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■ 星と半月の海 川端裕人
星と半月の海星と半月の海
川端 裕人

講談社 2006-12-01

川端裕人さんの野生動物とそれに関わる人々を描いた短編集。

☆ みっともないけど本物のペンギン
動物園でペンギンの飼育係をしている僕は、特別展「ペンギンの歴史」のための資料を整理しているときに、19世紀に絶滅したはずのオオウミガラスの姿を、写真の中に見つけ、その謎を追いかけます。とても面白い物語でした。そして、多くの野生動物を絶滅させてしまった人間の愚かさに対する主人公の怒りが伝わってきました。また、野生動物に対して深い敬意を抱きながらも、日々動物園で飼われている動物と接する彼の、人間が動物に対して抱く「かわいい」という感情に対する複雑な思いも、興味深かったです。この作品が一番好き!

△ 星と半月の海
表題作。西オーストラリアのニンガルーリーフで、日本人獣医のリョウコが、オーストラリアのジンベエザメ研究チームに協力し、船上で暮らしながら、ジンベエザメの生態を調査しています。リョウコはそこで、思いがけない再会を果たします。

□ ティラノサウルスの名前
ある日、博物館の主任研究員である野火止に、「ティラノサウルスが危ない」というタイトルのメールが送られてきます。国際動物命名規約に定められた「先取権」によって、その呼び名が変わってしまうかもしれないという内容でした。野火止と息子の関係が素敵です。また、この事件を通して野火止が思い出したことや、研究に対する情熱が伝わってくる、ラストの言葉も素敵でした。

・世界樹の上から
「星と半月の海」のエルマの物語。「ティラノサウルスの名前」の父子も登場します。

□ パンダが街にやってくる
「みっともないけど本物のペンギン」の主人公だった僕が再び登場。彼は今、パンダの担当をしています。中国の外貨獲得政策に利用され続ける、ポリティカル・アニマル(政治的生物)であり、その「かわいい」イメージだけで世を渡ってきたやりかたにずっと反感を持っていた僕は、今、パンダのロンロンの中に、秘められた野生を探し出したいと、ひたすら彼をスケッチしながら観察しています。彼が見つけたパンダの野生とは?主人公のイメージする「外に出たのパンダ」の描写が、けっこう好きでした。

△ 墓の中に生きている
「みっともないけど本物のペンギン」「パンダが街にやってくる」に登場した、解剖学者、蝦根の冒険です。蝦根はM島(マダガスカル島らしいです)でナイトサファリに参加しましたがはぐれて1人になってしまいます。そこで、不思議な、神秘的な一夜を過ごすことになります。最後の最後で、あ、この本って小説だったんだよなあ、と、思いだしました。動物ものは、ノンフィクションも結構好きです。

「動物園にできること」「緑のマンハッタン」「ペンギン、日本人と出会う」を読まなくちゃ、と、思ったので、メモ。

表題作である「星と半月の海」と「世界樹の上から」には、不快とまでは思わなかったけど、違和感がありました。

妊娠出産というのは、それを通していわゆる「生命の神秘」や、人間の中にある哺乳動物としての側面を体感できる、特別な経験と言えるでしょう。この本に、そのエピソードが不可欠であるというのはわかります。でも、著者に、女性性や母性に対する美化というか、過剰な期待があるのでしょうか。それに囚われすぎて、その登場人物が「女性」であるという事しか描けておらず、類型的で未熟に感じられる人物造型になってしまったように思いました。そこが、とても、読みづらかった。それに、6編収録の短編集のうち、2編で主人公が妊娠している。しかも、この本全体を通して、ほかに目立った女性登場人物は出てこない。偏りすぎです。

「世界樹の上から」は単行本化にあたって書き下ろされた短い一編で、これがある事で、すべての作品の登場人物がリンクし、より強く、わかりやすくテーマが主張される事になってはいるのですが、個人的には、いらなかったなーと思います。

