39 | - | - |
箱の中の天国と地獄 矢野龍王
箱の中の天国と地獄箱の中の天国と地獄
矢野 龍王

講談社 2006-10-06

ある日突然見知らぬ男女が一箇所に集められ、命をかけたサバイバル・ゲームに挑むことになります。2つの箱のどちらかを開ければ、上階への扉が開かれる、という簡単なルールです。箱の中には道具が入っていることもあれば、開けた人をあっという間に殺してしまうしかけが入っていることもある。次々に人が死に、パーティーのメンバーは簡単に入れ替わります。生き残れるのはいったい誰か?

ゲームの部分はマニアックに作りこまれています。このゲームを仕掛けた黒幕の正体に関しても、読者に自分で解くようにと、明言されてはいません。だから、パズルとしては楽しめました。パズル以外の部分があっさり、ばっさり、潔く切り捨てられていて、小説として評価するのは難しいです。

それでも、この本の感想をUPしておこうと思ったのは、似たような作風の作家さんが、ものすごく若い人に人気があるようだから。もろに、バトロワの影響は受けてるし、山田○介さんとは、がっつりかぶっていると思うんですよね。でも、この人のほうが色んな意味で上手いと思うし、将来性も感じる。

私は、もういい年なので、これ以上こういう世界を追求しようとは思わないけど、若い人たちが「こういうもの」を求めていて、これを吸収して文章に親しみ、日本語力を養い、小説を楽しんでいるのであれば、「こういうもの」のレベルアップを望みます。「こういうもの」から始まったとしても、読書は読書。入り口がどこであれ、同じ趣味の仲間が増えて、業界が活性化するのは嬉しいことです。

それに、私が学生のころには新本格のブームがあって、私もそれにのっていて、たぶん当時の大人の人たちからは、同じように見られていたんだろうと思う。だから、この著者にも、講談社にも、頑張って欲しいものです。
| や行(その他の作家) | 15:27 | - | - |
■ 今夜は心だけ抱いて 唯川恵
今夜は心だけ抱いて今夜は心だけ抱いて
唯川 恵

朝日新聞社 2006-03

10年前に離婚し、それからは翻訳家として、仕事に生きてきた47歳の柊子。離婚したとき娘から、祖母のほうがよい、と、拒絶されたことが忘れられず、自分には子供などいない、と、言い聞かせています。現在、8歳年下の家族持ちの男と、不倫を始めたばかりです。

家族より仕事を優先し続け、最終的には自分を捨てて出て行った母を、10年間恨み続けてきた娘、美羽。現在高校3年生になり、父・継母・異母弟という家族と、それなりの暮らしをしています。行きつけの喫茶店のウェイター、透に、ひそかに思いをよせています。

この2人が、美羽の父、亮介の海外赴任をきっかけに、ふたたび一緒に暮らすという話が浮上します。そして、その話し合いの最中、エレベーターの事故で頭をぶつけた2人は、心が入れ替わってしまったのです。

18歳の心を持ったまま、47歳の体になってしまった美羽。47歳の心を持ったまま
女子高生になってしまった柊子。2人の恋の行方は?
若いカラダと
熟れたココロ
熟れたカラダと
若いココロ

女はどっちで恋をする。
この帯とタイトルがなあ・・・。これを見ると、濃厚な恋愛小説を期待してしまいますよね・・・。でも、この小説は、違うんですよ。違うんです!恋愛小説として薄っぺらいと言いたいのではありません。ただの恋愛小説と言い切ってしまうのはもったいない本なんです!もちろん、若者の恋愛と、大人の恋愛について描かれていて興味深かったし、勉強になったし、恋愛小説ならではの素敵なシーンも切ないシーンも、醜悪なシーンもたくさんあって、良かったんですけどね。

でも、他にも読みどころがたくさんあったんです。私は、もつれた母娘の間の感情が、どんな風にほぐされていくのか、という点が、メインのあらすじだったような気がします。最初は、実年齢よりさらに精神的に幼いように見えた美羽が、ぐんぐん精神的な成長を見せる。諦めて、ひねくれて、固い鎧をまとって生きてきた柊子にも、優しさが戻ってくる。そして母と娘の特別な絆の復活。読み応えがありました。

