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■ 渋谷に里帰り 山本幸久
渋谷に里帰り渋谷に里帰り
山本 幸久

日本放送出版協会 2007-10

わたしはどうやら、山本幸久作品なら、お仕事小説が好きみたいです。この本も好き。

業務用食品の卸会社の営業マン、峰崎稔32歳。今まではただ何となく仕事をこなしてきた彼が、寿退社することになった営業成績トップの先輩、坂岡の担当地域である渋谷を引き継ぐことになり、物語が始まります。真摯に、必死に仕事をしてきて、お得意さんたちから慕われている、坂岡の仕事に対する真摯な姿勢と、その結果を目の当たりにし、それに刺激されて、稔も営業マンとして成長していきます。休憩時間に煙草を吸うために登る屋上で会える、となりの会社の美女と新しく始まった恋も、彼のやる気を応援します。そして、渋谷の街で子供のころの友人に再会して旧交を温め、彼らとこれから仕事をやっていこうと本気になるのです。

前半の稔は、箸にも棒にも引っかからないという感じのどうしようもない奴で、こういう奴とは絶対仕事したくないし、こんな部下がいたら迷惑だし、恋人どころか友達にもなりたくないし、こんな男のどこが魅力的なのかわからん、ってな感じでしたけど、人間は変われるものですよね。お仕事にやる気を出し始めて成長していく稔のことは、応援したくなりました。小説の中でなければ、稔のように、色んな事がいっぺんに、いいタイミングでいいほうに動き出して、周囲のおぜん立ての下で成長させてもらえるなんてこと、めったにないから、これはドリーム小説だけど、こういうドリームなら爽やかでいいです。

坂岡はとても素敵な女性でした。営業成績トップのできる人だけど、人間として女性として、可愛らしい面や優しい面も持ち合わせていて。彼女が、自分のお給料は稔より少ない、と、話すシーンは印象的でした。わたしは女だから、このシーンには現実を突きつけられたなあと思い、彼女を応援したくなり、彼女にねぎらいの言葉をかけ、幸せを祈りたい気持ちになり、会社に腹がたちましたが、男性の読者にとってはどんなシーンなんでしょうね?どこの会社も、似たような現実ってあると思うのですが。仕事ができなくても、やる気がなくても、女よりはお金がもらえて出世してしまうというのは、どんな気分なんだろう?まあ、前半の稔のようなダメ社会人は、自分が無能であることには目をつぶりがちだから、なにも感じない、ってところでしょうかね。

まあ、それはともかく、楽しいお仕事小説でした。頑張っている人、頑張ろうとしている人を描いた本は、爽やかでいいですね。渋谷の街と過疎化問題も興味深かったです。わたしにとっては、渋谷は遊びに行く街ですが、そうだよね、住んでる人もいるんだよね…。
| や行(山本幸久) | 10:01 | - | - |
▲ 美晴さんランナウェイ 山本幸久
美晴さんランナウェイ美晴さんランナウェイ
山本 幸久

集英社 2007-04
叔母さんは、トラブルとともにやってくる。27歳未婚。定職ナシ。男を見る目ナシ。いつも厄介を引き起こしては投げ出して―『笑う招き猫』の山本幸久が描く居候美女の痛快爽快・逃げっぱなし人生。
ほっこりホームドラマとしては、まずまずの出来…なんて言い方は偉そうですが、そんな感じです。温かい家族の、ちょっといい話が詰まっていました。よかったです。でも、特別面白かったかと言われるとそうでも…。

美晴さんのキャラが意外と薄いのが残念。可愛らしくて味のあるキャラクターでしたが、トラブルメーカーという煽りにふさわしく、もっと突き抜けたキャラなら、もっともっと楽しい本だった気がします。

ミステリーやSFならともかく、普通の生活を舞台にした小説で、男性作家が、思春期の女の子を語り手にするってのは、チャレンジですよねえ。この本でも、世宇子にリアリティがなさすぎたのも、ひっかかりました。なんだか薄っぺらい。これは男性が書いたんだろうなって、透けて見えてしまう感じが惜しかったです
| や行(山本幸久) | 09:58 | - | - |
▲ 男は敵、女はもっと敵 山本幸久
男は敵、女はもっと敵男は敵、女はもっと敵
山本 幸久

マガジンハウス 2006-02-23

結局、どっちも敵ってことじゃん、嫌なタイトルだなあ〜、などと思って、なかなか手が出なかった一冊。でも、読んでみたら、登場人物は誰も、「敵」というほど攻撃的でも脅威でもなく、普通の人が、空回りしながらも、一生懸命生きている感じのよく出ている、いい本でした。

中心人物は、離婚して半年の、藍子。美人で仕事もできる彼女を中心に、元夫、元夫の恋人、元不倫相手、元不倫相手の妻、などが交代で主役になり、それぞれの生活と心情が綴られる連作短編集です。

