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■ 下北沢 藤谷治
下北沢下北沢
藤谷 治

リトルモア 2006-06-30

この本は、どんな感想を書こうか、とても迷いました。下北沢という街を感じさせてくれたし、ラブストーリーとしても楽しめたし、現代詩についても考えさせられる部分があったし、土蔵真蔵の人生にも感じ入りました。時々うっとりするほど綺麗な文章があって、藤谷さんって、上手いなあって思いました。

でも、私にとってのクライマックスは、勇のこのセリフでした。
僕には、「ここは下北沢なんだから、店がいくら赤字を出しても、俺という人間がいつまでもぱっとしなくても、それはシモキタっぽい、かっこいいことなんだ」という傲慢さがある。
私は、ずっと、これを感じながら読んでいました。登場する下北沢の住人が、シモキタとそこに住む友人を熱狂的に愛する気持ちは、コンプレックスの裏返しだよなあ、って。登場人物は、自分に自信がなかったり、現状に不満があったり、将来が不安だったりする人ばかり。下北沢という街は、そういう人が、現実から目をそらし続けるのを助長する街。なんとなく、精神年齢の低い小説だなあと思って、好きになれませんでした。

でも、終盤で勇のこのセリフを読んで、「な〜んだ、わかってたんだ〜。自覚あったんだー。」と、思ったとたん、一気に、すべての登場人物のことを大好きになってしまいました。いとしい、いじらしい、一生懸命な人たちでした。下北沢も(現実のシモキタには詳しくないけど)大好きです。とても、いい本でした。
| は行(その他の作家) | 15:53 | - | - |
■ 生きてるだけで、愛 本谷有希子
生きてるだけで、愛生きてるだけで、愛
本谷 有希子

新潮社 2006-07-28

過眠、メンヘル、25歳、の寧子の物語。

わたしも過眠はたまにやっちゃう人です。「生きているだけで疲れる」という寧子の言葉も、他人事ではありませんでした。もちろんわたしは、彼女ほどエキセントリックではないし、ドラマチックな人生でもないけど、やっぱり、寧子の言う「人として何かずれた部分がある」人間なんだと思います。「健やかな心を持った人達」と、結局うまくやっていけなかった寧子の気持ちが、とてもよくわかって、切なかったです。とりあえずは、津奈木がいて良かったね、と、思いました。

ただわたしは、同じようにずれた人間でも、寧子より、彼女の同棲相手である津奈木のような方向性でずれているんです。そして、やっぱり津奈木のように、寧子のような「はっきり、きっぱり、わかりやすくメンヘル」な人に魅かれてしまったり、逆になつかれたり、そして離れられなかったり、という経験を何度もしていて(恋愛関係以外が多いんですけど。)、だから、津奈木に1番共感しました。寧子側も辛いけど、津奈木側もかなり辛いんですよ〜。

自分の事ばっかり書いてもあれなんで、身もふたもない感想を書いてしまうと・・・。メンヘルなんて可愛く言っていても、彼女の場合はそれなりに深刻な躁鬱病だと思われるので、ちゃんと病院で治療したほうがいいと思います(笑)。

メンヘルにスポットをあてた小説はとても多いですよね。この本はその中でも、内容の重さの割に、読みやすい本でした。本谷さんに初挑戦!だったのですが、お上手ですね。他の本も読んでみたいと思いました。この種のネタは登場人物に絶望感があるので、そのまま書いたら重くて暗くてどうしようもない本になってしまう。だから、最近は、この本のように読みやすくサラッと描いてしまったり、逆に、簡単に治ってしまう癒し系ストーリーになっていたりしますね。どちらにしろ、自己陶酔や、美化がみえみえだと、読者は冷めてしまうので、バランスが難しいんでしょうね。この本は、そのどちらもなくて、行き詰った感じは良くでているのに、絶望的に暗くもなくて、読みやすかったです。