人はそれぞれ、相手によって、違う顔を見せる。自分の前にいる時の誰かを知るだけでは、相手を理解することにはならないのかもしれません。「人の裏側なんて知らないことのほうが多い」と、柊子は言いますが、やはり誰かを理解したいと思ったら、相手が表に出さない思いや、他の人の前にいるときのその人の様子を、観察したり想像しなければならないな、と、思いました。べつにストーカーみたいなマネをしろというわけではありませんが。

もちろん、心の入れ替わりという特殊状態にどんなオチをつけるのか、というところで、ストーリーの展開も、すごく面白い本でした。ただこのタイトルや帯を見て、濃厚な「恋愛小説」を求めてこの本を読み始めるような趣味の方には、この手のストーリーは受け入れられないような気がします・・・。非現実的な設定を「子供っぽい」と言い切って、嫌うようなタイプの人だとダメでしょうねー(私の近くにいるんです。こういう人が)。ジャンルにとらわれず、面白い物語を求めている、私のような人間には、丸く収まりすぎのラストまで含めて、楽しめる本でした。この切ない余韻は、好みです。

本当は、少し設定が似ている、「秘密」東野圭吾 と、比較して感想文を書きたい気がする。でも、それをやってしまうと、「秘密」を愛するあまり、この本に対する評価が不当に辛くなってしまう気がする。なので、やめました。この本はこの本として、面白い本でした。
| や行(その他の作家) | 23:26 | - | - |
● 雨のち晴れ、ところにより虹 吉野万理子
雨のち晴れ、ところにより虹雨のち晴れ、ところにより虹
吉野 万理子

新潮社 2006-07-20

すっごく良かった!超、好き!特に女性にはオススメ!男性でも、好きな人は好きだと思う。

もしかしたら、ミステリィ以外で、ものすごく好きになれる作家さんを、久しぶりに発見しちゃったかもしれません。この本がいいだけではなく、この本から著者の才能も、将来性も、ひしひしと感じます。ワクワクします。完全に若者向けだった前作「秋の大三角」からは、ずいぶんジャンプアップしています。

わたしはこの本を、図書館の新刊本コーナーでたまたま見つけて、ジャケットの美しさにひかれて借りてきました。でも、うちの近所の何軒かの本屋さんには、この本はおいてありませんでした。もしかして、まだあんまり売れてないのかなあ?もったいない!すごく、いい本ですよ!騙されたと思って、読んでみてください!「号○する準備はできていた」や「風に○いあがる○ニールシート」が、直木賞をもらえるなら、この本にも、直木賞をあげたい!と、思うくらい、いい出来だと思います。全国の本屋さん、この本をもっと売りましょう!ぜひ、本屋さん大賞を!

帯に、
いつかは壊れるものなら、最初からいらないと思っていた。
同じ想いにならないのなら、
この人を好きになることはないとおもっていた。
と、あったので、恋愛小説かと思ったのですが、それだけではありませんでした。夫婦、親子、友人など、色んな人間関係がテーマになった、短編集です。どの短編も、湘南が舞台、という共通点はありますが、とくに連作になっているとかいうことはありません。(追記:いや、連作だ。それも、長編と言っていいほどの連作だ。というご意見が多いようです。実は、今では私もそう思ってます。この感想を書いた時点では、全然読めていなかったんですねー。長編とまでは思わないけど、これは見事な連作短編集です。詳しくは、本を読む女。改訂版+ChekoaLibraly+のブログの記事をご覧ください。2006.08.24)それぞれの短編が、それぞれの色を主張している、バラエティにとんだ、読み応えのある短編集でした。基本的には「ちょっといい話」が多く、やさしくて、さわやかで、気持ちのいい、癒される本です。強烈なインパクトがあるストーリーではありませんが、とにかく、いい本です!

これから、私自身の備忘録として、各短編のあらすじを、さわりだけ書きますが、ぜひこんなものは読まないで、本のほうを読みましょう!ぜひ!本屋になくてもamazonへ!



