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▲ 100回泣くこと 中村航
100回泣くこと100回泣くこと
中村 航

小学館 2005-10

ネタバレ!
実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだったのだ。
4年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げた。
交際3年。求婚済み。年の差なし。ここが世界の頂点だと思っていた。こんな生活がずっと続くんだと思っていた―。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。野間文芸新人賞作家が放つ恋愛長編。
いい人ばかりが出てくる、とてもいいお話で、そのいい人が亡くなってしまって、残された人が悲しんでいたので、わたしはあっさり泣けてしまいましたが、でも、あまり高い評価はできない感じ…。

前半は、なかなか好きな感じだったんですよね。地味だけど、透明感があって、素直な文章が、主人公のキャラクターにぴったり合っていて、いい雰囲気だなあと思いながら読んでいました。僕がバイクを直すシーンとかすごく良かったと思う。プロポーズのシーンも好きでした。

でもなあ、後半、彼女が病気になってからの展開にひねりが全くなかったのがなあ。ひねりが無かったというか、ストーリーの展開自体が、あんまりなかったというか。ベタなのは覚悟して読んでいたつもりだったんだけどね。それにしても、これじゃあなあ。はっきり言ってしまえば、つまらなかったです。

まあ、こんなテーマの小説ですから、面白い必要はないのかもしれませんが、それならそれで、もうちょっと深みがあって欲しかったと思うんですよね。ガンを宣告され辛い闘病生活を送る人として、彼女は立派すぎるし、そんな彼女を支える僕も、ほとんど満点の優しく健気な恋人で、そこが一番物足りなかった。もうちょっと彼女が弱かったり、もうちょっと僕がダメな恋人だったりして、一波乱あってくれたら良かったのに、と、思いました。
| な行(その他の作家) | 23:23 | - | - |
★ リレキショ 中村航
リレキショリレキショ
中村 航

河出書房新社 2002-12

「弟と暮らすのが夢だったの」という姉さんに拾われて、彼女の弟となった19歳の「僕」の物語。

美人の姉さん、その親友の山崎さん、「僕」にラブレターをくれる浪人生。他の登場人物の過去は語られるのに、主人公である「僕」の過去が語られることは最後までないし、誰もそこにつっこみません。「僕」はまっさらな状態から、新しい生活を作りあげていき、特に困ることもありません。普通なら絶対にありえないそんな人生を、ただただ優しく描いたこの物語は、たしかに現代のおとぎ話というのがぴったりです。色んな意味でファンタジーです。

でも、本当は「僕」が背負っているのであろう過去が、小説全体に影を落としているような気がして、どこか寂しく、切ない本でもあります。この絶妙に微妙で曖昧で複雑な感じ(・・・何のこっちゃ)は、かなり好きです。

うーん、良かった!
| な行(その他の作家) | 13:50 | - | - |
▲ 夕子ちゃんの近道 長嶋有
夕子ちゃんの近道夕子ちゃんの近道
長嶋 有

新潮社 2006-04-27

アンティーク店フラココ屋の二階で居候暮らしをはじめた「僕」。どうにも捉えどころのない彼と、のんきでしたたかな店長、大家の八木さん、その二人の孫娘、朝子ちゃんと夕子ちゃん、初代居候の瑞枝さん、相撲好きのフランソワーズら、フラココ屋周辺の面々。その繋がりは、淡彩をかさねるようにして、しだいに深まってゆく。だがやがて、めいめいがめいめい勝手に旅立つときがやってきて―。誰もが必要とする人生の一休みの時間。7つの連作短篇。
「BOOK」データベースより

