ある日突然、「となり町」との戦争が始まります。しかし、日常生活は何も変わらないまま。役場から「偵察員」に任命された僕でさえ、戦争の実感を持てないまま、今までどおりの日々をすごしています。でも、市報にのせられる戦死者の数は、着実に増えているのです。
なかなか、恐い本でした。本当にどこかの国と戦争をすることになったとしても、こんな感じなのかもしれないと、思って。どうして戦争しなくちゃいけないのかわからないまま、戦争に協力させられて、「死」の実感を持てないまま、殺人に協力する人がいて。「僕」はずっと「どうして?」と尋ね続けるのですが答えは得られない。そして、たくさんの「死」があったにもかかわらず、あっけなく、お役所的な方法で、戦争は終わってしまう。リアルです。
そんなわけで前半が良かったです。市役所が公共事業として戦争を行う、なんて、びっくりな発想ですが、良く考えれば国同士はいつも公共事業として戦争を行ってるわけで。戦争中だって、仕事をし、人と話をし、家事をし、日常生活は営まれていくわけで。非現実的なのに、どこか現実的。
文体とか、「僕」の性格とか、ちょっと村上春樹っぽかったなあ。淡々とした語り口ながら、頭の中では「どうして?」とすごーく悩んでいるあたりがまた、戦争を知らない世代に現実にいそうな人間像で、恐かったりして。
後半はねー。悪くはなかった。全然悪くなかったんだけど、僕の興味の中心が、「戦争」よりも「役場の戦争担当の香西さん」という女性に移ってしまうんですよね。僕は、任務のためにこの香西さんと偽装結婚していて、肉体関係もあるんです。だから、現実感のない「戦争」の中で、きれいで性格も素敵で仕事もできる香西さんに、目が向いてしまうのは当然というか、そんなもんだろうなあと思うんだけど。あれ?恋愛小説?テーマがよくわからなくなったぞ・・・というのが正直な感想です。
まあ、全体としては、読んで良かったです。たしかに新人さんというのは信じられない!でも、直木賞はとれないよね・・・って感じでした。うーん、私的には、芥川賞のほうの候補になるような作品のような気がするんだけど・・・。違うのかな?