他が良かっただけに、そこがちょっと残念。
| か行(その他の作家) | 07:01 | - | - |
● 人形の部屋 門井慶喜
人形の部屋 (ミステリ・フロンティア 39)人形の部屋 (ミステリ・フロンティア 39)
門井 慶喜

東京創元社 2007-10

日常の謎系ミステリ。旅行代理店勤務時代に蓄えた博学という武器を使って、専業主夫・敬典が、持ち込まれる様々な謎を解き明かします。

敬典と中学生の1人娘・つばめとのテンポのよい会話が、ユーモラスで可愛らしくて楽しかったです。探偵さんの武器が「博学」なので、この本にはやたら小難しい蘊蓄が多いのですが、その聞き手が、主に中学生の娘ということで、噛み砕いた説明をされている部分も多く、前作「天才たちの値段」に比べると、ずっと読みやすくなっていました。

人の蘊蓄を聞くのが好きではない人や、基本的に雑学が好きではない人にとっては、読み飛ばしたくなる部分もあるかもしれないなあと心配しつつ、個人的にはその部分もすごく好きで、楽しめたので、オススメの1冊です。

いやあ、満足、満足。


以下、覚え書。

・人形の部屋
元の職場の先輩が破損してしまった、高価なビスク・ドール。助けを求められた敬典の目に、それはとても不自然なものに見えました。この人形に秘められた謎とは?そして、敬典は、どうやって先輩を助けるのか?ストーリーよりも、蘊蓄が楽しかった一編。

・銀座のビスマルク
万年筆というとても敬典らしいアイテムがキーポイント。登場人物が最終的にはみんないい人なので、読後感が良かったです。謎解きに一番スッキリしたのもこの作品でした。短かったから分かりやすくて良かった(←頭の悪い人の感想)。

・お花当番
個人的に、一番印象的だったのは、この作品。ミステリとして、謎解きの質で言えば、まあたいしたことはない作品なんですけど、雰囲気がとても良かったんです。敬典が、ああやっぱりねって感じで変わった学生だった若いころを、振り返って甘酸っぱい気持ちになったりしているのも可愛らしく。彼がそのころ親しくしていた女性というのも、やはりとても変わっているのだけれど、素敵な女性で。

・夢みる人の奈良
書道界が舞台になった、これはまあ、箸休め的作品。そして「銀座のビスマルク」とは色んな意味で真逆で…。

・お子様ランチで晩酌を
この最終話で、それまで不自然なまでに希薄な存在であった、母であり妻である人が、突然登場してしまう件に関しては、賛否両論が自分の中で巻き起こっています。最後で出すなら、最初からもうちょっと出しておけばよかったのに、という気がする。でも、もしそうだったら、最初の4話で父娘が作りだした、あの独特な空気感は出てこなかったのかもしれないんですよね。

それに、最終話であそこまで家族の歴史を描きこんでいながら、まだ、敬典が主夫をやっている事になんの説明もないのが不自然でした。ああいう経緯と理由で仕事をやめるのは、普通はどう考えても陽子さんのほうだと思う。どうして敬典は仕事を辞めたのか、それが謎のまま残ったのは、残念です。続編、出ないかな。

JUGEMテーマ:ミステリ
| か行(その他の作家) | 23:48 | - | - |
▲ 長く冷たい眠り 北川歩実
長く冷たい眠り長く冷たい眠り
北川 歩実

徳間書店 2007-06

もう治らない病気にかかった人の脳を冷凍睡眠で保存し、治療法が見つかった将来解凍して、クローン技術で作った人体の脳に戻す。その技術がもうすぐ完成する、あるいは実はとうに完成していて、すでに眠りについている人がいる。そんな噂がまことしやかに流れています。この本は、その噂に関わった人たちを描いた短編集です。

自分の命を長らえさせたい、愛する人の命を救いたい、愛する人と一緒に生きていきたい、人は必死になると藁にもすがる思いで、噂を信じてしまいます。そして、考えられないほど大胆な行動に出てしまう、その悲しさが、全編に溢れていました。でも、どちらかと言うとあっけらかんとしたSFで、読みやすかったです。

