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■ トワイライト 重松清
トワイライトトワイライト
重松 清

文藝春秋 2002-12

科学者になるのが夢だった「頭のいいのび太くん」、克哉は、大人になった今ただのサラリーマンで、しかもリストラが目の前に迫っている。クラスのマドンナ的存在だった「しずかちゃん」、真理子は、ガキ大将だった「ジャイアン」、徹夫が、将来何か大きな事をやる人だと信じて彼と結婚した。しかし、その徹夫はどんな仕事をしても長続きせず、真理子の実家に借金をし、真理子に暴力をふるう。短い時間だけ同じクラスにいて、すぐに転校していった「スネ夫」、杉本は、重い病気にかかっている。一時は予備校の人気講師として活躍した「誰も知らないしずかちゃんの親友」、淳子は、人気が落ち目になり、行き詰っている。軽い知的障害があるらしい、浩平だけは変わらずにいる。

彼らはみんな子供の頃、ニュータウンと呼ばれた新興の団地に住んでおり、同じ学校にかよっていました。克哉たちは26年前、小学校の卒業記念に、担任の「ドラえもん」、白石先生の提案で、タイムカプセルを埋めました。白石先生はタイムカプセルを埋めたあと「痴情のもつれ」が原因の事件で亡くなっています。

今では、ニュータウンは古くなり、どんどん人が出て行き、空洞化しています。人口も減り、小学校は廃校がきまりました。その前にタイムカプセルを掘り出そうと、かつてのクラスメートが、母校で再会します。

彼らはあの頃の白石先生と同じ年頃になっています。夢でいっぱいだった小学生時代の記憶が次々によみがえることは、38歳になった自分たちの、けして明るくも楽でもない現実をつきつけられるだけで、それぞれが心を乱します。

克哉はリストラにどのように立ち向かっていくのか、真理子と徹夫の家族はどんな未来を選ぶのか、死期の迫った杉本の望みは何なのか、少し分厚い本ですが、先が気になって一気に読めます。たくさんの登場人物を、ドラえもんの登場人物になぞらえて、上手くイメージさせてくれて、面白かったです。いい本でした。「夢」と「現実」、「勇気」、「希望」、「未来」、「人生」様々なことを考えさせられました。どちらかというと暗い本ですが、読後感はいいです。

個人的にはやはり、杉本にノックアウトされました。スネ夫のくせにかっこよすぎ!

登場人物たちと同じ時代を生きた人、つまり、「70年型少年少女」には、たまらない一冊だと思います。どこに境界線があるのかはわかりませんが、少年少女が未来に果てしない夢を見ていた時代に育った人は、本当に共感できるのでしょう。バブルが崩壊したときに、すでに大人になっていた年代の共感を、ものすごく呼ぶと思います。

わたしは「80年型」で、ぎりぎりこの境界線の後に生まれたらしく、そういう意味では共感できませんでした。少女時代も別に夢に満ちあふれて輝いていたということはなかった(笑)し、大人になった今も、38歳の彼らほどの経験を積んでいないし責任を負っていません。

でも、やっぱり、いい本だったなあ、と、思います。とにかく、重松節全開でした。著者名が書いていなくても、重松さんの作品だってわかるんじゃないかなあ。(比較的)突飛なことをしているわけでも、(比較的)破天荒なわけでもない、(比較的)多くの人の共感を呼ぶ、(比較的)地に足のついた作品を多く書いておられるのに、オリジナリティがある。個性が確立していて、それを素人にもはっきりわかるほどに表現している。すごい作家さんですね。
| さ行(重松清) | 23:56 | - | - |
★ きみの友だち 重松清
きみの友だちきみの友だち
重松 清

新潮社 2005-10-20

交通事故で足が不自由になったことをきっかけに、「みんな」と「友だち」について考えるようになった少女、恵美ちゃんが主人公。彼女が「みんな」ではない、「友だち」に選んだ相手は、腎臓病で学校も休みがちの由香ちゃん。クラスでは落ちこぼれで、みんなから見下ろされていて、いつも2人だけの閉じた世界にいる、2人の深い友情がじっくり描かれていきます。

並行して描かれるもうひとつの友情は、恵美ちゃんの弟、ブンちゃんとモトくんの物語。勉強でもスポーツでも人気でも抜きん出た2人は、クラスのみんなの憧れの存在です。そんな2人は、誰よりも相手を認め、誰よりもわかりあっている、ライバルであり、親友。恵美ちゃんと由香ちゃんの友情とはまた違うけれど、ここにも強い絆があります。

でも、どちらの友情も・・・・・・まあ、なんて型どおりなの!この2つだけでなく、すべてのエピソードが、型どおりで、オリジナリティが全然ない。少年漫画のような、清々しい「男の友情」と、いかにもな、女子社会の陰険な人間関係。ああ、コテコテのベタベタ。結末も、まったく期待を裏切られることのない予定調和。