同じエピソードや同じ人物が、視点を変えるとまったく違ったものに見える。ある章ではむかつくキザ男に見えた人が、別の人の視点で描かれた章では、情けないただのダメ男だったり、ある章では自由奔放でかっこよく見えた女性が、別の章では無責任でだらしなく見えたり。小説ならではの面白さを堪能できました。

個人的には、藍子の元不倫相手の空回りっぷりが哀れで・・・。もう本当にどこかにいそうなダメ男なんですよ。だけど、ルックスが良く、仕事もある程度できたのでしょう。自分がダメだということに、いい年になるまでまったく気がつかないで来てしまった、痛いやつです。この小説の中で、けっこう痛い目にあったので、これからは少し、まともな男になってくれるでしょう。息子もいることですしね。

というわけで、藍子はちょっとユニークなキャラクターでしたが、それ以外の人たちは、ごく普通のどこかにいそうな人たちで、山本幸久さんの心情描写はとてもリアルで、上手いなあ!とは、思いました。ただ・・・手法的に目新しくはないので、インパクトはそんなになかったです。

それに、この本、設定の段階で、ストーリーはほとんど終ってしまっているような本なんですよね・・・。物語としての展開らしい展開は、あんまりないんです。だから、エンターテイメント小説として面白いかというと、ちょっと微妙です。

山本幸久さんの小説が、どっちの方向に進んでいくのか、わからなくなりました。エンターテイメント系の王道を走って、いずれは直木賞をとるような方だと思っていたのですが・・・。次作が楽しみなような、恐いような、です。

敵の女
Aクラスの女
本気の女
都合のいい女
昔の女
不適の女
| や行(山本幸久) | 23:37 | - | - |
■ 幸福ロケット 山本幸久
幸福ロケット幸福ロケット
山本 幸久

ポプラ社 2005-11

よかったですねー。感動できました。

下町に住む小学生、コーモリと香な子の、小さな恋の物語。イマどきっぽくない、素直で子供らしい子供たちが出てきて、泣いたり笑ったり頑張ったりする、大人のための癒し本です。

山本幸久さんらしく、文章が上手くて読みやすい。主人公香な子の、心の声には何度もくすっと笑わせてもらいました。まあ、山本幸久さんの今までの作品に比べると、「怒涛の面白さ」っていうかんじではないし、展開ものんびりしていて、なんだかだれてるなあ、という感じはしないでもないです。無駄で邪魔なエピソードが多かったり、踏み込みが足りなかったりもする。たとえば、最後の最後に町野さんが登場したのは邪魔だった。それに、香な子にはやっぱり、「私立は無理」という過酷な未来があったほうが、物語的には面白かったと思う。

でもやっぱり、よかった!ラストうるうるだったもの。コーモリ、苦労しまくるのは目に見えてるから、かっこいい男性になるでしょう。香な子も努力して、綺麗な女性になって欲しいなあ。でも、2人がまた出会って恋に落ちるなんて事は、たぶんないんだよね。初恋ってそういうものだから。

なかなかに、切ない本でした。

それから、私は鎌倉先生が好きだ!元モデルだという美人で、ジャガーに乗った、生徒思いのいい先生なんですけどね。セリフの一つ一つが最高。一番好きだったシーンを引用しておきます。
コーモリは・・・香な子をじっと見てから「おまえ、男だったらよかったのに」といった。
「どういうこと?」
「そしたらおれら親友になれたのに」
「男と女でも親友になれますよね、先生?」コーモリのお母さんは鎌倉先生に同意を求めた。でも先生ははっきりとこういった。
「あたしの経験上、ありえませんね」
コーモリのお母さんをはじめ、香な子もコーモリも先生の断定した物言いに、目をパチパチとさせるだけだった。
鎌倉先生、あなたはこれまでいったいどんな経験を積まれてきたんです?香な子は心の中で叫んだ。
そして、おっ、アカコとヒトミだ。


「幸福ロケット」出版記念 山本幸久インタビュー
http://www.poplarbeech.com/danwa/danwa_060123.html
| や行(山本幸久) | 18:53 | - | - |
■ はなうた日和 山本幸久
4087747670はなうた日和
山本 幸久
集英社 2005-07

by G-Tools

世田谷線沿線を舞台に、ごく普通の人々の、一生懸命な日常を描いています。表紙とタイトルどおりの、穏やかな短編集で、私は好きです。

山本幸久さんの作品を読むのは、「凸凹デイズ」「笑う招き猫」に続いて3作目です。2つともすっごく面白かったし、大好きでした。でも、2つの作品のテイストが似ていたので、こういう作品しか書けない作家さんだったら飽きちゃうかも・・・と、心配でした。でも、