△ 氷の籠
△ 利口な猿
□ 闇の中へ
□ 追う女
△ 素顔に戻る朝
△ 凍りついた記憶
△ 長く冷たい眠り

久々に北川さんの新刊を見かけた気がして読みました。昔、かなり好きだった時期がありました。変わってなくて嬉しいなあ・・・でもちょっとネタが古く感じるなあ・・・なんて思いながら読み終えて、初出一覧を見たら、10年ほど前に書かれたものばかり。どうして、今さら単行本化されたんでしょうね?不思議です。
| か行(その他の作家) | 17:57 | - | - |
● 階段途中のビッグ・ノイズ 越谷オサム
階段途中のビッグ・ノイズ階段途中のビッグ・ノイズ
越谷 オサム

幻冬舎 2006-10

面白かった〜。こういうのは大好き!

先輩二人が麻薬所持でつかまり、伝統ある軽音楽部に、学校側から廃部命令が出ました。たった1人残った2年生部員、啓人は、幽霊部員だった伸太郎の熱意に引きずられるように、軽音楽部を残すため、大好きな音楽を続けるため、文化祭のステージを目指して、戦いはじめます。

先輩たちの素行の悪さから、学校中の鼻つまみ者になってしまい、軽音部は前途多難です。バンドを組めるだけのメンバーはなかなか揃わないし、顧問を引き受けてくれる先生もみつからない。やっと活動をはじめても、練習場所は暗くて暑い階段で、先生たちも他の部の生徒も、彼らの活動を良く思っていないので、妨害が続きます。でも、そんな中でも彼らは諦めず、逆境をはねのけて音楽を続けます。

4人のバンドメンバーも、彼らの周りの女の子たちや先生も、個性的で素敵でした。個人的にはドラムの徹の素直さにメロメロです。別の意味で、加藤先生にはクラクラです。

ストーリーは定番の青春ストーリーだけど、時代設定はヒップホップ全盛の現代で、でも彼らのやっているのは、懐かしの70年代ロック。幅広い世代の人が楽しめる1冊ですね。そうそう、『ぎぶそん』伊藤たかみ を思い出しました。

大人も読める、爽やか青春小説。映画のウォーターボーイズの頃から、小説にもこのテイストが増えている気がするのですが・・・気のせいでしょうか。流行でしょうか、それとも、たまたま、私の目につくことが多くなってきただけでしょうか。どちらにしろ、私はこの手の小説が大好きなので、喜ばしいことです。
| か行(その他の作家) | 13:15 | - | - |
■ 青の炎 貴志祐介
青の炎青の炎
貴志 祐介

角川書店 1999-10

櫛森秀一は、高校2年生。母親と、妹との3人家族です。秀一の父親は事故で亡くなりました。母親は、曾根という男と再婚しましたが、この曾根が、仕事をせず、ギャンブルにおぼれ、酒によっては暴力をふるう典型的なろくでなしで、母親はなんとか曾根と離婚しました。最近になって、曾根が秀一の家に強引に住みついてしまったので、平和な日々は壊れました。妹は曾根に脅え、母親は曾根に逆らえず、秀一は2人を守るために、曾根を‘強制終了’させなければならないと考えます。

友達を騙し、恋人を利用し、用意周到に行われた計画殺人の犯人。可愛げのまったくない少年であるにもかかわらず、その動機があまりに純粋で優しいので、秀一の味方になって読んでしまいました。しかも、この犯行の結果といい、秀一の選んだ自分の進退といい・・・結末が哀しすぎる本でした。ああ、もう、本当に、哀しすぎる。それにこの本は、社会派小説や青春小説としてだけでなく、トリックも楽しめるようにできていて、倒叙式のミステリィとしても味わい深かったです。

この本を、出版当時に読んでいたら、あるいは、映画化以前に読んでいたら、もっと感動できたんじゃないかと思うと残念です。映画を見ていなくて、宣伝だけを見た記憶があるから余計に・・・どうしても、アイドル映画のイメージがぬぐえなくて・・・。今からでもDVDを見るべし、ですね。