□ なぎさ通りで待ち合わせ
渉と美也子の夫婦は、現在ケンカをして別居中。出て行くときに美也子が残した言葉は「本質的に私たちって合わないのよ。味覚だってなんだって。」でした。肩のこらないチェーン店と、ジャンクフードが好きな渉。雰囲気のいい店で、オシャレに食事を楽しみたい美也子。洋食でも箸で食事をしたい渉と、自宅でもバカラのグラスでワインを飲みたい美也子。2人の食事に対する感覚はあまりにもかけ離れていて、2人は「味覚の不一致」による離婚の危機に直面しているのです。

2人とも真面目に悩んでいるんだけど、どこかユーモラス。現実に生活していくうえで「味覚の不一致」って確かに一大事なんだけど、小説になると、やっぱりクスッと笑えます。この問題を、解決しようと、渉の父、勝弘が乗り出してくるのですが、このお父さんがとても素敵です。いい話でした。

○ こころ三分咲き
予備校教師の母親、多香子に、女手1つで育てられた優花。この作品は、親子関係がテーマになっています。優花と多香子の関係はしごく良好ですが、登場するもう1つの親子関係は悲惨です。近所の人たちが心配するほどの、ひどい児童虐待が行われているのです。ある日、あまりにひどい暴力が行われていることに気がついた多香子が、子供たちを助けに飛び込もうとしたとき、恐ろしくなった優花は、多香子を引き止めてしまいます。そして、その後ずっと、そのことに罪悪感を抱き、子供たちと関わっていくようになります。

2つの親子が、どんな結末をむかえるのか、優花がどんな成長を見せるのか、短編とは思えない内容の濃さでした。良かった!

□ ガッツ厄年
いわゆる、30代のワーキングガール小説です。由衣は、今まで順調にキャリアを重ねてきましたが、上司の立場になった今、後輩OLからパワハラで訴えられて、窮地に陥っています。由衣の先輩や、同僚や、後輩など、たくさんの働く女性が彼女を励ます言葉に、いちいち共感できます。でも、押し付けがましい「共感ください小説」にはなってなくて、楽しく読めました。由衣と、後輩OLとの対決は、見ごたえがあります。いやー、女って怖いわ。でも、女の友情は、ありがたいわ。

由衣の彼氏、という存在が、物語の展開に、大きな役割を果たしているのですが、この男が本当にもう、実際にどこかにいそうなリアルなダメ男で、憎めない感じでした。笑わせてもらいました。

☆ 雨のち晴れ、ところにより虹
30代で末期ガンの宣告を受けた須藤は、今、ホスピスで暮しています。84キロの巨体の看護婦、いつも明るく、素直で、さっぱりした常盤さんが彼の担当で、彼女との会話を須藤は楽しみにしています。ところがあるときから、常盤さんは、顔色が悪くなり、他の看護婦にも心配されるほど痩せ始めました。その理由とは?

ホスピスで死を見つめる須藤の心の動きには読み応えがありましたし、須藤と常盤さんの温かい関係は、感動的でした。これ以上長いストーリーになってしまうと、ベタで鼻につくような物語なのですが、短くまとめたことで成功していると思います。ラストシーンは最高!いいお話でした。

☆ ブルーホール
素潜りをして魚を取っていた時代から数えれば、60年のベテランダイバーのオジイ。息子もオジイのあとをついで、ダイバーショップを経営しています。オジイは孫の雄貴にも、海の男になって欲しいと願っています。しかし、雄貴の憧れは空へ向けられています。彼の夢は、パイロットになることなのです。でも、オジイの気持ちを知っている雄貴は、そのことをなかなか口に出せません。

ストーリーはほぼ、オジイと雄貴、そして2人が釣りをしているところにあらわれた、パイロットのおじさんの、3人の会話だけで進みます。海の男のプライドも傷つけず、少年の空への夢も壊さない、おじさんの話術は見事です。見習いたい!パイロットより、営業マンとかカウンセラーとか、人と話す仕事にむいてるんじゃ?

3人の会話が終る頃、雄貴の夢が変わります。これがまたいいんだ!素敵なんだ!

□ 幸せの青いハンカチ
大学で友達があまりできず、職場にも馴染めずにいる、佳苗の一番の親友は、大学時代の友人、佐和子。その佐和子が結婚することになりました。佳苗は、寂しさを感じながらも、佐和子を祝福しようとしています。スピーチも頼まれ、緊張しています。佐和子が披露宴の会場に選んだ逗子マリーナは、佳苗と佐和子の思い出の土地です。ところが披露宴の途中で、佳苗は、逗子マリーナが、佐和子と新郎との思い出の土地であることを知ってしまいます。