ただ・・・性格とか、育ちとか、現代社会のゆがみとか、そういうそれなりに文学的なテーマと、脳内物質の分泌異常が関係している、薬で治療できる病気の話を、いっしょくたにしてして描いてしまうのは、好きじゃないなあ、と、思いました。でも、まあ、病気である本人の一人称小説なので、しかたないと言えばしかたないですし、そういう彼女の目で見た「自分」と「自分の世界」というのは、読み物としては迫力も魅力もあって良かったと思うので、あくまでも好みの問題ですけど。
| は行(その他の作家) | 19:05 | - | - |
■ 記憶汚染 林譲二
記憶汚染記憶汚染
林 譲治

早川書房 2003-10

破滅的な原発テロの教訓から、携帯情報端末による厳格な個人認証が課された近未来日本社会。土建会社社長の北畑は、奈良の弥生遺跡から謎の文字板を発見するが、なぜかそれは200年前のものと推定された。いっぽう痴呆症研究に従事する認知心理学者・秋山霧子は、人工知能の奇妙な挙動に困惑していた。2つの事象が交わったとき、人類の営為そのものを覆す驚愕の真実が明らかになる―それは新たなる破滅か、それとも。
amazon より

ずっと気になっていたのですが、やっと読めました。近未来SFなのですが、テーマは歴史ということで、個人的にはツボでした。SF好きにはオススメですが、SFに慣れていない人には、設定の説明が延々と続くのが読みにくく感じられるかもしれません。わたしは、面白かったです。恩田陸さんの「光の帝国」シリーズや、「劫尽童女」のような雰囲気。民俗系伝奇SF。さかのぼると、半村良さん系ってことになるのかな。

つっこみどころはたくさんあるんですよ。たとえばこの本の中では、携帯情報端末の普及で人々は経験を共有できるようになり、その結果、新しい世代はどんどん、他人に優しく親切になっている、という設定です。そんなことってあるのかなあ。テロ対策というしかるべき理由があるとはいえ、厳格に管理されれば社会には不満がたまるだろうし、一人一人の個人にだってストレスがかかってくると思う。逆に、他人に親切にする余裕なんてなくなって、殺伐とした社会になってしまうんじゃないのかな。

それに、わたしたちが知っている「歴史」が、真実だろうが、そうではなかろうが、過去であることに変わりはない。「歴史」がどれだけ改ざんされようと、地球の将来なんて、なるようにしかならないよ。と、思ったよ、私は・・・。

たしかに、ほんの少し前まで、戦争も奴隷も正義だったのに、今ではそれを悪と信じて糾弾してるなんて、人間の変わり身の早さには改めて驚いたけど。そしてそれでもなお、「実態は戦争」「実態は奴隷」である数々の悲劇を、くさい物にはふたをしている人類には、いつも呆れるけど。そういうのって、一部の人の情報操作だけでおこる現象じゃないと思う。きっかけではなく根本原因は、社会という大きな生物の意志か、人類という種全体が、見たくないものが見えなくなる、弱い種だということだと思います。

設定がやけに壮大な割に、物語は小さくまとまってしまったのでもったいないような気はしましたが、色々と考えさせられる部分もあって、まあまあ、いい読書ができました。
| は行(その他の作家) | 23:11 | - | - |
■ ひかりをすくう 橋本紡
ひかりをすくうひかりをすくう
橋本 紡

光文社 2006-07-21

とてもいい本でした。癒される本でした。

グラフィック・デザイナーの智子は、仕事にいつも全力投球。手を抜く、ということができませんでした。過密スケジュールのストレスの多い生活を続けるうちに、ある日、パニック障害の発作を起こします。

最初の発作のときたまたま居合わせ、病院に付き添ってくれた同僚の哲ちゃんと、同棲するようになった智子。哲ちゃんは、仕事を辞め、主夫として家事をこなし、智子の負担を減らそうとしてくれています。病院でたくさんの薬ももらっています。それでも、智子はもう限界で仕事を続けることができません。智子は仕事をやめ、2人はマンションを引き払い、しばらく田舎の小さな街で静かに暮らすことにしました。