・瑞枝さんの原付
・夕子ちゃんの近道
・幹夫さんの前カノ
・朝子さんの箱
・フランソワーズのフランス
・僕の顔
・パリの全員

正直に感想を書けば、とにかく印象が薄い本でした・・・。ごめんなさい。

よく読めば、実に個性的な登場人物ばかりなのだけれど、どの人も影が薄い。よく読めば、人生の一大事件とでも言うべき出来事が、主人公にも、周りの人にもそれぞれに起こっているのだけれど、何事も起こっていないように穏やか。よく読めば、みんな笑ったり泣いたりしているのだけれど、心情描写は最低限にとどめられていて、誰に感情移入できるという事も、できないという事もなし。よく読めば、彼らの間には信頼関係が生まれ、友情が少しずつ育ち、それぞれが人間として成長し、「春休み」を終えて巣立っていくという大筋がちゃんとあるんだけど、それらがあまりにも「いつのまにか」すぎて、読んでいる間、退屈しました。

でも、ところどころ笑える会話があったり、印象的な描写があったりもしたし、退屈ではあってもそれ以上の「負」の要素はない本で、嫌いではありません。それに私が退屈だと感じた、薄さ、静かさ、穏やかさ、というようなものを、魅力的だと思う人が、けっこうな数いることも知ってるし。

ただまあ私は、本に「癒し」も「安らぎ」も求めていなくて、とにかく「面白い」ことを求めているので、多少現実離れしていても演出が過剰でも、波乱万丈で、何事も濃厚で、ヤマとオチのはっきりしている、わかりやすい本を好みます。

というわけで、嫌いじゃないけど好きでもない1冊。
| な行(その他の作家) | 12:03 | - | - |
▲ その猫に何が起こったか 野村桔梗
その猫に何が起こったか?その猫に何が起こったか?
野村 桔梗

国書刊行会 2005-03

殺人容疑で現行犯逮捕された容疑者、は、切り取った男の片耳を、しっかり握り締めていました。容疑者、高林啓子は、なぜ男を殺害し、なぜ耳を切り取らなければならなかったのでしょうか?

ミステリーなので、重要なネタバレは、いっさい無しでいきます。

高林啓子は、36歳、独身。ミーという名の、真っ白な猫が、彼女の生きがいです。ミーのエサは、高級な輸入物のキャットフードや、上等のささみ肉。リードはエルメス。キャリングケースはヴィトン。特注の十八金の首輪には、ミーの瞳の色と同じ、大粒のブルーサファイアがついています。

ミーが唯一の生きがいとなるにいたる、啓子の孤独で報われない人生と、猟奇殺人の過程が、交互に語られます。犯人は最初から分かっているし、比較的早い段階で動機も分かってしまう事件ですが、それでも最後まで読む価値がある本です。私は最後に、ゾッとして鳥肌が立ちました。

とりあえず、30代独身で、啓子と自分を重ねて同情してしまった私としては、1人暮らしをしても猫を飼うのはやめよう、と、決意しました。ルックスとしては猫のほうが好きだけど、いつか飼うなら犬にしよう、と、思います。そして、犬を散歩させて、犬好きのご近所さんと挨拶したり、お散歩仲間になったり、犬を公園デビューさせたりして、健康的に可愛がろうと思います。猫を飼ってもそういうことはできないですもんね。啓子が出会ったのが、猫ではなく犬だったら、何かが違ったような気がするのです。
| な行(その他の作家) | 02:13 | - | - |
■ 落語娘 永田俊也
落語娘落語娘
永田 俊也
講談社 2005-12

☆ ええから加減
これは良かった!オススメです!

中年お笑い芸人「海野濱子・宇多恵」の物語です。コンビをくんで11年。人気は、関西ではそこそこ、というところですが、全国区で活躍するまでにはなりません。濱子は、夫がいつも家にいて、外で働こうとはせず、主夫という立場に甘んじていることにイラついています。