・閣下のお出まし
複雑な関係の2人の少年のふれあいを描いています。実は子供って、けっこう大変だよね。

・犬が笑う
不倫相手が亡くなったばかりの女性が主人公。大人だなあ。

・ハッピーバースディ
定年間近のサラリーマンの哀愁・・・。けっこうブラック。

・意外な兄弟
主人公は、自分の仕事に向いていないと思っている営業マン。ラストがすごく良かった。

・うぐいす
この作品は、老女の一人称。切なくて哀しくて・・・ちょっと恐いラスト。

というわけで、この短編集を読んで、山本さんには「爽やか青春お仕事小説」以外にも、色んな引き出しがあるんだなあ、と、確認できて嬉しかったです。色んな年齢層の、色んな立場の人を主役にしているのに、まったく不自然ではなくて、山本さんの良さを再確認。

ほかに、
・五歳と十ヶ月
・普通の名字
・コーヒーブレイク
| や行(山本幸久) | 10:57 | - | - |
● 笑う招き猫 山本幸久
408774681X笑う招き猫
山本 幸久
集英社 2003-12

by G-Tools

面白かった〜!27歳の女漫才師コンビ・アカコとヒトミの、お笑いに賭ける1年間を描いています。設定はちょっと変わっているけど、別に奇をてらったわけではない、王道の青春小説です。

青春・・・と言っても20代後半の2人。その年になれば、誰にだって過去とか事情とかあるし、女性は特に、仕事か夢か結婚か、なんて揺れていたりする時期です。そういう部分を避けて通ったわけではないのに、とことん爽やかで、楽しい本に仕上がっています。上手い!

ぼけは150cmのずんぐり体型、天衣無縫なアカコ。祖母の頼子さんと2人、大きなお屋敷に暮らして、何不自由ない下積み生活。でもなにやら家庭の事情がありそうな気配です。

つっこみは、180cmの大女、苦労性のヒトミ。元OL。アルバイトをしながら、ボロ自転車のレッドバロンで東京中を走りまわる日々。典型的な貧乏下積み生活を送っています。

こんな2人の1年間の、漫才師としての成長と、長年にわたる友情が描かれ、笑えて笑えて、時々ほろっとさせてくれて、いい本です。作中で、アカコが即興で作る歌が楽しいです。それを受けてヒトミも歌うことがあるのですが、その受け渡しの瞬間が素敵。なによりラストで歌われる2人の歌が最高!

その他の登場人物や、彼らにまつわるエピソードも、意外に無駄がなくて面白いです。事務所の社長やマネージャー、先輩芸人とその家族、それぞれの物語があって、次から次に事件が起きます。スピード感のある本で最後まで飽きません。

芸能界の裏側を描いたものとして読むと、ちょっと物足りないかもしれません。そういう読み方をしてはいけないのです。これは、青春小説なのですから、アカコとヒトミの成長物語あるいは、友情物語として読みましょう。

第16回小説すばる新人賞受賞
| や行(山本幸久) | 14:21 | - | - |
★ 凸凹デイズ 山本幸久
4163244301凸凹デイズ
山本 幸久
文藝春秋 2005-10-25

by G-Tools

祝!初山本幸久作品。

思わず「祝!」とつけてしまうくらい、面白かったです。ライトでポップで爽やかな、青春お仕事小説。超オススメ!

新米デザイナーの凪海は凹組という弱小デザイン事務所の社員。先輩の大滝さん、黒川さん、それからライバル会社の女社長である醐宮さん、この4人が主な登場人物です。

凹組の仕事は、スーパーのチラシやエロ雑誌のデザインばかり。凪海は1Kのアパートで暮らし、先輩には寝る間もないくらいこきつかわれ、彼氏には逃げられ・・・。それでもやっと夢の「デザイナー」になれたんだからと、一生懸命仕事をしています。凪海ちゃん、本当にいい子です!キュートだし♪

そして、凹組に大チャンスがやってきます。凪海の描いたオリジナルキャラクターが、遊園地のマスコットとして採用されることになったのです。

なんと言っても上手いのは、こんな風に凪海の視点で語られる凹組の現在と、若き日の大滝さんが語る凹組の創成期が、交互に描かれる事です。凹組を立ち上げたのは、大滝さんと黒川さん、そして醐宮さんの3人でした。なぜ3人が事務所を作り、なぜ決裂し、なぜ現在ではこうも違う境遇にあるのか。3人の現在の思いは・・・など、過去パートは、謎に引っ張られて、どんどん読み進めました。

過去パートはもちろんですが、現在のパートでも大滝さん、黒川さん、醐宮さんは、青春真っ只中です。色んな意味でね。甘酸っぱくて、ほろ苦くて、暑苦しいのよねー(笑)。いつまでこのままでいられることやら・・・なんて言うのは、野暮ですね。ひがみっぽいし(爆)。

会話のテンポがよくて笑えます。出てくる人が、みんな愛すべき個性の持ち主で印象的です。それから、私もOL時代は同じ業界にいたので、そこらへんも個人的にツボでした。

お仕事ですから、楽しい事ばかりではありません。悔しい事や、大変なこともたくさんあります。でも、仕事仲間に恵まれれば、そんな事も、多少は軽やかに乗り越えていけるのかもしれません。

清々しい読後感で、楽しい読書でした。
| や行(山本幸久) | 20:14 | - | - |
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