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■ 人くい鬼モーリス 松尾由美
人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)
松尾 由美

理論社 2008-06

高校2年の夏休み、わたしこと村尾信乃は、家庭教師のアルバイトのため、優雅な避暑地にやってきた。手ごわいと聞いていた生徒は、芽理沙という名の超美少女。小生意気だけど、どこか寂しさを漂わせた芽理沙に、わたしは興味をひかれる。だが、すてきな夏になるかも、という期待は、あっさり打ちくだかれた。芽理沙に引き合わされた「人くい鬼」を見た瞬間に。この世のものとも思えない異様な姿をした、この世に存在するなんて信じたくもない、生き物だった。彼女いわく、大人には見えないし、生きている人間に害はあたえないそうだが、はたして、その言葉をうのみにしていいものだろうか?やがて、静かな別荘地を震撼させる、恐ろしい事件がたてつづけに起きる―。人くい鬼の存在を知らない大人たちの推理と、その存在を前提に繰り広げる少女たちの推理。少女たちと人くい鬼の不思議な絆を描く、さわやかでマジカルなミステリー。(「BOOK」データベースより)
あとがきによると、モーリス・センダックの「かいじゅうたちのいるところ」へのオマージュだそうです。軽井沢の山奥に、子供にしか見えない伝説の怪獣、モーリスが住んでいて、死体の気を食べて生きている。その設定だけで、なんだかわくわくします。そして、陸の孤島となった別荘地で、次々に死体消失事件が起こる…ああ、わくわく。このわくわく感は、ジュブナイルに無くてはならないものだと思います。この小説はまっとうにジュブナイルでした。

そして、大人が読んでも楽しめる、良くできたファンタジー&ミステリーだと思いました。エピローグをどう捉えるかというあたりで、大人と子供の差がでるのかもしれませんね。

大人として私が読んだ感想としては、もう少し子供時代の記憶がない母親に育てられたという事が、芽理沙の人格形成にどのような影響を及ぼしたのか、そして、それをどの程度芽理沙が自覚しているのか、というあたりを突っ込んで欲しいような気がしました。あと、祖父、母、芽理沙と、3世代にわたって遺伝?した、モーリスを恐れることがないという彼らの性向に、何らかの理由付けがあったら、ストーリーに説得力があったかなあと思います。
| ま行(松尾由美) | 21:36 | - | - |
■ 九月の恋と出会うまで 松尾由美
九月の恋と出会うまで九月の恋と出会うまで
松尾 由美

新潮社 2007-02-21

引っ越したばかりの部屋で、壁の、ふさがれているはずのエアコンの穴から、男性の声が聞こえることに気がついた詩織。その声は自分を、未来にいる同じアパートの住人・平野であると名乗り、現在の自分を尾行して欲しいという奇妙な依頼をします。

その奇妙な依頼の理由が解き明かされていく部分は、実に予想外だったので、気持よく驚かされて、楽しく読めました。ただ、それ以外の部分が退屈だったので残念で…。

わたしはこの本を、SFと謎解きの部分をメインに読んでいました。だから、前半の、詩織と未来の平野さんとの交流の部分を、退屈に感じてしまいました。謎解きの前の詩織の行動にも無駄が多い気がしました。それに、登場人物の外見が魅力的であるかどうかという描写とか、ヒロイン詩織が自分は異性にもてるタイプではないと分析する描写とかが、なんだかしつこい気がして、どうにもこうにもウザイんですけど、と、思いながら読んでいました。はやくSF部分の決着をつけてくれ、って思いながら。

でも、それだとたぶん、わたしの読み方が間違っていたんでしょうねー。これはSF風味の恋愛小説として読むべきだったんですね。それだとしたら、わたしが退屈に感じた部分は、必要不可欠な描写です。2人の恋に関して言えば、ほっこりできる素敵なハッピーエンドで、ご都合主義ではありましたが、良かったなあと思いました。ハッピーエンドは好きです。

ただ、正直に言うと個人的には、詩織の恋愛感に感情移入できなかったので、恋愛小説としても、あまり好みではありません。平野さんが、賞をとったことで自信がついて、コンプレックスから解放されて、感じが変わり借金も無くなったからこそのハッピーエンド、なんですもんね。人間の本質なんて、そんなに簡単に変わるものじゃないと思うので、こんなハッピーエンドにするのなら、詩織にはぜひ、おどおどと自信無さげだった平野さんにも魅かれていてほしかったです。(ま、これは本当にわたしの好みの問題です。はい。そして、わたしはラストのなんだか強引な平野さんより、賞を取る前の平野さんのほうが好きなんです。ええ。自分の中に理想があるゆえに、自信を持てない男性というのは、とてもセクシーだと思うんですよね…って、脱線しすぎなのでもうやめますけど。)