自分と佐和子の思い出の土地が、佐和子にとっては夫との思い出の地。佳苗はすっかり落ち込んでしまうのですが・・・。女友だちが結婚してしまうときの、悪意でも嫉妬でもないけれど、祝福だけでもない、寂しさや羨ましさを見事に描いた良作。エンディングの爽やかさも、リアルじゃないけど、いいです。いいお話でした。佳苗も幸せになれますように。
| や行(その他の作家) | 14:58 | - | - |
■ 風味絶佳 山田詠美
4163239308風味絶佳
山田 詠美
文藝春秋 2005-05-15

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うん、良かったです。基本的に、恋愛小説が苦手なので、恋愛小説には辛口になってしまうことが多い私ですが、これは良かった。恋愛だけの本には見えなかったし、恋愛がメインでもなかったような気がするからかなあ。

もちろんどの作品も、恋愛を描いているから、サラッと読みやすいんですけど、実は「生きる」ということを正面から描いた、すごく真面目な本でした。ま、まじめに感想を書かなければ・・・。

以下、印象的だった順に。

・間食 

鳶職人の雄太は、年上の同棲相手、加代がいながら、次々に色んな女性と恋をしています。現在の雄太の恋人は、女子大生の花です。歪んだ愛し方しかできない人たちの物語。もちろん誇張はあるんだけど、人物像がとてもリアルだと思いました。というわけで、1番印象的だった話。

雄太みたいな、子供っぽい残酷さをいつまでも持っている男ってたくさんいるよなあ。女には、花みたいな、表面的に優しいものに騙されたいと思う甘い部分ってあるよなあ。本質はどうあれ、わかりやすい言葉や形で、いくらでも優しくされたい、みたいな。(母になったら変わるのか?という点に関しては、経験がないのでわからないけど・・・。)

それに、女には、加代みたいな、優しくする喜びに自分が酔ってしまうようなところってあるよなあ。母性本能の一言では片付けられないし、男をつなぎとめる手段というだけでも、たぶんない。きっと不安を解消しようとしてるんだよね。これだけ尽くしているんだから、彼は私から離れられない、って信じたい、みたいな。スポーツ選手っぽいなあ。練習は自分を裏切らない!あんなに辛い練習をしたんだから、絶対勝てる!みたいな。・・・なんか違うか。

そんな三角関係の話を、雄太の口から聞くことになる、寺内という青年が最高でした。つかみどころのない、おもしろいキャラクター。「で、加代さんて人は、誰に可愛がられてるの?」という言葉が良かったです。寺内さんは、加代に同情したわけでも、雄太に説教したわけでもなく、客観的に人間関係を分析して、そのまま口に出したんだろうなあと思います。

寺内さんのように、超然として見える人、っていうのもいるよなあ、と、思いました。周囲の思惑など気にもとめない様子で、自分が世界の中心であるように振舞う。他人と積極的に関わることはなく、自己主張せず、静かにそこにいる。口を開かせると、妙に意味深なことを言う。そう見える人はいるけれど、でも、寺内さんの内面も、描いてしまえば、きっと超然となんかしてなくて、けっこう普通の人なんだろうと思いました。

・夕餉

ゴミ収集車の乗務員について、家を出てしまった元主婦、美々の物語。ひたすら男のために、こった料理を作り続ける美々の様子が、あまりに必死で、痛々しいです。そして料理やゴミの分別に関する、山田詠美さんの精密な描写が、ホラー映画のような恐さを感じさせます。そら恐ろしい・・・。

でも、なぜか素直に美々を応援したくなる作品でした。幸せになって欲しいなあ。最後に美々が決心したこと、それを実行する様子を読みた。読んで自分がすっきりするのか、恐ろしいと思うのか、それを知りたい気がします。

・春眠

章造は、大学時代の仲間・弥生に、ずっと片想いをしていました。しかし、弥生は、自分の父親と結婚し義母となってしまいました。ああ、章造くん、かわいそうに。

亡くなった実母への思慕、ずっと斎場で働いてきた父に対して抱いてきた複雑な感情、実は章造の気持ちに気がついていた弥生、章造よりずっとシビアな妹からの説教、などなど。読み進めれば、読み進むほど、章造くんが痛いというか、可哀想になるストーリーでしたが、ラストは爽やかでした。夫婦も、兄弟も、親子も、いいよねー。うん。

・アトリエ

麻子と裕二という夫婦の物語。精神的に脆いところのある妻・麻子と、彼女を支える夫・裕二の関係が、裕二の一人称で描かれます。読み始めたときから、ざわざわと、気持ちの悪い小説だったのですが・・・最後まで気持ちが悪かったです。

裕二の視点からしか描かれていないのですが、それでも、裕二の愛し方が歪んでいることは一目瞭然。2人の関係は、明らかに共依存ですよね。裕二がいないとダメになってしまう麻子。麻子に必要とされることで自分を支えている裕二。麻子が妊娠したことで動き出す物語は、2人がいかに子供同士であるか、自立できていない人間であるかが滲み出ていて、嫌な感じでした。

最後まで麻子の気持ちが描かれないままなので、想像で補わなければいけない部分が多いのですが、それでよけいに考え込んでしまう作品。上手い!