そんなある日、天然系ボケの宇多恵が、上方演芸大賞を目指そうと言い出します。そんな上昇志向など、見せたことのなかった宇多恵が急に熱心になったことに、濱子は驚きますが、彼女の才能を認め、彼女の熱意にほだされ、上方演芸大賞に向けて必死の努力を始めます。新ネタをつくり、持ちネタを磨き、半年間を駆け抜けます。2人の会話のテンポが良くて、それに、相方という2人の特別な関係がなかなか素敵で、笑える話なのに感動してしまいました。やっぱり相方っていうのは単なる友情ではないから、好悪の情だけではなくて、まずは相手の才能を認めているということ、そして相手を尊敬し、相手に感謝しているという事、そんな事が必要で、2人にはそれがあった。だからこそ「海野濱子・宇多恵」の頑張りは、実を結んだんだろうと思います。

また、この短い物語の中に、濱子の「だめんず・ウォーカー」的プライベートストーリーも含まれていて、読み応えがあります。濱子の旦那、最低。バカ、アホ、マヌケ。死んじゃえ。ああ、もっと臓腑をえぐるような形容詞が、自分のボキャブラリーにないのが悲しい。濱子がんばれ・・・。

ちょっとビターなラストも含めて、この作品は、最高に良かった!私の中ではですねー、勝手に、「笑う招き猫」山本幸久 の10年後、という事にしてあります(笑)。相変わらず、真摯に漫才に打ち込んでいるアカコとヒトミだけれど、がんばってがんばって漫才が認められても、人生には、次から次に大きな壁が立ちはだかる。

・・・あ、違いました。アカコとヒトミではありません。上方漫才であるという大きな違いもありますし。でも、そう思って読むと、とても素敵な本なのです。(山本さんにも、永田さんにも、大変失礼なのかもしれませんが・・・。)

「笑う招き猫」を読んで、好きだと思った人には特にオススメ。

△ 落語娘

ガチガチの男性社会である落語の世界で、「落語を愛する気持ちは誰にも負けない!」と、修行をつむ、香須美の青春ストーリー。ある噺家さんのファンになったというミーハーな理由がきっかけとはいえ、香須美は、中学時代から大学時代まで、学生時代の10年間を落語に打ち込んできました。今では心から、落語家という商売を愛し、真摯な修行を続けています。女だということで屈辱を味わうばかりの、前座の毎日ではありますが。

女だというだけの理由で、大好きな噺家さんからも拒絶され、弟子入りを諦めた彼女を拾ってくれたのは、落語界で異端視されている、平佐師匠。師匠が、噺家がオチの前で命を落とすという曰くのある「呪われた噺」に挑むことになったことで、香須美の周辺はにわかにあわただしくなります。呪われた噺の謎とは?平佐師匠と香須美の将来は?

香須美は強くてかっこよくて、特に、昔ファンだった柿紅に、タンカををきるシーンは最高に胸がスカッとしました。香須美ほどではないにせよ、ほとんどの働く女性は、女性であるというだけで見下される、彼女と同じ屈辱を知っています。だから、その点では、彼女を素直に応援できました。

ただ・・・。基本的に私は、オカルトが好みではないので、「呪われた噺」のエピソードが好みではありませんでした。それに私は、落語にもあまり、詳しくないんです。年に数回、笑点で見かけることがあるくらい。あ、あと、クドカンのドラマ「タイガー&ドラゴン」を思い出すくらい。だから、このストーリーにどっぷり浸って楽しむことは出来ませんでした。

それに、主人公がなぜか、あまり魅力的ではないんですよねー。青春のすべてを落語に捧げている、と言ってしまえば彼女はかっこいいけれど、小説の中の女の子の青春は、かっこいいだけでは物足りないです。恋と夢の板ばさみになって悩む・・・なんていう型どおりの展開だったら、それはそれで私は文句を言ったと思うけど(読者は常にわがままで・・・笑)、落語のことばかり考えるあまり、他の人の気持ちに鈍感で、言い寄る男も利用する、なんていう部分には、人間として共感できませんでした。青春って常に、心中複雑なものでしょう?それが描けていなかった気がしました。