哲ちゃんと、不登校の中学生小澤さん、小澤さんが拾ってきた子猫のマメとの地味な暮らし。それがゆるゆると、少しずつ、智子の心を落ち着かせてくれます。穏やかに流れる日常が、智子には、何よりの薬でした。

そんな生活を静かな筆致で描きながら、現実の不安要素をちらちらと見え隠れさせる、著者の手法が上手いです。経済的な不安、智子の病気、智子と父親との確執、マメは猫エイズのウイルスを持っているし、離婚歴のある哲ちゃんの過去を、智子はすべて知っているわけではありません。

そして、ある日、哲ちゃん元妻と、智子が対面することになり・・・。

期待に答えなければならない、仕事で結果を出さなければならない、負けて故郷に帰りたくない。周囲から追い詰められているようで、その実、自分で自分を追い詰めている。現代人は、どんな立場にあっても、多かれ少なかれそういう部分があるのではないでしょうか。智子のように、それをやめることができたら、いいですよね。そしてそれにはたぶん、この本にあるように、手作りのもので暮す地味な生活とか、数少ない人たちとの穏やかで暖かな関係とか、小さな動物との触れ合いとか、そういうものが効くんだろうなあ、と、思います。

タイトルもとても素敵ですね。本当に、いい本でした。

でも、あまりにも現実ではない本だったなあ。この本は、リアルじゃないを通り越して、まったくのドリームでした。それは、この本に関しては、減点対象のように感じました。

智子のように働く女性はみんな、私にも哲ちゃんを1人ください!と、思うことでしょう。でも、哲ちゃんのような男性(自称、ではなく、女性から見て、ね。)は、日本中探しても、まずいないだろうなあ。智子の不安定な心も、小澤さんの幼い恋心も、包み込んでしまう包容力。威張らず、いつも穏やかで、優しくて、気が利いて、裁縫から料理まで家事は万能。そしてまっすぐ智子を愛してくれる。働く女性・・・だけじゃないよなあ。どんな立場であっても、一家に一台哲ちゃんを(笑)!ですよねー。

それに、ドロップアウトしたとはいえ、智子には才能があり、彼女の才能を認めてくれて、いつでも、いつまでも待っていると言ってくれる人たちがいます。いつでも戻りたければ仕事に戻れる環境が整っているんです。パニック障害の発作も、仕事を辞めてからはほとんど出ておらず、この手の病気にしては、比較的短期間で治ってしまいそうな気配。それに、物語の中で智子には、父親の遺産というのが転がり込んできてしまい、ますます恵まれた環境に・・・。ここまで来ると、やっぱりドリームですよね。

特に、遺産エピソードは余計だった気がします。絶対に必要というわけでもないエピソードだったので、そのせいで、後味がにごった気がします。智子に共感し、同情し、応援しながら読んでいたんだけど、最後の最後で「うらやましーぜっ。けっ。」っていう気持ちが、ちょっとだけ勝っちゃったのが残念。
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| は行(その他の作家) | 00:04 | - | - |
■ アコギなのかリッパなのか 畠中恵
アコギなのかリッパなのかアコギなのかリッパなのか
畠中 恵

実業之日本社 2006-01-14

私は塾講師をやっていて、なんだか長いこと似たようなバイトを転々とした結果、今では物理以外は何でも教える「何でも屋」っぽくなっていますが、基本的に専門教科は「社会科」です。塾に行ってまで「社会科」を習おうという子供が少ないので、しかたなく、普段は数学や英語を教えているだけです。