・風味絶佳
・海の庭

この2つも良かったです。
日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。職人の域に踏み込もうとする人々から滲む風味を、私だけの言葉で小説世界に埋め込みたいと願った。

あとがきより。
「職人」にこだわったことが、短編集全体としては、あまり生かされていないような気がします。そこだけが、ちょっと残念。
| や行(その他の作家) | 14:16 | - | - |
▲ まだ見ぬ冬の悲しみも 山本弘
4152086998まだ見ぬ冬の悲しみも
山本 弘
早川書房 2006-01

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基本的には正統派というか、古典的なSF短編集。

だから、アイデアにも世界観にもストーリーにも、新鮮味はないです。それなのに設定の説明ばかりが長いです。山本弘さんを読むのが久しぶりだったんですけど、変わってないなあ、と思いました。でも、どの短編も、普通に面白く読めます。平均点は取れてるって感じ。(うわ。偉そう・・・。ごめんなさい)

全体的に、私にはわからないネタが多かったんだけど、何かのパロディだったり、何かへのオマージュだったりするらしいです。元ネタがわからないと、十分には楽しめない本なのかもしれません。私には、そのあたりのクオリティの判断はつきません。

以下、気に入った順に・・・。

・メデューサの呪文
物質文明に対抗するものとして、「言語文明」を持つ異星人がいます。彼らの世界を垣間見る事を許された、地球の詩人の物語。世界の崩壊というネタは、この本の中に何度も出てくるんですけど、これが一番「ありえねーっ」な感じ。だってたった数行の詩に、世界を滅ぼす力あるんだって。聞くだけで気が狂うんだって。ありえねーっ(この作品はコメディではありません。シリアスです。)

でも、私は、この作品がこの本の中で一番良かったと思います。上手い。それに、こういうのは好き。飛浩隆さんの「象られた力」を思い出しました。

・バイオシップ・ハンター
バイオシップで宇宙を旅する、トカゲ型宇宙人と、地球人ジャーナリストの異文化交流。いい話なんですが、どこかで読んだような気がする話でした。でも、視覚的にイメージするのは、ちょっと嫌かも。

・まだ見ぬ冬の悲しみも
タイムパラドックスもの。オチがけっこう好きでした。でも、タイムトラベルものの面白さも、恋愛小説の面白さも、両方失ってしまった、かわいそうな作品です。長さを半分にして、どっちかに絞ればよかったのに・・・。タイトルは素敵ですね。

・奥歯のスイッチを入れろ 
スイッチを入れると、人間の400倍の速さで動ける、サイボーグ戦士の闘い。よくある設定を、加速状態を物理的に検証する事で勝負している作品。小説には、まだなってないんじゃないの?って感じです。だけど、その設定がなかなか面白くて、加速中の描写が興味深かったので、そこを楽しみました。

・シュレディンガーのチョコパフェ
これも、世界の崩壊の話。たった一人の男が、ちゃっちい機械で、世界を崩壊させようとしている・・・。ストーリーには、かなり難あり。でも、主人公のオタクカップルの会話がなかなか楽しいので、マニアなコネタはたくさんあって、楽しめる人は楽しめるんだろうなあという作品。

・闇からの衝動
これは・・・私には面白さがわからなかった。C・L・ムーアという方の作品を知っていたら、違ったと思います。
| や行(その他の作家) | 14:56 | - | - |
● 天使のナイフ 薬丸岳
4062130556天使のナイフ
薬丸 岳
講談社 2005-08

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少年犯罪をテーマにした、社会派推理小説。オススメ!