小説としても、どこにもとりたててケチをつけたいところはないし、とても切なくて、本来ならもっと私の心には響く物語だったはずです。でも、どうもその割に評価が低くなってしまうのは、少年犯罪を扱った他の本と比べてしまうからなんですよね。近年(酒鬼薔薇事件以降ってことかな?)私は、少年が加害者である小説をたくさん読みました。はっきり言って、単にキモさとグロさを売りにして、猟奇犯罪を面白おかしく描いただけの、しょうもない作品も多かったです。でも、『白夜行』『さまよう刃』東野圭吾、『晩鐘』乃南アサ、『天使のナイフ』薬丸岳、『空白の叫び』貫井徳郎、『疾走』『エイジ』重松清、『希望』永井するみ・・・

などなど。などなどなどなど。真面目に書かれた、読み応えのある作品が本当にたくさんあるんです。今すぐ思い出せる、比較的最近読んだ小説の中にもこんなにある。本気になって記憶と記録をさかのぼれば、きっと、もっとある。つまり、私は・・・飽きてしまったようなんです。

社会問題として、少年犯罪の増加の問題を軽く見る気はさらさらありません。そして、もちろんこの本は、私が上にあげた小説群より、早く出版された本です。そういう意味でも高く評価すべき本です。

だから・・・だからさー。私が、もっと早く読めばよかったんだよねー。図書館ばっかり利用していないで、新刊を買って読むと、いい事がたくさんあるんだと、また思い知りましたよ・・・。
| か行(その他の作家) | 02:11 | - | - |
▲ てのひらの中の宇宙 川端裕人
てのひらの中の宇宙てのひらの中の宇宙
川端 裕人

角川書店 2006-09

母親が再発癌の治療中である、小さな家族の物語です。この家族には、五歳のミライくんと、二歳のアスカちゃんという子供がいます。母親の入院中は、父親と祖母が彼らの面倒を見ています。

というと、母親の死をめぐる、お涙頂戴ストーリーになりそうなところですが、そんなことはありません。中心になるのは、理系幼児ミライくんの素朴な疑問と、それに一生懸命答えようとする父親のやりとりです。

学校教育を受けると、「理系」「文系」になぜか分けられてしまうのですが、小さい頃はどんな子も、自分を取り囲む自然には、興味を持っていますよね。恐竜や、宇宙や、生死なんて、誰でも一度は興味を持つテーマですよね。そのあたりに、とても共感できたので、
子育ては、子どもを通じて自分を再発見する旅だと思う。

子どもは何気ない日常を驚きと発見に変えてしまう存在だ。
といった言葉が印象的でした。生死に関する疑問を完全に解いた人などいないのですから、その点では、大人も子供もありませんよね。それに「理系」「文系」なんて、受験のための便宜的な分け方で、大人になってまでそんな言葉に縛られているなんてナンセンス。多くの人の「理系」に対する拒否反応は極端というか、もったいないですよね。学生時代に、物理や生物や地学が嫌いだった人でも、恐竜や宇宙という言葉には、ロマンを感じられると思うし、そういうゆとりを持った大人でありたいものです。逆も同じで、「文系」に対する拒否反応も、もったいないと思います。なにせ、読書感想文が1番嫌いな宿題だったわたしが、今ではこんなブログを作っているわけですから・・・なんか話がそれてきましたが・・・(笑)。

母親が一時退院をして、ひさしぶりに家族四人がそろったシーンが好きでした。再び彼女が入院してしまったシーンは切なかったです。

え?終わり?というようなところで終っていてオチもないし、無駄も多いし・・・。わたしが好きなタイプの娯楽本ではなかったので、評価は低めですが、でも、とてもいい本だと思います。
| か行(その他の作家) | 00:59 | - | - |
● 死日記 桂望実
死日記死日記
桂 望実

小学館 2006-06-06

恐い本かと思って読んだら、全然違いました。グッと物語にひきつけられる面白いサスペンスであり、そして、泣ける本でした。ひさびさに涙腺をやられました。悲しい物語でした。でも、かなりのオススメ本だなあ、これは。

