| 鎮火報
日明 恩
講談社 2003-01 |
消防士が主人公の、消防業界ミステリィ。わたしはあまり読んだ事がなかったので、目新しくて興味深かったです。消防士の勤務形態とか、勤務中の食事に関する不満とか、その中での生活の知恵とか。警察と消防の役割分担と、場合によっては起こる対立とか。知らないことばかりでした。
主人公は、新米消防士の、大山雄大。新米のくせに正義感や使命感などはなく、あまりやる気もありません。消防士なんてただの職業と言い切り、できるだけ早く危険な現場を離れて、内勤の九時五時の仕事に配属されたいと考えています。父親もやはり消防士で、火にまかれて亡くなったからです。雄大は、そんな危険を犯すなんて馬鹿げていると考えているし、父親のようにはなりたくないと考えているのです。だったら、消防士になんてならなければいい、と、思うのですが、彼には彼なりの事情があって・・・。
事件は、不法滞在の外国人が住むアパートで起こりました。入国管理局による摘発の直後、そのアパートで火災が起こったのです。火の回りの不自然さに気がついた雄大が、友人である、中年の引きこもりで、情報収集が趣味の、守に相談したところ、似たようなケースが4件も、連続して起こっていることがわかります。この不可解な火災の真相と、犯人は?
消防士という職業についた者たちの様々な葛藤と、外国人の不法滞在問題が、二本の柱としてあって、それぞれ重いテーマだし、事件が解決してみれば、真相も重いし、よく考えればどこもかしこも暗い小説。でも、主人公の雄大が、基本的に明るくて、おおらかで、性格のいい若者なので、あまり重さや暗さを感じることなく、最後まで読んでしまいました。
雄大だけではなく、登場人物のキャラクターが、みんないいです。誠実で仕事熱心な入国管理官、小坂。消防の仕事に異常なほどの情熱を燃やす消防士、仁籐。雄大の親友、「市井の哲学者」、裕二。雄大と一緒に出動する個性豊かな仲間たち。それから、なんと言っても、守。キャラクターがそれぞれにたっていて、面白かったです。
ただ、雄大の父親と、仁籐の過去を巡るなかなか読み応えのある物語と、雄大たちが現在解決しようとしている放火事件の物語とが、上手にかみあっていない感じがしました。ストーリーにも心の動きにも、あっちこっちに無理がある。しかも、明らかにメインである現在編より、脇エピソードに過ぎない過去編のほうが、良い。印象的で、感動的。だから、もしかしたら感動しなくてはいけないのかな?っていうシーンが随所にあったにも関わらず、わたしは入り込めませんでした。
それに、正直言って、文章が下手で読みづらいです。昔はちょっとやんちゃだった、ガテン系の二十歳の男、というのは、一人称小説の主人公には、あまり向いていないかもしれないですね。しばらく読んでいたら、慣れましたけどね。
この著者の本は初めて読みました。たちもり・めぐみ さんっておっしゃるんですね。これは読めない!それに、著者近影が、美人!男臭い内容とのギャップにも驚きです。