中学の公民や、高校の政治経済の授業をすると、市民の政治参加という単元があり、そこに「政党の手伝いをする」「政党でボランティアをする」という項目が入っています。正直言って私は、政治にはノータッチがポリシーで、興味もあまりないんです。だから、この項目に関して教科書に書いてある以上の知識は持っていません(キッパリ!)。毎年、この部分には深く立ち入らないように授業をし、生徒から質問が出ないように祈るのみでした(笑)。まあ、具体的なことなどわからなくても、暗記さえしておけば、受験には通りますから・・・。

でも、この本のおかげで、少しですが、「政党でボランティアをする」のイメージが、具体的にわかりました。恐い授業が1つ減りました。ありがたい話です(笑)。本を読むことの楽しみの一つに、知らない世界を垣間見れる、という点がありますが、まさにそれでした。私は一生、政治とは縁がないでしょうが、この本で、楽しく政治について勉強しました。

まあこの本は、政党で、というよりは、選挙事務所で、の事件の話のほうが多かったですね。政治家さんって、選挙が仕事なんだよねー。みんなでいっせいにポスターは白黒にし、選挙運動は最小限の公約発表程度にし、選挙にかけるお金を全部何か有意義なことに使うわけにはいかないんだろうか・・・。

なんていうわたしの事情や考えとはまったく関係なく、この本は、ごく普通に、肩の力を抜いて読める楽しい読み物でした。苦労人の大学生、聖が、元大物政治家の事務所でバイトをしながら政治の世界で活躍する、人の死なないミステリィ。面白かったです。続編希望!
| は行(その他の作家) | 07:45 | - | - |
● 流れる星は生きている 藤原てい
流れる星は生きている流れる星は生きている
藤原 てい

中央公論新社 2002-07

最初に出版されたのが、昭和24年で、私が読んだものは昭和63年出版のハードカバー。上のアマゾンの画像は、2002年発売の中央公論新社版。そのほかにも、文庫になったり、出版社が変わったりして、繰り返し繰り返し出版されている、名作のようです。

敗戦直後の満州から、6歳と4歳の息子、そして、生まれたばかりの赤ん坊を連れて、言葉を失うような苦労の末に、なんとか日本に帰還した女性の、その脱出記です。最初は、ただただ夫を頼りにするだけだった若い女性が、1人でそれを成し遂げたのですから、さすが、母は強し!です。

本の最初に、昭和31年の藤原一家の家族写真がついており、彼らが生きのびることだけはわかっているので、そこだけは安心して読めました。それがなかったら、恐くて最後まで読めなかったかも・・・。

戦争自体は終っているので、「戦争文学」のような物理的な恐さはないんです。でも、彼女たちの置かれた状況は、悲惨です。食料も、水も、薪も、服も、靴も、何もかもが足りない。少ない人数でそれを分け合わなければならない。栄養失調と流行する病気で、弱いものはバタバタと死んでいく。頼りの男たちはシベリアに送られて、廃人にされて戻ってきては結局死んでいく。女性たちは、時に助け合い、時にいがみあいながら、懸命に生き抜こうとします。極限状態に置かれて、本性を表したときの人間の姿、というのが、これでもか、というくらい描かれていて、そういう意味ではとても恐い本でした。

文章がなんとなく洗練されていないと感じられるのは、古い本だという事と、最初にこの本が書かれたときは、プロの作家さんではなかったからでしょうか。でもそのあたりも、ノンフィクションの迫力、のような感じがして、良かったです。

っていうか、もう、そんな冷静に感想を書いている場合じゃない!ってくらいの、迫力の感動本でしたね。私、16ページ目でもう泣いてましたから。そのあとも、もうどこで泣けたかわからないってくらい、泣きっぱなし。

そして、藤原一家は、なんとか全員無事に再会することが出来たけれど、同じような状況の下で、日本に帰れずに満州や朝鮮やシベリヤで亡くなった、たくさんの人たちがいたことを思い出させてくれる本でもありました。それに、生き別れになった、たくさんの日本人の親子がいたし、北と南に分けられて再会できなくなった朝鮮や韓国の人が、この本の裏にはいるんですよね。