「死日記」の書き手は、田口潤、14歳。俳優志望の友人、小野に、「脚本家になれ。」と、言われた事をきっかけに、文章の練習として、日記を書くことに決めました。もともと本が好きで、文章を書く事も好きだった潤は、毎日ほとんど欠かさずに日記を綴ります。中学3年生にしては語彙が豊富だし、日記にしては客観的な描写が多いのですが、それもこれも日記を書く理由が最初は「文章の練習」だからだ、と考えると不自然さはありません。

この本は、ほとんどがこの、潤の日記で占められています。

潤の暮らしは、貧しくて、孤独です。実の父親が亡くなって、母親と2人で暮していた家に、母親の新しい恋人である加瀬が寄生するようになりました。仕事をせず、ギャンブルで借金を重ね、酒を飲んでは母親に暴力をふるう加瀬。そんな加瀬にすがりつき、盲目的に尽くし、潤をないがしろにする母親。潤は2人の関係に苛立ち、怒りを覚えますが、ただひたすら、母親の幸せだけを祈っています。

ノートを買うことができないので、潤は学校のゴミ焼却場で、使いかけのノートを拾い集めます。公共料金を払えないので、度々電話や電気や水道は止められてしまいます。母親は何日も帰ってこない事があり、満足な食べ物が用意されていないこともしばしば。潤は、新聞配達のアルバイトを始めますが、食料がなくなった時のためにと、給料のほとんどを貯金してしまいます。

物語が進むにつれて、潤の生活はどんどん悲惨になっていきます。家族以外の周囲の人々が、潤を気にかけ、温かく見守ってくれる事が、この物語の大きな救いではあります。でも、中学3年生といえば、普通は反抗期もいいところで、すべての大人がうっとうしいという時期ですよね。担任の先生や、用務員のおじさん、バイト先の店長などに潤が可愛がられ、潤が彼らを慕う様子は、どんなに潤が寂しいのか、という事を浮き彫りにするばかりで、いいエピソードなのに悲しくなってしまいました。卒業式の日の日記は、そういう意味で、泣けました。

こんな風に、環境に恵まれなかったせいで心が荒み、犯罪に走ってしまう少年を題材にした小説は、たくさんありますよね。でも、この日記から浮かび上がってくる潤という少年の心は、最後まで荒みません。たとえば、両親に愛されて育ち、未来への可能性を持っている小野を、普通だったら羨ましく思い、付き合い続けるのが辛くなったりするのではないでしょうか。でも潤はそうではなく、友人として小野を心配し、応援します。小野の両親や、担任の先生が見せてくれる「温かい家庭」というものにも、潤はただ感動し、その親切に感謝します。近所のおばさんや、バイト先の店長がくれるプレゼントも、心の底から喜びます。日記の中の潤は、貧しい自分を恥じて目を伏せ、誰かを妬んだり、恨んだりしてひねくれて、心を荒ませることはないのです。

そこが最初は、あまりにもいい子過ぎて、不自然に思えました。でも、この日記は、「文章の練習」として始まったものですし、途中からは、誰かに読まれる事を前提に書いたものなんですよね。潤は、自分に訪れる不吉な運命を早いうちから予感していて、自分の死後、この日記を誰かが読むかもしれない、と、考えている。まあ、潤がノートを拾ってでも日記を書き続ける姿というのは、それ自体が彼の生きがいであるような、命綱になってしまったような、そんな切実さがあるので、日記に書かれている事に嘘はない、ということは信じられるんですけど。かといって、日記から浮かび上がる人物像が、潤のすべてだったとは考えづらい。

