高校時代に、部活の顧問だった先生を、ずっと思い続ける女性の物語。
大人になって、別の男性と結婚しようとしている彼女が、
彼との恋を、回想する形で綴られます。
葉山先生のどこがそんなにいいのか、という男性陣からの疑問・質問には、
私も答えられません。どこがいいのか、さっぱりわかりません。
葉山という人の人物像は、しっかり描写されているとは言えないと思います。
彼が、主人公・泉に打ち明けた、過去の苦い経験と、
泉との関係で、自己中心的ダメ男ぶりをさらしているという以外、よくわからない人。
だから、私も、葉山は最低だと思うし、一貫して嫌いでした。
ただ、葉山のどこがいいかはさっぱりわからなくても、泉の気持ちはわかります。
相手が、最低のダメ男でも、好きだったら、関係ないんですよね。
相手がダメであればあるほど、甘えられて、はまっちゃうなんて、よくある話。
相手がこんなダメ男だからこそ、彼を思い続ける、泉の気持ちが切ないんです。
無理なく共感できる本だと思いました。恋愛小説で、ひさびさに泣けました。
クライマックスまでの盛り上げ方が、本当に上手いですよね。
そして、それに続くラストの数ページが、しみじみと切なくて、良かったです。
忘れられない強烈な恋の思い出って、誰にでも1つや2つあると思います。
でも、その恋が、泉のようにドラマチックな展開をして、
悲しいけれど清々しいラストシーンを迎えて、
思い出すと胸が痛むけれど、その痛みすら愛せるほどに、美しい記憶である、
なーんて事は、なかなか、ないんじゃないかな。
だから、過去の恋を、徹底的に美化してくれるこの本が、絶賛されたんでしょう。
美化という意味では、島本さんの文章の力はすごかったと思います。
登場人物の心情を、直接にではなく、体感や、風景を描くことで示していて、
なんだか、芸術的な上手さでした。
昇華という言葉があるくらいですからね。
すべての芸術は、けして美しくはないものを、美化するところから始まる。
これ、すごく、誉めてます。
ただ小説を全体的に見渡すと、イマイチなところがあるんですよね。
ページ配分のバランスが、ひどく悪いような気がするんです。
前半で、ちょっと退屈したんです。
それでもそのままの穏やかさで、最後までゆっくりと進展する物語なら、
それはそれで、好きになったような気がするのですが、
後半は、昼ドラのような波乱の展開で、テンポがよく、スピード感たっぷり。
前半と後半が、分離した印象で、まとまりがない気がします。
泉と小野君の恋愛も、ページ数的には長すぎましたよね。
2人の、すれ違う思いというのはリアルで、エピソードとしては良かったんだけど、
全体のバランスとしては、長すぎると思います。
そして、柚子ちゃんの手紙って必要でしたか?
葉山に衝撃を与えるなら、教え子の自殺という事実だけで十分のはず。
終盤をドラマチックに盛り上げたエピソードではありましたが、
小ネタに使うには重すぎるエピソードで、何かがぶれたと思います。
昼ドラ感、一気に2割増しって感じでした。
それから、あとほんの少し、泉の「続き」が欲しい物語なんですよね。
タイトル「ナラタージュ」が意味するところを考えると、
泉が婚約者と過ごしている現在に、もう少しページをさいて欲しかった。
プロローグの部分を、もう少し長くして、婚約者の事をもう少し描いたほうが、
もっと、切なかったと思うし、小説が綺麗に着地できたと思う。
・・・ただ、この点に関しては、私自身が、現在の泉よりさらに年上だから、
というだけの、個人的な理由かもしれません・・・。
まあ、長々と文句をつけてはいますが、
大きな欠陥というわけではないし、感動にケチのつくような欠点でもない。
なんだかんだいって、結局、素敵な本でした。