これは、とにもかくにも、読んでおくべき本でした。
| は行(その他の作家) | 08:08 | - | - |
月とアルマジロ 樋口直哉
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月とアルマジロ
樋口 直哉
講談社 2006-03

by G-Tools , 2006/05/02





突然あらわれた大学時代の友人、彼の依頼は「アルマジロ」を預かってほしいというものだった。背中にある二本の線、「ニホン」と名づけられたアルマジロとの共同生活が始まった。携帯電話の不調、そして、ぼくとつながった女の子。ひっそりと平坦なはずの日常に混乱が訪れる…。痛烈な問題意識と圧倒的な想像力で作り上げる世界を、透明感あふれる文章で描き出した傑作長編小説。

「BOOK」データベースより
アルマジロなんて動物を、個人で飼えるとは知りませんでした。そこはちょっと興味深かったです。特に、とあるピンクのエサをあげるシーンは、主人公が失いかけているたくましい生命力を感じさせてくれる、印象的なシーンでした。

でも・・・。

社会に上手く参加できない無気力な若者たちというのは、確かに、現代日本の大問題だよね。うん。でも、そんなこともう、みんなが知ってるよ。問題提起だけのために小説を書くには遅すぎる。

携帯電話が思いもよらない相手とつながってしまうという、不思議エピソードも、最近、見飽きてきた気がするし、この本に関しては、着地点がよくわかりません。

それでなんなの?だからどうしたの?なにを感じさせようとして書いたの?ちゃんと言いなさい!と、言いたくなるような本でした・・・。私には、合わない作品だったようです。

というわけで、この本は期待はずれだったのですが、樋口さんのデビュー作「さよならアメリカ」は、あちこちで好評なので、いつか前向きに読んでみようと思っています。
| は行(その他の作家) | 01:34 | - | - |
■ 春を嫌いになった理由 誉田哲也
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春を嫌いになった理由(わけ)
誉田 哲也
幻冬舎 2005-01

by G-Tools , 2006/04/30





フリーターの瑞希は、テレビ番組のプロデューサーである叔母の織江から、霊能者・エステラの通訳を押し付けられます。エステラは霊視を行い、スタッフはエステラの霊視どおりに白骨死体を発見します。霊能力を毛嫌いしている瑞希はエステラを信じられず、すべてがやらせなのではないか?と疑いながら、生放送の本番に臨みます。その生放送の最中に、エステラが「殺人犯がここにくる」という予言を行って、そして・・・

という瑞希の物語と並行して、日本で働くために密入国する、中国の奥地出身の兄妹の物語が描かれます。様々な困難を乗り越え、想像していたよりずっと暮らしづらい日本で、助け合って働く姿には胸を打たれます。

2つの物語が結びついたとき、すべての謎が明らかになります。なかなかこった構成で面白かったです。でも、ラストはちょっと急ぎすぎたかな?なんだか、ばたばたとたたまれてしまって、ちょっともったいなかったです。

この本は、そういう謎解き本であるだけでなく、瑞希のトラウマ克服本でもあります。彼女が霊能力というものを毛嫌いするのは、あるトラウマがあるからなのです。彼女はエステラの言葉をきっかけに、そのトラウマを卒業することができそうです。それはいいのですが、瑞希にはそっちじゃなくて別の方面で、もうちょっと成長してもらいたかった気がします。色んな意味で考えが甘く、子供っぽい人なんですよね。そして考えが甘いまま、叔母のコネで通訳の仕事につけてしまったわけで・・・最後まで、なんだか好きにはなれない主人公でした。中国人の不法労働者たちのほうが、ずっと魅力的でした。
| は行(その他の作家) | 08:59 | - | - |
■ 虹とクロエの物語 星野智幸
4309017436虹とクロエの物語
星野 智幸
河出書房新社 2006-01-06

by G-Tools

周りの子供たちより、ほんの少し早く大人になった少女、虹子と黒衣が主人公。2人は球蹴りを通して、言葉もいらないほどの親密な友情をはぐくみ、他人を排除し見下して、2人だけで完結した学校生活をおくります。その後、それぞれの人生を送るようになって、虹子は周囲の「俗物」に埋没しようとし、黒衣は孤高の道を切り開こうとしますが、40歳を前に2人とも行き詰っています。