芸術のためなら、すべての犠牲が許される、と、思っている人は、私の周りにもたくさんいます。(私は、音楽畑で育ったし、父はデザインの世界の人なので、周囲に芸術家くずれや、もどきが溢れているのです。)。そして、私も、ある程度それには賛成なんです。そう割り切った人だけが、本物のアーチストかもしれない。でも、小説の中でそれをやって、様になるのは天才だけだと思います。彼女の情熱はともかく、才能とか、勘という点では、まだ未知数で、様にならない主人公でした。

ちなみにこの本は、「図書館で本を借りよう!〜小説・物語〜」の、すのさんにオススメをいただきました。遅くなってしまいましたが、やっと読めましたよ!。情報ありがとうございました♪
| な行(その他の作家) | 02:37 | - | - |
■ そろそろくる 中島たい子
そろそろくるそろそろくる
中島 たい子

集英社 2006-03

三十歳を過ぎたイラストレーターの私。仕事もちょっとうまくいかないが、「そろそろくる」ころ、むきかけのゆで玉子を流しに叩きつけたり、呼吸困難におちいりながら泣きじゃくったり、嗚咽しながら冷蔵庫を開けたり閉めたり…。ひょんなことから彼になった友人の弟と、この不快さの原因を調べながら折り合っていく。癇癪、イライラ、過食、最悪だわ…原因は?そして恋のゆくえは。話題になった『漢方小説』の著者が描く体と恋。
なんでもない文章が、どうしてこんなにおかしいんだろう・・・。この作家さんは本当にいいですねー。はやく、次が出ないかなー。

PMSには30代でなる人が多いそうですから、わたしにもそろそろくるかもしれない。いまのところ実感したことがないのですが、いい勉強になりました。それにしても、みんな頑張ってるんだなあ。

主人公の彼女だけでなく、バツイチの彼氏のほうも、温かい視点で描いているところがよかったです。女はいろいろ大変なんだ!と、主張して、何かを要求したり、言い訳したりする小説にはなっていなくて、誰にでもいろんなことや、いろんなときがあるんだから、自分とも相手とも周囲とも、なんとか上手くつきあってみようよ〜みたいな、穏やかでやわらかな主張が素敵でした。最後の彼の一言にも笑わせてもらいました。
| な行(その他の作家) | 22:32 | - | - |
■ 漢方小説 中島たい子
漢方小説漢方小説
中島 たい子

集英社 2004-12

「だから強いてつけるとしたら、あなたの病名は「色々なところが弱い」というあなただけの病気です」
うちの母親は、一応、東洋医学系の整体士で、自宅開業してたりするので、その辺の知識に新鮮味はありませんでした。でも、ストレスからくる体調不良にはわたしも悩まされたことがあって、漢方治療も受けたことがあるので、親近感のわく本でした。

脚本家をやっている31歳のみのりが主人公。いわゆる「負け犬」小説でしたね。結婚してない、彼氏もいない、仕事も不安定、なんだか色々うまくいかないわ、という女性の物語。でも、痛い感じではなくて、ユーモラスで前向きで、読みやすかったです。サクサクあっという間に読めました。

「負け犬」小説って、わたし、たいてい苦手なんですよ〜。主人公が、たいてい暗くて、僻みっぽくて、妬んでばかりで、性格悪いじゃない?それなのに、最大多数の共感を狙って、言い訳しまくる小説が多い。ぶっちゃけ、角○○○さんとか。あくまでもわたし個人の感想ですが、共感も出来ないし、物語が面白くないし、どうも読み心地が悪い。でも、無理して明るい主人公で書いたせいで、よけいに痛い本になっているものもあるような気がしますからねー。

この「漢方小説」は、そのバランスが絶妙で、良かったです。

みのりのキャラクターがいいんです。みのりは「たかが元彼の結婚」くらいで、救急車のお世話になるほど体調を崩してしまい、病院めぐりの果てに、漢方医のところにたどりつきます。医者としてはあまり信用していないのに、担当医のソース顔が気にいって、「懐疑心と乙女心は、別腹だ。」などと言い、病院に行ってしまいます。自分の事でいっぱいいっぱいのときでも、周囲を思いやる気持ちを忘れない、いい子でした。等身大の31歳という気がしました。