主人公の桧山は4年前、妻の祥子を殺されました。犯人は13歳の少年でした。それぞれ更生施設へ送られたり、保護観察処分になったりはしましたが、少年法に守られて3人ともすでに社会復帰しています。

その3人の少年のうちの1人が殺されたところから、事件は始まります。「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」とマスコミに発言した事のある桧山は、警察からも、地域の人たちからも疑われることになります。

その後の展開は、本当に予想外です。3人の少年が犯罪を起こした真の理由や、少年たちが本当に反省していたのかが明らかになる、という意味では予想通りなのですが、それだけでは終りません。次から次へ事件が起き、次から次へ新しい事実が発覚する、ドラマティックな展開。退屈することなくぐいぐい読まされました。

登場人物が多く、様々な過去と現在が交錯する、この複雑なプロットを、よく組み立てたなあと、感心します。伏線があちこちに張り巡らされていて、すごいです。真相にも、あっとおどろかされました。サスペンス&ミステリーとしては、文句なしに面白かったです。新人さんとは思えません!

章タイトルが「罪」「更生」「罰」「告白」「贖罪」となっています。少年でありさえすれば「更生」が可能だというのは正しいのか。本当に「更生」するとはどういうことなのか。「更生」することと、「罰」を受けることは、どちらが優先されるべきなのか。失われた命は戻らないのに、どうやって「贖罪」をすれば良いのか。「少年犯罪」や「被害者の人権」という難しい問題に、かなりがんばって深く踏み込んだ、意欲作だったと思います。

ただ、そういうテーマのわりには、登場人物の背景や、それによって培われた人格や、職業選択が、あまりに型通りでご都合主義だったのが、不自然な気がしました。そのせいで、それぞれの内面に踏み込んでいるようで・・・たいして踏み込んでいなかったような・・・。その1点が惜しいです。

第51回江戸川乱歩賞受賞作
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| や行(その他の作家) | 11:48 | - | - |
● PAY DAY!!! 山田詠美
4101036225PAY DAY!!!
山田 詠美
新潮社 2005-07

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主人公は、17歳の双子、現実的で積極的で要領のよいロビンと、内向的で思慮深く不器用なハーモニー。両親が離婚する事になったとき、兄のハーモニーは、父親と共に父親の実家へ行き、妹のロビンは、母親と共にニューヨークに残ります。一年後、父と兄に会いに遊びに来た南部で、ロビンは、ショーンにめぐり合い恋に落ちます。

ロビンが休暇を終えてニューヨークに戻った後、あの9.11テロがおこり、双子は母親を亡くします。そして、ロビンも一年遅れで南部で暮す事になるのです。悲しみを乗り越えようとする家族と、双子の成長の物語です。

感動的な本でしたが、泣ける!・・・という感じではありません。登場人物がやたら泣くので、もらい泣き体質の人は泣けるかもしれませんが、しんみりする、とか、ぐっとくる、とか、そんな感じの爽やかな感動がある本です。

私が好きだったのは、第二章のラスト。本当に感動でした!第一章がちょっとだけ退屈に感じられたのですが、そこで読むのをやめなくてよかったです。

9.11の衝撃から「何かを書きたい」と思った作家さんは多いようです。「何かを書かなければ」という使命感を持った作家さんも多いらしいですね。その多くが結局は、構想倒れになっていたり、構想だけは壮大だったんだろうなあ・・・という駄作になっているのは、それだけ難しい題材だからなのでしょう。日本人には、小説の中で大量殺戮と政治を描くなら、絶対に必要なはずの覚悟というのが、なかなか決まらないんだろうなあ、と、個人的には思っています。

この本も、9.11を扱った本として読めば、イマイチです。ただこの小説は、9.11を背景にした、たんなる青春小説なので、すごくいい感じです。9.11にも、人種問題にも、ナショナリズムにも、けして深入りせず、あくまでも、両親の離婚に傷つき、母親を亡くした悲しみをもてあまし、父親との距離をはかりかね、初めての恋に夢中になっている、まだまだ子供な双子の内面に焦点を絞ったところが、この本の勝因だと思います。

恋愛・反抗・進路・生死・家族・友情・成長など、青春小説のエッセンスはひとつ残らずつまっています。やっぱり山田詠美さんは上手いよなー。文章が流暢で、すーっと読まされるのに、読み終えてみると、印象的な言葉がちゃんと胸に残っている。