書きかけの小説を読めばわかるように、そして、時々は日記の行間ににじんでしまっているように、潤だって人をうらやんだり、憎んだりしなかったはずはないのです。自分の育った環境や、待ち受けている運命を、恨まなかったはずもない。でも、潤は必死になって、そういった自分の「醜い心」と戦っていたような気がします。無力な子供の身で、自分と母親の明日をどうすることもできなくても、心だけは荒ませないようにと、努力していたように感じられます。日記の中で潤は「母さんを疑っている自分が、イヤでイヤでしょうがない。」と、書いていますが、潤は母親に対してだけではなく、周囲の他の人に対しても、理不尽な出来事に対しても、純粋さや誠実さを保ちたいと願い、努力してそうあり続けたんだと思います。「いい子過ぎて、不自然」な日記の中から、そんな葛藤が見える気がして、切なさ倍増でした。潤はまるで、修行中の僧侶の卵のようです。

逆に、この本の中ではもう最高に悪者である、潤の母親、陽子の描写は、嫌になるくらいリアルでした。陽子は、DVの犠牲者になってしまう女性の典型ですね。DVはもちろん加害者が悪いんですけど、そこから逃げ出せない被害者にも、精神的な問題があるんですよね。陽子の場合は、潤の父親が亡くなった事で立ち直るチャンスを得たのに、そして、潤みたいな可愛い息子が彼女を求めているのに、結局また似たような男に捕まってしまう。なんてリアル!児童虐待のニュースを見るたびに、彼女の事を思い出しそうです。

というわけで、潤があまりに可哀相で、読み進めるのが辛いような本なのですが、この物語を最後まで読ませる牽引力となるのが、日記の合間に挿入される、取調べのシーンです。こちらでは、潤の母親である陽子が、刑事の取調べを受けています。この構成のおかげで読者には、潤の家庭に何か大事件が起こるのだという事が、最初からわかる。潤の運命をどうしても知りたくて、日記を読みすすめてしまいます。

そして・・・ラストで泣いてしまうんだなあ。
| か行(その他の作家) | 02:11 | - | - |
シャワー 喜多嶋隆
シャワーシャワー
喜多嶋 隆

角川書店 2005-03-25

再生への「奇跡」をリアルに描いた、極上の恋愛小説!

帯より。
本田哲男は、ファッション雑誌中心に仕事をしている、売れっ子カメラマン。東京の高級マンションに住み、モデルの彼女と付き合い、華やかな世界を走り続ける日々。しかしある日から、哲男は心身に異変を感じるようになります。医者からは「心の金属疲労」と言われ、向精神薬を飲むようになりますが、その効き目も限界に達し・・・。

「疲れた心の再生を描いた癒しの本」あるいは「中年男性への応援歌」、としては、あまりにリアリティがなさすぎ。こういう「癒し」の物語を必要としている人の共感を呼べる部分が、ないのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

仕事を何ヶ月休んでも、全然困らないくらいの蓄えがあって、資産もあって、養わなければならない妻子はいなくて、老いた父親の面倒は妹が見てくれて・・・、なんともうらやましい環境です。それもこれも彼が売れっ子カメラマンとして頑張ってきたことの報酬なので、文句を言う筋合いはないけど、でも、ほとんどの人はがんばってもがんばっても、哲男みたいにはなれないでしょう?共感・・・できます?

休んだら休んだで都合のいいことに、海辺の田舎町にある実家にはもう誰も住んでおらず、誰に気兼ねをすることもなく、故郷の懐かしい空気を満喫し、懐かしい料理を食べ、懐かしい人に会い、心身ともにじっくり休養できる。働き盛りの人がほとんど住まないというその町で、たまたま入った食堂に、たくましさと生命力あふれる魅力的な女性・凪がいて、彼女といつしか恋愛関係になる。その町で休養を続けるうちに、新しい仕事が軌道に乗ってしまう。この展開は現実的ですか?物語が進めば進むほど、ご都合主義もいい加減にしてくれって思うのは、私だけでしょうか?

