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■ あなたにもできる悪いこと 平安寿子
あなたにもできる悪いことあなたにもできる悪いこと
平 安寿子

講談社 2006-08-01

うん。けっこう面白かった。平さんの本なら、私はやっぱり恋愛小説ではないほうが好きみたいです。しかも、男性が主人公のほうが面白い。この本の主人公は、何よりも金を愛する男・檜垣。檜垣が、ひょんなことから知り合いになった里奈の持ち込んでくる胡散臭いネタから、小金をセコく騙し取る連作短編集です。

口の上手さだけで生きてきた、自称スーパー営業マンの檜垣は、元々ほとんど詐欺師で、この本でやったことは完全に脅迫です。しかも、お金に「愛してるよ」なんて話しかけちゃうような、いっちゃってる男だし、実は臆病で寂しがり屋で、里奈に頼りっぱなしの、情けない男です。でも、その情けなさが憎めないんですよねー。

しょぼいネタからみみっちい金額を取るだけでも、脅迫と詐欺という立派な犯罪。それを行う犯罪者が主役で、最後まで裁かれることがないのに、なんでこの本の読後感がいいのか。考えてみると、その相手がみんな、本物の悪党だったからかな、と、思います。檜垣と里奈がお金をふんだくったのは、セクハラの常習犯、NGOを私物化して金と地盤を手に入れた政治家志望、近所迷惑なエセ宗教、不正診療、などなどなど。こういう奴は、とっちめてやってくれ、と、お願いしたいような連中ばかり。

でも、タイトルとは違って、わたしにはこの本に出てくるような悪いことはできそうにないわけです。私には本物の悪党になって大金を得ようなんて度胸もなければ、彼らをとっちめようなんていう勇気もない。だから、この本を第三者的に楽しく読めてしまったんだと思います。

金が天下を回るから
ユニオン
我が善き心に栄えあれ
神様によろしく
あなたが選ぶその人は
カエサルのものはカエサルに
| た行(平安寿子) | 15:14 | - | - |
■ センチメンタル・サバイバル 平安寿子
4838716435センチメンタル・サバイバル
平 安寿子
マガジンハウス 2006-01-19

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「愛はいらない、お金が欲しい」
というインパクト大の言葉ではじまるこの本ですが、別に、金の亡者の物語ではありません。

独身で働き続け48歳になった叔母・龍子。キャリアウーマンの代表です。その家に家事一切を引き受ける条件で、家賃なしで同居することになった、るか、24歳フリーター。夢も理想もとくにない、覇気のない若者の代表です。るかは同居初日に龍子から、「いつまでもあると思うな、愛と職」という言葉をおくられてしまいます。

るかの生活におこる様々な出来事を描いた、コミカルな長編。それぞれの「出来事」自体はとても小さいのですが、それについて行われる、龍子とのディスカッションが楽しいんです。龍子のセリフはどれもこれも極端なのですが、女性なら共感できる、という部分があって笑えます。

たとえば、#4「エッチは禁句」。るかのバイト先の店長(♂)が、「エッチする」という言い方が嫌いだ、と言って、その言葉を使うのを禁止します。「する」と言いなさい、語感に情緒があるから、というわけです。そして、
する、して、させて。サ行三段活用は男のDNAに働きかけるようになっている。エッチという子供っぽい言葉をはずすだけだ。簡単だろう。それだけで、きみは大人になれる。
だなんて言い出します。ここで、読んでいる私は、「はあ?それだけで大人になれるわけないっしょ。何言ってんだか・・・。そしてそこで、情緒とDNAを同時に語る事に、男の中では矛盾がないのね・・・。ん?日本語じゃない世界の人はどうやってサ行三段活用を使うんだっ。」などと思ったわけです。この店長さんはいい人キャラで、全然反感を持ったりはしなかったんだけど、このセリフには微妙な違和感を感じたんです。

そうしたら龍子さんは、帰宅したるかに、きっぱり言ってくれるのです。
男って、ロマンティックに屈折するから困るよね。どう言おうがいいじゃない。そんな風に情緒とか回数とか付加価値にこだわるから、かえってセックス・コンプレックスから解放されないのよ。エッチしようと言われようが、してと迫られようが、あんたのやれることに大差はないでしょうがって言ってやれば?
きっつーい(笑)。でも女性読者は、この「ちょっとうんざり」感はけっこうわかるぞ!って感じるんじゃないかな、と、思います。だからって、普通は龍子さんみたいにきっぱり言えない(言わない・・・)けど、言えないからこそ、部分的に共感!

一方のるかは、個人的に、全面共感キャラでした。考えている事も、周りに言われる事も、私みたい・・・。フリーターだけど、将来を投げてるわけでも、なめてるわけでもない。非恋愛体質なんだけど、恋愛しないわけじゃない。「低反発マットレス女」と言われれば、腹も立つし変わりたいけど、そんなに急には変われない。

龍子さんだけではなくて、バイト仲間で夢を追っている民子ちゃん、専業主婦を通してきて更年期クライシスに陥る母親など、周囲の人との係わり合いの中で少しずつ成長していく、るかの青春ストーリー。人生、仕事、夢、恋愛、などテーマは真面目なのに、さらっと読めて面白かったです。女子向け。
| た行(平安寿子) | 12:11 | - | - |
■ 愛の保存法 平安寿子 
4334924816愛の保存法
平 安寿子
光文社 2005-12-14

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帯にあるように、切なさをユーモアで包んだ恋愛短編集。

・愛の保存法
カップルによって、色んな愛の保存法があっていいと思います。ほかの家族が認めているのなら、離婚と結婚を繰り返すという、愛の保存法もあるのでしょう。そういう2人の4回目の結婚式をめぐる小説です。

でも、確かに、傍迷惑ではあるよね。片想いをしている相手の結婚式に出なければならない、というシチュエーションは、小説の中ではよくある話だけど、嫌なものだろうね。それにその場面で、司会を頼まれるなんて最悪だよね。きつーい。絶対嫌だー!