しゃべりだすクマのぬいぐるみの件とか、真一くんのエピソードとか、個性的なアパートの住人たちとかが、設定だけは魅力的なのに、小説の中で効果的に動いていない感じも残念でした。描写は丁寧なのに、処理が雑な感じで残念。

松尾由美さんの小説だ!ということで、期待しすぎて読んだせいで、辛口の感想になってしまいましたが、楽しめなかったわけではないです。幅広い人たちに好まれるタイプの、ちょっといい小説だったとは思います。
| ま行(松尾由美) | 20:24 | - | - |
▲ オランダ水牛の謎 松尾由美
オランダ水牛の謎<安楽椅子探偵アーチー>オランダ水牛の謎<安楽椅子探偵アーチー>
松尾 由美

東京創元社 2006-10-24

・オランダ水牛の謎
・エジプト猫の謎
・イギリス雨傘の謎
・インド更紗の謎
・アメリカ珈琲の謎

「安楽椅子探偵アーチー」シリーズの2作目。前作がすごく好きで、シリーズ化を願っていました。前作では小学校5年生だった衛と野山は6年生になっています。

「イギリス雨傘の謎」が面白かったです。鍵のかかった美術室で、ある生徒をモデルに作られた像が叩き壊されていた、という事件を、野山の集めた情報をもとに、アーチーが解決します。前作で楽しかった黄金パターンの再現が、嬉しかったです。謎解きも、本格ミステリィっぽい感じがしました。それに、衛と野山の学校生活が描かれていて、少年少女が爽やかで、素敵な一編でした。

全体的に、前作に比べると、謎解きの面白さはなかったかなあ。真相を提示されても、あーっ!そうかっ!っていう感動が少なかったです。なーんだ、って感じで、なんとなくがっかりすることが多かったです。前作ではとても魅力的に描かれていた、小学生衛と、人生経験豊かな椅子のアーチーの交流シーンも、今回は薄めでした。

もしもまた続編があるとしたら、衛は中学生になるのでしょうか。1作目が大好きでしたし、この本でシリーズが終ってしまうのは寂しいので続編を希望しますが、椅子が探偵という意外性で楽しめるのは1作目だけなので・・・。推理小説として一編一編の事件と謎解きをもう少ししっかりしたものにするとか、衛とアーチーの心の交流をもっと深く描くとか、期待してます。
| ま行(松尾由美) | 14:52 | - | - |
■ いつもの道、ちがう角 松尾由美
4334739881いつもの道、ちがう角
松尾 由美
光文社 2005-12-08

by G-Tools

文庫オリジナルの短編集。「世にも奇妙な物語」ちっくな、ダーク・ファンタジー7編。

読後感の悪さが、魅力になっています。真相がわかって、あー良かった、と、思ったら次の瞬間、さらに大きな恐怖の中につきおとされたり。え?それで結局どういうことなの?って、真相がわからないまま終ってしまって、気分が悪かったり。とにかくどれもこれもすっきりしない。

この「嫌あな気分」。据わりの悪い感じ。私はけっこう好きです。こんな本ばかり読みたいとは思わないけど、たまにはいいなあと思います。

西澤保彦さんの解説によると「奇妙な味」小説というジャンルだそうです。そんなジャンル名があるとは、私は初めて知りましたが、江戸川乱歩が提唱したそうですから、昔からあるんですね。

・琥珀のなかの虫
・麻疹
・恐ろしい絵
・厄介なティー・パーティ
・裏庭には
・窪地公園で
・いつもの道、ちがう角
| ま行(松尾由美) | 13:45 | - | - |
■ ハートブレイク・レストラン 松尾由美
4334924786ハートブレイク・レストラン
松尾 由美
光文社 2005-11-19

by G-Tools

幸せな人は、入店お断り−? 
「隅のお婆ちゃん」が解き明かす、不思議な恋愛ミステリー。
帯より

主人公は28歳のかけ出しのフリーライター、寺坂真以。彼女が仕事場代わりに使っているファミレスが、この小説の舞台です。このファミレスは、立地条件のほかに「ある特殊な事情」があって、従業員も常連客も、なぜか幸薄い、寂しい人ばかり・・・。そこで、真以が出会う日常の謎を「隅のお婆ちゃん」が解くミステリーです。