みのりに言い寄ってくる、そう悪くもない感じの男がいたりもするんですが、結局みのりは、漢方の助けにより自力で立ち直ることができます。よかったよかった。自分がちゃんと立ってない時に、なんとなく恋愛を始めちゃったりすると、ろくなことありませんよね!彼を含め、みのりの愉快な仲間たちの人間模様も面白かったです。

第28回すばる文学賞受賞作。第132回芥川賞候補。

え、まじ?そこまですごい本だとは・・・(以下略)
| な行(その他の作家) | 23:03 | - | - |
▲ 一週間のしごと 永嶋恵美
4488017207一週間のしごと
永嶋 恵美
東京創元社 2005-11-29

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悪いってほど悪くはなかったし、嫌いでもないんですけどねー。高校生活の描写などは、学園もの好きの私には、楽しい本だったんですけどねー。けどねー。

どこもかしこも、不自然な本でした。設定にも、ストーリーにも、キャラクターにも、各キャラクターの心情も、まったくリアリティがないんです。小説なんですから、すべてリアルでなければならないとは言いません。でも、どこかは押さえておかないと、違和感がつきまとっていつまでも小説に入り込めないし、楽しめないものですね・・・。

この小説で、唯一リアリティが感じられるのは、携帯電話やパソコンの機能に関する描写だったりします。でも、これはあっという間に古くなる情報である事が確実。むしろこういう部分はあまり詳細に書かないほうがいいんじゃないのかなあ。(まあ、これは余計なお世話か・・・)

高校生の菜加は弟と二人暮し。天真爛漫で、猪突猛進、拾い癖のある菜加の突拍子もない行動の後始末は、いつも幼馴染の隣人、恭平の役目です。今回菜加が拾ってきたのは、人間の男の子。大事なテストを一週間後に控えた恭平は、また菜加に振り回されることになります。

子供の二人暮しという設定も、幼馴染の関係も、無理があるというか、少年マンガか少女マンガみたいで違和感バリバリなんですけど、まあとりあえずいいことにしましょう。

小さな子供を拾ってくる。その子が集団自殺事件の関係者だとわかっても、警察が嫌いだから届けない。水戸まで授業中の恭平をよびつける。などなど、菜加のワガママすぎる性格も行動も意味不明ですが、とにかく変人キャラなんだね、ということで一度は了解しました。ところが、菜加は、途中からすっかり影が薄くなり、前半のストーリーの推進機関の役割を果たしていただけだということが、あからさまになってしまいます。これは、さめます。

それに、常識人で頭もいいはずの恭平が、なんで菜加にここまで振り回されるのか・・・。菜加に恋愛感情があるのかな?と思いながら読み進めると、そういう描写はいっさいないし・・・。恭平の一人称小説なのに、恭平の気持ちや行動が、全然納得できないんです。

忍という恭平の友人も、重要な登場人物なのですが、彼のやっている事も考えている事も、肝心な部分が最後までよくわからなくて、説明不足だなあ、と、思いました。

一事が万事この調子で、登場人物の誰にも共感できなくて、物語を作っている作者の姿ばかりが透けて見えて・・・。「なんなんだ、これは。」と、あちこちで思いながら読み進めて、読み終わってもう一度、「なんなんだ、これは。」と、思った。そんな本でした。

あ、思いのほか酷評になってしまった(^_^;)
| な行(その他の作家) | 14:22 | - | - |
▲ フェティッシュ 西澤保彦 
4087753530フェティッシュ
西澤 保彦
集英社 2005-10

by G-Tools

これはものに狂う人と
人を狂わせる物の
愛の物語なのである。
ほんとだよ
これが帯のあおりです。ほんとですか(笑)?

