ネタバレ警報
ダイビング中の事故で、共に海面を漂流し、固い信頼で結ばれた仲間、6人。そのうちの1人、美月が自殺します。残された5人の仲間が、四十九日のあとに集まり、彼女の死に関する些細な疑問点について、あーでもないこーでもない、と、議論をする物語です。
青酸カリの入っていた小瓶のキャップは誰が閉めたのか?美月の自殺には協力者がいたのではないか?それは誰なのか?なぜそんな事をしたのか?美月が死んだ本当の理由は?
物語の設定は魅力的でした。
石持浅海さんは、好きです。毎回読み終わると、どこかしら、それでいいのか!と、納得のいかない点があるんだけど、それを含めて好き。読んでいる最中楽しかったり、イメージが素敵だったりするから、まあいっかあ、と、思ってしまう。
そんなわたしでも・・・さすがに、この「セリヌンティウスの舟」は、読んでいる間から、もうつっこみどころが多すぎて、全然入り込めませんでした。というわけで、
酷評警報!
この小説は、6人の「固い信頼」を前提に成立しています。その信頼関係に、全然説得力がないんです。ほとんど初対面同士の人間が一緒のツアーでダイビングをし、遭難した時に共にいた、というだけなんです。それも、たかだか40分くらいの事らしいんですよね。孤島で何日も生活して・・・とか、協力し合って助かって・・・、とかならまだ、わかる気もするんだけど。ただ、海面で救助を待ってただけなんです。
まあ百歩ゆずって、そういう信頼関係ができることがあったとして。それでも、この小説で描かれた「信頼関係」は、不自然過ぎ。だってその「信頼関係」を根拠に、他人の気持ちを決め付けるんですよ。しかも仲間はみんな、聖人君子みたいな、いい方向に決め付ける。ダイバーはみんな、綺麗な心の持ち主ばかりだとでも?
特に、死んだ人の気持ちを、勝手に決め付けることなんて、誰にもできないはずなのに、「美月がそれを考えないはずはない」「美月がそんなことするはずがない」といった言葉で、「自殺」なんていう重いテーマを扱っている、色んな議論に、あっさり終止符が打たれちゃう。しかも、みんな簡単に納得する。
そもそも、5人とも美月の自殺を受け入れることができなくて、美月の自殺の理由も納得できないから、死後に集まってみたりしているわけで。設定上、最初から矛盾してるんだよなあ。
他にも「私達の誰もそんなことできない」とか、「私達はみんなそうでしょう?」とかいう決め付けに、「固い信頼」以外の何の根拠もないんです。「ルールはひとつ。信じること」って背表紙に書いてあるから、それがテーマの小説なのはわかります。でも、読者は、全然納得しないってば!
自分たちの中に、犯人も、協力者もいないと信じるなら、とりあえず他殺を疑おうよ。いくら警察が自殺と処理したからって、他殺を全然疑わないなんて、ミステリーとしてありえない!あんたたちが疑わなくても、ミステリーファンは疑うよ。小説の中では、不可能な状況であればあるほど、他殺は起こるんだからさー。5人が、全然、他者が侵入した可能性について議論しないのが不自然すぎる!
そもそも、「サークル内恋愛」じゃないけどさー。男女3人ずつのグループで、その中に公認のカップルが一組いて、もう一組恋愛関係はないとか言いつつ、こっそり肉体関係のあるカップルがいて。それだけで、もうここで描かれているようなピュアっぽいイメージの仲間ではないよねえ。「1人1人が自立した、対等な固い信頼関係」とか、「日常と切り離していたからこそ、キラキラ輝く特別な友情」とか、最初から全然なかったんじゃ・・・。
それにさー。美月と磯崎は、残された人たちに、これからどうしろっていうの?ラストは嫌いじゃありませんが、その後は?美月は「舟が沈まない」事を確信していたらしいけど、そんな馬鹿な!無理だってば!磯崎は言うまでもないし、児島と清美には重苦しい罪悪感が残っているはず。麻子と三好だって、色々と秘密にされていたことがあったわけで・・・気分悪いでしょう。もう舟は撃沈だよねえ?美月と磯崎ってバカなんじゃ・・・。
というわけで、ごめんなさい。この本だけはダメでした。石持さん、次回作、期待してます・・・。