私は「13」「アラビアの夜の種族」と、立て続けに古川作品を最後まで読めずに挫折したのに、期待せずに読んだ「ベルカ、吠えないのか」が個人的に大ヒットで、古川さんのファンになりました。古川さんの本は、とても魅力的なのですが、読みやすいとは言えないものもありますよね。独特の文体が合わない人もいるでしょうしね。
この本は、古川さん初の、短編集らしい短編集だそうです。「読みやすさ」という点に絞れば、やはり短編集はいいですよね。古川さんに初挑戦、という方には、この本ををオススメするのがいいかもしれません。テーマやモチーフは、古川さんの長編と共通しており、短編でもちゃんと、古川さんらしい本ですから。
わたしが古川さんの一番の魅力だと感じるのは、やはり文体です。リズムの良い文章を書く人の本というのは、読みやすいだけで、さらさら流れて、心に残らない本が出来てしまうことがあるようですが、古川さんは違う。ドキっとするほど鋭く切り込んでくる、言い切り型の一文。目の覚めるような鮮やかさで、作品の一瞬を決定付けてしまう短いフレーズ。時折挟み込まれるそれらが、実にいいんですよね。この人は、詩人になったほうがいいのではないかと、読むたびに思います。その魅力は、ちゃんと、短編集でも生きています。
まあ、満足度では、長編のほうが高いです。短編では、「誰かさんに似てるなあ」とか「焦ったな」とか「このネタはどっかで見たぞ」とか、欠点が多少目につきました。長編なら、古川パワーにガツンとやられて気がつかないような、些細な欠点ですが。
○ お前のことは忘れていないよバッハ
冒頭のこの作品が、結局1番好きでした。お隣同士の3件の家に、それぞれ同年代の娘がいて、色んな大人の事情があった末に、真ん中の家で、3人の娘は共同生活をすることになります。バッハというのは、3人と共にその家で暮らす、ハムスターの名前です。
なんだか、とても切ない話だった。現実にはありえないほど、大人たちが勝手で、最初はコメディかと思うくらいだったんだけど、読み終えて見ると、大人のための哀しい童話でした。
○ ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター
幽体離脱をした高校生が、3人のクラスメートを訪ねます。似たネタはよくあるので、本をたくさん読む人(特にSF系)には、オチがわかってしまうと思います。私は、それでもまあ、楽しめました。記憶力に、若干の問題があるので。
□ カノン
これも悪くなかったし、1番古川さんらしい作品でもあるんじゃないかと思うなあ。ただ、ごく最近似たネタの本を読んだこともあって、絶賛はできない気分・・・。
□ 一九九一年、埋立地がお台場になる前
この作品をけっこう好き、と、思ってしまうのは、たぶんかなり個人的な思い入れです。時代といい場所といい、私の青春とけっこうかぶっている。ああ、青春という言葉を照れずに言えてしまった・・・。
△ 物語卵
△ 飲み物はいるかい
△ メロウ
△ ルート350
この4つも、べつに悪くはない。ただ、印象が薄かった。