「ある特殊な事情」って何?「隅のお婆ちゃん」って誰?ということくらいは、ここに書いてもいいかなあ・・・って思うんだけど、やっぱりやめておきます。だって、その「設定」の部分が、この本で一番面白いところなんだもの。「ある特殊な事情」を聞いたときの真以の複雑な心境とか、真以が「隅のお婆ちゃん」としゃべる方法とか。一番面白いところは、ネタバレしないほうがいいですよね。

連作短編集なのですが、それぞれの短編の謎解き自体には、そんなにインパクトはありません。それに後半は真以の恋愛のほうに焦点が移ってしまった感じで、ちょっとぶれたなあ、って思いました。ミステリーとしては、物足りなかったです。

でも「隅のお婆ちゃん」のキャラは、セリフといい、雰囲気といい、伝統的な「安楽椅子探偵」そのものでよかったと思います。おかげで、落ち着いた本に仕上がっていました。雨の日に、歯医者の待ち時間に読むには最適。軽めで、後味はいいです。

・ケーキと指輪の問題
・走る目覚まし時計の問題
・不作法なストラップの問題
・靴紐と十五キロの問題
・ベレー帽と花瓶の問題
・ロボットと俳句の問題
| ま行(松尾由美) | 16:23 | - | - |
● 雨恋 松尾由美 
4104733016雨恋
松尾 由美
新潮社 2005-01-26

by G-Tools

タイトルどおり、恋愛小説ですが、ホラーであり、ミステリーでもあります。

渉が引っ越したマンションには、雨の日にだけあらわれる幽霊がいました。幽霊の名は、千波。3年前にこの部屋で自殺した、ということになっている、24歳の女の子です。しかし本人は自分は誰かに殺されたのだ、と、主張しています。渉は部屋から出られない千波の手足となって、真犯人を探すために動き始めます。

渉には最初、千波の声を聞くことしかできません。事件の謎や、千波の人生が明らかになるにつれ、また、渉と千波の距離が縮まるにつれ、足の方から順に、千波の姿が見えてきます。短かった千波の人生には、辛いことばかりで、本当に可哀想です。

渉は幽霊である千波を、恐いとも、気味が悪いとも思っています。にもかかわらず、初めから、彼女にとても親切です。千波に対してだけでなく、たとえば「ネコ好きな人」や、「病気の人」など、自分とは違う立場の他人の気持ちを、一生懸命想像して、傷つけないよう努力する、ありえないくらい優しくて、純粋な人です。

だから、「2人が仲良く、陽だまりのリビングで、ネコと幸せな時間をすごして欲しい」なんて読者はつい思ってしまうのですが、設定上それは無理なんですよねー。足しかなかったり、顔がなかったりする相手、しかもすでに死んでいる相手に、恋をすることになった渉の戸惑いが、ひしひしと伝わってきて、おかしくて、かわいくて、かなり切ないラブストーリーでした。ラストはちょっと、お涙。

事件の真相は、私には意外でした。伏線がはりめぐらされていたにも関わらず、全然よめませんでした。ミステリーとしても、読み応えがあると思います。






「ありえない恋、ラスト2ページの感動」「雨の日は魔法。小さな奇蹟があなたの心に水分を補給します。あの松尾由美が、こんなにストレートな切ない恋愛を書くなんて。」

これが、帯にあったあおり文句です。これは、今流行の、恋愛+死=涙、という方程式に、この小説をのせようとしたんだと思います。映画化するならヒロインは竹内結子でしょうね。私は古くからの松尾由美さんのファンなので、彼女の才能を、流行のこの枠にはめられてしまうのは、ちょっと嫌ですが、これで松尾由美さんの読者層が広がればいいなあ、と、思います。

松尾由美さんは、一貫して、SF+ミステリーの形の小説を書いてこられた方ですし、以前に出版された「スパイク」という本も、恋愛小説と言えなくもなかったし、代表作の「バルーンタウン」シリーズの中にも、恋愛の要素がつまったものはたくさんありました。「雨恋」は、私は、とても松尾由美さんらしい作品だと思います。松尾由美さんらしくて好きです。

とりあえず、殺人事件の謎解きをしながら、幽霊と恋愛する物語を、ストレートな恋愛小説とは言い難いと思います。帯に偽りあり、ですよね。
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