新しい環境、新しい恋、新しい仕事、すべてが向こうから転がり込んできて、オメデトウ。たしかにこれは「奇跡」です。こんな「奇跡」に感動できますか?わたしは出来ません。ただうらやまめしいだけです。今まさに私の性格が悪いってことを露呈している真っ最中なのかもしれないですけど・・・(^_^;)。世の中って私程度には、性格の悪い人ばっかりのはずだよ!と思うのは、大間違いで、勘違いでしょうか。

本を読むことで現実逃避をはかりたい人には、ある意味、癒しなのかもしれないですね。それにまあ、喜多嶋隆さんって、もともとこういう作家さんでしたよねー。オシャレで、ちょっと気取った感じの・・・。いつまでもバブル、みたいな。

喜多嶋隆ファンにとっては、これが「いい」んだと思います。だとしたら、喜多嶋さんの作風をわかっていて手にとって、こんな感想を書いてる私は、ブロガー失格なのかも。

でもね。それならそれで、下手に背伸びをしたりせず、いつもどおりに若者向けに、若者を主人公にした本を書けばよかったのに、と、思わずにはいられませんでした。恋愛小説としては、ドラマチックな終盤の展開は面白かったし、凪という女性の生き方は、なかなか魅力的に描かれていて、素敵な本だったから、よけいにもったいない。

「36歳の疲れた中年」は、リアルじゃないとさめるけど、「26歳の傷ついた青年」なら、リアルじゃなくても許せるのに。(←わたしだけ?)
| か行(その他の作家) | 21:17 | - | - |
■ 夢の宮〜月下友人〜 今野緒雪
夢の宮―月下友人〈上〉夢の宮―月下友人〈上〉
今野 緒雪

集英社 2000-07

夢の宮―月下友人〈下〉夢の宮―月下友人〈下〉
今野 緒雪

集英社 2000-11

久々に読んだ「夢の宮」シリーズは、あいかわらず乙女チックなファンタジーで、微笑ましかったです。しかもこの本は、著者があとがきでおっしゃっているように「明るいグループ交際」。王子とその親友である貴族の息子、そして下級貴族の娘2人、という組み合わせの、王道ラブコメでした。最初から結末は分かっているようなものでしたが、素直に楽しみました。

それにしても「樹々」(じゅじゅ)って、可愛い名前だなあ。すごく気に入った。娘が生まれたら、つけようかな。(出産の予定はまったくありませんが。
| か行(その他の作家) | 23:47 | - | - |
● 天才たちの値段 門井慶喜
天才たちの値段天才たちの値段
門井 慶喜

文藝春秋 2006-09

これがデビュー作だなんて、信じられない!かなりの出来です!超オススメです!

美術ミステリーの連作短編集。美術品の真贋を味覚で判定する、天才、神永美有が活躍します。この作品では美術品が本物か、贋作か、ということだけに論点を絞っているわけではありません。(あたりまえですけどこの本は小説ですから、読者は出てくる美術品を見ることはできない。それに、登場する芸術家は実在の人物で、美術や歴史に関するうんちくも魅力の小説なので、美術品の真贋だけを論点にしたら、面白くないに決まってますよね。)

子爵の屋敷の地下室の壁に埋め込まれていた、巨匠ボッティチェッリ作の「秋」の真贋は?旧家の土蔵の取り壊しのさい発見された、古い地図の文化的価値は?釈迦がエアロビクスをしているようにしか見えない、不思議な涅槃図の意味は?フェルメールをめぐって公開ディベートを行うことになった、政治家親子の対決の行方は?

美術品には「有名な画家が描いたものかどうか」という以外にも、様々な価値基準があります。贋作であっても、歴史的な研究対象としての価値がある作品もある。特定の組織にとって特別な意味を持つ作品もある。ある個人にとっては思い入れの強い作品もある。この短編集では、様々な価値で、美術品にアプローチをしています。

1つ1つの美術品が現代に伝わってくるまでには、描いた人、買った人、保存した人、なくしてしまった人、あげた人、もらった人、など、さまざまな人の思いが関わっています。神永美有の舌は、そういった人々の人生や心情にまで踏み込み、それに説得力を持たせます。

本当に面白い本でした。それに、面白いだけじゃなくて、こころなしか頭が良くなった気がする(笑)。全然難しい事が書いてある本じゃないのに、知的好奇心が満足する本です。

ここからちょっとだけネタバレ。
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