周囲の人を見下すような高慢な気持ちと、自分を卑下し否定する卑屈な気持ちの間を行ったり来たり。2人のそういうところは、あまり好きになれなかったのですが、自分の若き日をふりかえると、身に覚えのないこともないです・・・。(身に覚えがあるから好きになれないんだよね。俗に言う「痛い」ってやつです。はい。)

成長し、自分を知り、世界を知り、「そこ」からは卒業しなくてはいけないんだと思います。でも、これがけっこう難しい道のりで、私も本当はまだ「そこ」にいるのかもしれないし、卒業しても時々戻ってしまうのかもしれません。

虹子と黒衣は、「大人」のふりはできるようになったけれど、本当はずっと「そこ」にとどまり続けています。その象徴ともいえるのが、「20年間生まれないままで、親にさえ無視されてきた胎児」と、「血を絶やすために、無人島に幽閉されている吸血鬼の青年」という、ホラーチックな登場人物です。虹子と黒衣の再会と、友情の再生をめぐるストーリーに、わかりやすい孤独を与えられたこの2人の登場人物が、どんな風に絡んでくるのか・・・。その辺が、この小説の面白い部分なので、ネタバレはしないでおきましょう。

虹子のように親になっても、それで「大人」になれるわけじゃない。黒衣のように社会的に成功しても、それで「大人」になれるわけじゃない。「40歳を越えたいまからでも、大人になることはまだできるのか?そのような思いが、この小説の原動力となっている。」という著者の言葉が、帯にあります。人生って難しーのねーって感じで(笑)、とにかく、色んな事を考えさせられる本でした。

時代背景や年齢が2人の主人公に重なると、もっと心に響く本なのだと思います。40歳くらいの人たちの感想を、ぜひ聞いてみたいです。
| は行(その他の作家) | 02:49 | - | - |
▲ 星の綿毛 藤田雅也 
4152085266星の綿毛
藤田 雅矢
早川書房 2003-10

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どことも知れぬ砂漠の惑星。そこでは、種子を播きながら移動する「ハハ」と呼ばれる巨大装置が、荒れた大地を耕し、「ムラ」の人々を養っていた。「ムラ」には、ときどき、「トシ」からの交易人が現れ、収穫物を買い取り、様々な道具を売ってくれる。

少年ニジタマは、見た事のないその「トシ」に憧れ、「トシ」に行ってみたいと思っていた。そんなある日、交易人ツキカゲが、彼を「トシ」へ連れて行ってくれるという。誰にも内緒で「ムラ」を出たニジタマの旅は、やがて、世界の秘密を明らかにし、遠い昔の約束を、果たす事になる・・・。

あとがきにもあるように、この「造り出された世界」の描写が最高です。細部まで作りこまれていて、想像力を刺激してくれます。この静かな「世界」自体が、切ない、です。この「世界」が、1冊分だなんてもったいない。もっと長いシリーズの舞台になれます。

ただ、世界が魅力的なわりには、ストーリーに入り込みづらかったです。主要な登場人物の背景や、内面の描写をもっとしてくれたら。そして、ストーリーの「謎解き」にあたる部分を、もっとわかりやすくしてくれたら、と、思います。全体的に、情緒的すぎて、説明不足な感じ。(私の頭が悪いだけ、という可能性もあります・・・)

叙情SFって、説明が多すぎると成立しないような気もしますし、難しいところですよね。好みの問題だと思います。この本は、ストーリーは切ない感じで、悪くないはずなんだけど・・・おしい!
| は行(その他の作家) | 19:55 | - | - |
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