そして私は、たぶんまゆみは奈香子の気持ちに気づいているぞ・・・と、想像しました。女ってそういうところは恐いから。

登場人物のそれぞれに、一番共感できた作品。

・パパのベイビーボーイ
この小編のパパは、かなりダメな男だ。でも、女心をわかっているなあ。こんな人にかかったら、大抵の女は、ひとたまりもないぞ・・・。

男の人にはぜひ、参考にして欲しい1冊。真似してもダメだけど。

・きみ去りしのち
この短編集の中では異色の、ほろにが青春小説。依存体質の女性・有子と、その恋人・剛の物語。有子がずっと甘えてきた母親に、病気で余命宣告が下る。その時には有子を全力で支えよう、と、考えていた剛だったが・・・。完全に、剛に感情移入しちゃいました。有子の気持ちもよくわかるんだけどねー。やっぱり剛が可哀想だったなあ。

男と女がすれ違ってしまう瞬間って、こういう感じなんだよなあ。とてもリアルな作品でした。

・寂しがりやの素粒子
センセーみたいな男も、春香みたいな女も嫌い。でも、鉄太郎の気持ちが切ない。一番心に残った作品。

・彼女はホームシック
エネルギッシュでエキセントリックで寂しがりやで、トルネードのように他人を巻き込む女性と、彼女と不倫をした事で、結局家族を失った男性の、長い物語。不倫関係を清算した後も、友情は長く続きます。その女性・都季にいいように利用される男性・島津の、あまりのお人よし加減に呆れ、都季の勝手さに腹をたてながら読んでいたのですが、最後まで読むと、どうでもよくなりました。

島津はおひとよしとか、一途とかいうのではなく、自己満足型というか、自己陶酔型で、責任の生じない人間関係を好む、かなり勝手な男。都季とはお似合いです。一生やっててください。

・出来過ぎた男
これはちょっとブラックなコメディなんだと思います。これをラストに持ってきた事で、読後感が軽くなったような気もするけど、悪くなったような気もする。微妙。
| た行(平安寿子) | 09:59 | - | - |
■ Bランクの恋人 平安寿子
4408534803Bランクの恋人
平 安寿子
実業之日本社 2005-10-16

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どこかにいそうで、でも、実はどこにもいなそうな、心のたくましい人たちが次々に出てくる短編集。

色んな人生があるもんだ、と、心が軽くなるような本です。どの短編も、いい!

夫婦、恋人、友人、親子など、色んな人間関係を扱っていて、テーマは限定されていないんだけど、なんとなく一冊の本として、まとまっている感じがします。平さんって、ちゃんとした価値観の定まった人なんだろうなあ、と、思います。

「サンクス・フォー・ザ・メモリー」をラストに持ってくるあたり、やるなあ。お舅さんを介護した、お嫁さんの主張がテーマなんです。このお嫁さんがもう、なんだかいい子でねー。冷たいと責められる、息子さんや、娘さんにもそれぞれ言い分はあるだろうけど、やっぱり、このお嫁さんはいい子!ちょっと感動の本でした。
| た行(平安寿子) | 00:25 | - | - |
● くうねるところすむところ 平安寿子
4163239901くうねるところすむところ
平 安寿子
文藝春秋 2005-05-25

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出版社で副編集長をつとめていた、30歳の梨央は、一目惚れしたとび職の男性「ヒーロー」にあこがれて、工務店に再就職します。工務店の女社長は45歳の×イチ。社長令嬢で「姫」と呼ばれて育ち、婿養子をとって工務店を任せていたのですが、彼の不倫が原因で夫を離婚。なりゆきで自分が社長をつとめることになったのです。

二人の女性が、会社経営・建築現場という、少し前まで完全に男のものだった仕事に、懸命に立ち向かっていく姿が素敵です。二人とも素人だから、なにもかも全然うまくいきません。姫は、社長就任早々大胆なリストラを実行し、しすぎて深刻な人材不足に陥ります。まったくの素人である梨央が、現場監督をつとめなければならないほどの人材不足です。資金繰りもうまくいきません。二人はそれでもなぜかめげることはない。多少しょげてもちゃんと立ち直る。

二人とも「家を作る」という仕事自体に情熱を持っていたわけじゃないから、かっこいい女性を描いている、というわけではないんです。でも、持ち前のたくましさと、明るさで、前向きに仕事をしているうちに、二人は自分の仕事の意義を見つけます。そして、だんだん二人が、かっこよく見えてくるんです。

さて、この鍵山工務店の行く末は?梨央の恋の行方は?ぜひ読んで下さい。面白くて、元気が出る!
| た行(平安寿子) | 22:14 | - | - |
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