・・・にも関わらず、泣けてしまった。うーん、やられた。ひさびさに、★じるし出ちゃった。

わたしに★じるしを出させるまでにツボだったのは、由香ちゃんが自分の病気について打ち明けたシーンを、恵美ちゃんが回想するシーン。この小説は、私の好きなジャンルではないし、けなしどころも、つっこみどころもたくさんあったのに、それらをすべて蹴散らしてしまうほど、このシーンはツボでした。
「中学に入ってからも、一緒にいていい?」
「わたし、途中でいなくなっちゃうかもしれないけど、一緒にいてくれる?」
「思い出がたくさん残って、死んじゃうと、嫌かもしれないけど・・・いい?」

だいじょうぶだよ。どんなに悲しくても大切な思い出になる。三年間で心を鍛えた。死んでしまうかもしれない友達と付き合うというのは、そういうことだ。
ほんとうに悲しいのは、悲しい思い出が残ることじゃないよ。思い出が何も残らないことが、いちばん悲しいんだよ。
だから、わたしは、いま幸せだよ。
「泣ける本ブーム」でさんざん見てきたけど、人が死んだよ→悲しいよね→さあ泣いてください、っていう流れを作るのは、作家さんにとっては比較的簡単なんでしょう。だってこういう小説、大量生産状態だもんね。でも、この本のように、インパクトの強い「死」というものをを描きながら、人が死んだから悲しいというだけの本にはせず、テーマをはっきりと「死」ではないところにしぼっていく本って、なかなかない気がする。やるなあ、重松さん!感心しました。やられました。これだけベタベタな本でも、この本は良かったです!

かなり長編に近い連作短編集。構成もとても上手かったです。
| さ行(重松清) | 12:22 | - | - |
▲ 疾走 重松清
4048734857疾走
重松 清
角川書店 2003-08

by G-Tools

犯罪へとひた走る14歳の孤独な魂を描いて読む者を圧倒する現代の黙示録。

帯より
表紙が恐いよ〜(>_<)

物語は、ひたすら重い、ひたすら暗い。たった14歳の主人公の転落人生が、悲惨すぎて読むのが辛い。

でも、家族、いじめ、孤独、虐待、差別、殺人など、色んな事を考えさせられる小説だったし、登場人物と一緒になって悲しかったり、苦しかったり、腹が立ったりして、心を揺さぶられる物語でもありました。ただ、それらを「感動」とか「泣ける」とか、そういう言葉では安易にくくれなくて、心も頭も爆発しそうになる1冊です。読み応えがありました。著者渾身の大作ですね。
「誰か一緒に生きてください。」
この言葉は、とても切なかったです。

「白夜行」東野圭吾と、「永遠の仔」天童荒太を、思い出しました。テーマが似てますよね。この2冊を絶賛している私ですが、この「疾走」への評価は、実は微妙。

「白夜行」「永遠の仔」では、少年期に悲劇を経験した主人公たちは、作中で大人になり、感情がきちんと分化して、自分を表現することが出来るようになっていました。また、彼らはその生き方で、少年期におきた悲劇が及ぼす影響を体現していました。でも、「疾走」のシュウジは14歳〜15歳にすぎず、シュウジの形というものが定まらないままなんですよね。だから、シュウジのキャラクターをつかみづらく、感情移入しにくかったです。そして、その定まらない形のままで物語が終ってしまったというのは、二重の意味で悲劇だな、と思いました。

そして、この本には、「白夜行」や「永遠の仔」にあったような、エンターテイメント性がありません。犯罪小説ではありますが、少年がひたすら悩む、純文学的な作品です。テーマの重さや、ストーリーの辛さを、薄めてくれるものがないんです。だから、最後まで読むのは、かなりの気力がいります。それをおしてまで、読むだけの価値というか、「何か」があるか、と言われると・・・どうにも微妙なんです。

最後まで読んでも、なんだか釈然としない本。構成の荒さは長さでごまかされてしまうし、物語の収束の仕方が、型どおりに感動的なので、感情的には、物語はすとんと終ってしまうのですが、何か消化不良がある気がしてしょうがない。

テーマが絞りきれていない気がします。もちろん、論文じゃないんだから、テーマを1つに絞れ!とかって言いたいわけじゃありません。それに、この小説をどう受け取るか、何を読み取るか、というところで、読者の技量が試されてる、という気もします。

でもやっぱり、作者がこの本を通して書きたかった「何か」には、収集がついていないように見えます。作者がしたかったことは、イメチェンだけじゃないはず。

細かいことを言えば、
聖句の扱い方は、ちょっと軽率でしょう。
エログロシーンは、やりすぎでしょう。
ラストの展開は、ベタすぎるでしょう。

傑作だ、と絶賛する人がいることもわかりつつ、
勇気を持って、個人的評価は、微妙だ!、と、言ってしまいます。
少なくとも、人にすすめることはないと思います。
| さ行(重松清) | 02:46 | - | - |
● その日の前に 重松清
4163242104その日のまえに
重松 清
文藝春秋 2005-08-05

by G-Tools

ネタバレ警報発令!