あんまりだったら読むのをやめよう、と、覚悟して読み始めた割には、エグくもグロくもありませんでした。でもまあ、そっち方面から感想を書けば、わかりたくない世界だなあ、いう感じです。愛というより、やっぱり病気だよー。一般的に「俺って○○フェチなんだ」「私って○○フェチ」なんていうのとは、レベルが違うんだもの。ある意味、みなさん、幸せそうではありましたが。

構成は、面白かったです。連続殺人事件を、複数の「フェティッシュ」な人々の視点で追っていきます。きちんと、目次や章タイトルが工夫されていて、わかりづらさはありません。事件の陰に見え隠れする、謎の美少年「クルミ」の秘密。彼に運命を狂わされる、たくさんの「フェティッシュ」な人々の末路。そして、次第に明らかになる連続殺人事件の全貌。

一番、西澤さんらしいなあ、と思ったのは、「クルミ」の特異体質や、超自然的な魅力に関して、謎解きがない事です。現象としては説明されるけど、理由も理屈も、なし。つけようと思えば、理屈をつけられないことはないと思うんですけど・・・。それをしないところが西澤さんですね。この作品では、「クルミ」の存在が、西澤世界のルールであって、説明の必要はないんでしょう。

だからこの本は、ミステリーじゃなくて、サイコホラー。人にオススメはできませんが、私なりに楽しめる部分はありました。
| な行(その他の作家) | 16:13 | - | - |
▲ さくら 西加奈子 
4093861471さくら
西 加奈子
小学館 2005-02

by G-Tools

家族をテーマにした物語は、基本的に好きです。この本も、読んでいる間は、変な家族の波乱万丈の物語として楽しみました。幸福だった家族の、崩壊と、再生の物語。ストーリーは面白かったです。兄と妹に挟まれた真ん中の子供、という微妙な視点も興味深かったです。

でも、作者は「変な家族」を描いたつもりはないんでしょうね。特に昔の思い出を回想する部分は、理想的な暖かい家庭を描いたつもりなのでしょう。そのあたりが、どうもこの本を手放しではほめられない理由かもしれません。キャラクターになじめなかった・・・。

主人公が、やたら家族を絶賛するのが、気持ち悪いというか、リアルじゃない気がしました。兄は「レジェンド」になるようなヒーローで、妹は誰もがふりむく超美少女でありながら、ケンカの達人。兄の彼女は薄幸の美少女。妹の友達はレズビアン。アニメか、恋愛ゲーム的なキャラクターなんですよね。元気でおしゃべりな母親と、穏やかで優しい父親というのも・・・。典型的ならまだましなんですが、理想的、しかも誰かの個人的な理想って感じで。サザエさんのほうがまだリアル。

その家族が、兄の事故をきっかけに崩壊していくわけですが、その展開も読み終えてみると、どこか不自然で安易。そんなに立派な兄が、こんなに素敵な家族に囲まれていながら、障害を持ったからってあっさり自殺しちゃうなんて、安易。妹も、妹の秘密を知った父と主人公も、兄の元彼女を探そうとしなかったあたりが、不自然。それに、自殺だけじゃなくて、レズとか、性同一性障害とか、失踪とか、アル中とか、摂食障害とか、あらゆるものの描写がやたらと安易。つめこみすぎ。

それに肝心の「さくら」ですが、登場する必然性はあったのでしょうか。家族の幸せの象徴という位置づけなのですが、幸福描写としては、妹の誕生のほうがインパクトがあるので、「さくら」はいらないんじゃ・・・と、読みながらずっと思ってしまいました。終盤のさくらにまつわる展開も、ご都合主義すぎる気がしてしまって・・・。イヌを使えば泣ける小説になるってわけじゃないでしょう?なんだかなあ。

嫌いなタイプの本じゃないはずなんだけどなあ。実際、面白かったし、楽しんだんだけど・・・。入り込めなかったし、泣けませんでした。残念です。

単に、よい評判を聞きすぎていたからかも。ファンの方、気を悪くしないでね。
| な行(その他の作家) | 00:10 | - | - |
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