特に、兄のハーモニーの描写が上手いんです。上昇志向と支配欲の強い母親に反発し、両親の離婚後、母親にはもう会わないつもりでいました。だからこそ、ハーモニーは彼女を失った悲しみを素直に表現することができません。罪悪感と後悔で、押しつぶされそうになります。年上の恋人との不倫関係は先が見えず、彼はますます傷ついて追い詰められ、結局、物わかりのよすぎる父親に苛立ち、八つ当たりをするはめに・・・

でも、ハーモニーは、そこからちゃんと立ち上がります。弱々しく見えますが、真に強い男になろうとしている。ハーモニーはこの一冊の中でちゃんと成長したと思います。

一方ロビンですが。彼女はもともと、虚勢をはって強がって、弱みを見せないタイプ。しかも、現実的で、万事に要領がよく、自己主張がしっかり出来る。ハーモニーに比べるとすでに、アイデンティティが確立している少女として登場します。だから、母親の死からも、周囲の大人との関わりからも、南部という土地からも、そんなに大きな影響を受けてはいきません。彼女の場合はひたすら、ショーンと出会って、恋に落ちたらそれに夢中になっちゃいました・・・って感じです。

恋をすると女は・・・の描き方が型どおりすぎて、ロビンは、ちょっとリアルじゃありませんでした。

脇キャラの大人たちはそれぞれに個性的で、実に魅力的です。時には二人をいらだたせるほど物分りの良すぎる父親。いなくなったからこそ大きな存在である母親。湾岸戦争経験者でアルコール依存症の叔父。ハーモニーの恋人で人妻のヴェロニカ。男の絶えないショーンの母親。父親の新しい恋人で、母親と正反対の存在であるケイト。それぞれがそれぞれのやり方で、双子と正面から向き合い、双子を成長させる温かい言葉を残してくれます。登場人物同士の会話が、知的で、テンポが良くて、オシャレで素敵です。

というわけで、遅ればせながら、オススメです。
| や行(その他の作家) | 19:22 | - | - |
★ 恋愛中毒 山本文緒 
4041970105恋愛中毒
山本 文緒
角川書店 2002-06

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再読。今は再読中心に読書中。

山本さんの心理描写は、いつも容赦がない。時に、露悪的と感じるほどだ。この本でも、主人公の女性の心理描写が丁寧になされているので、つい感情移入してしまう。でも、この本で山本さんは、いつものように露悪的な心理描写をしているように見せかけておいて、この小説が山場をむかえるまで、ヒロインの心の核心にある狂気にふれなかった。核心に触れずに、読者を味方につけ、ストーリーをひっぱり、読者を驚かせる。鳥肌が立つ。本当にうまい。

吉川英治文学新人賞受賞作。データーは残っていないけれど、一度書評を書いた。この本は、色んな切り口で読むことができる。私はヒロインに感情移入してしまったが、ヒロインの元夫や夫の友人ら、男性もかなり病んでいる。もちろん、ヒロインの恋の相手である作家も、その家族もひどくゆがんでいる。そんな事を細かく書き出すときりがないです。

これは、引用したい文章。
どうか、神様。
いや、神様なんかにお願いするのはやめよう。

どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛し過ぎないように。
愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。だからもう二度と誰の手も握らないように。

諦めると決めたことを、ちゃんときれいに諦めるように。
二度と会わないと決めた人とは、本当に二度と会わないでいるように。

私が私を裏切ることがないように。
他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。
| や行(その他の作家) | 04:37 | - | - |
■ 雨と夢のあとに 柳美里
4048735950雨と夢のあとに
柳 美里
角川書店 2005-04-08

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父親の死を知らないまま、父親の幽霊と暮らす、小学生の少女の物語。テーマは親子愛なのに、バタ臭くなく、ラストは予想どおりなのに、読み終えてみると満足感がある。文体のせいか、幽霊を、はかなく哀しい存在として描く描写のせいか、しんとした静けさと、透明感のある、不思議な中編。

柳美里さんには、読みづらい・くらい、というイメージがあって、あんまり好きじゃなかったんですが、この本は良かったです。また柳美里さんの作品を読んでみようかな・・・と、思いました。

でも、正直言って、ドラマのほうが数段良かった。泣けた。原作がこんなに短いのに、1クールの連ドラにしちゃったわけだから、中盤はパターン化しちゃってだれたけれど、でも、ドラマ版「雨と夢のあとに」はすごく良かったと思います。柳美里さんがプロデュースしたという主題歌も良かったしねー。

| や行(その他の作家) | 22:16 | - | - |
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