完敗。

私は、基本的に、お涙頂戴系には評価が厳しいんです。特に、病気で人が死ぬものと、ペットが死ぬものには、きついです。いくら小説の中だからって、読者を泣かせるために、簡単に命を奪うなよ、と、思っちゃいます。安易なオチだ、と、思って、さめるんです。(それでも泣いちゃうので・・・それがまた腹が立って(笑)

でも、この短編集は、あまりにもストレートに「死」をテーマにしているので、そういう風には感じませんでした。この本は、死が決まったところから、物語が始まるのですから、「死」は前提であって、安易なオチではないのです。

この本には、7編の短編が収録されています。

・ひこうき雲
・朝日のあたる家
・潮騒
・ヒア・カムズ・ザ・サン
・その日の前に
・その日
・その日のあとで

最後の3章は、短編というより、中篇の1章・2章・3章、という感じです。癌を告知された和美と家族が「その日」までをどう生きたか。家族(夫と2人の息子)が、「その日」をどう迎えて、「その日のあと」をどう生きるか。という、タイトルどおりの物語です。

「その日の前に」の段階では、ちょっとさめた目で読んでたんですよね〜。和美さんがあまりにも、立派と言うか、冷静というか、悟りすぎだったので。ずいぶん前から告知をされていて、和美さんは様々なしたい事、なすべき事を終え、死を受け入れる段階まで来ているという設定でしたし、それを夫目線で描いているから、かなり美化されてもいて。リアリティがない気がしてしまったんです。

ところが、それに比べて「その日」のリアルなこと。感傷にひたっている暇も無く、淡々と雑務をこなす「その日」。しばらくは風呂には入れないだろうと風呂に入り、身内に連絡を取り、息子たちの面倒をみて。続く「その日のあとで」もリアルです。妻が亡くなっても、世界は周り、日常生活は続きます。妻宛のDMは届き続け、家族は3人3様の反応を示します。

「その日」の三ヵ月後に、看護婦さんが和美から預かったという手紙が、夫の元へ届く、というベタな展開があるんですよね。その内容が、たった1行。
忘れてもいいよ
これは、泣ける!ベタでも泣ける。くさいけど泣ける。さすがの私も、これには来た〜。あいかわらず立派すぎる和美さんなんだけど、手紙を残すという行為でなら、このくらい立派な事を、人間はできるかもしれないと思います。色々なことを考えて、考えて、考えて、結局この一行だけを書いた和美さん。うーん、泣ける!

著者が、さあ、ここで泣いてください!と、言っているわけです。そこで泣いてしまうなんて、私的には、ちょっと負けなわけです。しかし、出てしまった水分をずずっと吸い上げる機能は、目にはついていないわけです。というわけで、この3部作には素直に完敗しました。泣けました。

その前に置かれている4つの短編も、真っ向から「死」をテーマにしたストーリーです。淡々とした筆致で、登場人物の心情を丁寧に描いていて、読みやすいし、色んな事を考えさせられます(「その日」3部作には負けるけど)。最後の3部作の中に、その登場人物が、少しずつゲスト出演しています。そのあたりは、あくまでも遊び心というか、小説のゆとり部分として、さらっと見つけてちょっと喜べばよさそうです。見所!というほどのものではありません。

それにしても・・・泣ける本ブームがここまで続くとは思いませんでした。長く続いた事で、駄作と秀作の二分化が進んでますよね。名作かどうかは、時がたたないとわからないけど。
| さ行(重松清) | 23:59 | - | - |
■ ビタミンF 重松清
4104075035ビタミンF
重松 清
新潮社 2000-08

by G-Tools

家族をテーマにした七つの短編。直木賞受賞作。重松清さんの本は、ずーっと読もうと思っていて、読んでいませんでした。というわけで、間違いなさそうな「ビタミンF」から読んでみました。

確かに、間違いなかった。いい本だった。色んな人の心を打つ本だと思った。また、重松本を読みたいです。

ただ、私は、この本の主人公たちである「お父さん」に限りなく近い年齢ですが、立場的にはまだ「娘」で。「娘」の視点で読んでしまったので、時々、見たくないものを見てしまったような気持ちにもなりました。親の「老い」とか「老いへのあせり」とか「いまだに残る青臭さ」とかって、出来る限りは、見ないふりをしていたいものだったりしませんか?私の親はもう、この本の「お父さん」たちよりずっと年が上なので、見ないふりもできませんけど・・・。
| さ行(重松清) | 22:26 | - | - |
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